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沖縄のコザ騒動のあった一夜を描く『hana-1970、コザが燃えた日-』が、1月9日(日)東京芸術劇場プレイハウスにて開幕した。沖縄本土復帰50年を迎えるにあたり、関係者たちが丁寧に作り上げてきた作品だ。演出は、沖縄へ思いを寄せ続けてきた栗山民也。脚本は、栗山との再タッグとなる畑澤聖悟。出演者である松山ケンイチらも、実際にコザ市(現在の沖縄市)に足を運び、舞台に臨んだ。

初日前のゲネプロには多くの人が集った。開演前、舞台の頭上にはためくアメリカ国旗だけが照明に照らされ、劇場を見下ろしている。そこは米兵相手のパウンショップ(質屋)兼バー「hana」。米軍基地に通ずる通称・ゲート通りに面していて、米兵達は飲み代が足りなくなると持ち物を質に入れるのだ。

12月20日の晩。hanaを経営するおかあ(余 貴美子)と、娘のナナコ(上原千果)、同居するジラースー(神尾 佑)が談笑している。彼らの話す沖縄弁は、慣れない観客には聞き取れないかもしれない。しかし端々から聞こえる単語や、表情や声音に耳を傾けていると理解できる。まるで沖縄の小さなお店に、実際に訪れたようだ。

その晩、久々にhanaに家族が集まってくる。アシバー(やくざ)になったり家に寄り付かなかった長男・ハルオ(松山ケンイチ)は笑顔ながらも攻撃的で、周囲を翻弄する。しかし演じる松山のかすかな表情や大げさなしぐさからは、抱える孤独や痛みが透けて見える。次男で教師のアキオ(岡山天音)は真面目でしっかりしており、周りに気を遣う好青年だ。しかし岡山が時々見せる困ったような顔や震える声からは、不安や去勢も感じられる。ふたりは血が繋がっておらず、顔を合わせばケンカになる。それは、戦争によって傷つき、いびつさを抱えざるをえなかった家族の姿だ。

終戦から25年経っても、沖縄では戦争は終わらない。hanaの店内にはそこかしこにアメリカのものが並び、異国の空気を感じる。日本からもアメリカからも苦しめられてきた沖縄と、そこで暮らす血のつながらない家族。すべては店の中で起こるワンシチュエーションの会話劇だが、彼らの言葉には、戦争によって虐げられた沖縄の、叫びにならなかった叫びが込められているようだった。

公式noteでは台本の冒頭20ページが公開されている。本作は1月30日まで公演後、2月5・6日に大阪で、10・11日に宮城で上演される。

ハルオ役 松山ケンイチ①.jpgアキオ役 岡山天音.jpgおかあ役 余 貴美子.jpg左から アキオ役岡山天音、ナナコ役上原千果、おかあ役余 貴美子、ハルオ役松山ケンイチ.jpg

取材・文:河野桃子 撮影:田中亜紀

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新国立劇場の作品創造プロジェクト「こつこつプロジェクト」の第一期作品『あーぶくたった、にいたった』(作:別役実、演出:西沢栄治)が2021年12月7日(火)から同劇場で開幕した。

同劇場の演劇芸術監督を務める小川絵梨子の肝煎りの企画の一つである「こつこつプロジェクト」。「矢継ぎ早にどんどん作品をつくっていく良さはもちろんあると思うが、作り手によっては、じっくり、時が来た時に舞台にあげるようなシステムができないか」と思案した小川は、公共劇場で、通常1ヶ月程度の稽古期間を1年という長い時間をかけ、〈試し〉〈作り〉〈壊し〉〈また作る〉というプロセスを踏めるようにした。英国のナショナルシアターでの事例などを参考にしたというが、なかなか日本の演劇界ではない取り組みと言えるだろう。

こつこつプロジェクトの第一期には、大澤遊、西悟志、西沢栄治という3人の演出家が参加。それぞれに作品を育て、試演会と協議を経て、この『あーぶくたった、にいたった』が本公演として上演される運びとなった。

