【開幕ニュース】
花屋で働く冴えない青年が手に入れた奇妙な植物。不思議な魅力があるその植物は、水ではなく人間の血を要求してきて......。1960年の同名ホラー映画を『美女と野獣』『アラジン』などを手掛けた名コンビ、ハワード・アシュマン(脚本・歌詞)とアラン・メンケン(音楽)がミュージカル化した人気作『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が、久々に日本で上演されている。主演をWキャストで務めるのは、鈴木拡樹&三浦宏規。今をときめくイケメン若手俳優のふたりが、なんとも冴えない青年をチャーミングに大熱演。新型コロナウィルス感染対策により当初の予定より1週間後ろにずれ、3月20日が初日となったが、ナンセンスなホラーコメディで、鬱屈した空気をパワフルに笑い飛ばしている。
孤児育ちでイマイチ冴えないけれど、素直で頑張りやの青年シーモアが町で手に入れた奇妙な植物。シーモアはその花を、憧れの同僚オードリーにちなみ"オードリーII"と名付け可愛がっている。そのオードリーを店に置くと、不思議な魅力に惹かれ客が次々と来店、店は大繁盛。店主のムシュニクは大喜びし、シーモアを養子にしたいとまで言い出した。幸運を呼び込む植物かと思いきや、ある日、オードリーIIが「腹が減った!」とシーモアに話しかけてきて......。
▽ 三浦シーモア。左手ではオードリーIIは反応しないけれど...
▽ 怪我をした右手を近づけると口(?)を開けた!
人語を喋り、歌い、シーモアを脅す凶悪な植物"オードリーII"を触媒に、人の奥底に眠っている感情がどんどん増幅されていってしまうようなホラーだが、"オードリーII"の不気味だけれどどこかユーモラスなビジュアル、そしてこの植物に負けない、暑苦しいほどに個性的なキャラクターたちがなんとも可笑しく、結果、爽快感すら感じるコメディになっているミュージカルだ。主人公のシーモアを演じる鈴木と三浦は、謎の植物に翻弄され追い詰められる青年を顔をくしゃくしゃにしながら熱演している。心根の優しさが伝わる鈴木シーモア、性格の素直さが伝わる三浦シーモアと、どちらも普段の"イケメンっぷり"を封印してもなお、愛さずにはいられないシーモアになっている。
▽ 同じく鈴木シーモア。右手を近づけると...
▽ 開いたー!
シーモアが恋をする花屋の同僚オードリーもWキャスト。美人だけれど自己評価の低い不幸体質の彼女を、妃海風は声色から歩き方まで完璧にキャラクターを作り上げ、一挙手一投足で爆笑を呼ぶ。井上小百合は天然の可愛らしさ。どちらも素晴らしきコメディエンヌっぷりを見せていた。
▽ 妃海風
▽ 井上小百合
若手の勢いにベテラン勢も負けず、ノリノリで対抗する。オードリーの恋人である歯科医のオリンは石井一孝。サディスティックなマッド歯科医で大迫力の憎たらしさだが、ひとたび踊ればとっても可愛らしいとぼけた味わいが出てくるのも、この人ならでは。花屋の店主ムシュニクを演じる岸祐二の飄々とした存在感も絶妙だ。
▽ 石井一孝
▽ 岸祐二
▽ まりゑ、塚本直、清水彩花
オードリーIIの声を担当しているデーモン閣下のロックな歌声、まりゑ、清水彩花、塚本直の3人のソウルフルな歌唱が、アラン・メンケンの音楽のキャッチーさ、楽しさを存分に伝えてくれる。3Dメガネを使用した斬新な演出もユニーク。ストーリー展開はB級ホラーコメディだがミュージカルとしては超超一流、エンタメ力の高い作品で、観たあとに心が抜群に軽くなる。こんなときだからこそエンタメの力を借りて気分を上向きにしたい人は、ぜひ劇場へ足を運んでほしい。
取材・文・撮影:平野祥恵
【公演情報】
・3月20日(金・祝)~4月1日(水) シアタークリエ
※新型コロナウィルス感染対策により3/13~19の公演は中止
・4月14日(火)~16日(木) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知)
・4月20日(月)~27日(月) 新歌舞伎座(大阪)
※ほか山形、静岡公演あり。