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見かけは全く同じでも、性格は正反対の双子姉妹マーナとマイラ。かなり過激でキワドイ運命の姉妹が激動の時代を駆け抜ける! シス・カンパニー公演「ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~」が、いよいよ本日1月7日(金)に開幕する。

写真提供:シス・カンパニー

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本作は、1950年代から1980年代の激動の時代に、女性たちが何を考え何を体験してきたかを痛烈な風刺を込めて描いたダーク・コメディ。その主人公である、ニューヨーク郊外の小さな町ミネオラで生まれ育った一卵性双生児の姉妹マーナとマイラは、見かけは全く同じなのに、性格は正反対。約30年の長い年月の中で、常に「両極」から対する2人の姿は、まさに「激動の時間」。

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日本初上陸となる本作では、作者ポーラ・ヴォーゲルが、この運命の双生児姉妹を、一人の女優がカツラと衣装を目まぐるしく変えながら演じ分けるよう、戯曲の冒頭に指定しており、さらには「常にホルモンの影響による興奮状態で演じて欲しい」とも!
その難題に挑むのは芝居に音楽に活躍する大原櫻子。さらに、この姉妹の狂乱の渦には、小泉今日子八嶋智人という名優2名も参戦。双子姉妹を演じる大原と同じく、小泉・八嶋もそれぞれ二役を演じ、小泉が双子姉妹それぞれの恋人役、八嶋が双子姉妹それぞれの息子役を演じる、という演劇だからこそ味わえる妙味にあふれている。俊英・藤田俊太郎の演出によって展開する「禁断の別世界」に期待が高まる。

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~STORY~
舞台は、ニューヨーク郊外の小さな町ミネオラ。一卵性双生児マーナとマイラ姉妹(大原櫻子)は、全く同じ容貌でありながら性格は全く似ても似つかず、お互いを遠ざけながら生きてきた。
始まりは1950年代。核戦争の恐怖が日常生活にも蔓延るアイゼンハワー政権下。保守的な女子高生マーナは、結婚こそが輝かしいゴールだと、すでにジムと婚約中。一方のマイラと言えば、世間の常識なんかクソくらえ!の反逆児。男の子たちとも"発展的"交際を広げている。
そんな悪評が耳に入る度、お堅いマーナのストレスは爆発寸前!
ある時、素行の悪いマイラを諭そうと、マーナに頼まれて婚約者ジムがマイラの元へと向かったのだが・・・。
そして、時代は、1969年、ベトナム戦争の泥沼にあえぐニクソン政権下から、1989年、ブッシュ政権下の世の中へと移り行き・・・。
ジェンダー、セクシュアリティ、人種、格差・・・ 時代と価値観の変遷の中で、真逆の道を歩んできた双子姉妹が見る夢は?
2人の人生が交錯することはあるのだろうか?

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初日を前に、演出の藤田俊太郎と、出演する大原櫻子、八嶋智人、小泉今日子からコメントが届いた。

【演出:藤田俊太郎 コメント】
上演中、キャスト皆がウィッグ、衣装を矢継ぎ早に変えながら、アメリカの50~80年代を駆け抜けます。
稽古を通して、現代的なテーマを発見する度に驚きました。これはアメリカの話ではない、私達の戦いなのだと感じています。
戯曲の言葉、女性の価値観を大事に、魂を込めて演出しました。観客の皆様には、この魅惑に満ちた悲喜劇を見終えた後に、明日に向かうエネルギーを感じていただけたら幸いです。

【大原櫻子 コメント (双子姉妹マーナ・マイラ)】
稽古が始まる何か月も前から、台本を片時も離さず、この戯曲に向き合ってきました。台本も早々に1冊ボロボロになってしまったほど(笑)。そして、実際に稽古が始まってしばらくは、本当にゴールが見えてくるのか不安で、生みの苦しみと闘っているような毎日でした。でも、小泉今日子さん、八嶋智人さんという心強い先輩たちに支えられ、ようやく光が見えてきました。約1カ月の公演期間中、この特別にエネルギーが必要な「マーナ」と「マイラ」を精一杯生きていきたいと思っています。

【八嶋智人 コメント (マーナの息子ケニー、マイラの息子ベン)】
超保守のマーナとリベラルなマイラ。2人はそれぞれ自己矛盾を抱えています。日本でも、分断や多様性が身近な問題になって、立場や主張が極論化するほど自己矛盾していくのを目の当たりにする、そんな演劇が今だからこそ理解できる。未来に繋ぐ事ができると思うのです。
そしてその真ん中に立つ大原櫻子さんが日に日に役を進化させてゆくさまは本当に凄い!
僕は大原さんの14歳の息子役。無理あるぞと思うでしょ?それも演劇の醍醐味!是非そこも楽しんで下さいませ。

【小泉今日子 コメント (マーナの婚約者ジム、マイラの恋人サラ)】
コロナ禍で様々な現実が可視化された今が、この作品を楽しむベストタイミングだと思います。日本でもジェンダーや多様性について関心が高まる一方で、違う立場の人間同士が分断されがちな風潮もあって。だからこそ異なる立場の二役を一人の俳優が演じる趣向が面白いですね。長い歴史の中で女性の立場は変わっていないとも言えますが、少しずつ変化してきたはず。その過程にあるこの作品をコメディとしてお届けできたらと思います。個人的には、若いジムがオジサンみたいにならないよう頑張らないと!(笑)


<公演情報>
2022年1月7日(金)~1月31日(月)
スパイラルホール

作:ポーラ・ヴォーゲル
演出:藤田俊太郎
翻訳:徐賀世子
出演:大原櫻子 八嶋智人 小泉今日子 ほか

お問合せ:シス・カンパニー
03-5423-5906 (営業時間 平日11:00~19:00)

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2020年、新型コロナウイルスの影響で発令された最初の緊急事態宣言時期を経て、ライブエンタメ界はパタリと動きを止めてしまった。宣言解除後もなかなか再始動しない中の7月、いち早く幕を開けた舞台作品のひとつだったのがミュージカル『BLUE RAIN』。ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』をベースに、1990年代のアメリカ西部で起きたひとつの殺人事件と、ある家族の愛憎をドラマチックに描き出す作品だ。舞台セットにビニールシートやパーテーションを組み込み、俳優同士の接触も極力抑えた"with コロナ"の演出も話題となったこの作品が2022年1月、早くも再演される。殺害された大富豪ジョンを主とするルキペール家の次男であり、事件の真相を追う弁護士ルークを演じる東山光明、犯人と目される長男テオに扮する大沢健、一家の家政婦であるエマ役の池田有希子の3人に話を聞いた。