1976年に文学座で初演された本作は、別役実の"小市民シリーズ"と呼ばれる作品群の一つだ。

演出の西沢は、今回初めての別役作品に挑んだ。過去のインタビューで西沢は「完全な喰わず嫌いで、ろくに観たこともないのに"あの独特の空気感が面白くない"と決めつけていたところがあるんです」と明かしつつも、「選んだ『あーぶくたった~』はもちろん、参考のためにと読んだ別役戯曲は、どれも本当に演劇的で興味深く、現状とあまりに符合する設定やドラマが多すぎて"予言の書か!"と驚くほど」と語っている。そして、「ひたすら普通に、つつましく生きようとした劇中の名もなき人々に思いを馳せることで、僕らなりの"日本人論"にたどり着きたい」とコメントしている。

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   (左から) 山森大輔、浅野令子 撮影:宮川舞子

公演初日を見た。

舞台には、一本の古い電信柱がスッと象徴的に立っている。雨にさらされて汚れた万国旗が垂れ下がっている。土に埋もれた赤ポストも見える。客入れ時に『チャンチキおけさ』や『世界の国からこんにちは』など、昭和の歌謡曲が流れていて、おおよその時代設定が推察される。

始まりは、山森大輔が演じる男1、浅野令子が演じる女1の婚礼の場面から。新郎新婦は、子どもの頃の思い出話をして、まだ見ぬ子どもの将来などを語り始めるも、会話は思わぬ方向に。楽しい新婚時代、子を持ち落ち着いた生活、そして老境へ―。全10場、人々の"日常"を断片的に切り取りつつ、1時間45分(途中休憩なし)で紡いでいく。

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    (左から) 山森大輔、浅野令子 撮影:宮川舞子

2019年6月に1st試演会、同年8月に2nd試演会、そして、20年3月に3rd試演会を経て、今回の上演に至った。プロジェクトが始まった当初、未知のウイルスがこんなに世界中で広がるとは誰も思っていなかったし、東京五輪が延期になるなんて想像もしていなかったと思う。そんな苦難の時代の中でも"こつこつ"と作りあげ、作品の強度をあげてきた。稽古の過程で、他の別役作品を読むなど"寄り道"も許される限りしてきた。

どこにでもありそうな日常の可笑しみを楽しんでいたら、ふと気がついたときには、大きな物語に飲み込まれて、動けなくなっていく。かつての「小市民」と、今を生きる私たちがどうしても重なり、この不条理に立ち尽くしてしまう。「いいじゃないか、ただ生きてみるだけなんだから......。ね、ほんのちょっとだよ。ほんのちょっとだけなんだから......」。そんなセリフが胸を打つ。雪に埋もれた夫婦の姿は、遠い昔の他人事とはどうも思えない。これが別役実の世界なのか。それとも"こつこつ"積み重ねてきたからこそ、見える景色なのか。

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(右から) 浅野令子、山森大輔、龍 昇、稲川実代子 撮影:宮川舞子

役者もよかった。プロジェクトの各段階に携わった俳優陣からバトンを引き継ぎ、本公演では山森と浅野のほか、龍 昇、稲川実代子、木下藤次郎が出演する。それぞれ舞台経験を十分に持った実力派ぞろいなのだが、いい意味で素朴な雰囲気を醸し出し、絶妙な「小市民」を体現。派手な演出もなく、地味といえば地味なのだが、彼ら彼女らの半生がいい味を出していた。

ちなみに、千穐楽の19日まで本作の戯曲が無料公開されている(https://www.nntt.jac.go.jp/play/bubbling_and_boiling/)​​。予習として読むよりは、終演後に読み返すと、また新しい発見が生まれるかもしれない。

公演は12月19日(日)まで。なお、14日(火)13時公演終演後は、出演者と演出家によるシアタートーク(無料)が予定されている。チケット発売中。

取材・文:五月女菜穂 写真提供:公益財団法人 新国立劇場運営財団

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倉持裕の作・演出による『イロアセル』が1111日に新国立劇場にて開幕した。2011年に倉持が同劇場での上演のために書き下ろし、鵜山仁の演出で上演された戯曲が、今回は倉持自らの演出で、フルオーディションで選ばれたキャストによって上演される。10年前、SNSの隆盛により、多くの人々が匿名で社会に向け発信するようになったことを念頭に、その結果、露わになる社会のひずみや人々の黒い本音をえぐり出した本作だが、10年を経て、このテーマ性がさらに際立つ仕上がりになっている。

