今年1月にドイツで始まったイギリスの劇団、インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドンによる世界ツアー。シェイクスピア原作の喜劇「ヴェニスの商人」が、ヨーロッパ各国での公演を経て、5月に東京と仙台にて日本公演を行います。
2013年に英国文学作品の普及活動の功績に対して、英国王室より勲章を授与されたポール・ステッビングス監督による作品解説をお届けします。

マイナーなキャラクターを取り除き、ユダヤ人の歴史を反映するエンディングを提言
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」という作品では、シャイロックのヴェネチア子孫の宿命を無視することは出来ないでしょう。この舞台は我々を魅了し、悩まします。そして西洋文学において、最初に完成された満足のゆくユダヤ人像を表しています。しかしこの作品は、人道的な登場人物の反ユダヤ主義だらけなのです。現代における作品はこのことに対処していかなければなりません。実際、、過去に演じられてきた「ヴェニスの商人」の多くは、シャイロックの不適切な部分を削除し、商人の資本主義を非難することで対処しています。
では、ITCLは、この複雑でスリリングな作品をどう論じるのでしょうか?まず始めに、この作品は喜劇であるという事実に対処せねばなりません。我々の作品では、シェイクスピアが喜劇と見せ場の間で、意図している「バランス」を保つようにしてきました。そしてマイナーなキャラクターを取り除き、ヨーロッパ全体とヴェニスでのユダヤ人の歴史を反映するエンディングを勝手ながら提言しました。
シャイロック:
私の命でも何でも取り上げてくれ。許してくれとは言わない。
家を支える柱を取るのは、家を取り上げるのと同じ。
生きるための資産を取られるのは、命を取られるのと同じ。
この台詞は、彼の家や財産、生活、娘など、まさに彼のアイデンティティを奪われたら、シャイロックは生きていけないという風に私には見えます。スペイン異端審問所やナチスによる容赦ない尋問により、改宗したユダヤ人でさえも、かつてユダヤ人だったということでしばしば殺害された時代です。私達は、シャイロックの最後の台詞によって提案されたエンディングを選んだのです。