ミュージカル『グランドホテル』#16 開幕レポート――ふたつの『グランドホテル』から浮き彫りになるもの

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■ミュージカル『グランドホテル』vol.16■

ふたつの『グランドホテル』から浮き彫りになるもの

ミュージカル『グランドホテル』が4月9日、東京・赤坂ACTシアターで開幕した。演出は英国出身のトム・サザーランド。カンパニーを中川晃教・安寿ミラ・宮原浩暢らが出演する〈GREEN〉と、成河・草刈民代・伊礼彼方らが出演する〈RED〉のふたつに分け、演出を変えて上演されることが話題となっていた作品だ。中でも結末は〈GREEN=悲劇的エンディング〉〈RED=ハッピーエンディング〉とまったく異なるものになる......というところまで、事前に明らかにされていた。さっそく、両バージョンを観劇した。

▽〈GREEN〉
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▽〈RED〉
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物語は1928年ベルリン、ナチス台頭が近づく不穏な社会情勢の中、豪華なグランドホテルに行きかう人々のドラマを描く群像劇。ことさら飾り立てられてはいないが品のある舞台セットは、まさに高級ホテルの趣き。その美しいセットが回転し情景を変える中、ホテルを訪れる客たちの事情が点景のように綴られていく。重い病を患ったユダヤ人の会計士、借金だらけの男爵、引退興行中のバレリーナ......。それぞれの歌声が重なると同時に、彼らの人生が重なり、そして物語が一気に回りだすプロローグ「グランド・パレード」から、一気に心を掴まれる。

それまで接点のなかった人々の人生が、グランドホテルという場所で奇跡のように交錯する。そこで愛が生まれ、友情が生まれ、殺人事件が生まれる。その過程も、両バージョンで少しずつ異なる。それは目に見えて違うものから些細なものまで様々だ。だが、その些細な選択から、物語がボタンの掛け違いのようにずれていき、最後の運命を大きく変えていくよう。結末の演出はまさに180度違う。新しい世界への旅立ちを予感させる〈RED〉、このあと戦争へ走っていく当時のベルリンの重苦しさを描き出す〈GREEN〉。......だが、思うのだ。まったく違うようでいて、ふたつの物語は、実は同じものを描き出しているのではないか、と。希望を絶たれたような〈GREEN〉の中では、新しく生まれる命――それは希望である――が、ひときわ強く輝く。一方、希望を胸に幕切れを迎える〈RED〉の登場人物もまた1928年のドイツに生きているのは間違いなく、彼らのその後に苦難が待ち受けていることは想像に難くない。どちらも、どんな状況であろうと、貪欲に生きることのエネルギーが描かれている。ふたつの『グランドホテル』は表裏一体なのだ。実際クライマックス、ある人物に死が訪れるシーンの演出は、まさに表と裏といった見え方のする演出がなされていて、興味深かった。

とはいえ、同じ脚本と音楽で異なるドラマを生み出していく意欲作、その意図するところをきちんと見せきるには、役者には演じる力量、さらにはクレバーさが要求されるであろう。今回のキャストは全員が、その役目をきちんと担っていて、非常に見応えのある舞台を作り上げている。どちらを観ても満足のいく作品だが、できれば両バージョンを観て、そこから何かを感じ取って欲しい。

公演は4月24日(日)まで同劇場にて。その後、愛知、大阪公演あり。


取材・文・撮影:平野祥恵



▽〈GREEN〉オットー・クリンゲライン役、中川晃教
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▽〈RED〉オットー・クリンゲライン役、成河
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▽〈GREEN〉フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵役、宮原浩暢
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▽〈RED〉フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵役、伊礼彼方
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▽〈GREEN〉エリザヴェータ・グルシンスカヤ役、安寿ミラ
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▽〈RED〉エリザヴェータ・グルシンスカヤ役、草刈民代
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▽〈GREEN〉ヘルマン・プライジング役、戸井勝海
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▽〈RED〉ヘルマン・プライジング役、吉原光夫
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▽〈GREEN〉フレムシェン役、昆夏美
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▽〈RED〉フレムシェン役、真野恵里菜
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▽〈GREEN〉ラファエラ役、樹里咲穂
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▽〈RED〉ラファエラ役、土居裕子
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▽〈GREEN〉オッテンシュラッグ医師役、光枝明彦
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▽〈RED〉オッテンシュラッグ医師役、佐山陽規
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▽スペシャルダンサー(死)役、湖月わたる
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▽エリック役、藤岡正明
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▽ジミーズ役、味方良介、木内健人
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▽ズィノヴィッツ役、大山真志
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▽サンドー役、金すんら
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▽(写真左)ローナ役、友石竜也
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▽運転手役、青山航士
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▽ヴィット役、杉尾真
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▽以下、〈GREENチーム〉ゲネプロより
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【公演情報】
・4月9日(土)~24日(日) 赤坂ACTシアター(東京)
・4月27日(水)・28日(木) 愛知県芸術劇場 大ホール
・5月5日(木・祝)~8日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)

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