物語の舞台はとある島。ここで暮らす島民は、それぞれに特定の"色彩"を持っており、言葉を発したり、文字にしたためると、その言葉が個々の色を帯びて浮かび上がるという特異な性質を持っている。多くの島民はスマホのような機器を持ち歩き、それによってこの"色"を感知・識別することができる――つまり、誰がどんな発言をしたかが全島民の間で共有されるという状況で生きている。この島に、本土からひとりの囚人と看守がやって来て、丘の上の檻に収容される。そして、この丘で囚人と面会している間は、島民の言葉に色がつかなくなることが発覚する。発言の"匿名性"を手にしたことで、島民の間で様々な変化が生じることになり...。

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撮影:引地信彦

囚人がやって来る以前の島では、上記の通り、誰がどんな発言をしたのかが即座に共有されてしまうため、人々が"悪意"のこもった言葉を他者にぶつけたり、誰かを貶めたりすることは、一部の例外を除いてなかった。例えば、島民の必需品である"ファムスタ"と呼ばれる、人々の言葉の色を集めたり調整する機器を販売する会社「ブルプラン」の社長・ポルポリが、同機器新作の開発を、下請けの「グウ電子」一社に任せることを発表した際には(※正確には発表したというより、ポルポリとグウが2人で応接室で会話しているだけなのだが当然、その内容は全島民に筒抜けになる)、ライバル会社の人々からさえも祝福の言葉が贈られ、妬みや誹謗などは見えない。

そうした状況は濁りのない"キレイ"な社会であると言えるかもしれないが、見方を変えれば人々が本音を押し殺した、表面的な建前の言葉だけで成り立っている社会とも言える。

だがこの状況は、囚人の出現で一変する。囚人と話す時だけ、自分の言葉の色がなくなることを知った島民たちは、こぞって囚人の元を訪れ、これまで胸にため込んだ"本音"を吐き出すようになる。さらに、囚人はそこで知った事実を紙に書きとめ、その内容を記した"文書"が島中にバラまかれたことから、それまで無垢だった社会は一気に濁りを帯びていくことになる。

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小劇場ミュージカルとして絶大な人気を誇るミュージカル『SMOKE』が、8月28日(土)、東京・浅草九劇で開幕した。韓国で誕生し、日本では2018年に初演。3人の俳優のみで、ひとりの天才詩人の苦悩と葛藤をドラマチックに描き出すミュージカルだ。上演を重ねるごとに"愛煙家"と呼ばれる熱狂的なファンを生みだし、今回で四演目となる。初演からのキャストである大山真志池田有希子に加え、8名の新キャストが加わり計10人の俳優たちが挑んでいる2021年版の観劇レポートを記す。

物語はふたりの青年・超(チョ)と海(ヘ)が、三越デパートの令嬢だという紅(ホン)を誘拐してくるところから始まる。身代金を得て、まだ行ったことのない海を見に行くのだと。しかし目隠しを外された紅は、海を見て、懐かしそうな表情を浮かべた。彼らは知り合いだったのか......? サスペンスのように始まったミステリアスな物語は、予想のつかない展開へ。やがて、自分の才能に絶望し、苦悩し、その中でもひと筋の光を掴もうとするひとりの天才詩人の内面が浮かび上がっていく。モチーフは、20世紀初頭に生きた韓国の詩人、李箱(イ・サン)の遺した詩と彼の人生。文学的奥深さと、激しい感情のキャッチボールが同居する作品を、3人のキャストが時に激情をぶつけ合い、時に仕掛け合い、時に寄り添い紡ぎ出していく。

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超役は大山真志、東山光明、伊藤裕一、山田元の4名。兄貴分的存在で、常に何かに苛立っているような役柄だ。大山の超は低く深い声と大きな存在感で頼りがいのある、しかし暗い道をひとりで突き進んでいくような孤独も感じさせる超だ。もしかしたらこの『SMOKE』という作品を初演から引っ張ってきたトップランナー・大山の孤高の戦いが役柄に反映されているのかもしれない、そう思わせるストイックさが魅力だ。東山が見せたのは鋭角的な超だ。だがその荒々しさは怯えからきているような心許なさがあり、ひどく悲しい。主に小劇場で活躍する伊藤は、この情熱的で激しい作品においても細部まで無理なくナチュラルな超。ことさら自分の"個"をひけらかすことなく、素直に作品と向き合った思われる役作りで、物語の中に息づいている。ミュージカル2作品目ながら安定した歌声を聴かせてくれたのも頼もしい限り。そしてパブリックイメージでは柔らかなイメージを持つ俳優である山田が、4人の中で最も猛々しい超を作り出していたのも面白い。激しさゆえ、絶望の深さも際立つような超だった。

