ミュージカルの歴史に名を残す、アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲した『サンセット大通り』は、1993年にロンドンで初演。その後ブロードウェイで開幕し、1995年にはトニー賞7部門を受賞した。日本では鈴木裕美の演出で2012年に上演され大きな話題を呼んだ。今回再演が決定し、「あのロイド=ウェバーさんの作品に初めて出演できるなんて、本当に光栄で嬉しいです。しかも演出は、よく舞台を拝見していて面白い作品を作られるなぁと尊敬していた鈴木裕美さん。早く鈴木さんと作品について語り合いたいです」と、舞台稽古に入るのが待ちきれないようだ。
ビリー・ワイルダー監督の傑作同名映画をベースに、ハリウッドでかつては名を馳せていた大女優ノーマが、過去の栄光を忘れることができず、仕事や男性に執着し、暴走していく姿をサスペンスやホラー仕立てで描く。「日本版の初演の映像を見たら、劇場の温度が5℃下がっていくような怖さでした(笑)。客席にスモークや霧が漏れていくような感覚ですね」。楽曲を聞くだけで、その独特の世界観が今でも甦るという。「一曲の中で調や拍子がドンドンと変化していくのがロイド=ウェバーさんの楽曲の難しさ。リズムを取るのも大変ですし、セリフの掛け合いが多い。曲を聞かせるだけではなく、会話としても成立させなければいけないんです」
ノーマは若い脚本家のジョーと恋に落ちる。水田が演じるのは、ジョーの親友で映画助監督のアーティだ。「アーティは明るくてハッピーな人ですが、彼の婚約者ベティもジョーに恋心を持つんです。アーティが魅力的であればあるほど、観客にアーティを選んだほうがいいのにと思ってもらえる。アーティの魅力との対比で、舞台の重くて妖しい世界がより際立つようにしたいですね」。ジョーはダブルキャストで平方元基と柿澤勇人が務める。「元基くんもカッキ―(柿澤)も気心しれた仲で、会ってもくだらない話しかしない(笑)。でも、ふたりとも今やミュージカル界を引っ張る存在なのですごいです。僕も相手によって芝居を変えるのではなく、そのときのリアルな感情を表現できれば」と意気込む。
小学生から習うダンスも舞台に映える水田。ミュージカル界を担う若手のひとりになるであろう、彼に注目したい。
公演は7月4日(土)から20日(月・祝)まで東京・赤坂ACTシアター、7月25日(土)・26日(日)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール、7月31日(金)から8月2日(日)まで大阪・シアターBRAVA!にて上演。チケットは発売中。
取材・文 米満ゆうこ
撮影:奥村達也
2015年9月に初来日公演を行うブロードウェイミュージカル「ピピン」のスペシャルサポーターに女優・米倉涼子が就任した。
Masahiro Noguchi
《スペシャルサポーター 米倉涼子 コメント》
すごく楽しかったです。素晴らしい音楽に加えて、ダンスや、歌唱力、衣裳、ライティング、
サーカス要素など、見どころが沢山あって、とにかく満足!です。
役のピピンの心情が、英語がわからなくても、紙芝居のように、彼が今どんな気持ちでいるのかが良く分かります。もしも私が舞台に立っていたら、えらいこっちゃ、と思って見てました(笑)
演の方もサーカスをやっているし、歌も、フォッシー・スタイルのダンスも多いし、お話をリードしていかなければならないので、とても大変だなと...。
とにかくピピン、凄かったです!
2012年にブロードウェイ公演の「シカゴ」に主演した米倉涼子は、この「ピピン」の大ファンで、2013年のリバイバル版初演時にもニューヨークで観劇している。「シカゴ」とピピン」の共通点は、2作品ともブロードウェイの鬼才ボブ・フォッシーによる名作のリバイバル(再演)であるということ。
ボブ・フォッシーは、自身のキャリアはダンサーから始まり、振付、舞台演出、そして映画「キャバレー」や「オール・ザット・ジャズ」を生んだ映画監督となり、1987年に60歳で他界した。1973年には「ピピン」(初演時)でトニー賞、「キャバレー」でアカデミー賞、「ライザ・ウィズ・ア・Z」でエミー賞の三冠に輝き、舞台芸術と映像の分野で、米エンターテイメント界の伝説となった。
彼の独特な振付「フォッシー・スタイル」は、ブロードウェイやダンス界でもひとつのジャンルとして確立され、世界中の多くの人々を魅了している。米倉もフォッシーの魅力にとりつかれた1人であり、この度の「ピピン」スペシャルサポーターに就任する最大の要因となった。
2003年に初舞台を踏んで以来、多くのミュージカルに出演し、その存在をミュージカル界に刻んできた知念里奈。世界43か国で上演されている人気ミュージカル『レ・ミゼラブル』(以下、『レ・ミゼ』)では、コゼットを振り出しに、エポニーヌ、そして現在はファンテーヌ役で出演している。作品に対する思いを聞いた。
2005年にコゼットとして初めて『レ・ミゼ』に出演し、物語を体験してきた。「もともとの舞台は罪を犯したジャン・バルジャンが司教に救われ、新たな人生を歩む、宗教的な要素が強い話でしたが、日本に舞台で持ってきたときに、宗教になじみのない日本の観客のために、セリフや演出で宗教的なニュアンスが分かりやすくなるように工夫され、変わっていきましたね。特に最近は同名映画の影響もあり、登場人物が天国に行くシーンがより理解しやすくなりました」と話す。
日本でも上演回数約3000回を誇る『レ・ミゼ』の歴史の中で、3人のキャストを演じてきた女優は珍しいだろう。「哀れな孤児だったコゼットはジャン・バルジャンに救われ、愛する人と結婚して幸せになる。一見、コゼットとは対極の生き方をする、エポニーヌも希望をマリウスに預ける。今、演じているファンテーヌもコゼットに望みを託し、彼女のためだけを思って死んでいく、ある意味で幸せな人」。それぞれの役を通すと、コゼットという希望で繋がり、違う視点で物語が見えるという。「お客さまもそうだと思うんです。少女のときはコゼット、失恋したらエポニーヌ、子どもを持ったらファンテーヌと状況に合わせて共感する役が違う。それが舞台が長い間愛される秘訣なんですね」。自身も9歳の男の子を育てる母親だ。「ファンテーヌを演じるのは今回で3回目ですが、愛する者のために懸命に運命に立ち向かう姿には共感できますし、その強さを尊敬しています」。
ファンテーヌが歌う、名曲『夢やぶれて』は見せ場のひとつ。「今や誰もが知っている曲なので大事な役目だと実感しています。夢はかえらないという歌詞を、夢を諦めないという気持ちを込めて大切に寂しくなりすぎないように歌いたい」。息子も舞台を見に来たそうだが、「娼婦のシーンは目をつぶっていたと(笑)。それに、家で息子に子守唄で『レ・ミゼ』の曲を歌ったら、暗すぎると却下されました(笑)」と幸せそうに明かしてくれた。
今後も末長く『レ・ミゼ』の舞台に出演したいという。「次は悪役のマダム・テナルディエしかないねといわれます(笑)。年を重ねて、彼女が演じられるぐらいの容量のある人間になりたい」。今しばらくは、知念の器そのもののファンテーヌを堪能したい。
公演は6月1日(月)まで東京・帝国劇場にて上演中。その後、名古屋、福岡、大阪、富山、静岡でも上演される。チケットは発売中。
取材・文:米満ゆうこ
写真:木村正史
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