松岡依都美と朝海ひかるが挑む 寺山修司の幻の異色作「不思議な国のエロス」は平和を願う女たちの話

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「音楽劇『不思議な国のエロス』 ~アリストパネス『女の平和』より~」が2月16日から25日まで東京・新国立劇場 小劇場で上演される。

本作は古代ギリシャの劇作家アリストパネスの「女の平和」をベースに1965年に寺山修司が執筆した戯曲で、寺山ならではのユニークな視点を加え描いた音楽劇となっている。今回の上演では、文学座の稲葉賀恵が演出を手がける。

舞台はアテナイの都。戦争を終わらせる能力がない男たちに愛想を尽かし、戦争をやめさせるためのセックスストライキを始める女たちを中心に、反戦と平和への願い、ジェンダーの概念を覆す挑戦的な視点で描かれた本作において、戦争を止めるために集結したアテネの女たちのリーダー・ヘレネーを演じるのは文学座の松岡依都美、物語の案内人・ナルシスは朝海ひかるが務める。

 

本作へ挑む思いを、出演者の松岡と朝海に聞いた。

 

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今まで抱いていた寺山の印象と違う作品

 

──松岡さんも朝海さんも寺山作品は初挑戦だそうですが、戯曲を読んだ感想はいかがでしたか。

 

松岡 詩的な言葉が散りばめられている作品なのですが、その中にもどこか皮肉っぽいというか、世間に対して「これでいいのか」と問いを突き付けるような言葉がいっぱいあって、それはすごく寺山さんらしいところなのかな、と思いました。今は寺山さんのことを勉強しながら戯曲と向き合っているところで、寺山さんのことをより知ってから改めて戯曲と向き合ってみると、初めに読んだ印象ともまたちょっと変わってくる部分もあって、それがとても不思議だし面白いなと感じています。

 

朝海 寺山作品に対しては、ゴタゴタした人間関係が美しい日本語で書かれている、という印象があったのですが、本作を読んでみたら「あれ、寺山さんってこういう色だったっけ?」と思うようなポップさがあって歯切れがいいなと感じて、今まで抱いていた寺山さんの印象と違うな、と思いました。寺山さんに「何か難しそう」という印象を抱いていた人にも入りやすい作品なんじゃないかなと思います。

 

──松岡さんが演じるヘレネーはどのような役なのでしょうか。

 

松岡 戦争を止めるためにセックスストライキを掲げて徒党を組んだ女たちのリーダーで、平和をとことん求めていくという役どころです。ギリシャ神話に描かれているヘレネーは、女性の象徴であったり、トロイア戦争を起こした元凶の悪女みたいなイメージが強いと思うのですが、本作ではそういったイメージとはまたちょっと違った角度からのヘレネー像が描かれてるような気がしています。彼女が持っている強さと、その裏で実は抱えている孤独も見えるんじゃないかなと思っていて、そのあたりを稽古の中でどういうふうに構築していけるのか、楽しみにしている部分でもあります。

 

──朝海さん演じるナルシスは「せむし男」だと聞いて驚きました。

 

朝海 ナルシスは本作の案内役を担っているので、稲葉さんは「ドローンのような存在で」とおっしゃっていました。お客様に「これは自分たちの物語でもあるんだな」と思っていただけるように、うまく橋渡しをする存在になれればいいのかなと思います。なぜ寺山さんはナルシスをせむし男にしたのか、というところからまずは考えていって、私が演じることによってどんなプラスアルファがあるだろうか、というところを模索していきたいです。

 

音楽の持つ力で大きな波を起こせる

 

──演出の稲葉さんに抱いている印象を教えてください。

 

松岡 私は稲葉と同じ劇団ですが、演出を受けるのは今回が初めてなんです。稲葉の作品を見ていると、内容をストレートに表現するというよりも、いろんなうねりを効かせているような印象があります。それによって生じる"歪み"の中にものすごい鋭さがあったりするところが私はとても好きです。今作を稲葉が演出するということで、もちろん寺山さんの書かれたベースを大切にしながら、それを彼女らしい色に変えていってくれると思うので、そこにすごく期待しています。

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朝海 稲葉さんとは『サロメ奇譚』という作品で一度ご一緒しているのですが、本当に一つひとつのことを役者が納得いくまで付き合ってくださって、導くというよりもお互い膝突き合わせて考えて、役者がちゃんと腑に落ちるところを一緒に探してくださるし、それが見つかるまで絶対にあきらめないでいてくれるところが、とても信頼できる演出家さんだな、と思いました。だから、今回またお声をかけてくださってありがたかったですし、今回も稲葉さんについて行こう、ついて行けば大丈夫! と思っています。

 

──今回は音楽劇ということで、お2人のどんな歌が聞けるのか楽しみです。

 

松岡 私は音楽劇への出演が初めてなので、大丈夫かな、という不安も正直あります(笑)。でも、音楽の持つ力というのはすごく大きいですよね。お芝居にプラスして歌が入ってくると、すごく大きな波を起こせるようなイメージがあります。

 

朝海 言葉とは違う音楽の力というものはありますよね。旋律で感情を揺さぶられちゃうこともいっぱいありますし、ストレートプレイとはまた違う魅力だなと思います。ミュージカルの場合は日本語を歌にのせることがなかなか難しいところがありますが、今回は寺山さんが書いた日本語の音楽劇だということはすごく重要なことだと思います。海外物のミュージカルとはまた全然違う印象を受けるんじゃないでしょうか。

 

──松岡さんは文学座所属、朝海さんは宝塚出身、そして他の出演者も様々なフィールドで活躍されている方々が集まっていて、バラエティ豊かなメンバーが顔をそろえました。

 

朝海 本当に、素晴らしいメンバーを揃えていただいて感謝ですね。

 

松岡 私は初めましての方が多いんですが、花瀬琴音ちゃんは彼女が主演した『遠いところ』という映画で、まりゑちゃんは映画『万引き家族』で共演しました。

 

朝海 私は、占部房子さんとは『M.バタフライ』で、伊藤壮太郎くんは『サロメ奇譚』で、内海啓貴くんは『アナスタシア』で共演しています。個人的には、ミュージカル界の大先輩といいますか、宝塚在団中から舞台で拝見していた北村岳子さんとご一緒できることがとても感慨深いといいますか、とにかく嬉しいですね。

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──この作品を楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いいたします。

 

松岡 こんなに豪華なメンバーが集まった音楽劇なので、どんな化学反応が起こるのかを楽しみにして欲しいですし、2024年の2月という今のこの時代にやる意味は絶対ある作品だと思います。とはいえ、肩肘張らずに劇場に足を運んでもらえたらと思います。

 

朝海 このお話は紀元前のお話しなので、その頃の人たちは何を考えていたのかな? とのぞきに来るだけでも、とても有意義な時間になると思いますし、有意義な時間にしていただけるように私たちも精一杯頑張りますので、ぜひ見に来ていただければ嬉しいです。

 

取材・文:久田絢子

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