今年7月に新作ミュージカル『四月は君の嘘』が上演されます。
原作は新川直司による同名マンガで、2014-15年にはアニメ化、2016年には実写映画化もされた人気コンテンツ。
かつて天才少年ピアニストとして注目を集めていたものの、母の死をきっかけにピアノの音が聞こえなくなってしまった有馬公生、同級生であり自由奔放なヴァイオリニストの宮園かをり、公生の幼なじみの澤部椿、友人の渡亮太、この4人の中学生(今回のミュージカル版は高校生になっています)を軸に、音楽家の苦悩と喜び、青春を甘く切なく爽やかに描いていく物語です。
マンガ原作の舞台はいま"2.5次元作品"として花盛りですが、本作は作詞・作曲に大作曲家であるフランク・ワイルドホーン、編曲にジェイソン・ハウランドというブロードウェイの第一線で活躍しているクリエイターを起用。なんだかとっても、制作陣の"本気"が伝わってくるのです!
その"本気の度合い"がさらに伝わってくる現場があると小耳に挟んだげきぴあ。
なんと本作は、事前にワークショップを重ねながら脚本・音楽を作っていく"ブロードウェイ方式"で制作する、というのです。
ブロードウェイでは新作ミュージカルを立ち上げる際、ワークショップで実際俳優たちが歌い・演じながら、脚本・音楽を練り上げていく創作方法をとるのはスタンダード。『RENT』などもワークショップで試行錯誤して作られたのは有名な話です。
日本では興行形態の違いから、そこまでじっくり時間をかけて作り上げることはなかなか難しいのですが(とはいえまったくないわけではありません)、本作はその手間隙かかる方式を採用したことに、制作チームの"本気"を感じずにはいられません。
今回、カンパニーがワークショップにとったのは、9日間。
最終日には1・2幕通しての試演会をやる、というスケジュール。
たいていのミュージカルは、本番1ヵ月~1.5ヵ月前から稽古がスタートしますので、本番の約半年前のこの時点である程度の形が作られるというのはすごいことですね。
......と言ったら、なんと実は、1幕の試演会はさらに1年前(2019年2月)にやっていたとか!すごい。
そのワークショップ&試演会、単独潜入取材をしてきました!
2020年3月、4月に東京と大阪で上演されるミュージカル『アナスタシア』。本作は帝政ロシア時代最後の皇帝ロマノフ2世の末娘で、一族の中でひとり難を逃れたと言われるアナスタシアの伝説をもとにしており、アニメ映画『アナスタシア』に着想を得て制作されたミュージカルです。
2017年にブロードウェイで開幕し、その後世界各国で上演されてきたこの大ヒット作が、ついに日本上陸。そこでマリア皇太后に仕える伯爵夫人リリーを演じる、朝海ひかるさんに話を聞きました。
――本稽古開始から約1週間とのことですが、その感触、手応えのほどはいかかでしょうか?
「初日に全員で歌入り本読みをしましたが、とにかく音楽が素晴らしく、ミュージカルの醍醐味を堪能した、とても感動的な一日でした。その後は3つの稽古場に分かれて芝居、歌、ダンスのレッスンをしていますが、昨日までにもう3分の2が出来たと聞いてとても驚いて! 私の出番は2幕が主なので、自分の知らない間に作品が出来上がっている...って(笑)。1幕の通しをマリア皇太后役の麻実れいさんと見ていたら、麻実さんが『夢を見ているみたいね』とおっしゃるので、『確かにそうですね』と。改めてすごい作品に参加しているなと実感しました」
――そのスピード感ある仕上がりは、やはり海外スタッフのチームワークの良さが大きいのでしょうか?
「チームワークと、やはりすでに世界各国で幕を開けているので、そのノウハウがあり、段取りが完璧に出来ていらっしゃるんですよね。それでいてちゃんと私たちの状態に合わせてスケジュールを組んでくださいますし、何よりこの作品に対する愛情がとても深い。皆さん子供のように思っていらっしゃるというか、『我々のアナスタシアにようこそ!』って感じで。事務的なところは一切ありませんし、『何かやりたくなったらいくらでも相談してね』という懐の大きさもあるんです」
――海外ミュージカルの中には、制約が厳しい作品も多いですよね。
「そうですよね。でもこの作品はとてもフリーですし、逆に私たちが新しい『アナスタシア』を提案していくことが、これからの課題だなと思います」
――音楽が素晴らしいというお話はありましたが、作品全体の魅力とは?