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27歳だが精神は14歳で止まっている少年、海役を務めるのは大山真志、内海啓貴、中村翼の3名。超と2役演じる大山の海は、日本初演から磨き続けてきた海役のまさに集大成と言えそうなパフォーマンス。特に終盤、物語の全貌が見えてからの演技は圧巻で、劇場全体が彼の内面世界に飲み込まれてしまったかのようだった。内海は少年性の強い海であどけなさが可愛らしい。だが後半、自身の記憶を取り戻してからの表情が冷え冷えとしていて、そのギャップが面白かった。中村も幼さが全面に押し出されている海だが、内海とは違いずいぶん超への依存度が高そうな繊細さが印象的。まだ大学生とのことだが、素直で伸びのある歌声もいい。物語の要である海を、3人がまったく異なるアプローチで作り上げているため、作品自体のカラーが海の役者によって全く変わってくるのも見ごたえがある。

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紅役は池田有希子、木村花代、井手口帆夏、皆本麻帆の4名。世代の違う4人が配役されたが、いずれも美しく強く、ミステリアスな女性を作り上げ中ている。韓国産ミュージカルの特性であるアップダウンの激しい感情を、しかしナチュラルに自由に見せられる稀有な女優である池田は、3度目の『SMOKE』でもハッとさせられるほど新鮮。特に今回は、"恋しい"という感情を通奏低音として流しているように見え、ひとつ物語に揺るぎない芯が通った感。木村の紅には"切なさ"が常に漂う。もともとの彼女の魅力である柔らかさと相まって、台詞にあるように海のような紅だ。また、高音も低音も自在の歌唱力も圧巻だった。面白かったのは皆本の紅だ。もともとコケティッシュな魅力のある女優だが、"夢の女"といった風情の、どこからやってきたかもわからない不思議な浮遊感。様々な女優が演じてきた紅だが、確実に新しく、そして目が離せない紅だった。そして、これがデビューとなる井手口。フレッシュさはもちろんのこと、まぶしいほどの透明感だ。大切にしたかった、守りたかった純粋な心の欠片がそのまま具現化したかのようで、新鮮でありながらも、ある意味この作品のテーマをど真ん中を突いているのでは、と思わせる紅になっていた。歌声も美しく、これからのミュージカル界での活躍も大いに期待できる。

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......と、駆け足でそれぞれの役柄の印象を述べたが、もちろん組み合わせによってもどんどんその印象を変えていくに違いない。例えば今回見た大山・超と池田・紅の組み合わせは、長年本作に関わっているふたりなだけあって、ののしりあっていても、その息の合いっぷりからどこか共犯者めいた空気が出てくるのが面白かったが、同じシーンを頑なさを強く感じた山田・超と、その場でどんどん感情を変えていく池田・紅がぶつかったらどうなるだろう? というような興味もムクムクと沸いてきた。今回は36通りのキャストの組み合わせがあるとか。自分だけのお気に入りの『SMOKE』を見つけるのも楽しみのひとつかもしれない。

演出についても特筆したい。今まで浅草九劇では四方を客席で囲ったセンターステージで上演、観客の眼前に俳優がいる緊密さ、迫力も話題のひとつだった。今回はコロナ禍もあり物理的"密"は避け、三方囲み、ステージは特殊フィルムとビニールシートで囲まれた。しかし"囲まれた"ことを利用し、ステージを煙で満たしたり、特殊フィルムを駆使しあえて観客の視界を遮り想像力に委ねたりと、現状を逆手にとった演出の巧みさが見事。時に光の加減でスクリーンやビニールシートに俳優の姿が反射し鏡のようになるなど、作品の内容ともリンクし、面白い効果が生まれた。何よりも3人ずつの俳優たちが相手役と息を合わせ、心情で"密"な作品を作り上げている。これまで『SMOKE』を何度も観ている人にとっても、また新しい『SMOKE』になっているはずだ。

