ミュージカル『グランドホテル』#17 ガイゲルン男爵役・伊礼彼方インタビュー

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■ミュージカル『グランドホテル』vol.17■

ついに開幕しました、ミュージカル『グランドホテル』
これまでもインタビューや稽古場&開幕レポートなど、様々な角度から本作を追っている当連載ですが、開幕してもまだ連載は終わりではありません!

本日は、REDチームのガイゲルン男爵役・伊礼彼方さんインタビューをお届けします。
すでに開幕していますので、具体的な内容にまで踏み込んで、お話を伺って来ました。

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◆ 伊礼彼方 INTERVIEW ◆

――公演後に、ありがとうございます。お疲れさまでした。『グランドホテル』、観ていても体力を吸い取られていく気がします(笑)。すごい舞台ですよね。やっている側はさぞかし...、と思うのですが。

「大変ですねぇ! 命削って、魂削って、やっている感じ。いや、どの芝居でも、魂を削る仕事だと思うのですが、今回は、よりそう思います。でも、楽しいんですよ。今回この『グランドホテル』の稽古初日に集まったREDチームの顔ぶれを見た時に、やっぱりこの仕事受けてよかった、素敵なメンバーだなと思ったんです」


――どのあたりが、素敵だと感じたポイントなんでしょう?

「こういう大型ミュージカルで、なかなかお互いの目を見て芝居をできる人って、少ないんですよ。日本のミュージカルって、様式美みたいなところ、まだあるじゃないですか。でもREDチームって、そういうのを嫌う人たちで、ちゃんと向き合いたい、ちゃんと芝居をしたいって思いを強く持ってる人たちが集まってる。別にGREENがそうじゃないという意味ではないですよ。ただ、そこを大切にしている人たちが集まったなと僕は思って、好きだなぁこのメンバー! ...と」


――今回その、REDとGREENにチームを分け、演出も、結末も変える...というのが上演前から話題になっていました。実際やっていて、どうでしょう?

「いや、ここまで変わるとは思ってませんでしたね! 最初の段階から2チームに分けてやる、とは聞いていたのですが、演出は基本的に一緒なものだと思ってたんですよ。そうしたら、方向性があまりにも...180度違うので、びっくりしました。といっても僕、GREENチーム、まだ観ていないんですけど。観るつもりもないんですけど(笑)! ...でもシーンごとにちょこちょこは見ていて、そのちょこちょこ観た感じで言うと、GREENは僕の好みじゃないです(笑)。成河くん曰く、それはちゃんと通しで観ないからだ、全部観ると(良さが)わかるよと。...なるほど、じゃあ僕はまだ見ないでおこう、と思ってます!」


――初日前の会見でも、伊礼さんはGREENチームへの闘争心むき出しの発言をされてましたよね(笑)。でも裏を返せばそれだけ"REDチーム愛"があるんだろうな、と。

「もちろんですよ! 本当に、芝居をするのがものすごく楽しい。毎日違うし。成河くんもね、俺がちょっと緊張してたら、「大丈夫だよ、目を見て芝居すれば」って言ってくれて。かっこいいでしょ。草刈(民代)さんは草刈さんで、「緊張しませんか?大丈夫ですか?」って訊いたら「ぜんぜん平気」って、これまたかっこいいの(笑)! でも、僕思うんですが、REDってものすごい臆病者が集まってるチームなんですよ。演出のトム(・サザーランド)は、もちろん演出をつけるのですが、演技指導はしないんです。芝居に関しては、基本的に俳優に任せてくれる。その中で僕らは「あれはどうなんですか」「これはどうなんですか」と、みんな自己主張が強くて、ちょっと面倒くさい(笑)。でもそれは、良いものを作りたいという表れなんです。臆病だからこそ、より稽古したい、ディスカッションしてちゃんと腹の底に落とさないと人前に立てない、という責任感。そんな臆病者が集まって作り出している世界なんです、REDは」
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――結構、皆さんで話し合って作っていた...とは聞いていたのですが、ではそれは稽古場でディスカッションするだけでなく、自主的に?