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左から東山光明さん、池田有希子さん、大沢健さん


――東山さん、池田さんは一昨年の初演にもご出演されていました。緊急事態宣言が解除されてもエンターテインメント業界は再開していいのか、みんなが迷っている状況だった7月、最初に幕をあけた舞台作品のひとつでしたね。おふたりにとっても特別な作品になったのではないでしょうか。

東山:僕はこの『BLUE RAIN』のお話をいただいた時はまだコロナはなく、こんな大役やるしかない! とめちゃくちゃ意気込みを抱いていました。でも稽古が始まる少し前に緊急事態宣言が出され、『BLUE RAIN』も幕が開くのか、本当に二転三転しました。そんな中でも動き出し、初めてZoomでの本読みなども経験し......。エンタメ業界、どうなるんだろうと不安のある中での上演でした。本当に僕にとって思い入れがある、役者人生の節目にもなった作品です。その作品がこんなに早く再演できるのは喜びですし、初演とはまた違う形でいいものにしていきたいです。

池田:本当に、初演の『BLUE RAIN』に出演していた時は、この経験は一生忘れないと思いました。コロナ禍は今も続いていますが、やはり「役者ってなんだろう」とずっと考えています。当時は、私は役者をやり続けるのだろうか、続けられるのだろうか、辞めざるを得ないのだろうかと考えましたし、そういう究極の状況で、それでも芝居をやらせてもらえることが本当にありがたかったです。私の祖父は漫談師だったのですが、もともとは長唄三味線をやっていて、戦争で食べていけないから長唄をやめて漫談師になっています。そんな彼の人生の遍歴も、「こんな気持ちだったのだろうか」とビビッドに感じたりして......。自分の年齢のことや、友だちが病気になったりしたことも重なって「私のこの仕事は必要なのだろうか」と今も考えていますが、その"悩む時間"はきっと必要なことだと思います。そのきっかけは『BLUE RAIN』でした。ですので、やっぱり忘れられない一作です。

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――お客さま側も一丸となって協力して幕を開けた印象です。初日カーテンコールで池田さんが「開演前アナウンスでインフォメーションが長くて、来てくださったお客さまにこれだけたくさんのことをご協力いただかなくてはいけない状況になってしまったんだなと思うと胸がいっぱい」と話されていたのも記憶に残っています。その分、感動もひとしおでした。

東山:僕らもあの劇場の光景は忘れられない。不安の中で幕を開けたけれど、受け入れてもらえた、またここからやっていいんだなという実感をもらいました。

池田:みんなが我がことのように応援してくれていましたよね。あの高まり、一体感は忘れられない。

大沢:僕はこの初演はいつやったのか聞いて、昨年の7月だと言われて「え、よく完走できたね」と思いました。本当にすごいことだったと思う。

東山:毎公演、これが最後かもしれないと思いながら千秋楽までやりきりました。本当に本番の直前までマスクをしたままの稽古で、というのは今は当たり前になっていますが、僕にとっての初めての経験は『BLUE RAIN』だったな。

池田:すべて戸惑いでしたよね。まだ演劇業界内のガイドライン、ルールもできていない状態。PCR検査も(この時点ではまだ一般的ではなく)なかった。Zoomでの稽古も初めて。

東山:僕は最初の本読みの時、なかなかZoomに入れませんでした(笑)。色々な人を待たせている! と思ったら、よけい焦って、わけがわからなくなってしまって......。

池田:そんな人が何人もいて、初回は始めるまで30分かかったよね(笑)。

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――大沢さんは、今回が初参加。この『BLUE RAIN』という作品の印象は?

大沢:やはりコロナ禍に生まれた作品だというところにグッときました。何が印象的だったと聞かれ、まず浮かぶのは、舞台のセット。ビニールやパーテーションがセットに組み込まれ、しかもそれが物語に合っているんですよね。人間同士の隔たりや、関係性を断ち切る、そういう表現としてこのセットが活きている。一方で、普段の演劇作品にはなかなかないものが舞台上にあるというのは、役者にとっては負荷がかかるものでもあります。その負荷を、なんとか懸命に生きていこうというエネルギーに転換できればいいなと思って、稽古に励んでいます。

――ということは今回もあの舞台セットはあるのですね?

池田:はい。前回の演出を踏襲しています。ただ、少し禁止事項が緩和されてはいます。前回は本当に、俳優同士が接触することも基本的にはなかった。今回はもう少しコンタクトが取れるようにはなっています。

――演出は荻田浩一さん。初演はwithコロナらしい演出が際立ちましたが、その中でも"荻田ワールド"になっていましたね。

池田:荻田さんは、雲の上を行く高さの芸術性をお持ちなのに、なんだかお茶の間でみかんを食べながら話しているような客観性があって。その両極がクセになります。もう、ずっと面白い(笑)。

大沢:比喩が多いですよね。

東山:みんなにわかるように、色々な喩えで説明してくださる。

池田:この前なんて「そこ、スクールウォーズ!」って言ってました(笑)。

東山:でも今日、彩乃(かなみ)さんが「おぎちゃんの喩え、わからない!」って言ってました(笑)。ちょっと心の声が出ちゃってた。

大沢:僕は今年の春、『Same Time, Next Year』で荻田さんと初めてご一緒したのですが、僕が台詞を言いながら動いていたら、荻田さんも台本を見ながら同じ動きをしていて(笑)。あれ、一緒に演じている、と思って。

東山:その人の気持ちになって動いていますよね、荻田さん。

池田:振付もしてくれて、踊ったりもしている(笑)。おぎちゃんって、病みつきになる魅力がある。

東山:今回、歌唱指導が福井小百合さんになったということもあり、荻田さんと小百合さんのチームワークもすごいですよね。音をしっかりとりながら、そこに言葉をどう乗せるか。しっかり食らいついていきたいです。

大沢:小百合さんの指導、すごくわかりやすいです。こちらの心情に寄り添ってくれて、なぜ自分が出来ていないのかをわかった上で「こうしてみよう」と言ってくれるので。今回、目から鱗のことがいっぱいあります。

池田:私、小百合大明神と呼んでます(笑)。ダメ出しは辛辣ですごいのですが、小百合先生の言うことができるようになりたい! と思うもん。「歌、難しい!」と思うのと同じくらい「歌、面白い!」と思います。

――歌の話になりましたが......『BLUE RAIN』はとても綺麗な曲が多いですよね。

大沢:初めて聴いた時、初めて聴くのにかつて聴いたことがあるような気がした。それくらい旋律が"濃い"。この『BLUE RAIN』の世界にぐっと引き入れる力のある音楽ばかりですよね。

