日本で最も上演されている戯曲と言われている、故・清水邦夫の傑作戯曲『楽屋―流れ去るものはやがてなつかしき―』。舞台の楽屋で繰り広げられる女優4人の物語は、やはり女優たちが我が身を投影するところがあるのか、多くの演劇人に愛されてきた。この"女優4人芝居"を男優のみで上演したのが2020年1月のこと(西森英行演出。21年4月に再演)。その舞台に出演していた佐藤アツヒロが、今度は演出として手掛ける『楽屋』が5月31日(月)から東京・浅草九劇で上演される。伊勢大貴、瀬戸祐介、照井健仁、星元裕月といった若手俳優を起用し、同じくオールメールで挑む新生『楽屋』の稽古場を5月末の某日、取材した。
『かもめ』のヒロインを演じている女優Cの楽屋で繰り広げられる、ワンシチュエーションの物語。1977年初演の戯曲ということもあり、もともとは"昭和"の香りが漂う作品だが、今回の舞台セットは、革張りの椅子だったりシックな机だったり、ずいぶん、現代風だ。楽屋らしい調度品がある中で、エレキギターやら木馬といった、少し意外な小道具も。効果音も不穏な嵐の音が鳴ったりして、一風変わった『楽屋』が始まりそうな予感を漂わせている。――と、ロックなBGMの中、物語がスタート。伊勢大貴扮する女優Aと、照井健仁扮する女優Bが登場。テンション高めに化粧をしたり、カードゲームに興じたり。
物語をどんどんかき回していくポジションであるAとB、口汚くお互いに悪態をついたり、ここにはいない女優Cの悪口を言ったりしているのだが、パワフルに動き回る伊勢と照井が可愛らしく、なんだかふたりの女優が"同志"のように見えてくる。特にやはり、西森演出版にも出演していた伊勢が、戯曲の緩急を掴んでいるようで、繰り出すセリフがリズミカルで良い。前回は最若手として女優Dを演じていたが、先輩格の女優Aをチャーミングに演じてくれそうだ。
物語の芯を担う女優Cは瀬戸祐介。まだ稽古着ながら、黒のロングスカートにハイヒールも履き、すっと伸びた背筋に"女優感"を漂わせている。AとBに調子を狂わされ、常にイライラしている姿が、ロックテイストな佐藤演出とマッチし、空気をヒリつかせる。
Cのプロンプターだった若手女優Dは、星元裕月。愛らしい外見と魔性めいた個性をいかんなく発揮し、Dの"不思議ちゃん"的キャラクターを造形。
どこか宝塚歌劇めいた仕草も、妙な迫力があって印象に残った。佐藤、伊勢らが出演した西森演出版では、女優4人が密やかな宇宙を作り上げた印象だが、この佐藤演出版は、内なる衝動をストレートに外に向けているロックのような『楽屋』になりそう。全体を通したあと、佐藤も「いいと思います。このベースを守りつつ、もう少し洗練させていきましょう」と出演者たちに声をかけた。また新しい『楽屋』の魅力と出会えそうだ。
公演は5月31日(月)から6月13日(日)まで、浅草九劇にて。チケットは現在発売中。5月31日(月)18:30公演はPIA LIVE STREAMでのライブ配信も決定(アーカイブ5月31日(月)23:00まで)。
取材・文:平野祥恵
撮影・岩田えり