「やはり史実に基づいたところ、おとぎ話過ぎないところだと思います。ロシア革命での貴族の苦労、祖国を思う気持ちなども描いていますし、主人公のアナスタシアも現代の女性に近い、強い女性として描かれている。単純にめでたしめでたしではない、ひとひねり、ふたひねりされた脚本で、お客さまを飽きさせない展開になっているなと思います」
――演じられるリリー、どういった女性として捉えていらっしゃいますか?
「リリーはロシア貴族の伯爵夫人だったのですが、革命でパリに亡命し、皇太后の侍女として働き始めます。そこで皇太后ととても馬が合い、お仕事も頑張っているんですが、週に1度は羽目を外して鬱憤を晴らしたくなる、みたいな(笑)。そしてかつて愛人関係にあったヴラドと再会し、危ない男だとわかっていても、やっぱり恋愛に流されてしまう。まぁ欲求不満だったんでしょうね(笑)。そういうとてもリアルな、人間らしい女性だと思います」
――リリー役には他に、マルシアさん、堀内敬子さんがキャスティングされています。
「全然違う3人ですね。お互い『全然違うね! 同じようにはやれないもんね』ってケラケラ笑っています (笑)。この3人でよかったなと思いますし、他の役の方も、いろんな出自のキャストの方が集められているんですよね。だからそれぞれの役がひとつの型にはまらないで、一人ひとり自分の色が出せれば、きっと面白いものになるんじゃないかなと思います」
――そして先ほどのお話にもありましたが、宝塚歌劇団の大先輩である麻実さんが、マリア皇太后を演じられます。
「私は9年前に『みんな我が子』という舞台でもご一緒させていただきましたが、当時の私にはまだわからないことがたくさんあったと思うんです。麻実さんの持っていらっしゃるものって誰にも真似出来ないもので、どう役を構築されていかれるかなど、そのプロセスをもう一度学ばせていただきたいと思っています。しかも今回はお付きの侍女役。ずっと一緒にいられるので、やった!という感じで嬉しいです」
――前作『ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜』では、麻実さんが少女役にも挑戦されていて驚きました。
「そう! 少女から皇太后まで、もう完璧ですよね(笑)。他になかなかいらっしゃらないと思っています」
――間もなく待望の日本初演が開幕しますが、この舞台からお客さまに、どんな時間を提供出来たらいいなと思いますか?
「ひとつのサクセスストーリーという分かりやすい物語の中に、女性の強さや冒険心、挑戦することを忘れない心、そしてさまざまな人生の教訓が隠れワードのように散りばめられています。見た目の豪華さに圧倒されてそれらのワードは見逃しがちですが、決してそれだけではなく素晴らしい脚本に支えられた作品。お客さまにはぜひそれらを受け取っていただけたら嬉しいですね」
取材・文:野上瑠美子
撮影:源賀津己
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【公演情報】
3月1日(日)~28日(土) 東急シアターオーブ(東京)
4月6日(月)~18日(土) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
【東京公演】
■スペシャルカーテンコール
日本初演開幕記念スペシャルカーテンコールを行います!
