ミュージカル『王家の紋章』#12 作曲者シルヴェスター・リーヴァイが語る『王家の紋章』の魅力と音楽

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■ミュージカル『王家の紋章』#12■


連載開始から40年を迎える少女漫画の金字塔『王家の紋章』が、初のミュージカル化!

浦井健治を主演に、脚本・演出=荻田浩一、音楽=『エリザベート』『モーツァルト!』のシルヴェスター・リーヴァイという豪華クリエイター陣が、古代エジプトを舞台にした壮大なロマンを、この夏、舞台上に描き出します。

...お久しぶりです。
キャストの皆さんのインタビューや製作発表レポートなどをお届けしていました当げきぴあ。
まだこの連載、終わっていませんよ!!

本日は『王家の紋章』の音楽を担当するシルヴェスター・リーヴァイさんが、取材会で語った作品の魅力や、音楽制作のポイントなどをお伝えいたします。
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言わずと知れた、『エリザベート』『モーツァルト!』『レベッカ』『レディ・ベス』等々、ウィーン発の人気作品の産みの親であるリーヴァイさん。
日本でもおなじみですが、日本の文化遺産である漫画原作の今回の『王家の紋章』、どのような思いで創作に向かっているのか、とても和やかに、そしてフランクに語ってくださいました。


◆ シルヴェスター・リーヴァイ氏 インタビュー ◆


――『王家の紋章』が世界で初めてミュージカル化されます。その作曲をを引き受けた決め手は?

「10年以上前から、ファンタジー作品を手掛けてみたいと思っていました。そうしましたら、ちょうど私の70歳の誕生日に、日本の東宝さんからこの作品のオファーを頂いたんですよ。私にとって『王家の紋章』という作品は、非常に琴線に触れるものです。原作の細川両先生は、人間のあらゆる側面......愛や苦難、戦わなければならない緊張関係、誰かを呪ったり憎んだり......ということをすべて、漫画の中に描き出している。そういう作品に音楽をつけることは、大変幸せです」


――日本ではここ最近、漫画を原作にしたミュージカルがムーブメントになっていますが、そのことはご存知でしたか?

「正直申し上げて、知りませんでした。でも、日本に来るようになってから20年くらいたっていますが、ずっと漫画というものには興味を持っていました。ランチにラーメン屋に入った時、大人のひとたちがそこで漫画を読んで現実から逃れている姿を見たことがあります。思うに人間というのは、完全に大人にならず、少し子どもの部分を残し続ける、そのことによって希望を持ち続けられるんじゃないかと思っています。私自身は日本語が読めませんので、日本の漫画を開いてもわかるのは絵だけで普段から読んではいませんが、日本のアニメは長年ファンです。アニメと漫画がどの程度繋がっているのかはわかりませんが、アニメを見る限り、人生のリアリティを映し出していると思います。また今回は『王家の紋章』の最初の4巻分の吹き出しをすべて英訳してもらったので、作品のハートの部分を理解できました」
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――実際読んでみて、『王家の紋章』のどこに魅力を感じましたか?

「登場人物ひとりひとりにカリスマがあり、純然たる"悪だけの人"がいない。それはアイシスでさえもです。彼女は非常に危険な人物で、自分の力を多くの場合ネガティブに使いますが、完全に悪い人ではない。主人公のメンフィスと戦うイズミルも、復讐ということからエジプトと戦争を始めますが、敵対するからといって悪ではない。そこが魅力的であり、この作品が何十年にもわたり人気を博す理由だと思います」

――文字で表現された戯曲ではなく、絵のある漫画から作品を作る。何か創作過程で違いはありますか。

「あります。音楽はココ(心)とココ(頭)で作られます。何かを作り始める前は、とにかくそこでイメージします。その意味では、細川両先生が描いたものが、すでに強い印象を(心と頭に)残していますので、漫画によってインスピレーションを多くを得ることができました。ですから私は今回は、読者と同じように物語に惹き込まれるがままにしました。英訳された漫画を読みながら、僕の一部は作曲家であり、一部は子どもだった。たとえば漫画の登場人物はみんな目が大きいとか、絵が美しいとか、そういうことがファンタジーの源泉になって、そこから色々なものが生まれました」


