2017年の初演が幅広い層に支持され、演出の小山ゆうなが第25回読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞するなど高い評価を受けた『チック』が東京・シアタートラムで再演される。
6月中旬、ちょうど立ち稽古が始まったばかりの、柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、那須佐代子、大鷹明良の全キャストが揃った稽古場をのぞかせてもらい、小山に話を聞いた。
原作はドイツ人作家ヴォルフガング・ヘルンドルフのベストセラー児童小説。
14歳のサエない少年・マイクとロシア移民の転校生・チックが無断で借りた車で旅をし、様々な人たちと出会い、成長していくさまを描く。
本国ドイツをはじめ、世界中で出版された人気作となり、続く舞台化は各地で大成功を収めた。2016年には映画化もされ、翌年日本でも公開された(邦題:『50年後のボクたちは』)。
篠山輝信、柄本時生
この舞台の特徴は大きく2つある。
ひとつは、やや傾いた四角い、動く"盆"の上とその周囲で俳優たちが芝居を展開し、その盆を俳優たちが自らのシーンに合わせて回すという点。
そしてもうひとつは、篠山が演じるマイクと柄本が演じるチック以外の登場人物――マイクの親、マイクが想いを寄せるクラスメイト、旅の途中で出会う一家やゴミ山で暮らす少女・イザ、チックとマイクの車に突然銃撃をしかけるフリッケじいさんらを全員、土井と大鷹、那須の3人が演じ分けるという点である。
この日、最初に稽古が行われたのは、旅の途中でマイクとチックが出会う優しくエコな一家とのシーン。
柄本時生
小さな少年・フリーデマンを大鷹が、少女・エリザベートを土井、2人の母を那須が演じており、お腹を空かしたマイクとチックに2人が食べたこともないようなおいしいランチとデザートをご馳走してくれる。
大鷹明良
篠山輝信
稽古は基本的に、初演時の動きや約束事を確認しながら進んでいくが、決して初演の動きにとらわれることなく、常に俳優たちからセリフの言い回しや動きについて提案が出され、小山を交えてディスカッションしながら作られていく。
特に那須は、今回の再演からの出演となるが、前回の経験がないがゆえに、自由に新たな発想で作品に関わっているのが見て取れ、"母"としてこのシーンを中心になって回していく。
那須佐代子
もちろん、続投のキャスト陣も負けてはいない。
柄本は同じシーンでも、常にやることを変え、あちこちを歩いたり、座ったりと変幻自在だ。盆の上やその周辺を動き回り、キャストたちから驚かれつつ、稽古場に笑い声が響く。
篠山が演じるマイクは、彼が見たこと、感じたことを常に観客に語りかける狂言回しの役回りを担っており、セリフ量が膨大だ。
再演とはいえ既にこの凄まじい量のセリフがすっかり入っているよう。自由気ままな"相棒" 柄本の動きをガッチリと受け止める。
篠山輝信
柄本時生
大鷹は、息子や家族に無関心で怒りっぽい父として物語の最初に登場し、決して好印象と言えないイメージで振る舞うのだが、このシーンでは三輪車に乗った小さな少年・フリーデマンを演じている。
子どもらしい素直なセリフが、逆に皮肉っぽさを伴って響き、観る者の笑いを誘う。