三谷幸喜が作・演出を手掛ける新作歌舞伎『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』の公開稽古が、5月下旬に行われました。
歌舞伎座「六月大歌舞伎」夜の部として上演される本作は、"三谷かぶき"と銘打ち、みなもと太郎の歴史漫画「風雲児たち」を原作とする新作歌舞伎です。
三谷が歌舞伎を手がけるのは2006年にパルコ劇場で上演された「PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場」以来、実に13年ぶり。
また、三谷作品が歌舞伎の殿堂である歌舞伎座で上演されるのは今回が初めてとなります。
見知らぬ異国の大地で、どんな困難に直面しても故郷日本へ帰ることを諦めず、闘い続けた男・大黒屋光太夫の物語。
光太夫を務める松本幸四郎をはじめ、市川猿之助、片岡愛之助、そして松本白鸚ら、豪華俳優陣が集結しました!
歌舞伎ファンならずとも、この舞台は是が非でも観たいと思わずにはいられない今夏の注目作です。
報道陣に公開された場面は、商船神昌丸が漂流して8か月が経った船上のシーン。
折れた帆の代替にこれはどうだと、畳表を持ってきたものの、皆が着物を縫い合わせて帆の代わりにしようとしていたことを知り、落ち込んでしまう光太夫。
握り飯ばかりの食事に飽きていた庄蔵(猿之助)が悪態をついていると、自前で用意した沢庵をかじる新蔵(愛之助)にくってかかり、船内では喧嘩が絶えない様子。
陸まではあとどのくらいなのか、、、途方に暮れる中、三五郎(白鸚)は「陸が近くなれば昆布がある」と皆に伝えます。
そんな中、具合の悪かった磯八(松之助)の体調が悪化し、今にも息絶えそうになると、突然、新蔵が「昆布をみつけた」と声をあげます。
本当は昆布など流れていないにもかかわらず仲間を思いやり、皆、口々に「昆布だ!昆布だ!」と叫びます。
磯八はその声に安心するように息を引き取ります。
光太夫は、正月には皆で伊勢へ参ろうと、固く心に誓います。
公開稽古終了後に、三谷幸喜、幸四郎、猿之助、愛之助、白鸚は囲み取材に応じました。
――13年ぶりに歌舞伎を手掛ける思いは?
三谷「前回の歌舞伎『決闘!高田馬場』は、パルコ劇場でやったので、より歌舞伎っぽく作らないと歌舞伎に見えないんじゃないかという不安がどこかにあったんですけれども、今回は歌舞伎座で、しかもこれだけの歌舞伎俳優のみなさまと一緒に作るわけですから、何をやっても歌舞伎になると思います。そう言う意味では前回とは逆に、自由な発想で作らせていただきました」
――久しぶりに歌舞伎をやることになったきっかけは?
三谷「前回も今回も幸四郎さんからお話をいただきました。このメンバーでやりたいと言われたら、断る理由はありませんから、"ぜひやりましょう"と」
――出演者のみなさまへ。三谷作品の歌舞伎に出演されるお気持ちをお聞かせください。
幸四郎「13年前の『高田馬場』は芝居自体が突っ走っていく内容で、あの時は一座全体で走り抜けたような記憶があります。また三谷さんと歌舞伎で再会することが出来て本当に幸せです」
猿之助「歌舞伎座でやる"怖さ"もありますけど、そこは三谷さんが責任をとってくれると思いますので(笑)。我々は三谷さんを信じています。どう評価されるかは初日が開いてみないとわかりませんから。全員で力を尽くして参りたいと思います」
↑この発言を受けて「こ、怖さがあるんですか? なぜ今言うんですか?」と反応する三谷。
愛之助「『高田馬場』を客席で観て、こういう歌舞伎に出演できたらいいなと思っていたので、今回実現出来てうれしいです」
白鸚「『高田馬場』は素晴らしかったです。(そんな三谷作品に)出演できてわくわくしています」
――宣伝ビジュアルの衣装が印象的です。(猿之助に)ドレスを着てみていかがでしたか?
猿之助「ドレスですか?普段、夜着てますから(笑)」とジョークを飛ばすと、他の俳優たちから「可笑しいでしょ、それ!」とツッコみが入る一幕も。
「蜷川さんの舞台でドレスを着た経験があります。今回はエカテリーナ女帝ということで、時代考証もちゃんとしていますし、ロココ調の衣装や舞台美術もみどころです」
――(三谷への質問として)稽古での俳優のみなさんはいかがでしょうか?
三谷「みなさん役を掴むのが早い!(猿之助に対し)早く帰りたいとか言ってる人もいますけど、いざ舞台の上に立ったら、みなさんとてつもない力を発揮されるので、僕は稽古を見てるだけです。ただ、歌舞伎俳優の皆さんは演出家でもあるわけですから、たまに僕を通さず、勝手に音楽の方と打ち合わせをされていることがあるので、そこだけちょっとね、注意しました(笑)。一応、僕を通して欲しいなと」
――この漫画を選ばれたのは三谷さんでしょうか?
三谷「『風雲児たち』は僕が大学生の頃から連載されている漫画で、大黒屋光太夫のエピソードを初めて読んだ時に、"これは舞台、歌舞伎で見たいな"とその瞬間思いました。やっと夢が叶ったという感じです」
――歌舞伎座でやるプレッシャーはありますか?
三谷「特になかったんですよ。普通の劇場より広いのでそこは大変だなと思っていたんですが、いまさっきこの方(と猿之助を指して)が"怖い"と仰ったので、ちょっと不安になりました(笑)」
――元号変わっての新作です。何か特別な思いはありますか?
三谷「僕が携わることで、初めて歌舞伎をご覧になる方に歌舞伎の面白さや凄さを知っていただきたいと思いますね。一方で、ずっと歌舞伎をご覧になってきた方々にも、"こういう歌舞伎もあるんだ。なかなか面白いな"と言っていただけないとやる意味がないと思うので、そこは意識して作っています」
――歌舞伎は13年ぶりになりますが、変化などはありますか?
三谷「みなさんあまりお変わりなく、さらにパワーアップされてましたね。あと、『高田馬場』をやっていたとき1歳くらいだった染五郎さんが今回出演されるんですが、素晴らしい青年におなりになって。彼が出ているだけで、(チケット代の)元が取れるみたいな。肌がつやつやしていてずっと見ていたいんですよ。いい子ですよ、とても」
あまりにも染五郎を持ち上げる三谷に対して幸四郎が「主役は僕ですけどね」と一歩前へ出てアピールする場面も。
――歌舞伎座ならではの演出があればさわりでもよいので教えてください。
三谷「この作品は言わば"ロードムービー"でどんどん場所が変わっていくんですよ。シベリアの雪原を猛吹雪の中犬ぞりで走るという、歌舞伎座始まって以来のスペクタクルシーンもあります」
「三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」は「六月大歌舞伎」夜の部で上演される。昼の部は「寿式三番叟」「女車引」「梶原平三誉石切」「恋飛脚大和往来 封印切」を上演。
公演は、6月1日(土)から25日(火)まで東京・歌舞伎座にて。