――キャストの皆さんとはすでにお会いになっているとのこと。皆さんの印象を教えてください。まずメンフィス役の浦井健治さんについて。

「3月に来日し、皆さんにお会いする機会がありました。浦井さんにも少し歌ってもらったのですが、その段階ですでにファラオたる雰囲気を身にまとっていらっしゃった。言うまでもなくハンサムで非常にセクシーな方です。彼は『エリザベート』でルドルフを演じていましたが、徐々に成功を積み重ね、いよいよセンターに立つ。主役を務める準備が整ったということだと思います」

▽メンフィス役 浦井健治
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――キャロル、イズミルについて。

「キャロルの新妻聖子さんとは、すでに10年前から存じ上げています。『マリー・アントワネット』(2006年)の時から感銘を受けていましたし、昨年、彼女のコンサートにも足を運んでいます。私は彼女を愛していますし、とても素敵な人です。
宮澤佐江さんとは初めてですが、メールで写真が送られてきたときに、ひと目見て「キャロルだ!」と思いました。実際にお会いした時も、キャロルだと思いました。生き生きとして、オープンで、ちょっと生意気なところもあって(笑)。キャロルをやってくださることを非常に楽しみにしています」

▽キャロル役 新妻聖子
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▽キャロル役 宮澤佐江
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「イズミルの平方元基さんは『レディ・ベス』などでご一緒していますが、宮野真守さんは今回が初めて。でもおふたりともカリスマ的パフォーマンスを見せてくださると信じています。宮野さんのように、初めてご一緒する俳優さんに日本でお会いするのはとても楽しいことです。皆さん、エネルギーややる気に満ちているのが伝わってくる。そして日本のアーティストの方々は、常に学ぶ気持ちをお持ちで、こちらからの提案を前向きに捉え、より良くあろうとする。そこが素敵です。ですから、ご一緒できるのがとても嬉しい。日本で俳優であり続けるためには、正直で謙虚でポジティブである、そういった気持ちの持ち様が大事なのではないかと思っています」

イズミル役 平方元基
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イズミル役 宮野真守
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――アイシス、イムホテップについて

「アイシスの濱田めぐみさんは、数年前に東京に来た時に『二都物語』を観る機会があり(2013年)、その時、とにかく俳優としても歌い手としても感銘を受けました。その場で東宝の方に「僕の作品に濱田さんに出て欲しい」とお願いしたほどです。そして、その願いが今回叶えられました!とてもハッピーです」

▽アイシス役 濱田めぐみ
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「そしてイムホテップ宰相は、非常にこの作品の中で心理的にも大事な位置づけにある人物。この役を私の友人である山口祐一郎さんがやるとわかっていましたので、そのために作曲するのはとても楽しい作業でした。私たちの職業(演劇)は1000年以上前からシステムとして存在していますが、一度成功したら終わりではなく、それを積み重ねていけるかということが大事な職業。そういう意味で、日本では山口さんは、例外的な素晴らしい例。長年のあいだ常に精力的で、常に良くなられて、それでいて全然歳をとらない。でも山口さんにとって、それは天から降ってきた恵まれたものではなく、長年にわたり彼が日々、規律正しく生活しているからこそだと思います。その姿勢に私は感銘を受けます。そしてそれは自分が成功したいからではなく、自分が相対するお客さまを愛しているからそうされるのだと思います。本当に素晴らしいです」

イムホテップ役 山口祐一郎
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――脚本・演出をする荻田浩一さんとは初タッグですね。制作作業の過程はいかがですか。

