幻想と現実のはざまで――舞台『ヘヴンアイズ』 石田亜佑美×渡辺碧斗×湯川ひな×大谷亮介に聞く

「肩胛骨は翼のなごり」などで知られる英国の児童文学作家デイヴィッド・アーモンドの国際アンデルセン賞受賞作を作家自らが戯曲化した「ヘヴンアイズ」が912日より「すみだパークシアター倉」にて上演される。孤児院で育ち、自由を求め冒険の旅へと漕ぎ出す主人公・エリンを演じる元モーニング娘。の石田亜佑美、エリンと共に旅に出るジャニュアリー役の渡辺碧斗、彼らが旅の途中で出会う"ヘヴンアイズ"と呼ばれる不思議な少女を演じる湯川ひな、そしてヘヴンアイズと暮らす謎の老人"グランパ"を演じる大谷亮介が本作への思いや稽古の様子について語り合った。

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――最初に戯曲を読まれてどんな印象を持たれましたか? もし原作も読まれていたら、小説と戯曲の違いなど、感じたことを教えてください。

石田 私は原作を先に読ませていただいて、その後に台本をいただいたので、原作の印象が先にありました。(原作は)ずっと主人公のエリンの語りで進んでいくんですけど、その言葉遣いが面白くて、ひとつのことを表現するためにいろんな言葉で、すごく装飾して語るんですね。歌詞みたいな言葉で書かれた小説だなというのが、第一印象でした。戯曲になって、誰かが言うセリフになっているほうが、想像はしやすかったです。そういう意味で、"黒い泥沼"とかなんとなくイメージはできたんですけど、それを演じる想像が正直全くわかなくて「不思議...」という印象でした。

――美しさや魅力を感じる部分はありましたか?

石田 ヘヴンアイズの存在は、この物語の現実なのかファンタジーなのか...? 幻想的な引き込まれるような感覚がありました。

渡辺 僕は逆に戯曲を最初にいただいて読んだのですが、なじみのない言葉がいっぱいあって、最初は内容的にも「これは何が起こってるんだろう?」という印象で、それを理解するために、原作を手に取って読みました。それで、なんとなく状況は理解できたのですが、不思議な世界観はそのままで、これは夢なのか? 現実なのか? その境界線が曖昧で、すごく不思議な感覚がありつつ、登場人物たちと一緒に冒険しているような気持ちになりました。

湯川 私も最初は戯曲を読んだんですが、いろんなことが唐突に起こったり、繋がりがわからなくて、小説も読んでみたんですけど、読者の想像に任せている部分が多くて、これをどうやって演劇として目に見える形にするんだろう? と思いました。初めて読んだ時はちょっと怖かったです。もしかして、エリンたちは死んでいて、死者の世界を描いてるんじゃないか? と思ったり。何度も何度も読んでいくと、「なんで人間は生まれてくるんだろう?」とか「死んだ後はどうなっていくんだろう?」といった問いを作者は描きたかったのかな? と感じて、ヘヴンアイズの存在に"生命の輝き"そのものみたいなものを感じて美しいなと思いました。

大谷 小説を読むと、現代的な経済的に幸せな状況というのが全く出てこなくて、親近感を感じる部分は多かったです。ただ小説として長かったので「これ、どうやって芝居でやるんだ?」と思いました。戯曲になって荒井(遼/脚本・演出)さんがだいぶ短くして、稽古が始まって新しいシーンが加えられたりもして、すごく楽しみになってきました。特殊な状況を描いた物語というより、もしかしたら誰にでもありうることが描かれていて、金持ちも出てこないし、そういう部分に個人的に親近感がわいてきました。

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――役柄に関しても、印象やどんなふうに見せられたらと考えているか教えてください。

石田 エリンは親がいないんですけど、自覚してないところですごく愛情深そうなところが見えたりしつつ...、でもひとりぼっちで育ってきて「世界に負けないように!」と強くなっちゃった部分――「強くなろう」としたんじゃなくて、そうならざるを得なかった部分が見えて切なくなりました。子どもなんだからもっと無邪気にはしゃいでいいのに「強がってる」部分を感じるので、そういう繊細なところをしっかりと演じられたらと思います。

渡辺 ここに出てくる子どもたちは、生まれた時からいろんな逆境の中にあって、劇中でも冒険に出て、逆境に遭遇するんですけど、その中でジャニュアリーは一番前を向いている人物だなと思います。「自分にもこんな時があったな...」と思わされました。いま僕は27歳なんですけど、25を超えたあたりから、ちょっとずついろんなことに期待をしなくなっていて...

