心で"密"を作り出す、2021年版ミュージカル『SMOKE』開幕

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小劇場ミュージカルとして絶大な人気を誇るミュージカル『SMOKE』が、8月28日(土)、東京・浅草九劇で開幕した。韓国で誕生し、日本では2018年に初演。3人の俳優のみで、ひとりの天才詩人の苦悩と葛藤をドラマチックに描き出すミュージカルだ。上演を重ねるごとに"愛煙家"と呼ばれる熱狂的なファンを生みだし、今回で四演目となる。初演からのキャストである大山真志池田有希子に加え、8名の新キャストが加わり計10人の俳優たちが挑んでいる2021年版の観劇レポートを記す。

物語はふたりの青年・超(チョ)と海(ヘ)が、三越デパートの令嬢だという紅(ホン)を誘拐してくるところから始まる。身代金を得て、まだ行ったことのない海を見に行くのだと。しかし目隠しを外された紅は、海を見て、懐かしそうな表情を浮かべた。彼らは知り合いだったのか......? サスペンスのように始まったミステリアスな物語は、予想のつかない展開へ。やがて、自分の才能に絶望し、苦悩し、その中でもひと筋の光を掴もうとするひとりの天才詩人の内面が浮かび上がっていく。モチーフは、20世紀初頭に生きた韓国の詩人、李箱(イ・サン)の遺した詩と彼の人生。文学的奥深さと、激しい感情のキャッチボールが同居する作品を、3人のキャストが時に激情をぶつけ合い、時に仕掛け合い、時に寄り添い紡ぎ出していく。

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超役は大山真志、東山光明、伊藤裕一、山田元の4名。兄貴分的存在で、常に何かに苛立っているような役柄だ。大山の超は低く深い声と大きな存在感で頼りがいのある、しかし暗い道をひとりで突き進んでいくような孤独も感じさせる超だ。もしかしたらこの『SMOKE』という作品を初演から引っ張ってきたトップランナー・大山の孤高の戦いが役柄に反映されているのかもしれない、そう思わせるストイックさが魅力だ。東山が見せたのは鋭角的な超だ。だがその荒々しさは怯えからきているような心許なさがあり、ひどく悲しい。主に小劇場で活躍する伊藤は、この情熱的で激しい作品においても細部まで無理なくナチュラルな超。ことさら自分の"個"をひけらかすことなく、素直に作品と向き合った思われる役作りで、物語の中に息づいている。ミュージカル2作品目ながら安定した歌声を聴かせてくれたのも頼もしい限り。そしてパブリックイメージでは柔らかなイメージを持つ俳優である山田が、4人の中で最も猛々しい超を作り出していたのも面白い。激しさゆえ、絶望の深さも際立つような超だった。

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27歳だが精神は14歳で止まっている少年、海役を務めるのは大山真志、内海啓貴、中村翼の3名。超と2役演じる大山の海は、日本初演から磨き続けてきた海役のまさに集大成と言えそうなパフォーマンス。特に終盤、物語の全貌が見えてからの演技は圧巻で、劇場全体が彼の内面世界に飲み込まれてしまったかのようだった。内海は少年性の強い海であどけなさが可愛らしい。だが後半、自身の記憶を取り戻してからの表情が冷え冷えとしていて、そのギャップが面白かった。中村も幼さが全面に押し出されている海だが、内海とは違いずいぶん超への依存度が高そうな繊細さが印象的。まだ大学生とのことだが、素直で伸びのある歌声もいい。物語の要である海を、3人がまったく異なるアプローチで作り上げているため、作品自体のカラーが海の役者によって全く変わってくるのも見ごたえがある。

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紅役は池田有希子、木村花代、井手口帆夏、皆本麻帆の4名。世代の違う4人が配役されたが、いずれも美しく強く、ミステリアスな女性を作り上げ中ている。韓国産ミュージカルの特性であるアップダウンの激しい感情を、しかしナチュラルに自由に見せられる稀有な女優である池田は、3度目の『SMOKE』でもハッとさせられるほど新鮮。特に今回は、"恋しい"という感情を通奏低音として流しているように見え、ひとつ物語に揺るぎない芯が通った感。木村の紅には"切なさ"が常に漂う。もともとの彼女の魅力である柔らかさと相まって、台詞にあるように海のような紅だ。また、高音も低音も自在の歌唱力も圧巻だった。面白かったのは皆本の紅だ。もともとコケティッシュな魅力のある女優だが、"夢の女"といった風情の、どこからやってきたかもわからない不思議な浮遊感。様々な女優が演じてきた紅だが、確実に新しく、そして目が離せない紅だった。そして、これがデビューとなる井手口。フレッシュさはもちろんのこと、まぶしいほどの透明感だ。大切にしたかった、守りたかった純粋な心の欠片がそのまま具現化したかのようで、新鮮でありながらも、ある意味この作品のテーマをど真ん中を突いているのでは、と思わせる紅になっていた。歌声も美しく、これからのミュージカル界での活躍も大いに期待できる。

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......と、駆け足でそれぞれの役柄の印象を述べたが、もちろん組み合わせによってもどんどんその印象を変えていくに違いない。例えば今回見た大山・超と池田・紅の組み合わせは、長年本作に関わっているふたりなだけあって、ののしりあっていても、その息の合いっぷりからどこか共犯者めいた空気が出てくるのが面白かったが、同じシーンを頑なさを強く感じた山田・超と、その場でどんどん感情を変えていく池田・紅がぶつかったらどうなるだろう? というような興味もムクムクと沸いてきた。今回は36通りのキャストの組み合わせがあるとか。自分だけのお気に入りの『SMOKE』を見つけるのも楽しみのひとつかもしれない。

演出についても特筆したい。今まで浅草九劇では四方を客席で囲ったセンターステージで上演、観客の眼前に俳優がいる緊密さ、迫力も話題のひとつだった。今回はコロナ禍もあり物理的"密"は避け、三方囲み、ステージは特殊フィルムとビニールシートで囲まれた。しかし"囲まれた"ことを利用し、ステージを煙で満たしたり、特殊フィルムを駆使しあえて観客の視界を遮り想像力に委ねたりと、現状を逆手にとった演出の巧みさが見事。時に光の加減でスクリーンやビニールシートに俳優の姿が反射し鏡のようになるなど、作品の内容ともリンクし、面白い効果が生まれた。何よりも3人ずつの俳優たちが相手役と息を合わせ、心情で"密"な作品を作り上げている。これまで『SMOKE』を何度も観ている人にとっても、また新しい『SMOKE』になっているはずだ。

公演は10月3日(日)まで浅草九劇にて。その後10月15日(金)から17日(日)にかけ、大阪・シアタードラマシティでも上演される。9月3日(金)19:00、9月6日(月)19:00公演はライブ配信も決定。公演・配信チケットは発売中。(取材・文:平野祥恵)

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