公演は10月3日(日)まで浅草九劇にて。その後10月15日(金)から17日(日)にかけ、大阪・シアタードラマシティでも上演される。9月3日(金)19:00、9月6日(月)19:00公演はライブ配信も決定。公演・配信チケットは発売中。(取材・文:平野祥恵)

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2019年に愛媛の内子座にて上演された「あんまと泥棒」が本多劇場に場所を移しての再演となった本作、観劇レポートをお届けします。

 

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まずは舞台中央でのオープニングトークから始まります。さすがの2人のやり取りに客席が笑いに包まれる中でそれぞれが役衣装に着替え、いつの間にか「あんまと泥棒」の芝居が始まります。
江戸の市井での出来事を演じつつ、「今」ならではのアドリブやコントを交えながら軽妙な2人芝居が繰り広げられます。

  
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           撮影:宮川舞子

 

近藤さん演じる泥棒・権太郎が、南原さん演じる目の見えない秀の市の家へ押し入り、お互いが身の上話をしていく中で権太郎の心に変化が生じ、ついには盗みを諦めますが、最後には・・?
温かな笑いが溢れるあっという間の80分間。
このようなご時世だからこそ観て良かった、と元気をもらえる作品です。

 

【あらすじ】
夜更け、泥棒・権太郎(近藤)は、あんま・秀の市(南原)の家へ泥棒に押し入る。権太郎は、秀の市が高利貸しの烏金を貯めていると噂を聞きつけ、秀の市に金を出すように迫る。
しかし、秀の市はしらばくれて、利息はもらっているもののほとんど貸し倒ればかりだと言い逃れる。権太郎は金のありかを白状させようとするが、秀の市はとぼけるばかり。
やがて、二人は台所にある焼酎を飲み始め、お互いの身の上話を始める。そのうち、日が昇り始めるので、権太郎が家の中を物色し始めると、位牌が出てくる。すると、秀の市は死んだ女房に仏壇を買ってやりたいが、金が貯まらないと言って涙を流す。これを気の毒に思った権太郎は、盗みを諦め、秀の市に金まで与え出ていく。これに感謝する秀の市だが...。

 

【公演情報】
2020/11/27(金)~11/29(日) 本多劇場 (東京都)

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オリジナルミュージカルや韓国発のミュージカルを製作してきたatlasによるミュージカルコンサート「"atlas" musical collection 〜meets friends〜」。9月24日(木)・25日(金)よりオンライン配信を予定している当コンサートの収録が8月下旬、東京・COTTON CLUBにて行われた。歌われるミュージカルナンバーは、『あなたの初恋探します』『Indigo Tomato』『SMOKE』『最終陳述』『カリソメノカタビラ』『アンクル・トム』、そして最新作『BLUE RAIN』の計7作の劇中歌。それぞれの作品に出演していた彩吹真央池田有希子上口耕平大山真志木暮真一郎坂元健児新納慎也東山光明水夏希山田元吉野圭吾が顔を揃え、MCとして駒田一が盛り上げた。この収録の模様をレポートする。

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会場は大人の空間・COTTON CLUB。本来、観客が入るスペースには複数台のカメラが立ち並び、カメラレールも敷かれている。12人の出演者たちはラグジュアリーな会場の雰囲気にふさわしく、フォーマルな装い。ただ、流れる空気はフランクで楽し気。実際には共演経験のない間柄のキャストもいるが、それを感じさせない和やかさがあるのは、atlas製作の特徴だろう。

収録はブロックごとに分けて行われた。オープニングはatlas製作ミュージカルの記念すべき第一作『あなたの初恋探します』より。MCも務める駒田一が本作品のプロローグでもある「DESTINY」を軽快に歌う。ノリの良さそのままに『Indigo Tomato』の「Brain Man」で大山真志がカッコよく決め、『最終陳述』より「ブルーノ」を山田元がしっとりと歌い上げる。本編を未見の方もご安心を。MCコーナーでは、これらの作品がどういった内容のものなのか、駒田が巧みに聞き出している。

