アメリカを代表する喜劇作家、ニール・サイモンの晩年の傑作『ローズのジレンマ』が2月6日(土)より東京・シアタークリエで上演される。大物女流作家ローズと、その恋人で同じく作家(ただし5年前にすでに亡くなっており"亡霊")のウォルシュ、ローズの助手アーリーン、そして売れない作家クランシー。登場人物はこの4人のみ。経済的に困窮しているローズのため、ウォルシュの未完の小説を完成させ発売しようという計画の顛末とは......。
ニール・サイモンらしい、笑いとしゃれた会話の中に、じんわり人生の悲喜こもごもが浮かび上がる戯曲に挑戦するのは、大地真央、神田沙也加、村井良大、別所哲也。
普段からとっても仲がよく、しかし舞台での共演はなんと13年ぶりという、ヒロイン・ローズを演じる大地真央、その助手アーリーンを演じる神田沙也加に話を訊いた。
◆ 大地真央 × 神田沙也加 INTERVIEW ◆
―― おふたりはプライベートでも非常に仲が良いそうですね。仲の良いおふたりだからこそ思う、お互いの可愛いところを教えてください!
大地「サヤは、愛くるしいんですよ。だけど、ちゃんと自分というものを持っているし、頼もしいところがあります。しっかりしているのに、助けてあげたいと思わせられる、母性本能をくすぐられるというか......」
神田「あはは!」
大地「彼女が10代のころから知っていますので、私の中でその小さい頃のイメージが抜けていないのかなというのはありますが。でも13年ぶりに同じお稽古場でお芝居をしていて、その成長っぷりを見せつけられると、この人は素晴らしい才能があって、ちゃんと努力もできる人だなと感じています。そういうところが魅力ですね」
神田「うふふ。嬉しいです。私はたぶん皆さんが思っているより以前から、真央さんとは親しくさせていただいているんです。14、5歳のころからですかね? 本当に長い間仲良くさせていただいているのですが、でも共演となると、舞台だと2回目。前回の時は右も左もわからない状態でしたので、自分のことに精いっぱいで無我夢中でした。そこから私も少しは経験を積んでいますので、きちんと真央さんに、私も成長しましたというところを見せなければと思っています」
大地「楽しみにしています(笑)」
神田「そして私が思う真央さんの可愛いところは......私は本当に真央さんの写真集などもしょっちゅう見ていて、単なるファンなんですけれど(笑)。目の形......はもちろんのこと、目尻からこめかみの距離! それから口角のキュっとあがっている角度! それに爪の生え方!」
大地「(笑)爪でしょ~。それ、よく言っているわよね。ものすごいマニアック!」
神田「これは絶対書いてください、この3点セット(笑)! 真央さんマニアですね、私。真央さんの朝食を真似て、ずっと同じものをお取り寄せして食べていたこともあります」
大地「面白いでしょ~(笑)」
―― 共演は少ないまでも、おふたりには『マイ・フェア・レディ』のイライザ役という大きな共通項もあります。大地さんは、神田さんのイライザをご観劇されたとお聞きしました。
大地「はい。とにかくサヤがイライザをやると決まったときは本当に嬉しかったです。彼女は私のやっているときも何回も何回も観に来てくれていましたので。「サヤが思うイライザ像を作ればいいよ」と言いましたし、実際に観て、イライザとして息づいていたことが嬉しかったです。演出や台本は私がやっていたものとはずいぶん変わっていましたけどね」
―― 大地さんが大切にしていた役を引き継いだ神田さんは、いかがでしたか?
神田「私、真央さんファイナルまで観に行って、号泣で見送ったという思い出がありまして(笑)。その時に真央さんも涙ぐみながら「いつか、サヤがやりなさい」とおっしゃってくださったことを本当に励みに思ってやってきたので、実際に決まったときは一番にご連絡しました。でも私、真央さんバージョンを観すぎて、台詞も歌詞も一緒に言えちゃう状態だったんです。ですので、新演出版になって全部変わってしまったので、以前のバージョンの出演者でもないのに、新訳に慣れるのにすごく苦労する、という状態に陥ってしまいました。それほど大好きだったんです!」
大地「ふふふ。ありがとう」
―― そんなおふたりが、満を持しての13年ぶりの共演です。この『ローズのジレンマ』、やろうと思われた一番の決め手はなんですか?
大地「サヤと何かをやりたいなって思っていたんですよね。その中でこの作品の候補が出てきて、この作品は私たちにとっても挑戦的な作品かなと思えたんです」
神田「そうですね。私はストレートプレイということ自体がけっこうな挑戦なのですが、まず真央さんとご一緒できるという喜びがありました。そして、真央さんの役と対等な目線で話せる役なんです。いまの年齢で真央さんとやりたいなと思える作品だった、というのが大きいです」
―― お稽古が進んでいるかと思いますが、物語に対しては、どんな印象を抱いていますか?