対象公演
3/1(日) 17:30
3/2(月) 18:15
3/3(火) 18:15
■終演後アフタートークショー
対象公演
・3/5(木) 13:30 葵わかな×木下晴香
・3/6(金) 13:30 木下晴香×海宝直人×石川禅
・3/9(月) 13:30 宝塚トーク(麻実れい×朝海ひかる)
・3/19(木) 13:30 葵わかな×相葉裕樹×大澄賢也
【大阪公演】
■ウィークデーナイトキャンペーン
対象公演
4/6(月)18:00 大阪公演初日カーテンコール
4/8(水)18:00 ご来場者全員プレゼント
4/15(水)18:00 ご来場者全員プレゼント
4/17(金)18:00 スペシャル抽選会
■終演後アフタートークショー
対象公演
・4/8(水) 18:00 大澄賢也×朝海ひかる
・4/15(水) 18:00 相葉裕樹×内海啓貴×石川禅
※登壇者は急遽変更になる場合もございます。予めご了承くださいませ。
ダイワハウスSpecial 地球ゴージャス十五周年祝祭公演『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』が2020年3月10日(火)から舞浜アンフィシアター、5月3日(日・祝)からフェスティバルホールで上演される。
2009年に地球ゴージャス10作目の公演として上演された本作だが、岸谷五朗・寺脇康文以外の全キャストを新たにし、新演出版で上演される。岸谷自ら脚本を書き直し、初演よりミュージカル要素がアップ。歴史の大きな渦に巻き込まれた人間たちの生き様を描いたファンタジー作品が、よりエンターテインメント性を高め、蘇る。
開幕1ヶ月前となる2月10日(月)、都内で稽古の一部が披露された。約100人ほどの報道陣が集まり、注目度や期待度の高さを伺わせた。
まずは、フォトセッションからスタート。岸谷の掛け声に合わせて、出演者らは「ゴージャズポーズ」なるオリジナルのポージングで撮影に応じる。すでに出演者同士の息はピッタリ。仲の良さや一体感が感じられた。
▽ポーズを決める出演者の皆さま。息ピッタリで、かわいい・・・!
続いて、出演者が挨拶した。
今作の主役で、記憶をなくした青年・シャチ役を演じる新田真剣佑。昨年の地球ゴージャズプロデュース公演Vol.15『ZEROTOPIA』に続いての出演で、今作が舞台初主演となる。
新田:思ったよりも(報道陣の数が)多くてどうしようかなと思っております。(稽古場披露の際に)結構前の方に行くので、もし斬ってしまったらごめんなさい(笑)。少ない稽古時間のなか、必死でみんなで仕上げました。ぜひ楽しんでいただけたら、多くの方々に見ていただけたら嬉しいです。とにかく今日は頑張ります、よろしくお願いします。
岸谷:少ない稽古でと言いましたが、稽古自体は1月6日からやっています。(初日まで)2ヶ月たっぷりやらせていただきますので、完成度の高いダンスが見せられると思います。真剣佑は忙しくて、時間がなくて、いつも稽古場に来たいと言っています(笑)
▽新田真剣佑さん
続いて、シャチが出会う神の子を宿した女性・ステラを演じるのは、数々の大作ミュージカルでヒロインを務め演劇賞も多く受賞している笹本玲奈。
笹本:憧れ続けていた地球ゴージャスさんに参加できることをすごく嬉しく思っております。ありがとうございます。初めて脚本を読ませていただたいた時に、すごい作品だなと思いました。
岸谷:脚本は私が書いております、ありがとうございます!
笹本:すごく大きなテーマ、メッセージを直接的に訴えかけている、数少ない作品だと思います。上演するのは日本なんですけども、世界に向けて発信するつもりで、今回やりたいなと思います。どうぞ見に来てください。
▽笹本玲奈さん
▽笹本さんに褒められて喜ぶ岸谷さん
次は、岸谷とともに地球ゴージャスを結成し、本作では島の住人・ザージャを演じる寺脇康文。
寺脇:今回は舞浜のアンフィシアターという、エンターテイメントをやるにはバッチリな劇場なのですが、都心の方からすると、ちょっと遠いイメージがあるかもしれないですね。でも、ディズニーランドの隣ですからね。向こう(※ディスニーランドのこと)も人気キャラクターがたくさんいますけれども、こちらも勢ぞろいでございまして...。マッケンマウス(新田真剣佑)、ササモトシンデレラ(笹本玲奈)、ドナルドマッツー(松本利夫)、森の久美のプーさん(森公美子)!...舞浜ですが、ディズニー行く感覚で見に来てくださったらと思います。
▽寺脇康文さん
▽寺脇さんのコメントに一同大爆笑!!