東山:確かに。歌、めちゃくちゃ良いですよね。僕も今回の再演の稽古が始まり、久しぶりにこの作品に向き合った時に、テーマ曲の『BLUE RAIN』を聴いて、泣きそうになりました。これこれ!って。

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――改めてそれぞれの演じる役柄について教えてください。

東山:僕の演じるルークは、ルキペール家の次男です。父のジョンが専制君主みたいな人で、ルークは幼い頃に父から虐待を受けていて、その反動で「絶対のし上がるぞ」というエネルギーを持ってNYに旅立ち、弁護士として名をあげてルキペール家に帰ってくる。そこから事件に巻き込まれ、その事件を解決しようと奔走する役柄です。

大沢:僕はその兄、テオを演じます。同じく父ジョンの虐待を受け、テオの方は反抗して家を出て行ってしまった。親の愛情に飢えて育ってきた人間特有の、もの悲しいオーラが出たらいいなと思い、そういうところを大事に作っていきたいと思っています。その瞬間は明るく笑っていても、あとに残る悲しさみたいなものを丁寧に作りたいです。テオという役は僕にとってはちょっと珍しいタイプの役です。でも自分と離れているからこそ、飛べることもある。今回はそういう挑戦をさせてもらっています。

池田:私はルキペール家に長く勤めている家政婦のエマです。住み込みの召使いですね。テオとルークのことは幼いころから見ていて、ふたりが大変な子ども時代を過ごしているのはもちろんわかっているし、自分自身もジョンの暴力の被害者でもある。でもやっぱり暴君の下で育たなければいけない子どもに救いを与えてあげたい、自分が暴力の傘になってあげたいと思うんだけれど......そこまでの力がないという、悩ましい役です。

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※本記事のお写真は同じくご出演の染谷洸太さんに撮影いただきました。染谷さんとの4ショット!


――最後に、この『BLUE RAIN』の好きなところ、素敵なところを教えてください。

大沢:僕はなんだかんだ言って、テーマソングが歌われるシーンが好きだな。クラブで『BLUE RAIN』を歌うヘイドンを見て、テオは「自分はもう必要とされていないのかも」と思ってしまう。あの時のふたりがなんか、いい。若々しくて、なんとも言えない切なさがあって。メロディの性質と、ふたりの悲しい生い立ちと、テオのマイナス思考というか......拗ねている感じが、なんともぐっときます。ストレートプレイだと、これをすべて表現するのに10ページくらい必要になりそうですが、ミュージカルだと歌で全部表現できる。歌の力だなと思うし、好きなシーンです。

東山:テオとヘイドンは、大人のピュアな恋という感じがいいですよね。今回ヘイドンが、初演の水夏希さんから彩乃かなみさんになったこともあり、テオとヘイドンのシーンの演出も少し変わっているんです。前回ダンスをしていたところがお芝居になっていたりもして。ビニールのシート越しに手を触れあったり、口づけを交わすのを僕は後ろから見ているのですが、もう、鳥肌が立つ。ふたりの切なさが、めちゃくちゃ素敵です。

池田:ほんと、ほんと。私は、テオとルークの兄弟が、すごく対立しあうんだけれど、ちゃんと愛し合っているのが伝わるのが好きです。すれ違って、会話はとんでもない方向に行ってしまったりするけれど、そういうことって実生活でもありますよね。兄弟愛があるのに......仲が悪いわけじゃないのに......と思いながら私はふたりを見ていて、切ないです。家族であればこそ、ギクシャクすることはありますし、そういうすれ違いも含め、いい兄弟。あと、客観的に見ていて、描かれる男性が色々なタイプがいて、面白い。ちょっと不器用で粗野なところもあるけれど、実はすごくロマンチックなテオ、頑張っている優等生、秀才タイプのルーク。もうひとり、庇護欲をそそるサイラスという男の子も出てきます。それぞれ違うタイプで、少女漫画的にキュンときますよ!

(取材・文:平野祥恵)

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甲斐翔真のミュージカルコンサート「KAI SHOUMA MUSICAL CONCERT on Christmas Day 2021 Featuring MAAYA KIHO and HIRAMA SOICHI」が12月25日、有楽町・オルタナティブシアターで開催された。甲斐は2016年『仮面ライダーエグゼイド』のパラド/仮面ライダーパラドクス役で注目され、2020年には『デスノート THE MUSICAL』の主役・夜神月役で華々しくミュージカルデビュー。以降『RENT』ロジャー役、『ロミオ&ジュリエット』ロミオ役など、若手俳優なら誰もが憧れる大役を次々と演じてきているミュージカル界期待の新星だ。ゲストに真彩希帆平間壮一という先輩俳優ふたりを迎えた、甲斐にとって初のこの単独ライブの模様をレポートする。

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開催日はクリスマス当日。静寂の中登場した平間の「クリスマスに始める......」というひと言から始まるオープニング。これは物語がクリスマス・イブに始まるミュージカル『RENT』の冒頭を模したもの。甲斐と平間は2020年11月に『RENT』で親友役として共演、だがこの作品は公演期間中盤に新型コロナウイルスの影響で突如中止となり、そのまま再開は叶わなかった。おそらく公演を観ることができなかったファンも多くいただろう。そんなファンの思いを昇華させるかのように『RENT』のオープニング「Tune Up #1~RENT」を平間とともに熱唱。その選曲からすでに甲斐のミュージカルへの、そしてファンへの愛が感じられる。これはファンにとっては嬉しいクリスマスプレゼントだ。

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直後のMCで少し興奮気味に「絶対に(このコンサートは)この言葉から始めたかった」「1年越しで『RENT』をお届けできた」と語り、笑顔を見せる甲斐。そして自身がミュージカル俳優という道を進むにあたり大きな影響を受けたふたつの存在、世界的ミュージカル俳優ラミン・カリムルーと韓国ミュージカルへの思いを話し、韓国ミュージカル『マタ・ハリ』『フランケンシュタイン』の楽曲に加え、韓国で絶大な人気を誇るブロードウェイミュージカル『ジキル&ハイド』の「時が来た」を韓国語で歌唱。さらにラミン・カリムルーの代表作『ラブ・ネバー・ダイ』の「'Til I Hear You Sing」を英語で披露。ミュージカル界屈指のビッグナンバーの数々を堂々と歌い上げ、観客を魅了した。

