2016年に上演されたブロードウェイ版は、翌年のトニー賞で最多12部門ノミネート。
大きな話題となったミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』が、日本初上陸を果たします。
その稽古場レポート、後半です!
前回は、その特殊でスペシャルな劇場構造の紹介に終始してしまいましたので、今回は物語の中身についてお伝えします。
★稽古場レポートPart1はコチラ
物語はロシアの文豪トルストイの傑作『戦争と平和』が原作。
ロシア文学なんて難しそう、理解できるかな......、そうお思いの方もいるのでは。
確かに、物語は簡単とはいえないし、ロシアの人名は長いし慣れない!
......でも、このミュージカルを作ったのはブロードウェイ、アメリカです。
おそらくアメリカ人たちも、我々日本人の大半が抱く思いと同様に、「ロシア文学って難しそう」「ロシアの人名、全然覚えられない!」と思っているのではないでしょうか。
冒頭1曲目はまさにそんなナンバー。
「あらすじを理解したかったら売店でプログラムを売っているよ」
「ロシア人、名前が9個もあるもんね」といった内容。
なんだか安心します。
そしてもう少し進むと、そのロシア的名前を羅列するような楽曲もあります。
つまりこのミュージカルの作者は、ロシア文学ってヤヤコシイよね、ロシア人の名前ってこんな長いんだよ(笑っちゃうよね、だからそこまで覚えなくてもいいよ)......と暗に言っている......のでは、ないでしょうか。
とはいえ、あらすじをざっくり覚えてから観る方が、理解しやすいのは事実です。
ということで、今回のレポートでは登場人物とその関係性などもご紹介していきましょう。
<登場人物相関図(公式サイトより)>
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舞台背景は、19世紀初頭モスクワ。ナポレオン戦争(フランスの皇帝ナポレオンがロシアに侵略してきた)の時代です。原作ではなんと559人のキャラクターが登場する群像劇ですが、このミュージカルでは、その中の一部分(全4巻中、2巻の一部)を描いています。
井上芳雄さん扮する主人公ピエールは、伯爵の私生児。
父の財産を継いで大金持ちになっていますが、育ちは暗い。
そして今風に言えば「ひきこもり」的なところがあるようで。
井上さん、いつものプリンスオーラは消して、ちょっとモサい男性になってます!
劇中では「リッチな変人」「猫背で寂しそう」と歌われていました。そして「いい人」とも。
ピエール(井上さん)は実は結婚しています。
妻はエレン。演じるのは霧矢大夢さん。
エレンは社交界の華と呼ばれる女性で、享楽的で派手、そして絶世の美女。財産目当てでの結婚で、当然ながらピエールとの間には愛はありません。
霧矢さん、稽古着でも華やか~。
エレン(霧矢さん)の兄であるアナトールは小西遼生さん。
ピエール(井上さん)の友人でもあります。
アナトール、登場前にしつこいほど「イケメン」「並外れたハンサム」と連呼されます(笑)。
ざっくり言うと、イケメンでダメ男の典型です。
そして奔放な悪女、エレン(霧矢さん)の愛人・ドロホフは水田航生さん。
ワイルドで、ちょっと崩れた感じの男性。
素顔は爽やかイケメンな水田さんが、どう粗野な男に変貌するのか、楽しみですね。
ヒロイン、ナターシャを演じるのは生田絵梨花さん。
ナターシャは劇中で「美しい娘」「魅力的なお嬢さん」「太陽」と呼ばれる少女。
悪女であるエレン(霧矢さん)と、ピュアで汚れていないナターシャが対になるような感じ。
ちなみに「ナタリー」と呼ばれることもあれば「ナターリャ」と呼ばれたり......ロシア人の名前は本当に大変。
そのナターシャ(生田さん)は実は婚約をしたばかり。
相手は武田真治さん扮するアンドレイ。
このミュージカル、アンドレイが1年間旅に出る、というところからスタートします。
アンドレイは、ピエール(井上さん)の親友。
ここでピエールとナターシャがつながりました!