最後に、実力派男優でありながら、数多くの舞台で演出を手掛けるなどマルチな活躍を見せる岸谷五朗。シャチと一緒にタバラの島へ流れ着いた倭人・トド役を演じる。
岸谷:キャスト・スタッフ一同、このエンターテイメントに懸けております。すごい劇場です、舞浜アンフィシアター。そして大阪は僕らが大好きなフェスティバルホールです。今、過激な稽古をして、最高のエンターテイメントを作るためにみんなで一丸となって頑張っています。ぜひ劇場に足を運んでいただきたいと思います。ありがとうございます!
▽作・演出も務める岸谷五朗さん
そのほか、EXILEのパフォーマーを卒業後も多くの舞台や映画で活躍する・松本利夫、今作で2度目の地球ゴージャス参加となる元宝塚歌劇団星組トップスター・湖月わたる、同じく元宝塚歌劇団雪組トップ娘役・愛加あゆ、若手舞台女優として頭角を現し今後を期待される島ゆいか、圧倒的な歌唱力・存在感・パフォーマンス力を持ち合わせる森公美子も参加した。
続いて、歌とダンスパートを中心にした4曲が披露された。
2月11日(火・祝)より東京芸術劇場プレイハウスにて『ねじまき鳥クロニクル』が幕を開けた。村上春樹の大作を原作に、イスラエルの振付家であるインバル・ピントが演出・振付・美術を手がけ、さらにアミール・クリガーと藤田貴大(マームとジプシー)が脚本・共同演出として携わる。1月、都内の稽古場を訪ねた。
大友良英率いる音楽チームの生演奏にのせて、稽古が進んでいく。岡田トオルを演じるのは成河と渡辺大知。二人で一役というキャスティングだ。二人は度々言葉を交わしながらタイミングをあわせている。臆することなく演出陣に「トライしてみていいですか?」と相談する渡辺の笑顔が場を和ませる。笠原メイを演じる門脇麦の美声が稽古場に響く。銀粉蝶の華やかさ、吹越満の存在感、場を彩るダンサーたちのなめらかな動き......。場面が変わるたび、別の場所に連れていかれるかのようだ。
共同脚本として作品に携わる藤田に話を訊いた。
「今回はインバルとアミールが考えていることを日本語を使って、日本人のリズムで体現していくのが僕の仕事だと思っています。村上春樹さんの小説が、遠くイスラエルのインバル・ピントという振付家の手元に渡り、彼女によって解釈され、演出されて舞台作品になる。そのことがまず、すごく感動的なことだと思うんです。しかもそれを言葉ではなく、身体でやろうとしている。そこに僕が日本語でどう言葉を配置していくかを考えて、適切な言葉を選んでいく」
単行本3冊分の大作を、2時間ほどの演劇にする。脚本づくりの段階で、3人の演出家は密に話し合いを続けてきたのだという。
「1年くらいSkypeで相談しながらプロットを組み続けてきました。原作はほんとうにいろんな読み方ができると思うんですよ。その、ひとつの答えに収束しない感じ、『わからなさ』も重要だと思っています。その『わからない』ことに取り組む姿勢がインバルにはある。春樹さんが書いていないことまで勝手に答えを見つけようとせずに描こうとしているところです」
セリフそのもの、展開そのものを忠実に追うこと以上に、このカンパニーは小説を読んだときの感触を舞台上に再現しようとしている。
「『ねじまき鳥クロニクル』って、作品のなかでいろんな国や世界に飛んでいく。その状況を、このいろんな国からクリエイターが集まった企画自体が体現しているから描けることがあると思います。たとえばもし僕が一人で脚本と演出をやって、日本人のスタッフとキャストで作っていたら、たぶん作る前から想像できるものになってしまう。いまはヘブライ語と英語と日本語が飛び交って、ふつうの2、3倍も時間がかかる作り方をしている。けれど、このややこしい作り方だからこそ、表現できるものがある気がしています」
新国立劇場バレエ団『マノン』の上演にあたり、人気コラムニストの辛酸なめ子さんが、今回の公演でデ・グリュー役に初めて挑戦する井澤駿さんへインタビュー!!