「それも結構ありますね。稽古の時間がなかったというのもありますし。GREENとREDで別々に稽古するってことは、普通の公演の半分しか稽古時間が取れないってことだから。草刈さんとは、稽古終わったあとも2時間くらい話したりとか、けっこうやっていました。時間がないんですよ! 『グランドパレード』の歌詞じゃありませんが、REDチームは本当に「時間がないから!」って制作に訴え続けていました。GREENチームはおとなしいから何も言わないけど(笑)。あっちは優等生なの(一同笑)。まあ、REDはみんなうるさいよね、(吉原)光夫さんはじめ。草刈さんも自分で納得できるまで食らいついていく方ですし、もちろん成河くんも俺もガンガン言うし。土居(裕子)さんはあまりうるさくは言わない方なんですが、ある日、丁寧な言葉と目で「これはこういうことなんですよね!?」って訴えてきた(笑)。それを見た時、やっぱりこの人もREDの人だー!って思いましたよ(笑)」


――REDチームのカラーを言葉で表すと?

「チームのみんなの年齢が近いということもあるんですが、血気盛んですよね。トゲトゲしいの。会見でも言った言葉ですが、GREENがネズミなら、REDはハリネズミ。でも実は臆病だから、怖いからハリを出してる、みたいな」


――なるほど! ハリネズミの真意はそこにあったんですね。

「そうなんです。今回僕、すごく闘争心があるんですよ。GREENに負けてたまるかと。もちろん勝ち負けじゃないですけど...いや、やっぱり勝ち負けでしょう! ふたつのチームに分けて、演出も違う。お互いの稽古も見せない。そしたらまぁ、戦うわな! 「じゃあお前らが出来ないことをやってやろうじゃないか」とね。もちろん、逆に向こうが出来ることで、こっちができないこともあるんですよ。お互いの良さを尊重しつつも、ね。あのね、ちょっと語ってもいいですか?」


――お願いします。

「ミュージカルのお客さんって、この人の歌がききたい!って目的で来たりするけど、ちゃんと芝居を観て欲しいんです。僕も実際、「あの作品の時とお芝居が変わりましたね」「歌が上手になりましたね」って言われることがあるんだけど、役にあわせてそういうお芝居を、歌い方をしているわけで。『星の王子さま』の飛行士が、男爵みたいな腹の底から声を出す歌い方をしてたら、おかしいでしょ!? もちろん、毎回毎回、同じ顔を見せているスターも大事だし、必ずいなきゃいけない存在です。それに、常に自分自身でいなきゃいけないスターさんはすごく大変だと思う。でも、その横にいる"役者"を見て欲しいって思うの。毎回、違う表情しているから。特にミュージカルの世界だと、お客さんはそういう"いつも同じもの"を求めがちだと思うんだけど、そういう意識も変わって欲しいなと思う。だからそういう意味で、僕は誇りを持ってこのREDチームをおススメしますし、こういう役者がもっとミュージカルで活躍していけるといいなと思う。話し合えば合うほど、深まっていく人たちだから」
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――なるほど。やっぱり"RED愛"を感じます。...せっかく開幕後の取材ですので、作品の中身の具体的なところもお伺いさせてください。私、伊礼さんの男爵で一番印象的なのは、終盤、赤い薔薇を抱えて出てくるシーンなんです。すごく、すっきりした表情をされてますよね。
※このあたりから、物語の具体的な内容に触れています※

「あそこは彼の"夢"なんです。彼と彼女の、叶わなかった夢。望んでいた答えを、あそこで見せたい。駅でエリザヴェータを待っている彼の...男爵というしがらみを断ち切って、ひとりの男になった男爵のイメージです。それまでの彼は、いつも前に進めないままだった。だって男爵って、ホテルから全然出られないんですよ」


――あの幸せそうな表情が、余計切なくなりますよね。

「ふふふ。完全にこっちの策に嵌ってますね(笑)! お客さんから見たら死んだ後に出てくるけど、俺の中では死んでいない状態なんです。撃たれてなかったらこうだったであろう男爵をイメージして、あそこに立ってるから」
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――勝手な想像ですが、伊礼さんの男爵は、ずっとホテルに居つきそうな、ずっとグルシンスカヤを待ち続けていそうな気がしました。

「いや、(物語が終わった)先のことはわからないけど(笑)。ただ単純にあのシーンは、"本当に待ち続けている男爵"という状態でいないと成立しないかなと思ってます」


――そしてすごく美しい、薔薇の花びらがいっぱい舞うシーン。グルシンスカヤだけ白い花びらを放るのも印象的ですね。

「あぁ、彼女だけ白い花びらですね。何でしょうね。赤い花びらは、血の象徴なんです。白は彼女の思いが、何かあるんでしょうね。それが涙なの愛なのか、平和への祈りなのかわかりませんが...でも確かに象徴的ですよね」


――血の象徴に対する何か、ですか。言われてみれば、REDチームのラストシーンで、旅立つ皆さんにホテルスタッフが投げかける花びらも白い。

「そうそう、共通する意味合いなんじゃないかな」


――あと、オットーと友情を育んでいく...のですが、男爵はどこまで友情を感じているんだろう、というのもちょっと気になります。利用しようという気持ちもなきにしもあらず?

