ミュージカル「リトルプリンス」稽古場レポート

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ミュージカル『リトルプリンス』が、18()より東京・シアタークリエにて上演される。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作に、音楽座ミュージカルが1993年に初演して以降、上演を重ねている人気作だ。今回、演出を手掛けるのは、近年『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『マドモアゼル・モーツァルト』と音楽座ミュージカルのリメイクを次々と手掛けている小林香。主人公の王子を加藤梨里香と土居裕子がWキャストで演じ、飛行士/キツネ役を井上芳雄、ヘビ役を大野幸人、花役を花總まりが務めるという豪華配役で新たに生まれ変わる名作に注目が集まっている。この稽古場を取材した。

この日の稽古メニューは、最初から最後のシーンまでを通す"荒通し"。初めて全シーンを繋げるということで、演出の小林より「目的は流れの確認です。何か危険だなと思ったら止めてください。ケガをしないように」と注意喚起があったのち、スタート。冒頭は井上芳雄扮する飛行士が嵐の中、飛行機を飛ばそうとする場面だ。この物語、本筋は原作の『星の王子さま』から大きく乖離しないが、ところどころ、飛行士の背景に作者のサン=テグジュペリの人生をオーバーラップさせることで、ファンタジックな世界と現実世界をリンクさせる。井上の演じる飛行士は少し厭世的な雰囲気も漂い、この人の抱える悲しみの元は一体何なんだろう? ......と、冒頭から心を掴まれてしまう。

飛行機は砂漠に不時着し、飛行士はそこでひとりの不思議な少年――王子と出会う。王子は子どもらしい純粋さで飛行士を質問攻めにし、絵をねだり、自分の星の話を語り、飛行士を戸惑わせる。取材日の王子役は加藤梨里香。Wキャストのもうひとりの王子・土居裕子は本作の初演でも王子役を務め、そのオリジナルキャストである土居がふたたび王子を演じるということで話題だが、加藤もまだ23歳ながら子役時代から数えキャリアは十分、2016年にはミュージカル『花より男子』で3000人以上の中からオーディションで主人公・牧野つくし役を勝ち取ったスター性と実力の持ち主だ。加藤は目を輝かせて自分の星のことを語ったかと思えば目をまんまるにして驚き、次の瞬間にはこぼれる笑顔を見せる。マスク越しであることすら気にならなくなってしまうほどの、表情の豊かさだ。何よりボーイソプラノのように透き通った健康的な歌声は、王子の純粋さにぴったり。加藤、実は生まれながらの"星の王子さま"なのでは......!? と思ってしまうほどの天然王子っぷり!

王子は飛行士に、これまでにめぐってきた星での出来事を語る。それらをダイナミックなダンスで繋いでいくことで、オムニバスのように語られるエピソードの数々が、王子の旅路という大きな流れにまとめられていく。星々で出会った人々もユニークだ。王様、実業家、呑み助、うぬぼれ屋、点灯夫、地理学者といったキャラクターを演じるのは縄田晋、木暮真一郎、桜咲彩花。童話的でユーモラスな役どころを彼らがめまぐるしく演じていくさまは楽しく、ミュージカルとして盛り上がるポイント。黄花役の加藤さや香の美しいダンスも印象的だ。

さらに王子が星を飛び出る、そして星に帰りたいと思う原動力となる花を演じる花總まりが絶品だ。王子の星に咲いた、たった一輪の美しい花。花總の花は、ワガママだけれど高貴で品があり、まさに"唯一の存在"。そのワガママも、王子の気を引きたいという感情が伝わり、憎めないのだ。花の世話を真剣な表情で懸命にする加藤の王子の可愛らしさも相まって、忘れがたいシーンになりそう。また、妖しい魅力としなやかなダンスで異質の存在感を出していたヘビ役の大野幸人も、インパクト大。井上が二役で演じるキツネも忘れてはいけない。キツネは作中の非常に有名なフレーズ「大切なものは、目には見えないんだよ」という言葉を口にし、また王子に"自分にとっての特別"を気付かせる重要な存在だ。井上の、小道具も巧みに使って演じる芸達者ぶりはさすがで、共演者たちからも笑い声があがる。だがキツネはちょっと今までの井上にはない意外なキャラクターにもなりそうなので、お楽しみに。

宇宙への憧れを歌う『アストラル・ジャーニー』、自分の星への思いを歌う『シャイニング・スター』など、作品を彩る音楽も美しく、心にすっと届くものばかり。王子は星々をめぐり、地球の砂漠で飛行士と旅をする中で、自分の花がほかの花たちとは違う、ただ一輪の花だったことに気付く。同時に、キツネがほかの多くのキツネたちとは違うただ一匹のキツネになり、飛行士は大勢の人間の中のひとりではなく"友だち"になる。それは飛行士にとっても同じで、王子は飛行士にとっての希望となる。"誰か"が、"特別なひとり"であることに気付く旅路を、美しい音楽、夢のようなダンスで詩的に美しく描くミュージカル。美しいのに悲しく、悲しいのに、心が洗われる。なんだか自分の心の奥にたまった澱が洗い流されていくような感覚だ。年明け、"気持ちを新たに"一年を始めるには、ぴったりの作品になりそうだ。

公演は202218()から31()まで、シアタークリエにて上演。2月には愛知公演もあり。(取材・文・撮影:平野祥恵)

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