『マノン』に向け絶賛リハーサル中の井澤駿のプリンシパルライフに、辛酸さんならではの独特な視点で迫っていただきました!
現代の王子様? プリンシパルの品格
<文=辛酸なめ子> 撮影=阿部章仁
「マノン」で魔性のヒロインと恋愛を繰り広げる神学生デ・グリューを演じるプリンシパル、井澤駿さん。レッスン帰りの井澤さんに、ベールに包まれたプリンシパルライフについて伺いました。
バレエダンサーということもあって、背が高くシュッとして、貴公子のような雰囲気。2月下旬に本番を控えた今は、毎日朝から夕方まで稽古場で練習の日々だそうです。
「さっきまで振付を覚えていました」と、熱気の余韻が残る表情でおっしゃる井澤さん。素人からすると振付はメモするのも難しいし、どうやって覚えるのか想像つかないですが......。
「今は振付指導の方が来ているんですが、だいたい2週間で仕上げます。踊り込んで自分のものにするにはまだ時間がかかりますが、今はとにかく振りを覚えて、体に入れ込む作業をしていきます。踊りながら音と動きを体に入れていく形ですね」
「踊り込む」とかはじめて聞く動詞です。振りを忘れてしまうことはないのでしょうか?
「覚えている段階ではたまにありますね。次の動き、なんだっけな、と。ただ体で覚えてしまうとあとは勝手に動いてくれるんです。まだ頭で考えながら踊ってる段階なので、ときどきまちがえたりします。でも本番では忘れることはありません」
ピアノでもダンスでも体が覚えてしまう段階まで練習するのがプロなんですね。若いから記憶力も良さそうです。
「バレエダンサーは踊っていられる寿命が短くて、15、6年くらいでしょうか。そのあとはキャラクターの役柄を演じられる人、振付家になる人や指導者になる人もいます」
プロフィールを拝見したら、井澤さんは今はプリンシパルとのことで、バレエの世界ではランクはどんな感じなのでしょう。
「僕はソリストから入団させてもらいました。新国立劇場バレエ団のランクでいうと、まずアーティストがあって次にファースト・アーティスト、ソリスト、ファースト・ソリスト、プリンシパル、という段階になります。年齢ではなく実力によってランクが変わります」
映画みたいに役を巡って熾烈なバトルがあったりするのでしょうか。
「ライバル心を持っている人もいると思いますが、皆、役をめぐって努力する、お互い切磋琢磨している仲間たちです。新国立劇場バレエ団は皆、仲がいいです。環境が良いからでしょうか。日本では劇場を持っているバレエ団はなかなかありません。レベルの高いダンサーを起用したり、舞台装置を入れられるのが新国立劇場バレエ団の強みです」
環境が良いと、人間関係も円満になるというのはわかります。新国立劇場は来る度にすごく立派できれいな建物で、楽屋食堂もあったりして充実しているのが伝わってきました。マクミランさんという振付家は『ロメオとジュリエット』でも濃厚な男女の愛を演出していましたが、特徴的なものがあるのでしょうか。
「振付指導の方は『ロメオとジュリエット』と同じなのですが、パートナーを本気で愛しなさいとおっしゃいます。できる限り一緒にいて食事を共にしたり、一緒に暮らすくらいがベストだと言われました。演技というより本当に愛し合わないと出てこないものがあり、関係を深めて二人の世界を作っていく。マクミランの振付作品は、お客さんに向かって踊っていないんです。箱の中で起きていることをお客さんが上から見ている感覚。自分の中で起きている物語を表現するんです」
それは、男女の恋愛をのぞき見できるみたいで高揚します。見にいきたい気持ちが急激に高まってきました。パンフの写真を見るだけでも、二人の見つめ合い方に本気が感じられるような......。お互いに実生活で彼氏や彼女がいたり心配かもしれませんが、役が終わったら恋愛感情も抜けていくのでしょう。
ちなみに『マノン』は小説「マノン・レスコー」にも書かれている有名な魔性の女性ですが、魔性の女性に対して怖さとかはあるか伺うと...。