「あぁ、僕が作っている男爵は、利用してやろうという気持ちはまったくないです。トムは「金目当てでオットーに近づいてもいいし、何してもいい、それは俳優本人が決めていい」って言ってたんですが、僕にはどうしても、男爵が金目当てでオットーをホテルに泊まらせたりしたとは思えない。だって、あんなボロい服を着てる彼が金を持ってるなんて思わないし、持ってたとしてもたかが知れてます。気持ちが変わるのは後半ですね。グルシンスカヤと出会ってから。利用してやろう...というか、魔がさすんです」


――それは、愛する者を見つけて、抱えていた借金や悪い関係を清算したいと?

「そう。グルシンスカヤと出会い、本当の愛というものを初めて知って、そっちに傾く。だから、オットーが株で儲かった時は複雑。でもまだそこでも揺らいでいます。オットーが財布を落として、ウェイターがそれを男爵に渡しますよね。その瞬間ですね、魔がさしちゃった。酒に酔ってもいますし。それは男爵にとっても、思わぬ感情です。でも、オットーの必死な訴えをきいていると、やっぱり盗めないんです。だからあそこで、男爵はそれまでに出したことのない声を出す。彼っていつもスマートじゃないですか。なのに、あそこの男爵はすごくうろたえている。僕が客だったら、男爵の聞いたことのない声が聞きたいと思って、そういう芝居をしています」
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――では次に観る時は、そこに注目ですね! あとは湖月わたるさん扮する"DEATH"と踊るボレロのシーン。あそこは、REDとGREENで全く違って見応えあります! 伊礼さんすごい表情で踊っていらっしゃいますよね。

「死から逃げてますから!」


――死は恐怖ですか?

「恐怖と、死にたくないという強い思い。男爵は、生きたいという意味を初めて見つけたわけなので。グルシンスカヤと出会うまでは、危険の中で生きることでのスリルを味わっていたけど、スリル以上のものを得てしまって、男爵は生きる希望を見出したんですよね」


――GREENの宮原さんからは、あそこはちょと陶酔感を感じるんです。

「あのシーンも、GREENとREDで方向性が違うんですよね。宮原君は自ら死に向かっていく。自ら死を抱きにいって死を求める人間と、死を拒む人間と...」


――本当に、REDとGREENで細かく違いますよね。でも全体で見ると、私はまったく違うというより、表と裏、な感じがしました。全く違うようで、言いたいことは同じ。表裏一体。

「そう、言いたいことは同じなんだと僕も思います」


――男爵が撃たれるシーンなんか、視覚的にあきらかに表と裏ですよね?皆さんが一列になって座っているところ。

「あぁ、そうですね! あそこのREDチームは完全に、皆が壁になって塞いでいる。トムは当初「(観客に)見せたくないくらい」って言ってた。...そうすると俺らは「いやいや、2階から見えるし!だったらもっと塞がなきゃだめでしょ!」とか、面倒くさいことをまた言うんですよ(笑)。でもそれが楽しかったんですけどね」


――(笑)。そういうことを皆さんが言っていると、トムさんはどんな反応されてました?

「まあ、困ってましたよね(笑)。でも彼には彼のビジョンがあるから、絶対に曲げないところは曲げないの。トムも、振付のリーも、役者から出たものを使って料理していくという感じ。全部決めるのは嫌いで、やっぱり何もないものには演出しようがないんでしょうね。動線さえブレなければ、何をやってもOKだから、毎日違うことをやって、自然と「こっちの方がいいね」と今の方向性に固まっていったんです」


