鍛治本大樹の稽古場探訪記VOL.2 ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』

  

キャラメルボックスの鍛治本大樹さんが気になる公演をチョイスして、稽古場からレポートをお届けする不定期連載【鍛治本大樹の稽古場探訪記】

 

第2回目はベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』です。

 

『こそぎ落としの明け暮れ』稽古場レポート


都内某所。

 

富岡晃一郎さん福原充則さんが立ち上げた、ベッド&メイキングスの最新作『こそぎ落としの明け暮れ』の稽古場にお邪魔した。

 

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作・演出を担当する福原さんの第62回岸田國士戯曲賞受賞後、初の長編書き下ろし作品ということで僕自身、注目していた舞台だ。

ベッド&メイキングスは、『墓場、女子高生(再演・2015年)』が初見だった。個性的な女優陣の魅力がこれでもかと引き出されてぶつかり合っているのが印象に残っている。


稽古場の感想を書く前に、ぜひとも脚本について触れておきたい。

今回、稽古場をレポートするにあたり、事前に脚本を読ませて頂いた。
もちろん新作なのでネタバレは出来ないが、全体的な展開もさることながら、一つひとつのやりとり、一人ひとりのセリフ、言葉ひとつとってもそのどれもが面白い。
決して大袈裟ではない"言葉たち"が、福原さんの手にかかるとまるで魔法にでもかかったように絶妙な掛け合いとなって、何度もムフフと笑ってしまった。

 

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役者として台本に向かう時、僕が心掛けている事がある。
それは「脚本(台本)とは、設計図である」ということ。

 
ある程度の造形の指針、骨格が書き記されてはいるけど、どんな素材の建材で立てるのか、そこにどんな壁紙を貼るのか、どんなインテリアを置くのかは、ひとまず役者に委ねられているであろうし、腕の見せどころだと思っている。

 
ところが、福原さんの書く脚本は、素材、色、インテリアまで指定されているような、完成写真を見せられているかのような緻密さで、読み手(役者)に迫って来る。

セリフを発する時の、声の大きさ、トーン、リズム、息遣い、テンポの正解が台本を開くだけで飛び出してくるような感覚。

 
これは面白い脚本である証でもあるけど、役者目線でいくと手強いなぁ......。 

そんな印象を持って稽古場へと足を運んだ。

とりあえず稽古場に入ってすぐの印象から。

 
圧倒的に女性が多い。
な、なんだか、緊張しちゃうなぁ。

  

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今回の出演者は、富岡晃一郎さん以外、全員女性。
もし自分が出演者だったらドギマギしてしまいそう。


そういえば、ベッド&メイキングスの作品には女性の登場人物が多い印象がある。
何か理由があるのだろうか。主宰のおふたり、富岡さんと福原さんに訊いてみた。

 

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 左から富岡晃一郎、福原充則 

 

鍛治本「キャスティングはどのようにして決められたのですか?」

福原「大人の女優さんと一緒にやりたいっていう欲求がありましたね。なので自然と以前から知っている方や、一緒にやっている方に集まっていただきました。

以前、ピチチ5(クインテット)をやっている時は、女性は一人だけという方針だったんで、男芝居を沢山書いたっていうのと、最近、女性の方がいろいろな感情を背負えるというか、社会の中で闘う姿に力強さがあるような気がしてるんです。(女性が)その場の状況をドーンとひっくり返してくれそうというか。ただこの状況はまた変わると思っているので、今回が"女性物"の集大成になると思います」

 

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富岡さんは女優陣の中で唯一の男性、ひとりで居づらくないですか?と訊いてみると、、、

  
富岡「むしろ僕、女性に囲まれているほうがやりやすいかも(笑)。今回、スタッフさんも女性が多くて、気付いたら男は僕と福ちゃんだけでした」

鍛治本「緊張しないんですか?」

富岡「うち、姉が多い家庭で育っているんですよ、だからかなぁ~」

 


それでいくと、僕も姉二人の末っ子長男なのだが......。

 
そんな富岡さんは稽古中、女優陣の個性のぶつかり合いの中でも、支柱としてそこにいるというか、場の静かな中心になっているように感じられた。

 

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稽古は1シーンずつ丁寧に進められていく。
相槌一つのニュアンス、タイミング、それに伴った動きがきっちりと整えられていく。
福原さんは劇作同様、演出にもキメの細やかさが感じられる。

 

ただし、台本を読んでいた時の、きっちり決まった正解がある、という印象とは少し違った。

明確な答えを目指して緻密に調整はされていくが、決して押し付けではなく、演者と相談しながら演出を変化させていく。


途中、セリフの文言を変えた方がいいんじゃないかと、福原さんが考え込む場面があった。
とっても素敵なフレーズなのだが、その状況での役者の動きにそぐわないのではないか、という検討が行われた。

役者としては、台詞の変更ではなく、なんとか成立させたい局面だよなぁと僕個人的にも考え込む。

結果としては、役者の動き、ミザンスでセリフを変更することなくシーンが進められることになった。

 

福原さんは自分の書いた作品でありながらも、劇作家と演出家のモードの切り替えをしているように見える。

そんな疑問を直接ご本人にぶつけてみた。

 

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鍛治本「福原さんは劇作家として演出家として、それぞれの脳があるように思うのですが、稽古場ではどういうバランスで使い分けをしているんですか?


福原「昔は一緒だったんですが、今は完全に分離してて自分が書いたものとは思ってないですね。これってどういうシーンなんだろうなって思いながらやってます」

 

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鍛治本「劇作と演出、どっちが好きですか?」


福原「(小声で)あんまり稽古場は好きじゃないですねえ。でも、稽古場でしか面白くならないとも思ってますね」

 
確かに、稽古場での俳優の芝居が面白すぎる!
稽古を見学させてもらった身なのでお邪魔にならないようにと思っていたのに、見ている間中、ずっと声を出して笑ってました(すみません。。。)

 

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脚本が骨太だからこそ、俳優が自分たちの個性を安心してぶつけ合えるのだと思った。

面白い台本との格闘。
劇作家と演出家の格闘。
役者同士の演技での格闘。
女優陣と富岡さんの格闘。

 
稽古場で練りに練られたぶつかり合いが、本番の舞台でどう繰り広げられるのか、今から楽しみでならない。

 

  

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【公演情報】

ベッド&メイキングス『こそぎ落としの明け暮れ』

2019/3/15(金) ~ 2019/3/27(水)
東京芸術劇場 シアターイースト (東京都)

2019/4/6(土)
まつもと市民芸術館 小ホール (長野県)

2019/4/10(水)
四日市地域総合会館あさけプラザ (三重県)

2019/4/13(土) ~ 2019/4/14(日)
北九州芸術劇場 小劇場 (福岡県)

 

 

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