「本気で好きになったらちょっと傷付きそうですよね」と、さわやかな笑顔でおっしゃる井澤さん。なんとなく危ない橋は渡らなさそうな手堅さが感じられます。
「『マノン』は人間の欲望がつまった作品だと思います。愛もお金も欲しかったり。ちょっとドロドロしてますけど、人間ってこういう生き物なのかと考えさせられます」と、冷静に分析しています。
マノンは愛と富、両方とも手に入れようとしていましたが、井澤さんは愛と富、どちらが大切でしょうか。そう伺うと、井澤さんはしばらく上を見つめて考えたあと、
「お金も大事ですけど、愛もないとさみしいですよね。僕は自分が死ぬ時のことをよく考えるんですけど、さみしく死にたくないな、っていう思いがあって。僕はやっぱり愛の方を取るかもしれない」と、答えられました。若いのに自分の臨終シーンまで考えていらっしゃるとは。話を聞くと、食生活や体調管理にかなり気をつけているそうなので、まだまだ臨終シーンまでは先が長そうです。
ちなみにそんな健康的な井澤さんの趣味は、燻製を作ることと、植物公園や深大寺など自然の中を散歩することだそうです。いろいろ伺って、やはりプリンシパルの品格が保たれているというか、俗な要素はほとんど感じられませんでした。そんなクールな井澤さんが、舞台で濃厚な恋愛に溺れるギャップ感をぜひ鑑賞したいです。
江戸川乱歩の8本の短編を、作・演出家の倉持裕が卓越した構成力で見事舞台化した2017年の『お勢登場』。
この舞台で鮮烈な印象を残した悪女・お勢がふたたび私達の目の前に現れることに。
その最新作『お勢、断行』の稽古初日の現場に潜入。
当日の様子をお届けします!
まずは、出演者とスタッフが勢揃いした顔合わせから。
初日ということもあり、稽古場はちょっと緊張ムード?
本作の出演者は、前作『お勢登場』にも出演した梶原善さん、千葉雅子さん、粕谷吉洋さんをはじめ、倉持作品に出演経験のあるキャストが多いのが特徴のひとつ。
今回お勢役を演じる倉科カナさんも、『誰か席について』(2017年)で倉持演出は経験済み。
倉持組初参加の上白石萌歌さんの隣に座り、小声で時折楽しそうに会話をしています。
(緊張をほぐしているのかもしれませんね!)
▲作・演出の倉持裕さん
顔合わせでは、制作スタッフからひとり一人が紹介され、最後に倉持さんが挨拶。
作品についての意気込みを語るのかと思いきや、淡々とした口調で「階段が多いストーリーなので、足腰鍛えてください」と一言。
稽古場全体から笑いが漏れ、一気に和やかなムードに変わりました。
顔合わせと本読みの合間の休憩時間になると、途端に賑やかになりました。
あちこちから「久しぶり~!」という声が聞こえます。
やっぱり、顔合わせ前は皆さんちょっと緊張されていたんですね......。
短い休憩の後、さっそく本読みがスタート。
「華」と「実」を兼ね備えた歌舞伎俳優たちが各地の劇場を巡り、よりすぐりの歌舞伎舞踊を披露する『伝統芸能 華の舞』が2020年3月、東京含めた全国10カ所17公演が行われる。
主演の市川右團次は古典歌舞伎から新作歌舞伎まで幅広く演じ分け、ドラマ『陸王』等の映像作品でも活躍。ドラマ『ノーサイド・ゲーム』に出演した長男・市川右近とはラグビー・ワールドカップの開幕式で舞踊『連獅子』の一部を披露。今回はこの舞踊を通しで上演する。
この他、市川海老蔵一門の市川九團次と大谷友右衛門の次男・大谷廣松が、椀屋久兵衛と恋人である遊女・松山の幻想の中での逢瀬を描く舞踊『二人椀久』を、市川右團次一門の市川右若、市川右左次、市川右田六が、吉原を訪れた放生会の雀売りの楽しい踊り『吉原雀』を舞う。性質の異なる三演目を通して、歌舞伎舞踊の幅広さ・奥深さを体感することが出来そうだ。
市川右團次インタビュー
"日曜劇場親子"の奮闘をぜひ応援しに来てください
――右團次さん・右近さんと言えば世間的にはやはりTBSドラマでの印象が強いかと思います。