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続くコーナーでは甲斐がこれまでに出演した作品『デスノート THE MUSICAL』『RENT』『マリー・アントワネット』『ロミオ&ジュリエット』からのナンバーを感情豊かに聴かせたかと思えば、現在映画も公開中の『ディア・エヴァン・ハンセン』のナンバーなど多彩な楽曲を歌っていく。甲斐の出演作以外の楽曲はどうやら本人セレクトらしく、いずれも曲紹介で「この曲を初めて聴いた時に、絶対歌いたいと思った」という思いを語っており、途中で「僕、どの曲にも同じこと(動機)言ってますね......」と苦笑していたが、それだけ甲斐の各作品、各楽曲へ対する熱い思いが伝わってくる。実際、1曲1曲を丁寧に歌う姿が好印象だ。

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ゲストのふたりも、真彩が「スィンク・オブ・ミー」(オペラ座の怪人)で美しいソプラノを聴かせ、平間が次回出演作『The View Upstairs -君が見た、あの日-』の劇中歌「The Future is Great」を一足早く披露するなどソロナンバーで魅了すると同時に、甲斐とのデュエットナンバーでも息のあったところを見せる。

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中でも甲斐の夜神月に対し平間がLのパートを歌った「ヤツの中へ」(デスノート THE MUSICAL)、甲斐&真彩で歌った大ヒット映画『グレイテスト・ショーマン』のデュエット曲「Rewrite The Stars」などはこの日限りであるのがもったいないほどの印象深さ。真彩と平間は少し緊張気味の甲斐をトークでも和ませ、「せっかくクリスマスなんだから」とクリスマスエピソードを甲斐にふってみたりと(ちなみにサンタクロースの存在は甲斐さんは小学校3年生くらいまで、平間さんは中学生の頃まで信じていたそう)、この日のライブを盛り上げていた。

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後半では、先日まで主演していた『October Sky』の楽曲に加え、来年3月に出演が控えている『ネクスト・トゥ・ノーマル』のナンバーも早くも披露。甲斐のミュージカル俳優としてのこれまでを、そしてこれからの未来をも詰め込んだかのようなコンサートになった。2020年1月のミュージカルデビューからわずか2年弱、出演作は5作。まだまだフレッシュ、「これから」を感じさせる伸びやかな魅力がありながらも、ロックナンバーからポップス、クラシカルで重厚なナンバーと多彩な楽曲を歌いこなした甲斐。何より、誠実な人柄と溢れんばかりのミュージカル愛が伝わり、この人は今後、貪欲にミュージカルに対し熱を注ぎ、どんどん成長していくのだろうと感じる。今後の甲斐の未来を頼もしく思うと同時に、これから歩む道に幸いあれと祝福を送りたくなる、輝かしいコンサートだった。

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取材・文:平野祥恵

ミュージカル「リトルプリンス」稽古場レポート

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ミュージカル『リトルプリンス』が、18()より東京・シアタークリエにて上演される。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作に、音楽座ミュージカルが1993年に初演して以降、上演を重ねている人気作だ。今回、演出を手掛けるのは、近年『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『マドモアゼル・モーツァルト』と音楽座ミュージカルのリメイクを次々と手掛けている小林香。主人公の王子を加藤梨里香と土居裕子がWキャストで演じ、飛行士/キツネ役を井上芳雄、ヘビ役を大野幸人、花役を花總まりが務めるという豪華配役で新たに生まれ変わる名作に注目が集まっている。この稽古場を取材した。

この日の稽古メニューは、最初から最後のシーンまでを通す"荒通し"。初めて全シーンを繋げるということで、演出の小林より「目的は流れの確認です。何か危険だなと思ったら止めてください。ケガをしないように」と注意喚起があったのち、スタート。冒頭は井上芳雄扮する飛行士が嵐の中、飛行機を飛ばそうとする場面だ。この物語、本筋は原作の『星の王子さま』から大きく乖離しないが、ところどころ、飛行士の背景に作者のサン=テグジュペリの人生をオーバーラップさせることで、ファンタジックな世界と現実世界をリンクさせる。井上の演じる飛行士は少し厭世的な雰囲気も漂い、この人の抱える悲しみの元は一体何なんだろう? ......と、冒頭から心を掴まれてしまう。

飛行機は砂漠に不時着し、飛行士はそこでひとりの不思議な少年――王子と出会う。王子は子どもらしい純粋さで飛行士を質問攻めにし、絵をねだり、自分の星の話を語り、飛行士を戸惑わせる。取材日の王子役は加藤梨里香。Wキャストのもうひとりの王子・土居裕子は本作の初演でも王子役を務め、そのオリジナルキャストである土居がふたたび王子を演じるということで話題だが、加藤もまだ23歳ながら子役時代から数えキャリアは十分、2016年にはミュージカル『花より男子』で3000人以上の中からオーディションで主人公・牧野つくし役を勝ち取ったスター性と実力の持ち主だ。加藤は目を輝かせて自分の星のことを語ったかと思えば目をまんまるにして驚き、次の瞬間にはこぼれる笑顔を見せる。マスク越しであることすら気にならなくなってしまうほどの、表情の豊かさだ。何よりボーイソプラノのように透き通った健康的な歌声は、王子の純粋さにぴったり。加藤、実は生まれながらの"星の王子さま"なのでは......!? と思ってしまうほどの天然王子っぷり!

王子は飛行士に、これまでにめぐってきた星での出来事を語る。それらをダイナミックなダンスで繋いでいくことで、オムニバスのように語られるエピソードの数々が、王子の旅路という大きな流れにまとめられていく。星々で出会った人々もユニークだ。王様、実業家、呑み助、うぬぼれ屋、点灯夫、地理学者といったキャラクターを演じるのは縄田晋、木暮真一郎、桜咲彩花。童話的でユーモラスな役どころを彼らがめまぐるしく演じていくさまは楽しく、ミュージカルとして盛り上がるポイント。黄花役の加藤さや香の美しいダンスも印象的だ。

さらに王子が星を飛び出る、そして星に帰りたいと思う原動力となる花を演じる花總まりが絶品だ。王子の星に咲いた、たった一輪の美しい花。花總の花は、ワガママだけれど高貴で品があり、まさに"唯一の存在"。そのワガママも、王子の気を引きたいという感情が伝わり、憎めないのだ。花の世話を真剣な表情で懸命にする加藤の王子の可愛らしさも相まって、忘れがたいシーンになりそう。また、妖しい魅力としなやかなダンスで異質の存在感を出していたヘビ役の大野幸人も、インパクト大。井上が二役で演じるキツネも忘れてはいけない。キツネは作中の非常に有名なフレーズ「大切なものは、目には見えないんだよ」という言葉を口にし、また王子に"自分にとっての特別"を気付かせる重要な存在だ。井上の、小道具も巧みに使って演じる芸達者ぶりはさすがで、共演者たちからも笑い声があがる。だがキツネはちょっと今までの井上にはない意外なキャラクターにもなりそうなので、お楽しみに。