「今までも素晴らしい演出家の方々とお仕事を一緒にしてきましたが、今回は本当に特別にクリエイティブな素晴らしい演出家の方とご一緒させていただけています。
私は、ひとりの人が多くの役割を果たす...演出もして脚本も書き...というのはあまり賛成しないのですが、荻田さんに関して言えば類まれな才能をお持ちで、素晴らしい魔法を見せてくださる方。そして、とても音楽的才能がある方です。さらにとても高いコミュニケーション能力を持っている。話し合いの中でも、彼の話し方がなんとも良くて、言いたいことが非常によくわかりました。ふたりで組んで、お客さまに満足していただけるように頑張りたいと思います」


――具体的に、荻田さんから、どのような要望が出たりしたのでしょう。

「まず最初に荻田さんたち制作チームとお会いしたのが1年半くらい前。その時は簡単なシノプシスとまだ英訳されていない日本語版の漫画をいただきました。それで音楽や様式についてのアイディアがすでに沸き、理論的にはお互いにわかりあい、これで作品が作れるなという状況になりました。

次に漫画の英訳を待って、数ヶ月をかけて、作品全体のある程度の音楽を作り始めました。そして主な楽曲については作曲を済ませ、デモテープを収録し、それを持って来日し東京でプレゼンをしました。そこで初めて、それを聴いた荻田さんと大掛かりなクリエイティブミーティングを行いました。

そこで荻田さんが仰った例を挙げます。たとえばイズミルが、妹をエジプト側に殺された、仕返しをするという場面の曲で、彼は「とても気に入りました。ただイズミルが最初から最後まで怒りを貫くのではなく、彼の気性としては最初はもう少し自分の感情をコントロールしているところから、段階的に気性の激しさを出せないだろうか」と仰った。その言葉からインスピレーションを得て曲を書き換えました。この楽曲以外にも荻田さんはその曲についてどのように考えているのかということを明確に口に出して仰り、それにより私の制作も変わっていきます」
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――具体的な音楽制作についてお伺いします。『レディ・ベス』のときにはケルト音楽の要素を取り入れたりしていましたが、今回こんな要素を取り入れているというようなところがあれば教えてください。

「直接エジプト的なものを引用する形で使いたくはありませんでした。そうでなく音色、雰囲気を使いたいと考えています。
例えば、アルメニアの伝統的な木管楽器でドゥドゥクというものがあるのですが、これは非常に丸みを帯びたメランコリックな音色をもった楽器です。その響きは、トルコ・ヒッタイトをイメージし、イズミルや妹のミタムン(愛加あゆ)が登場する時に使います。ただそれは、私の作った曲自体がトルコ・ヒッタイト的なものになるのではなく、あくまでも要素として使います。
ほかにもセチ(工藤広夢)という若いエジプト人には、パンフルートという楽器を使ったり、ということをしています。

さらに、トルコのウードというギターのようにつまびいて弾くもの、それからハープの一種で中国の楽器、ペルシャのサントゥールという楽器、インドのドルツィアという楽器、この4種類を混ぜ、音色として使ったりもします。そしてパーカッションは中東で大昔から使われている一般的な民族楽器も取り入れます。

また、ルーツという、音域としては中音域から低音域までを出す非常に温かみのある特別な音色を持つ弦楽器と、12弦のギターを組み合わせたものを、メンフィスの楽曲の中に使ったりしています。ただ、これらの楽器は、聴いていて「これはあのサントゥールの音だ」とわかるものではなく、それらの組み合わせである音色を醸し出すような形にします


――リーヴァイさんの作品は色々な国で上演されていますが、この漫画という日本のカルチャーが元となった『王家の紋章』も、同じように世界に広がっていくような可能性は感じていますか?

「もちろん日本で描かれた作品なのですが、これはかなり国際的な側面をもった作品です。たとえばNYの80年代の登場人物がいて、三千年前のエジプトに行き、トルコ・ヒッタイト国も出てくる。"日本的すぎる"という意見が出てくるような作品ではないと思います。まずは帝国劇場の初日を迎えなければいけませんが、私としましては、そのあと、国際的に...ということも期待してますし、私自身できるかぎり色々なところで広報に務めていきたいです(笑)」
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