「『陸王』に出た時は、"シューフィッター"とよく声をかけられました(笑)。息子も同じ福澤克雄監督の『ノーサイド・ゲーム』でお世話になりましたが、或るシーンで、台本に書いていないのに、ぽろっと涙をこぼしたんです。聞けば、父親役の大泉洋さんの演技に感動したって。そういうふうにパンとスイッチが入ることは、歌舞伎俳優にとっても大切なこと。いい勉強をさせていただいたなと思っています」
――そんなお二人が今回初めてご一緒に、日本各地を巡業されます。
「息子にとってもいい修業になるんじゃないかな。僕はブログをやっているのですが、"近くに来てくれるので、やっと生の舞台を観られます"というコメントを幾つかいただいています。チケット代も比較的リーズナブルなので、ぜひ"日曜劇場親子"を応援しに来て下さい(笑)」
――共演するのは、ラグビーのワールドカップ開幕式で初披露した『連獅子』です。
「開幕式のお話をいただいた時、息子は9歳。体力的にも大変な仔獅子をこなせるのか、実際歌舞伎界でそんなに小さくして踊った例もなかったので、無理なんじゃないかと思いましたが、ワールドカップ2019の公式マスコットがレンジ―という紅白の獅子で、雄雌のカップルの獅子だと思っている方が多くて、ぜひ親子だと知ってほしいというお話で、かくなる上はということで挑戦しました。息子は頑張ってくれましたね。親馬鹿ですが(笑)、芝居のことになると好きだから頑張る子なんですよ」
――今回は抜粋したものではなく通し上演ですね。
「通しですが、お客様が分かりやすいように少し抜いている部分もあるので、退屈するところはないと思います。前半は狂言師として、獅子が我が子を千尋の谷に突き落として子供が這い上がってくる様を踊りで物語ります。親は子を思い、子は小川に映る親の姿に力をもらって登る。僕自身、かつて仔獅子を演じた時は、しんどくても浄化されるものを感じましたね。歓喜の舞でもあるし、文珠菩薩を護る獅子なので、おめでたい舞でもあります。そして後半は獅子の姿で、親子が戯れながら皆さんご存じの毛振りをします。なかなか"生"で見ていただく機会はないと思いますので、それも含めて楽しんでいただけたら」
――今年はオリンピック・イヤーで世界の目が日本に向くかと思いますが、歌舞伎のどんな面をアピールしたいですか?
「歌舞伎は世界にも類をみない文化で、絢爛豪華なものもあれば、民衆の暮らしを描いたものもあるし、最近はアニメも歌舞伎化しています。歌舞伎にはもともと魑魅魍魎や人にあらざるものが登場していて、この多様性がいろいろな表現を可能にしているのです。古典とはいえ、時代を超えて普遍的なテーマを含んでいるのが歌舞伎。同時代の方たちと何かを共感できるよう、今の時代にアンテナを立てながら演じていきたいです」
伝統芸能 華の舞
■演目
一、『吉原雀』 市川右若、市川右左次、市川右田六
二、『二人椀久』市川九團次、大谷廣松
三、『連獅子』 市川右團次、市川右近
■日程
3月10日(火)福岡:大濠公園能楽堂
3月11日(水)鹿児島:宝山ホール(鹿児島県文化センター)
3月12日(木)宮崎:メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)
3月14日(土)大阪:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
3月15日(日)神奈川:関内ホール
3月16日(月)千葉:習志野文化ホール
3月17日(火)東京:北とぴあ さくらホール
3月19日(木)宮城:トークネットホール仙台(仙台市民会館)
3月24日(火)神奈川:小田原市民会館 大ホール
3月25日(水)愛知:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
「時代を敏感に感知する新たな創作者を受け入れるための、1つの宣言」と、2020年のラインナップより、公募制を導入した東京・本多劇場。そこに、現役大学生の「劇団あはひ」が選出され、史上最年少で本多劇場の舞台に立つ。