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続けて水夏希が主演したオリジナルミュージカル、『カリソメノカタビラ』のコーナー。デオン・ド・ボーモン役の水、ボーマルシェ役の坂元健児がムーディに、めくるめく歴史絵巻へといざなう。斉藤恒芳が手掛けた楽曲の美麗さも、改めてかみしめる。さらに、本編では出演していなかった彩吹真央がマリー・アントワネットに扮し、水のデオンとデュエットする楽曲も。ここでしか聴けない組み合わせはミュージカルコンサートならではの"お楽しみ"だ。水と彩吹の仲良しコンビはトークコーナーでも気の合ったところを見せていたので、そちらも乞うご期待。

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その後、吉野圭吾&新納慎也が出演はしていない意外な楽曲で踊りまくったり......とファン仰天&垂涎のナンバーなどを挟み、第一部のクライマックス『SMOKE』コーナーへ。『SMOKE』はこれまでに三たび上演を重ねる、atlasミュージカルの代表作。ミステリータッチのストーリー展開の中、芸術家の業や生きることの苦しみと希望を描き出すディープな3人ミュージカルだ。本作に出演経験のある大山真志、池田有希子、木暮真一郎、彩吹真央が劇中ナンバー5曲を続けて披露。本編上演時、俳優たちの魂を削るような熱演も評判だったが、ナンバーがかかるとその時の感覚を思い出すのか、コンサートでもみな火花を散らしあい、大熱唱。浅草九劇バージョンの超:大山真志とシアターウエストバージョンの紅:彩吹真央という、組み合わせを超えたデュエットも披露。ラストの「翼」の高揚感、開放感もひときわ心地が良かった。なお『SMOKE』トークコーナーでは人数が多いためこのご時世らしくパーテーションが登場。しかし構成を手掛ける広崎うらんが「でもこれ、SMOKEの世界よね!」と発言したのを皮切りに、パーテーションを劇中に登場する鏡に見立ててマイムをしてみたり......と、あくまでもポジティブなキャスト陣。ちなみにここのトークも本番中に起きたハプニングのエピソードなど楽しい話題満載だったのでお楽しみに。

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続いて第二部の収録へ。二部は『最終陳述』コーナーよりスタート。こちらは昨年上演されたふたりミュージカルで、半年後にはコンサート版も上演された人気作。本作からはガリレオ・ガリレイを演じた山田元が登場。今回は大山真志、坂元健児が加わり、温もりのあるチャーミングな作品の風を伝えた。

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ふたたび『あなたの初恋探します』のナンバーを挟み、クライマックスは『アンクル・トム』と最新作『BLUE RAIN』のリミックス。"雨"をキーワードにリンクする2作品、計10曲、約30分ノンストップのパフォーマンスだ。『アンクル・トム』出演経験者は新納慎也、上口耕平、池田有希子、山田元。『BLUE RAIN』からは吉野圭吾、水夏希、東山光明、池田有希子。『BLUE RAIN』では水が扮するクラブ歌手ヘイドンがクラブで歌うタイトルナンバーがこの日の会場であるCOTTON CLUBで歌われる圧倒的リアリティ、『アンクル・トム』で老人役に挑戦した新納が、衣裳やメイクはそのままに声色だけで役柄を蘇らせた迫力、精神的に追い詰められていく役柄を演じた『アンクル・トム』の上口と『BLUE RAIN』の東山がステージ上でクロスする演出......。見どころ多数、「これが見たかった!」と「そうきたか!」がミックスされた憎い構成になっているので、2演目のファンは楽しみにしていてほしい。

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公演から時間がたっていても、それぞれの俳優の肌に役がしっくりなじんでいるのだろう、鮮やかにその役が蘇る。数曲のピックアップでも、一気に当時の作品、当時の役に入り込む俳優陣の熱演・熱唱にワクワクしたり、ホロリときたり、胸がキュッとしたり。7つのミュージカルをギュッと濃縮した"いいとこ取り"のコンサート、フィナーレは全員登場、ちょっと意外な作品からのナンバーをみんなで踊りまくり、5時間超にわたる濃密な収録は終了した。コロナ禍という状況の中オンライン配信という選択がなされた本コンサート。もちろん生の楽しさは何物にも代えがたいのは百も承知。ただ、「最後のキメはこのカメラに向かって」といった普段のステージでの演出ではありえない指示や、"あえてカメラの前を横切る"といった演出もつけられていたので、「完成映像はどんなカッコいいものになっているんだろう!?」という期待感も生まれた。今だからこそ実現したオンラインコンサート、7つの作品のファンはもちろん、広くミュージカルファン必見のものになりそうだ。(取材・文:平野祥恵)