石田 すごくわかります!

渡辺 でも、ここに出てくる子どもたちの姿にすごく勇気づけられて、読み終わって温かい気持ちにもなったし、懐かしい気持ちにも「こうありたい」という気持ちにもなりました。ジャニュアリーは太陽のような存在なので、その気持ちを思い出しながら、エネルギッシュに演じられたらと思っています。

――湯川さんが演じるヘヴンアイズはタイトルロールであり、物語の鍵を握る存在ですね。 

湯川 荒井さんから本読みで「人間になる前の生き物」というワードをいただきまして...エリンたちにとっても「何これ? 人なの?」と思わせるような存在なんですよね。ヘヴンアイズという名はグランパがつけてくれた名前で「どんな苦しみの中にも天国を見出す目を持つ者」という意味なので、グランパにとってそういう存在であるってどういうことか? と考えた時、例えば赤ちゃんが目の前に現れたら、それが誰の子であっても「わぁ!」っと顔がほころぶような、希望を感じるような存在だと感じています。

大谷 グランパというのは、(経済的な意味で)幸せな人ではないですよね。でも演じる上で違和感はそんなになくて、ゴミを拾いながら、使えるものは使い、食べられるものを食べて生きてる不思議とギャップは感じないんですよね。いま、話に出たように"ヘヴンアイズ"という名前を彼がつけたわけで、自分で誰かの名前を付けて、そう呼んで生きていけるというのは、ある意味で幸せなことだなと思います。名を呼ぶ相手が身近にいて、ニコニコ笑ってくれる、それだけで生きていけるんだろうなと。

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――石田さん、湯川さん、大谷さんは以前、荒井さんとお仕事をご一緒されていますが、渡辺さんは初めてですね? ここまで稽古をしてきていかがですか?

湯川 毎日、台本が変わってきます(笑)。「ここ削って」「これ足して」ってね?

石田 「このページ、ごっそりこっちに持ってこようか?」みたいな...。

渡辺 でもいつもニコニコされてますよね(笑)。

大谷 そうなのよ(笑)。

湯川 「荒井さんが笑ってそう言うならいいか」って。

大谷 不安になっても「まあ、大丈夫なんだな」って思うよね(笑)。

石田 そうやっていつもみんなで笑っている現場です。でも、そんな時に(渡辺を指して)「本番まであと、〇日...」とかボソッと言うんですよ(苦笑)。

渡辺 すいません(苦笑)。僕は稽古前に荒井さんと初めてお会いしたんですけど、そこで前回の公演で、台本が完成したのが本番3日前だったというお話を聞いて、覚悟して稽古に臨んだんですが、まさにいろいろ追加されたり、カットされたり...まだ霧の中にいるような感覚です。

湯川 でも、この幻想的な物語を表現する上で荒井さんが「こうしてみようか?」とおっしゃることがすごく素敵なんですよね。前回ご一緒した「BLINK」もまさにそんな感じでした。

石田 わかる! 私も前回、リーディングでご一緒したんですけど、その時も「ちょっと歩いてみようか?」みたいな感じの演出があって、すごく幻想的だったんですよ。フワッとしたそういう感じが荒井さんの世界観なんだなと感じています。

大谷 何かを「訴える」というような物語でも、何かを押しつけるような話でもないので、観てくださるお客さんが一緒に"泥沼"の中にいるような感覚をもって、登場人物たちと一緒に時を過ごせるような作品になるんじゃないかと思いますね。

石田 すごく幻想的なんだけど、ふとした時に「あ、わかる!」と感じる瞬間がいっぱいあるんですよね。決して遠い世界の物語ではないんだと感じてもらえたらいいなと思っています!

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<公演情報>
舞台『ヘヴンアイズ』

作:デイヴィッド・アーモンド
翻訳:髙田曜子
演出:荒井遼

出演:石田亜佑美​​ 渡辺碧斗 湯川ひな 野口詩央 里内伽奈​​ 岡島洸心 大谷亮介​

2025年9月12日(金)~17日(水)
会場:東京・すみだパークシアター倉

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/heaveneyes/

公式サイト:
https://theatertheater.wixsite.com/heaven2025

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