宇宙への憧れを歌う『アストラル・ジャーニー』、自分の星への思いを歌う『シャイニング・スター』など、作品を彩る音楽も美しく、心にすっと届くものばかり。王子は星々をめぐり、地球の砂漠で飛行士と旅をする中で、自分の花がほかの花たちとは違う、ただ一輪の花だったことに気付く。同時に、キツネがほかの多くのキツネたちとは違うただ一匹のキツネになり、飛行士は大勢の人間の中のひとりではなく"友だち"になる。それは飛行士にとっても同じで、王子は飛行士にとっての希望となる。"誰か"が、"特別なひとり"であることに気付く旅路を、美しい音楽、夢のようなダンスで詩的に美しく描くミュージカル。美しいのに悲しく、悲しいのに、心が洗われる。なんだか自分の心の奥にたまった澱が洗い流されていくような感覚だ。年明け、"気持ちを新たに"一年を始めるには、ぴったりの作品になりそうだ。

公演は202218()から31()まで、シアタークリエにて上演。2月には愛知公演もあり。(取材・文・撮影:平野祥恵)

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年明け1月より東京・シアタークリエにて上演されるミュージカル『リトルプリンス』。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作に音楽座ミュージカルが1993年に初演し、数々の演劇賞を受賞している傑作が、装いも新たに登場する。この作品で主人公の王子役を務める加藤梨里香が、『星の王子さま』とその作者サン=テグジュペリをテーマにした「星の王子さまミュージアム」(神奈川県箱根町)を訪問。作品背景やサン=テグジュペリの生涯を学び、作品への理解を深めるとともに、『星の王子さま』の世界を楽しんだ。

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『星の王子さま』といえば、示唆に富んだ奥深い内容や、人生の折々にふと道筋を照らしてくれるような名言の数々とともに、サン=テグジュペリ自身が描いた可愛らしいイラストも印象的だ。ミュージアムに入ると、多くの人が思い浮かべるであろうその表紙のイラスト――小さな星の上にひとり立つ王子の姿――が像となり、来場者を出迎える。この日の天気予報は残念ながら一日中、雨。しかし奇跡的に雨があがり、これは幸先がいいぞと思ったところで、弾ける笑顔で加藤が登場。加藤さん、"持って"ますね!

エントランスから展示ホールへ行く道中は、「出会いの庭」「アジサイの小径」などのヨーロピアン・ガーデン、ローズガーデン、「王さま通り」など、テーマ性がありつつ、思わず写真を撮りたくなる可愛らしいスポットだらけ。特に「王さま通り」は、サン=テグジュペリの生まれた1900年頃のフランス・リヨンの街並みを再現しているそうで、盛りの紅葉とあいまって、"ヨーロッパの秋の風景"といったおしゃれな雰囲気だ。加藤も足取り軽く、楽しそうにキョロキョロとあちらこちらに視線を送っている。

そして館内へ。ここではサン=テグジュペリの生涯が代表作とともに9つのエリアに分けて紹介されている。作家であり、飛行士であったサン=テグジュペリ。少年時代から空に憧れ、陸軍飛行連隊で飛行機の操縦士となり、その後、民間の郵便輸送のパイロットとして勤務した経緯や、砂漠のただ中の中継基地キャップ・ジュビーの飛行場長として13ヶ月を過ごしたことなどを、加藤は展示物を見て、またミュージアム広報担当・都路さんの説明を受けて学んでいく。サン=テグジュペリがキャップ・ジュビーで実際に砂漠のキツネ(フェネック)を飼っていて、それが『星の王子さま』のキツネの原型であることなど、作家本人の経験がこの物語の様々なところに投影されていることも新鮮に受け止めていた模様。特に加藤が胸を打たれたようなのは、サン=テグジュペリの弟・フランソワの死。フランソワが死の直前に言ったという言葉「僕は苦しくなんかない。痛くもない。ただ、どうにもとめられないんだ。これは僕の体がやっているんだ」は、肉体より精神が優位に立つという意味で、『星の王子さま』ラストシーンに大きく影響を与えている、という説明を真剣な表情で受け止めていた。

ほか、『星の王子さま』の献辞がユダヤ人の親友レオン・ヴェルトに宛てられていることから読み取れる戦争の影や、サン=テグジュペリの最期など、ファンタジーの裏側にある時代背景も学び、展示ホールラストの『星の王子さま』エリアへ。ここでは、キツネを見ては「キツネの言葉は大人になっても心に響きます。井上(芳雄)さんがどう演じるのか楽しみ」、バラの花を見ては「花總(まり)さんですね!」と声を上げるなど、自然と加藤の表情も楽し気なものに。ちなみにバラの花はサン=テグジュペリの妻コンスエロがモデル。「王子さまとバラのように、仲違いやすれ違いもあった結婚生活だったようですが、きっと最後まで愛し合ったことでしょう......」という都路さんの説明に感慨深い様子の加藤。

その後も館内・屋外の様々なフォトスポットで写真を撮り、ミュージアムを堪能した様子。ミュージアムショップでも「これ、可愛い!」「楽屋で使えそう」と、何を見ても心惹かれて目移りしてしまうようで、スタッフから「加藤さん、あと10分くらいで......」と言われ慌てるひと幕も。カードに願い事を書けるコーナーでは公演成功のお願い事もばっちり記した。最後に「とっても素敵なミュージアムで、作者の生い立ちや、『星の王子さま』の誕生秘話も学んで、私もより一層『星の王子さま』への理解を深められました。この経験をミュージカル『リトルプリンス』に活かしていきたいと思います。見どころや可愛いフォトスポットもたくさんあるので、皆さまにも遊びに来ていただきたいです」と感想を話した。

ミュージカル『リトルプリンス』は202218()から31()まで、シアタークリエにて上演。2月には愛知公演もあり。なお、王子役は加藤と土居裕子のダブルキャスト。星の王子さまミュージアムは神奈川県足柄下郡箱根町仙石原に位置し、箱根登山バス「川向・星の王子さまミュージアム」バス停下車すぐ。開園時間は10:0018:00(最終入園17:00。第2水曜日は休園 ※3月と8月は無休)。

(取材・文:平野祥恵)

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※写真:Le Petit Prince™ Succession Antoine de Saint-Exupéry licensed by(株)Le Petit Prince™ 星の王子さま™より

