劇団四季の海外新作ミュージカルとして発表されている『ノートルダムの鐘』。
現在、この出演候補者オーディションが行われているが、4月18日、メインキャストであるカジモド役、エスメラルダ役のオーディション本選が行われた。そのレポートをお届けする。
オーディションは劇団内に限らないオープンオーディションで、約1600通書類審査の中からさらに予備審査を通過した85名が本選に残っている。
ミュージカル『ノートルダムの鐘』は世界的文豪ヴィクトル・ユーゴーの代表作『Notre-Dame de Paris(ノートルダム・ド・パリ)』を原作に、2014年に米国で開幕した作品。1996年のディズニー劇場版長編アニメーションをもとに、『美女と野獣』『アラジン』等を手がけたアラン・メンケンが音楽を、『ウィキッド』等を手がけたスティーヴン・シュワルツが作詞を担当している。15世紀のパリを舞台に、ノートルダム大聖堂の鐘楼に住む男カジモド、その彼を密かに世話する大聖堂聖職者フロロー、同警備隊長フィーバス、そして3人が愛するジプシーの娘エスメラルダを中心に、人間が抱える暗部と、その中に輝く愛の美しさを描き出す。今回上演されるディズニー製作版は、大掛かりで機械的な舞台機構に頼らず、世界観を簡潔にまとめた装置の中で、クワイヤ(聖歌隊)を舞台上に終始存在させるなど、きわめて演劇的な演出が見どころだ。
この日、報道陣に公開されたのは、まずエスメラルダ役のオーディション。
現在『ウェストサイド物語』アニタ役を好演している岡村美南、『リトルマーメイド』の愛らしいアリエルなどを持ち役としている三平果歩、『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役などを経て劇団四季に入団した平田愛咲をはじめ、松山育恵、宮田愛、吉田絢香の6名が受験。
まず最初に、演出のスコット・シュワルツからは、「エスメラルダは、今までの人生、自分の面倒を自分でみてきた。つまりハードに生きてきた女性。積極的だし、彼女の行動はこの時代において、女性的というより男性的。自分のことを守るためにはそうせざるを得なかった」...というような説明がされる。
その言葉を受けてはじまった審査の内容は、崇高な祈りが響く劇中を代表するナンバー『God Help the Outcasts』と、華やかな『Rhythm of the Tambourine』の2曲を歌ったのち、セリフ(演技)審査...という流れ。歌唱審査では、特に『Rhythm of the Tambourine』の方に、各々が考えたエスメラルダの個性が出ていたように思える。身振りをつけて歌うもの、コケティッシュな表情を見せるもの、スカートを翻すもの...。みな魅力的なエスメラルダ像を演じている。ちなみに、セリフ審査の相手役は、道口瑞之と田邊真也という、四季を代表する演技巧者な俳優。豪華である。
のちほど合同取材の場で「エスメラルダの条件としては、ピュアな精神と、ずっと疎外され路上で生活してきた者ならではの自己防衛、さらに自分のことを省みず人を思うことができるという複雑な感情の層を演じられる人。同時に、ダンス能力、さらにほとんどの男性登場人物がひと目惚れする女性なので、やっぱり美人である必要がある」と語ったシュワルツ氏だが、「候補者に、ひと目惚れするような存在はいたか」との記者からの質問に「いらっしゃいました!」とにっこり。実際、誰が選ばれることになるのか、お楽しみに。
続いて主人公であるカジモド役のオーディション。
こちらは7名の団員と、3名の外部受験者が参加した。劇団内からは飯田達郎、飯田洋輔、笠松哲朗、神永東吾、厂原時也、鈴本務、田中彰孝。劇団外からは一和洋輔、海宝直人、李涛。
カジモド役受験者にも、事前にシュワルツ氏から丁寧な説明と演技のポイントが話される。曰く、カジモドは「身体的に障害を持っている。ただ、違う意味でとても大きなパワーを持っている男。このミュージカルのコンセプトは、この役を特殊メイクなどではなく、芝居を通して表現するということ」とのことで、「みなさんなりのカジモドの表現を試してください。ふだんの体の使い方とは違うことをしてみて」との要求が。
さらに「同時に彼は喋る上でも障害を持っている。ただ、ガーゴイルと話す時はそれが軽減されるし、歌う時はまったくなくなる。逆にまわりに人がいると重くなる」「喋り方がそうなるのは、少し口の形状が他の人と違うこともあるだろうし、幼い頃から耳が聞こえないということも理由だろう」とカジモドのバックボーンも説明された。
そして行われた審査は、こちらも『Out There』『Made of Stone』の2曲の歌唱審査、そしてセリフ審査という流れ。シュワルツ氏が要求した"カジモドの身体的特徴"を、それぞれ片足を引きずる、背を曲げる、重心を歪ませる等々で、工夫してみせる参加者たち。シュワルツ氏から「もう少しこうして、もう一度やってみて」といったようなリクエストも飛び出す。カジモドの孤独が伝わってくるような繊細な演技をみせるもの、名曲を美しく響かせるもの、舞台を広く使って完成度の高いパフォーマンスをするもの、個性は異なるもののいずれも熱演に次ぐ熱演で、オーディションの場とはいえ、何度か鳥肌がたつような思いを感じた。さて、こちらも誰が選ばれるのか...、いずれにしてもこのミュージカルがハイレベルなものになりそうな、そんな充実度だった。(ちなみに五十音順でオーディションした参加者たち。続けて登場した飯田兄弟が見せた"カジモドの身体的特徴"が非常に似ていて、なんとなく微笑ましく思ってしまったのは余談です)
なお、『ノートルダムの鐘』は1996年の長編アニメーションの日本語吹き替え版の制作を劇団四季が担当しており、特に『Out There(僕の願い)』などは、劇団のショーでもしばしば歌われているが、どうやらそれとは歌詞が異なっている模様(本番の舞台でどうなるのかは、現時点では不明だが)。
合格者の発表は後日。公演は2016年12月、東京・四季劇場[秋]にて。チケット発売情報などの詳細も後日発表。
取材・文:平野祥恵(ぴあ)