大地「ニール・サイモンは、喜劇王と呼ばれていますが、もともと独特の奥深さがある作家です。その彼が晩年に書いた作品ということで、より深みがある。笑いも、ワハハハというより、"クスっと笑える"というところが多いかも。そこが、前回わたしが出演した『おかしな二人』とは少し違いますね。ホロっとするところも多い。ニール・サイモンの中では独特かもしれません。でも最終的にはすごくハッピーな気持ちになれると思います」
神田「私はまだまだ課題がたくさんあって、読み解かなくてはいけない部分だったり、そしてショーがあったりもするので、大変なのですが......」
大地「そうそう、カーテンコールがありますからね! 楽しみよね」
神田「はい(笑)。いまの段階では、前半は、ローズとアーリーンの関係性がリアルに見えるように探っていきたいなと思っているところです。ふたりはこんな風に日常を送っているんだな、というのが伝わるように。そして登場人物が増えてからは、ドタバタする中でも自分の役割を見失わないでいること。ローズが大好きで、ローズの力になりたくて、支えたくてというのがアーリーンの根底にずっとあるというのを大切に役作りしていきたい。観終わったときに、色々な意味で、ローズとアーリーンには深い結びつきがあったんだ......ということをお客さまに印象付けられているようにしたいです」
―― ニール・サイモンといえば喜劇界の大スターですが、もしかしたら若い人にはあまりなじみがないかもしれません。ぜひ、気軽に楽しめるよというポイントを教えてください。
大地「ローズは、別所さん演じる亡くなったウォルシュの幽霊と毎晩話をしているちょっと......変な人なんです(笑)。それを、サヤ演じるアーリーンだけはわかっているのですが、そこに、村井さん演じるクランシーという売れない作家がやって来て3人でのやり取りのはずが...でも、ローズにしか見えないウォルシュも入って実は4人。その噛み合わないところも面白いと思います。ローズはいつも独り言を言ってる妙な人に見えますが、自問自答するみたいなのって、みんな自分の中に少しはあるよね、というところも楽しんでいただければと思います」
神田「いま稽古場で真央さんたちがどんどんアイディアを出されて、言葉がどんどん精査されていっています。ですので、外国の話ですし少しわかりづらいな、というのがいままさにどんどんわかりやすくなっていっています。そんな中でアーリーンは、作品の中でニュートラルな立場にいますので、お客さまとローズの空想の世界をつなぐ役割を果たさないと、と思い始めています」
―― ちなみに、偶然ではありますが、この作品について別所さんは「弦楽四重奏のような」、村井さんは「大人になって味のわかるおしゃれなチョコレートのような」と、それぞれ素敵な形容をされていました。おふたりはこの作品にキャッチ―なコピーをつけるとしたらどんな言葉にしますか?
大地「えーーー! 難しいな。ひと言で言えない良さのある作品よね」
神田「はい!(手を上げる)」
大地「どうぞ」
神田「"産地の違う岩塩"」
大地「しお?」
神田「はい。これはちょっと甘みのある塩、こちらは塩味が強い、これはスパイスを感じる塩......と、塩と言ってもいろいろあるじゃないですか。そんな色々な味のする塩をうまくブレンドして料理にまぜてみると、美味しいものが生まれちゃう!......みたいな」
大地「なるほど。そうですねぇ。お料理に例えると"多国籍"ですかね。色々な要素があって、それがフルコースになって、最後にはカーテンコールという甘いデザートがある」
神田「素敵!」
―― 最後に、いま世の中は大変で、劇場をとりまく環境も厳しいですが、それでも生の舞台に立つ、あるいは観る楽しみというのは。
大地「舞台は、同じ劇場空間と、その時にしかないその瞬間をお客さまと共有できる、そのライブ感が醍醐味です。皆さん不安もおありかと思いますが、私たちも毎週PCR検査をしたり、できることを全部やって、カンパニーも、劇場も、皆さんをお迎えする体制を整えています。こんな状況だからこそ、開催してくれてありがとうと言うお言葉をいただくこともあります!是非、ライブの良さを確かめに来ていただけたらと思います」
神田「そうですよね。お出かけすること自体が怖いなと自粛されている方もいらっしゃる状況かと思います。そんな時だからこそ、「笑え!」「泣け!」といった押しつけがましさのない、人生にそっと寄り添ってくれるような、ゆるやかに温かいハートフルな作品です。いまの日々でちょっと疲弊してしまった心にもフィットする作品なんじゃないかなと思っています」
大地「いいこと言う!」
神田「やったー。もちろんカンパニー全体で対策もしっかりしています。でも対策ってこちら側だけでは成り立ちません。劇場にも、そして観に来てくださる皆さんにもお願いしなきゃいけないこと。だからみんなで力をあわせて『ローズのジレンマ』を実現させましょう、とお願いしたいです」
大地「エンターテインメントの灯を消さないために、ですね」
撮影:石阪大輔
取材・文:平野祥恵