『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』稽古場レポート

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ミュージックホールでたまたま知り合った謎の美女と、どういうわけか一夜をともに過ごすことになった主人公。甘い雰囲気を期待するも、その美女が謎の言葉を残して殺された! わけのわからないまま国家をゆるがす陰謀事件に巻き込まれ、かつ殺人容疑で指名手配されてしまった主人公の命運やいかに......!? ジョン・バカンのスパイ小説「三十九階段」及び、その小説を原作にしたアルフレッド・ヒッチコック監督映画「三十九夜」をもとにしたイギリス発の人気舞台『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』が、51()より東京・シアタークリエで上演される。登場する139役を平方元基、ソニン、あべこうじ、小松利昌のたった4人の俳優で演じる、サスペンスにして極上のコメディ。4月下旬のある日、この稽古場を取材した。

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取材日の稽古は、2幕冒頭のシーンからスタート。場所はのどかな田舎のようだ。マーガレット役のソニンが牧歌的な歌を口ずさむ一方、平方扮する主人公リチャード・ハネイは裁判所で判事(小松)を相手に、重大な事件が起きていることを訴えている。親身になって話を聞く判事。すでに大逃亡劇を繰り広げているハネイ、ここでやっと身の潔白をわかってもらえるか......と思いきや、実は判事は時間稼ぎをしていただけ。こっそり呼んでいた警官(あべ)に手錠をかけられ、ハネイ大ピンチ! 格闘の末、ハネイは窓から逃亡し......。おそらく本番では数分のシーンであろうが、2幕の幕開き早々、ハイスピードかつ、情報量の詰まった展開である。さらに演出のウォーリー木下からは「ソニンさん、出てくる時にその窓枠を持ってこられますか?」など、容赦なく役割が与えられていく。ただでさえ出ずっぱりで大忙しの俳優たちだが、この作品、舞台上のセット転換なども俳優が担う部分が多い。慌ただしいセットチェンジが可視化されることで、物語のスピード感が上がっていく。

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場面も役柄もくるくる替わり、さらに転換も担う俳優たちが肉体を酷使している様はそれだけで楽しくドタバタコメディとして成立しそうだが、この熟練の4人の俳優は、それだけで終わらせない。決め事が多い舞台なだけに動きも細かく指定されている模様だが、ソニンは木下に"その動き"をするためのキャラクターの心情の調整を相談したり、「ここ、ブラシ使っていいですか?」と小道具をリクエストしたりと積極的に役を深めている。あべからは木下に「この警官は電車のシーンに出てきた警官ですか?」という質問が。台本上の指定はないようで、木下が「その方がハネイは反応しやすいからテンポがよくなるよね、ハメられた感が出て」と判断し、同じ人物になった模様。小松は、電話で喋りながら電話の向こうにいる通話相手の声も担当するなどアクロバットでユニークな演技を器用にこなし笑わせる一方で、「この赤い幕はあべさんに運んでもらった方が(効率がいい)」など、俯瞰した視点からの提案もしている。ちなみにふたりで135役を演じていくあべと小松は"クラウン"と呼ばれる役柄。ただし、様々な役を演じるふたりをクラウンと称しているのではなく、ふたりはクラウンを演じ、そのクラウンが様々な役を演じていくという構造のようだ。ある役の衣裳を着てもすぐにその役になるわけではなく、クラウンでいる状態もあり、"スイッチが入る瞬間"が舞台上であるのが面白い。

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そしてハネイを演じる平方が、誰よりもハードに動き回る。思いもよらない事件に巻き込まれ、追い詰められながらも、この危機を救えるのは自分だけだと奮闘する。平方は危機に陥っているのに美女に会って目尻を下げる人間臭さなどが可愛らしい一方で、激しいアクションシーンもカッコ良くバッチリ決める。平方の愛らしい個性は、いわゆる"巻き込まれ型主人公"が非常によく似合うし、ハネイは間違いなくそのタイプではあるのだが、受け身なだけではない力強さが平方の全身から伝わってくるのもいい。ミュージカルデビュー10周年の節目を迎えている平方のこれまでの経験値が確実に自信となり、ハネイに注ぎ込まれている。同時に平方自身がこのハードな役を楽しみながら演じているのもよくわかる。

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手に汗握るサスペンスフルな物語展開に、ドタバタだけではない俳優たちの名演が期待できる『THE 39 STEPS』。とはいえやはり、"物語の外"の見どころもたくさんある作品だ。セットチェンジは「先にスクリーンを出さないと......」など、さながらパズルのように試行錯誤しているし、シーンの稽古の前に「モノの出し入れの練習をさせてくださーい」という時間があったり、クラウンたちは効果音さえも口で言っていたり。さらに音楽を担当するバンド・ザッハトルテもすでに稽古に合流。ストレートプレイではあるが音楽も重要な要素で、ナンバー数も多い。雷やフィルムのまわる効果音などもバンドが出しているのも面白いし、クラウンたちの衣裳チェンジにかかる時間にあわせて音楽の長さを調整もしている。全方位にわたってアナログな手間を随所に仕掛けている作品だ。だが、大変さはビシバシ伝わるものの"ピリっと"感はまったくしない。座長の平方に至っては、ちょくちょく取材カメラに向かってポーズを送ってくれるサービスっぷり。みんなが楽しんでいることが伝わってくる稽古場だった。手作り感満載、愛情いっぱいの"全力演劇"。演劇を愛する人こそ、大好きな一作になりそうだ。

公演は51()から17()まで。チケットは発売中。(取材・文・撮影:平野祥恵)

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