2023年9月にニューヨークで、日本を代表する若手の和楽器奏者陣と現地オーケストラとのコラボによる「オーケストラ響(ひびき)」公演を成功させた川井郁子。
自身が奏でる"情熱のヴァイオリン"と日本人の根底に流れる邦楽器の音色(篠笛・尺八・箏・琵琶・笙・篳篥)を融合した、国境やジャンルの垣根を越えた音楽性はデビュー当時からの彼女のテーマであり、同公演はその集大成であった。
現在、大阪を皮切りにレギュラーである和楽器奏者チームと管弦楽団を共演させた「NY公演凱旋記念コンサート」ツアーが進行中だが、最新の映像技術を駆使して葛飾北斎の浮世絵や桜、能、ダンサーなどのダイナミックな立体映像が、音楽と一体になって壮大なロマンを描き出すステージは各地で大きな話題を呼んでいる。
公演プログラムは2023年3月にリリースされた最新アルバム『響-HIBIKI-』の収録曲が中心だが、これまでのキャリアの中で何度となく披露されてきた"川井郁子といえば"の定番曲や、長く愛され続けている人気曲も多く、それらが「オーケストラ響」ならではのニュー・アレンジや、当日その会場でしか味わうことのできない"一期一会"の演奏によって、新しい生命を吹き込まれるのも今回のコンサートの醍醐味だろう。
予想されるオープニング曲は彼女の代名詞ともいえる〈恋のアランフェス~レッド・ヴァイオリン〉。
ロドリーゴの《アランフェス協奏曲》を独自の感性でアレンジした本曲は2000年リリースのデビュー・アルバムを始め、これまでに何度もレコーディングされコンサートでもお馴染みの楽曲。
また古くからフィギュアスケート界でも一流選手たちが様々な選手権で使用したことでも知られている。
そしてフィギュアといえばあの羽生結弦・選手が演技で使用した〈ホワイトレジェンド~白鳥の湖より〉や、田中刑事・選手が使用した〈インスティンクト・ラプソディー〉も外せない。
因みに〈インスティンクト・ラプソディー〉は彼女が手掛けた、明智光秀の娘・細川ガラシャを題材にした音楽舞台から生まれたナンバーであり、同舞台からの〈哀しみのグラツィア〉〈時の彼方に〉と共に、本公演の要となる感動的な名曲である。
他にも、彼女の原点でもあるタンゴの"革命児"アストル・ピアソラの作品や、映画音楽やジャズスタンダードなどのカヴァーも聴き逃せない。
もちろん「オーケストラ響」が本領を発揮して雅(みやび)な世界が再現される『源氏物語』をモチーフにした〈夕顔〉などのオリジナル曲も必聴。
"越境"から生まれるドラマティックなステージを大いに期待したい!
【文:東端哲也】