ミュージカルコンサート「"atlas" musical collection 〜meets friends〜」は配信はPIA LIVE STREAMINGにて。視聴チケットは9月18日(金)発売予定。視聴期間や内容の詳細は公式ホームページ(http://g-atlas.jp/amc/)にて。

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【開幕ニュース】

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花屋で働く冴えない青年が手に入れた奇妙な植物。不思議な魅力があるその植物は、水ではなく人間の血を要求してきて......。1960年の同名ホラー映画を『美女と野獣』『アラジン』などを手掛けた名コンビ、ハワード・アシュマン(脚本・歌詞)とアラン・メンケン(音楽)がミュージカル化した人気作『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が、久々に日本で上演されている。主演をWキャストで務めるのは、鈴木拡樹三浦宏規。今をときめくイケメン若手俳優のふたりが、なんとも冴えない青年をチャーミングに大熱演。新型コロナウィルス感染対策により当初の予定より1週間後ろにずれ、3月20日が初日となったが、ナンセンスなホラーコメディで、鬱屈した空気をパワフルに笑い飛ばしている。
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大阪公演を経て、2月1日には東京公演初日を迎えた『CHESS THE MUSICAL』
チェスの世界大会を舞台に、米ソ冷戦という時代背景に翻弄されている人々のドラマを描き出すミュージカルです。

今回の上演ではラミン・カリムルーサマンサ・バークスルーク・ウォルシュ佐藤隆紀(LE VELVETS)をメインにした日英精鋭のキャストが、ベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァースというABBAのふたりが生み出した珠玉の音楽に溢れるこの作品を素晴らしい歌唱力で歌い上げ、客席も大盛り上がり!

東京公演が開いたばかりの2月2日にはラミン・カリムルー&ルーク・ウォルシュ&佐藤隆紀によるアフタートークが開催されました。
その模様をレポートします!CHESS2020-3-01_2163.JPG

劇中ではソ連のチェスチャンピオン、アナトリーを演じるラミンさん。
文句なく、いま世界トップクラスの実力&人気を持つミュージカルスターです!
まずは日本語で「こんばんはございます。きてくれてありがとうございます。あいしてる」とご挨拶し、客席も大盛り上がり!
「毎日毎日楽しく過ごしています。毎回、公演をするたびにちょっと寂しくなる。ひとつショーが減ってしまう、そしてまた帰国する日が近付いているなって思って」と現在の心境を。

▽ ラミン・カリムルーCHESS2020-3-03_2128.JPG


アメリカ代表にしてディフェンディングチャンピオン、フレディを演じるのはイギリスの新星、ルークさん。
「来てくださってありがとうございます。そして(アフタートークに)残ってくださってありがとうございます。今日のお客さまが最高だったと思います!」とご挨拶。
さらに「大阪も大好きですが、東京も好きです。そして本当に昨日(初日)の観客の皆さんが素晴らしかった。たくさん歓声をいただき、キャストも興奮しました。でも今日のお客さまも同じく素晴らしかった。私たちが本当にいい作品だと思って作り上げたものを、このようにご覧いただいてありがとうございます」と話します。
ルークさん、このアフタートーク中、多方面に「感謝」を述べていらっしゃいました。人柄がにじみでますね。

▽ ルーク・ウォルシュCHESS2020-3-05_2114.JPG

 
チェスの審判(アービター)役は、日本から佐藤隆紀さん。
ラミン&ルークのご挨拶の流れで英語で「Ladies and gentlemen,Thank you,I Love you」と英語でご挨拶をし、「本当に今回、アンサンブル含め日本勢も頑張っていて、1月3日頃かな、僕がまだセリフも半分くらいしか覚えていなかったときに、アンサンブルの皆さんが歌詞を暗譜して振付している動画が送られてきて、めちゃくちゃ焦りました。そこから寝られない日々が続きました......。でもみんなの「頑張ろう」「いいものを作ろう」という意識が、この作品を良いものにするパワーになったんじゃないかなと感じています」と現在の気持ちを。