――話を伺っていると、本当に素敵な創作過程を経ていらっしゃいます。ほかに、特に好きなシーンなどあれば教えてください。

「僕はエリック(藤岡正明)のシーンで毎回泣きます! エリックはGREENの方がやっぱりいいね。あの瞬間は、エリックが主役になっている。最初からトムはエリックを主役に考えていたんじゃないかと思うくらい。GREENのあの演出はすごく泣ける。さっきの"男爵の聞いたことのない声"と同じで、僕、子どもが生まれて、その子の声を聞いた瞬間、エリックの聞いたことのない声を聞きたいって藤岡に言ったの。男にとっての子どもって、何なんでしょうね、やっぱり何か繋がっていくもの...なんだと思う。その時にやっぱり、それまでとは声が変わっていてほしい。そこらへん、やっぱり藤岡は素晴らしいです。歌も上手だし、表現力が豊かだから、泣けるんだよね」


――確かに、藤岡さん、エリックとしてそこにいてくれてありがとう!って思いました。...ほかには?

「あとはこれは、成河くんが大好きなシーンとしてよく上げているので、僕も実は好きなんですが好きと言えなくなっちゃったんですが...(苦笑)。オットーと男爵が、チェッカーテープをぐるぐる巻きにして、株の話をしているシーン。あれ、前のシーンとの対比なんですよ。株が暴落しているプライジング社長たちは、人間関係がまったくかみ合っていなくて、コミュニケーションがとれていない。僕らふたりは対照的に、交わっていく。なかなか言葉にはできないんですが、すごく居心地がいいんです」
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――絵面としても、とても微笑ましいです。GREENはチェッカーテープ巻いてないんですよね。本当に色々な箇所が違っていますね。

「そうなんだー。もうひとつREDの人たちは英語と日本語のニュアンスにも色々こだわってましたね。英語の台本では、男爵はオットーを「Old socks」って呼ぶんですよ。Old socks...古い靴下って、英語では親しみ溢れる表現なんですって。靴下って必ず身に着けているものでしょ。オットーは男爵にとってそういう存在なんだ、という意味らしいです。トムと成河君と話した結果、これはやはり大事なポイントなので、それを入れ込んでます。もともとの台本ではなかったんですが、僕がいくつか「おお、友よ」って言ってるところは、全部、英語の台本で「Old socks」って書かれてるところなんですよ。なぜか男爵はオットーを最初からそういう風に見ている。それを少しでも表現したくて、僕は「友よ」ってつけ加えているんですが、それまでは男爵が一方的に呼んでいたところ、そのチェッカーテープのシーンで、オットーが初めて「友よ」って返してくれるんです。そしてオットーはヘブライ語で「メッシュガナ(ぶったまげた)」って言って、それを継いで男爵も「メッシュガナ」と返す。そういう言葉遊びも綿密に練られた脚本なんですが、日本語にするとなかなか難しい。でもどうにか表現できないかと、俺ら、戦いました! だから実は、GREENとはセリフがだいぶ違うんですよ。語尾が違ったり、セリフそのものが違ったりするんです。そういうところも、ちょっと気にして観てもらえると面白いんじゃないかな」


◆ おまけ:伊礼彼方の劇場案内 ◆


現在『グランドホテル』を絶賛上演中の赤坂ACTシアターのロビーで行ったインタビュー。
サービス精神旺盛な伊礼さん、劇場案内もしてくれました!

プログラムは1500円で発売中!
パラパラと眺め...。
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愛しのエリザヴェータを見つけ、満面の笑み!
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ライバル? GREENチームの男爵、宮原浩暢さんのいるLE VELVETSのCDを手に。そんな嫌そうな顔しないでください~。
(でも実は、伊礼さん自ら率先して手にとってくれたんですよー)
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LE VELVETSのCDの隣にはご自身のグッズもあったのですが...。
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おススメ!オットーが泊まった418号室のルームキーを模したキーホルダー。
友よ、運が良い!418号室が空いていたよ。このホテルで最高の部屋だ。グランドホテルへようこそ!」(by男爵)
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劇場にきたら、バーカウンターにも寄ってね!
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取材・文・撮影(舞台写真除く):平野祥恵(ぴあ)



【バックナンバー】



【公演情報】
・4月9日(土)~24日(日) 赤坂ACTシアター(東京)
・4月27日(水)・28日(木) 愛知県芸術劇場 大ホール
・5月5日(木・祝)~8日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)

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▽シャッターが切られる瞬間にウィンクする!と宣言し、タイミングを合わせてウィンクする伊礼さん...。正直、撮りにくかったです(笑)

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