ナターシャ(生田さん)の名付け親、マーリャ・Dは原田薫さん。
名付け親ってどういう存在なんだろう、と思ったのですが、どうやら、ほぼ親代わりといった感じの存在みたいです。
名ダンサーの原田さんですが、歌声も迫力でカッコいい!
そしてマーリャ・Dもまた、ピエール(井上さん)の友人です。
ピエールは引きこもりの割には信頼が篤いようで、「困ったときにはピエールに相談する」という構造になっているようです。
ナターシャは、従姉妹のソーニャとともにマーリャ・Dのもとに滞在しているようです。
ソーニャは松原凜子さん。「いい子」です。
2幕には素敵なソロナンバーも!
最後に、アンドレイ(武田さん)の一家をご紹介!
変わり者の一家です。
ナターシャ(生田さん)とアンドレイは婚約していますが、大きな障害がアンドレイの父、ボルコンスキー老公爵。
典型的な、偏屈な老人!演じるのは武田さん(二役)。
ちょっとコミカルなパートにもなりそうな予感...?
ボルコンスキー老公爵の世話をしているのは、娘のマリアです。
演じるのは、はいだしょうこさん。
マリアは父親に抑圧されています。そして太陽のようなナターシャに嫉妬し、彼女を兄の婚約者だと受け入れられない。
ナターシャ(生田さん)は、婚約者の父である老公爵には「馬の骨」と言われ、妹のマリアにも憎まれ、頼みの婚約者本人は旅に出てしまい不在......という、ちょっと心が折れちゃうような状況です。
さて、すでに人物関係が入り組んでいますが、そんな相関図を踏まえ、物語を大きく動かすのは、ナターシャ(生田さん)とアナトール(小西さん)が恋に落ちてしまったこと。
ピエールにとっては、妻(霧矢さん)の兄(小西さん)が、親友(武田さん)の婚約者であり、友人(原田さん)の娘のような存在である女性(生田さん)を奪ってしまった、という構造。
でも、このゴシップが、世間に背を向けて、人生を諦めているようなピエールの心を震わせていく。
それは、1812年7月、地球に大接近した彗星(グレート・コメット)のインパクトのような鮮やかさだったのでしょう。
そして、全編、歌で綴られます。
『レ・ミゼラブル』などと同じく、いわゆるソングスルーと呼ばれるタイプのミュージカルで、セリフも歌になっています。
作りとしてはオペラチックでオーソドックスですが、出てくる音楽は最新鋭という感じ!
クラシカルなミュージカルナンバーからEDMまで、多彩!
ノリのいいナンバーの時には、客席でもノリノリになっちゃいましょう!
客席も参加できる仕掛けもありそうですよ。
特にメイリー・ムーさん扮するバラガの登場シーンは大盛り上がり間違いなし!
バラガはアナトール(小西さん)の御者。
キャストの皆さん、楽器演奏もこなします。
バンドさんが舞台上で演奏をしているのかと思ったら、キャストさんでした!
アコーディオンにピアノを演奏する井上さん等々、実際に様々なキャストが演奏を行います。
もちろん武田さんのサックス演奏もあります!
原作の風を感じるロシア音楽の要素&ダンスもあり!
もう、なんでもアリ!
これが、観客が作品の中に参加しているかのような「イマーシブ・シアター」の中で体感できる。
そして人物相関図は複雑なようですが、芯を捉えると、意外にもシンプル。
誰かが熱い恋をし、そのことで人間のあるべき姿に気付かされ、助けたいと思った誰かがいた......。
熱狂ののち、シンプルな感動が広がっていきます。
素晴らしい音楽と、ほかにはない体感型の劇場で、自然と作品の中に誘われ、気付くと物語の繊細な美しさに触れている......。
ほかにはない演劇体験になること、間違いありません。ご期待ください!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
1月5日(土)~27日(日) 東京芸術劇場プレイハウス