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稽古場は緊迫感につつまれ、今にもなにかが弾けそうだった。

この日の『hana-1970、コザが燃えた日-』の稽古は、クライマックスのあるワンシーン。照明を落とした薄暗い稽古場で、兄弟──松山ケンイチ演じるハルオと、岡山天音演じるアキオ──が向かい合う。二人のいる場所は、実家である嘉手納基地近くのパウンショップ(米兵相手の質屋)&バー『hana』。敗戦から25年経ち、しかし"まだ戦争は終わっていない"沖縄の地で、二人の思いがぶつかる。

演出の栗山民也が台本を片手に舞台へあがり、「この台詞でここに立って」と自分で動きながら立ち位置を指示する。松山と岡山は瞬時に対応し、身体の動きの変化に連動して、声のトーンも変化していく。

また、栗山は「この台詞は立たせて」と声の強弱をつけたり、たとえば小道具を持たせて目立たせたりする。すると、舞台上においてどの瞬間になにが重要になるのかが整理され、俳優たちの会話かスムーズに流れだす。客席側から見ていても、視線がなめらかに誘導されて見やすくなった。

次のシーンでふたたび、栗山が「この台詞でここに立って」と松山と岡山に指示する。すると、二人の立ち位置が最初と真逆になっていた。気づけば、二人の関係性も真逆になっていた。

方言指導にしっかりと時間をかけたそうで、沖縄のイントネーションで話す。なかには本土の人間ではおそらく理解できない言葉も混ざるが、それがまた生々しい。そこに米兵の英語も入り乱れる。壁や床にはアメリカの看板やインテリアがたくさん並び、なんだか陽気で明るい雰囲気もある。けれども同時に、沖縄の冬の暖かさと、汗の臭いと、目には見えない生々しい憤りが渦巻いているようだ。

稽古では、演技、確認、演技、確認......と繰り返される。時には全員で円になり、シーンを振り返りながら、動きや台詞の方向性などを共有する。つねに静かで集中の糸は切れないけが、合間には笑い声もあり、緊張しながらもリラックスしているようだ。

来年は、沖縄返還50周年だ。沖縄やコザのこと、そしてこの日の出来事を知ってもらいたい。脚本の畑澤聖悟は、綿密な取材を重ね、丁寧に作品に反映していく。松山と岡山は実際にコザを訪れ、舞台となった場所を歩いてきたそうだ。

沖縄返還前のある日。アメリカと一触即発の空気のなか、血の繋がらないいびつな家族の行き場のない愛憎が、稽古場に充満していく。

取材・文 河野桃子

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新国立劇場の作品創造プロジェクト「こつこつプロジェクト」の第一期作品『あーぶくたった、にいたった』(作:別役実、演出:西沢栄治)が2021年12月7日(火)から同劇場で開幕した。

同劇場の演劇芸術監督を務める小川絵梨子の肝煎りの企画の一つである「こつこつプロジェクト」。「矢継ぎ早にどんどん作品をつくっていく良さはもちろんあると思うが、作り手によっては、じっくり、時が来た時に舞台にあげるようなシステムができないか」と思案した小川は、公共劇場で、通常1ヶ月程度の稽古期間を1年という長い時間をかけ、〈試し〉〈作り〉〈壊し〉〈また作る〉というプロセスを踏めるようにした。英国のナショナルシアターでの事例などを参考にしたというが、なかなか日本の演劇界ではない取り組みと言えるだろう。

こつこつプロジェクトの第一期には、大澤遊、西悟志、西沢栄治という3人の演出家が参加。それぞれに作品を育て、試演会と協議を経て、この『あーぶくたった、にいたった』が本公演として上演される運びとなった。

1976年に文学座で初演された本作は、別役実の"小市民シリーズ"と呼ばれる作品群の一つだ。

演出の西沢は、今回初めての別役作品に挑んだ。過去のインタビューで西沢は「完全な喰わず嫌いで、ろくに観たこともないのに"あの独特の空気感が面白くない"と決めつけていたところがあるんです」と明かしつつも、「選んだ『あーぶくたった~』はもちろん、参考のためにと読んだ別役戯曲は、どれも本当に演劇的で興味深く、現状とあまりに符合する設定やドラマが多すぎて"予言の書か!"と驚くほど」と語っている。そして、「ひたすら普通に、つつましく生きようとした劇中の名もなき人々に思いを馳せることで、僕らなりの"日本人論"にたどり着きたい」とコメントしている。

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   (左から) 山森大輔、浅野令子 撮影:宮川舞子

公演初日を見た。

舞台には、一本の古い電信柱がスッと象徴的に立っている。雨にさらされて汚れた万国旗が垂れ下がっている。土に埋もれた赤ポストも見える。客入れ時に『チャンチキおけさ』や『世界の国からこんにちは』など、昭和の歌謡曲が流れていて、おおよその時代設定が推察される。

始まりは、山森大輔が演じる男1、浅野令子が演じる女1の婚礼の場面から。新郎新婦は、子どもの頃の思い出話をして、まだ見ぬ子どもの将来などを語り始めるも、会話は思わぬ方向に。楽しい新婚時代、子を持ち落ち着いた生活、そして老境へ―。全10場、人々の"日常"を断片的に切り取りつつ、1時間45分(途中休憩なし)で紡いでいく。

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    (左から) 山森大輔、浅野令子 撮影:宮川舞子

2019年6月に1st試演会、同年8月に2nd試演会、そして、20年3月に3rd試演会を経て、今回の上演に至った。プロジェクトが始まった当初、未知のウイルスがこんなに世界中で広がるとは誰も思っていなかったし、東京五輪が延期になるなんて想像もしていなかったと思う。そんな苦難の時代の中でも"こつこつ"と作りあげ、作品の強度をあげてきた。稽古の過程で、他の別役作品を読むなど"寄り道"も許される限りしてきた。

どこにでもありそうな日常の可笑しみを楽しんでいたら、ふと気がついたときには、大きな物語に飲み込まれて、動けなくなっていく。かつての「小市民」と、今を生きる私たちがどうしても重なり、この不条理に立ち尽くしてしまう。「いいじゃないか、ただ生きてみるだけなんだから......。ね、ほんのちょっとだよ。ほんのちょっとだけなんだから......」。そんなセリフが胸を打つ。雪に埋もれた夫婦の姿は、遠い昔の他人事とはどうも思えない。これが別役実の世界なのか。それとも"こつこつ"積み重ねてきたからこそ、見える景色なのか。

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(右から) 浅野令子、山森大輔、龍 昇、稲川実代子 撮影:宮川舞子