▽ 佐藤隆紀CHESS2020-3-07_2157.JPG

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清水邦夫氏の傑作戯曲『楽屋 -流れ去るものはやがてなつかしき-』 が1月17日より浅草九劇にて上演中だ。

1977年の初演より、様々な演出家・キャストで上演を重ねている"女優4人芝居"を、男優のみで上演する話題の舞台。
これまで数多の名女優たちが演じてきた"女優"役には、伊藤裕一伊勢大貴大高洋夫、そして佐藤アツヒロが挑んでいる。

本作のオフィシャルレポートをお届けします。



男優4人が密やかに大胆に演じる"女優たちの物語"



伊藤裕一、伊勢大貴、大高洋夫、佐藤アツヒロが出演する舞台『楽屋 ―流れ去るものはやがてなつかしき―』が1月17日、浅草九劇で開幕した。演出は西森英行。

"日本で最も上演されている戯曲"とも言われる、清水邦夫の傑作戯曲『楽屋』。誰が数えたかその真偽のほどは定かではないが、2016年には18団体がそれぞれにこの作品を上演する「楽屋フェスティバル」なども開催されるほど、演劇人に愛されている戯曲であることは間違いない。登場するのは、楽屋でブラックな会話をあけすけにしている女優Aと女優B、上演中の舞台作品『かもめ』のヒロイン役の女優C、長年Cのプロンプターを務めていた女優D。つまり、女優4人の会話劇である。これまでも錚々たる女優たちが挑んできたこの作品を、今回はオールメールで上演するというのが注目ポイントだ。

▽ 伊藤裕一1GP_0013.JPG
▽ 伊勢大貴 2BT_0173.JPG
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令和元年も残すところあと一ヶ月。

今年の掉尾を飾る「十二月大歌舞伎」が東京・歌舞伎座で上演中です。

その昼の部を観劇してきました。

 

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今月は坂東玉三郎を中心とした座組です。

次世代を担う若手にも大役を勤める機会をと、昼の部は演目や出演者が日にちによって替わる構成になっています。(Aプロ・Bプロ)

ひとつ目の『たぬき』は両方のプログラム共通です。

ふたつ目は、【Aプロ】『村松風二人汐汲』【Bプロ】『保名』となります。

 

▼写真は『村松風二人汐汲』

(左から)村雨=中村児太郎、松風=中村梅枝

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3つ目の『阿古屋』は【Aプロ】が玉三郎、【Bプロ】では中村梅枝中村児太郎が日替りで勤めます。

 

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『たぬき』は1953年に初演された、大佛次郎作の新作歌舞伎。

前回の上演から約5年ぶりで、今回新たに石川耕士が演出を手掛けました。

物語は、コレラが大流行している江戸を舞台に、死んだと思った男が火葬場で生き返り、思案あって元の生活には戻らず、過去と決別して別人として第二の人生を歩むが......というお話。

主人公の男・柏屋金兵衛を演じるのは、これが初役となる市川中車(香川照之)。

金兵衛は、柏屋の婿養子に収まったものの、放蕩三昧でお世辞にも良い夫、良い父とは呼べないような男。

焼かれる寸前に生き返ったものの、自宅へ帰っても妻からは歓迎されないだろうと思い、それならいっそ、若い妾と楽しく暮らす人生も悪くないな、と考えた金兵衛。

ところが、この妾にも裏切られていたとわかり、失意のどん底に落ちていきます。

前半はコミカルな場面もあり、喜劇としても楽しめます。

後半は名前を変え、別人として生きてきた金兵衛が、以前の知り合いにあったことから、ある決断をするまでが描かれています。

 

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▲『たぬき』(左から)太鼓持蝶作=坂東彦三郎、柏屋金兵衛=市川中車

 

この作品は、喜劇というより、シニカルな視点や親子の情愛といった人間の本質を突いた深さがあり、演劇的な視点で観ても面白いなと思いました。

中車は、緩急交えた芝居で場面ごとに違う顔をみせ、複雑な男の心情を表現していました。

また、金兵衛との絡みが多い太鼓持・蝶作を坂東彦三郎が好演、その妹で妾お染を中村児太郎という配役です。

 

ところで、『たぬき』というタイトル、響きは可愛いですが、人間を「化けの皮を被って化かし合いをしているたぬき」に見立てて付けたようで、なんとも皮肉が利いていますね。

 

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