役者もよかった。プロジェクトの各段階に携わった俳優陣からバトンを引き継ぎ、本公演では山森と浅野のほか、龍 昇、稲川実代子、木下藤次郎が出演する。それぞれ舞台経験を十分に持った実力派ぞろいなのだが、いい意味で素朴な雰囲気を醸し出し、絶妙な「小市民」を体現。派手な演出もなく、地味といえば地味なのだが、彼ら彼女らの半生がいい味を出していた。

ちなみに、千穐楽の19日まで本作の戯曲が無料公開されている(https://www.nntt.jac.go.jp/play/bubbling_and_boiling/)​​。予習として読むよりは、終演後に読み返すと、また新しい発見が生まれるかもしれない。

公演は12月19日(日)まで。なお、14日(火)13時公演終演後は、出演者と演出家によるシアタートーク(無料)が予定されている。チケット発売中。

取材・文:五月女菜穂 写真提供:公益財団法人 新国立劇場運営財団

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1212()より東京・シアタークリエほかで上演される『ガラスの動物園』の稽古場を取材した。1930年代、大恐慌下のアメリカに生きる家族を描いた『ガラスの動物園』は、テネシー・ウィリアムズの出世作にして、アメリカ文学の最高峰とも称される戯曲。1945年のブロードウェイ初演以降世界中で繰り返し上演され、のちの演劇・文学作品にも大きな影響を与えたこの作品を、今回は上村聡史の演出、岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れいの出演で上演する。

物語はトム・ウィングフィールド(岡田将生)の回想から始まる。トムはこの物語は追憶の劇だと宣言する。そう語る姿はくたびれた風情だ。しかしどこか甘い香りが匂い立つようで、それは郷愁の甘さに加え、岡田自身の持つ少し悲し気で優しい雰囲気がそうさせるのだろう。バンドネオンが奏でる物悲しいBGMとトムの独白が、閉じられた、息苦しい、しかし懐かしい家の中に観る者を誘っていく。

ウィングフィールド一家の住むアパートの中には、アンティークの調度品が設えられ、舞台中央の机の上にはガラス細工の動物が置かれている。父親は16年前に家を出ていったっきり。この家の空気を司っているのは母親のアマンダ(麻実れい)だ。南部のお嬢様育ちのアマンダはかつての栄華を未だに忘れられず、子どもたちを無意識のうちに支配しようとしている過干渉な母親。すべてにおいて大げさで、芝居がかっているが、麻実は"芝居がかっているのに、リアリティがある"という人物を演じるのに長けている。そしてこの一家を覆う一種病的な空気を生み出しているのがアマンダであるのが一瞬で伝わる求心力。なのにチャーミングさもチラリと覗くところはさすがだ。

空気を司るのがアマンダなら、一家の要は娘のローラ(倉科カナ)だ。脚に障害があることから極度に内向的、ガラス細工の動物を大切にしている娘。母アマンダが極端に可愛がり、かつて自分のもとに数多くの青年紳士の来訪があったように、ローラの元にもそんな紳士がやってくることを期待している。家族の......というより、アマンダの行動原理がすべて「ローラのために」である分、負担はトムの両肩にのしかかってくるわけだが、一方で一家の緩衝材になっているのもローラの優しさだ。倉科のローラからまず伝わってくるのは、そんな優しさ。倉科の可憐さと相まって本番の舞台ではさらに繊細なローラになるに違いない。

いびつな家族がなんとか破綻せずに保っているのは、やはりお互いへの愛ゆえなのだろう。岡田、麻実、倉科の3人は自身の感情を爆発させた瞬間、ぱっと罪悪感が広がるような、そんな繊細な感情を巧みに紡いでいく。演出によってはこの登場人物たちがどうしようもなく自分勝手に思える場合もあるのだが、上村演出版は、どのキャラクターも息苦しさと相手への愛情の間で葛藤しており、痛々しく悲しい。しかし綻びは少しずつ大きくなる。ずっと自分を抑えてきたトムが、この家には何一つ自分の自由になるものはないと嘆くシーンの岡田の悲痛さは胸に迫るものがある。

取材できたのは1幕のみだったが、このあと2幕になると、危ういバランスで保たれていた家族は、ひとりの青年――ジム・オコナーの来訪によって大きく揺れる。アマンダからローラのために知り合いの紳士を紹介してくれと懇願されたトムが連れてきたジムは、アマンダの期待する"ローラの青年紳士"となりえるのか。現実世界からの使者・ジムを演じるのは竪山隼太。1幕では幻想の紳士として印象的に佇んでいた竪山が、どんな"現実の青年"になるのだろう。そしてそれぞれの抱く期待や痛みがさらに増幅される2幕で、演出の上村がどんなところにフォーカスを当てるのかも楽しみである。ただ、1幕を観た感触では、上村演出は家族に対する期待や失望、義務、閉塞感、将来への不安や自由への憧れ、そして悔恨といった幾重にも重なる感情を丁寧に紡ぎ、そのすべてを家族愛という糸で繋ぎ合わせて見せてくれそう。それぞれが少しずつ破綻しているが、この一家は非常に優しい人たちなのだ、と思えた。戯曲本来のノスタルジックで繊細な美しさが際立つ『ガラスの動物園』になりそうな予感がする。

公演は1212()から30()までシアタークリエにて。その後、福岡、愛知、大阪でも上演される。(取材・文:平野祥恵、写真提供:東宝演劇部

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倉持裕の作・演出による『イロアセル』が1111日に新国立劇場にて開幕した。2011年に倉持が同劇場での上演のために書き下ろし、鵜山仁の演出で上演された戯曲が、今回は倉持自らの演出で、フルオーディションで選ばれたキャストによって上演される。10年前、SNSの隆盛により、多くの人々が匿名で社会に向け発信するようになったことを念頭に、その結果、露わになる社会のひずみや人々の黒い本音をえぐり出した本作だが、10年を経て、このテーマ性がさらに際立つ仕上がりになっている。

物語の舞台はとある島。ここで暮らす島民は、それぞれに特定の"色彩"を持っており、言葉を発したり、文字にしたためると、その言葉が個々の色を帯びて浮かび上がるという特異な性質を持っている。多くの島民はスマホのような機器を持ち歩き、それによってこの"色"を感知・識別することができる――つまり、誰がどんな発言をしたかが全島民の間で共有されるという状況で生きている。この島に、本土からひとりの囚人と看守がやって来て、丘の上の檻に収容される。そして、この丘で囚人と面会している間は、島民の言葉に色がつかなくなることが発覚する。発言の"匿名性"を手にしたことで、島民の間で様々な変化が生じることになり...。

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撮影:引地信彦

囚人がやって来る以前の島では、上記の通り、誰がどんな発言をしたのかが即座に共有されてしまうため、人々が"悪意"のこもった言葉を他者にぶつけたり、誰かを貶めたりすることは、一部の例外を除いてなかった。例えば、島民の必需品である"ファムスタ"と呼ばれる、人々の言葉の色を集めたり調整する機器を販売する会社「ブルプラン」の社長・ポルポリが、同機器新作の開発を、下請けの「グウ電子」一社に任せることを発表した際には(※正確には発表したというより、ポルポリとグウが2人で応接室で会話しているだけなのだが当然、その内容は全島民に筒抜けになる)、ライバル会社の人々からさえも祝福の言葉が贈られ、妬みや誹謗などは見えない。

そうした状況は濁りのない"キレイ"な社会であると言えるかもしれないが、見方を変えれば人々が本音を押し殺した、表面的な建前の言葉だけで成り立っている社会とも言える。

だがこの状況は、囚人の出現で一変する。囚人と話す時だけ、自分の言葉の色がなくなることを知った島民たちは、こぞって囚人の元を訪れ、これまで胸にため込んだ"本音"を吐き出すようになる。さらに、囚人はそこで知った事実を紙に書きとめ、その内容を記した"文書"が島中にバラまかれたことから、それまで無垢だった社会は一気に濁りを帯びていくことになる。

緊急事態宣言が開けたばかりの、2021年10月2日・3日、CBGKシブゲキ!!で、5年目を迎え恒例となった『ゾンビフェス  THE END OF SUMMER 2021』が開催された。

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今年は、主宰の入江雅人の呼びかけの下、入手杏奈、清水宏、立川志ら乃、塚本功、オクイシュージ、という常連メンバーに加え、シンガーソングライターの中村 中が初参戦となった。
オープニングは入江雅人とオクイシュージの二人芝居からスタート。映画のゾンビ役のエキストラとして偶然再会したかつてのバンドメンバーが、本物のゾンビに追われ幽霊屋敷に迷い込むという入江の書き下ろし新作「ゾンビ!ゴースト!ソンビ!」を上演。入江とオクイ二人の呼吸はぴったり。山奥の幽霊屋敷やゾンビと幽霊の対決の光景が広がり、冒頭から笑いに包まれた。

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撮影:市川唯人 


"ソンビフェスの舞姫"入手杏奈のダンスとともにオープニングムービーが流れる。「また今年もこの祭りがやってきた」といった気持ちがこみ上げてくる恒例のオープニングだ。

opening211002ZF-138.JPG撮影:市川唯人 


次に登場したスタンダップコメディの清水宏は、様々な日本人にとっての"型"というものが何故生まれて来たのか、五反田駅のホームのアナウンスから様々な伝統芸能に到るまで、弾丸トークで、はっとさせられる持論を展開し、それがゾンビに繋がる流れに客席は大爆笑。

shimizu 211002ZF-403.JPG撮影:市川唯人 

次は、入手杏奈が創作ダンス「DANCE OF THE DEAD V」を披露。入手の体の自在な動き、時に手足を硬直させながら特に伸び伸びと、ワンピースを着た入手が"美しきゾンビ"のように舞う姿にうっとりする。

irite 211002ZF-584.JPG撮影:市川唯人 


続いて登場の落語の立川志ら乃は、新作「魚をキレイに食べましょう」をネタ下ろし。志ら乃が最近気にかけている"流行のお菓子"と"魚をキレイに食べる人"をモチーフに、江戸のゾンビに侵された町で、魚をキレイに食べる能力を買われてゾンビ退治をしようとする奇想天外な物語で笑いを誘う。
一部はここで終了。

shirano 211002ZF-681.JPG撮影:市川唯人 


二部のトップバッターは、ギタリスト塚本功。「THE END OF SUMMERTIME」と題し3曲を演奏し、更に入手杏奈とのコラボパフォーマンスも披露。コロナ禍の中でも定期的にライブに出演している塚本は、マスクをしてパフォーマンスをするのが慣習化したということで、この日もマスク姿で歌唱。この時期ならではの粋なパフォーマンス。「HIMATSU」という楽曲も披露。塚本ならではのギターの音色と歌声に引き込まれながら、心地よい時間が流れる。最後は入手杏奈のダンスとの即興セッション。ここでしか見られないコラボレーションに、会場全体が引き込まれていった。

tsukamoto &irite 211002ZF-1020.JPG撮影:市川唯人


そして、次に登場したのは、今回初出演となる中村 中。入江雅人が以前から中村の大ファンでもあり出演オファー。満を持しての登場となった。妖艶な空気をまといながら、ギター1本で、ゾンビフェスの為に書き下ろした「死に損ないの歌」を含む4曲を披露した。「死に損ないの歌」は、ゾンビを現代社会に生きる人々に擬えた、テーマ性のある一曲だ。

nakamura 211002ZF-1396.JPG撮影:市川唯人
 

そして、トリは入江雅人。毎年恒例の「帰郷」。ゾンビになってしまった幼馴染のしげちゃんと最後のドライブに出かける物語。毎年ゾンビフェスの最後に上演される恒例の演目だが、毎年異なるアレンジがされ、初めて観る人にとっては新鮮な感動もあり、何度見た人でもまた新しい発見があり、物語に奥行きが加わる不思議な演目だ。観れば観るほど深まるしげちゃんと僕のストーリー、来年はどんな進化を遂げるのか楽しみだ。

irie 211002ZF-1686.JPG撮影:市川唯人 

前年は、コロナ禍の影響が大きく縮小版での実施となったが、今回は、また華やぎが戻って来たゾンビフェス、入江も来年以降も続けて行きたいと抱負を語っていた。
それぞれの分野のプロが技を持ち寄り、"ゾンビ"という無限のイマジネーション秘めた創作物をテーマに、意外性と面白みに溢れるパフォーマンスを繰り広げるゾンビフェス。"プロたちの文化祭"そんな手触り感もある、年に一度の祝祭に来年以降も期待したい。

<公演情報>
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『ゾンビフェス THE END OF SUMMER 2021』

10月2日(土)17:00開演(16:30開場)
10月3日(日)14:00開演(13:30開場)会場:CBGKシブゲキ!!
【出演】※50音順
入江雅人(一人芝居)
入手杏奈(ダンス)
オクイシュージ(演劇)
清水宏(スタンダップコメディ)
立川志ら乃(落語)
塚本功(エレクトリックギター演奏と歌)
  中村 中(弾き語り)

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