2018年に早稲田大学で旗揚げし、落語や能など、古典を下敷きとした作品を中心に活動を行う同劇団。2019年3月に上演した第2回公演『流れる-能"隅田川"より』が、〈CoRich 舞台芸術まつり!2019春〉で全国86作品の中から学生団体として初のグランプリを受賞した。
今回、本多劇場で上演する『どさくさ』は、落語の『粗忽長屋』をベースにした作品で、2018年の旗揚げ公演で上演。作・演出の大塚健太郎は、『粗忽長屋』のオチのセリフにひときわ惹かれたという。「抱かれているのは確かに俺だが、抱いてる俺はいったい誰だろう?」。『どさくさ』のシチュエーションコメディのような、不条理劇のような展開は、次第に落語に接近していく。舞台上で役を演じる彼らは、一体何者だろうか...。古典芸能である落語を演劇に持ち込み、生と死の曖昧さ、人間の自己存在の危うさに迫った処女作が、新脚本、新キャストにより生まれ変わる。第4回公演にして本多劇場の舞台に立つ期待の若手劇団をお見逃しなく。
劇団主宰、作・演出の大塚健太郎コメント
『粗忽長屋』は行き倒れの死体と対面し、ついには彼を自分自身だと勘違いしてしまう粗忽者を描いたナンセンスな噺で、ひときわ私が惹かれたのはサゲ(オチ)のセリフだった。「抱かれているのは確かに俺だが、抱いてる俺はいったい誰だろう?」
そしてその後、私たちは、能『隅田川』、シェイクスピアの『ソネット集』をそれぞれ演劇化した。振り返ってみると、どれも生と死、過去と現在の「あわい」にしか存在できない人々を描いているという点で共通している。
もう一度『どさくさ』に立ち返ってみたい。生きたまま死んだ粗忽者を前にして私たちは、彼のことをただ笑って済ます事を、まだできていない。
公演は、2月12日(水)から16日(日)、下北沢本多劇場にて。
※大塚のコメントは全てチラシより引用&抜粋
「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧な眩さ」を掲げ、1996年に結成されたダンスカンパニーDAZZLE(ダズル)。ストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合した独自のダンススタイルを武器に、これまで数々のダンスコンクールで優勝の栄冠を獲得。さらに、ファジル国際演劇祭での審査員特別賞・舞台美術賞の二冠獲得を始め、世界の演劇祭でも受賞暦を重ねている。そんな輝かしい功績を持つDAZZLEのカンパニー結成に至った経緯から、新作公演「NORA」のみどころまで、主宰の長谷川達也さんと飯塚浩一郎さんにお話を伺った。
─DAZZLEとはどのようなカンパニーなのでしょうか?
長谷川 今年で結成から24年目を迎えるダンスカンパニーです。元々はストリートダンスの世界で名をあげたいと思い結成したのですが、当時はストリートシーンで抜きんでた存在になるのは容易ではありませんでした。そこで、色々考えた末に独自性が重要なのではないかと思い、物語を軸にしたダンスパフォーマンスを長尺の舞台として披露するというスタイルをとるようになったんです。
─ストリートダンスを長尺の舞台で魅せるのは、かなりの挑戦だったのでは?
長谷川 そうですね。でも踊るだけではなく、音楽であるとか、ファッションや空間や照明、美術であるとか、そういった要素を組み合わせると無限に可能性は広がっていきますよね。その選択の仕方で自分たちらしさを見出していけると考えたんです。とはいえ、ストリートダンスというのは見ていて高揚感はあるものの、長尺で魅せるには難しいことは早い段階で気づきまして、コンテンポラリーダンスの芸術性を組み合わせることでそれが叶うと辿り着きました。
飯塚 僕はDAZZLEが初めて長尺の舞台公演をやるというタイミングでカンパニーに加わったのですが、一番の魅力だと感じたのはダンスに関する考え方の違いでした。ストリートダンスはダンスそのものが目的ですが、DAZZLEは踊ることによって何を伝えるかが重要なんです。その一つとして、物語のキャラクターになり、ダンスを感情表現として取り入れるというスタイルをとっているのですが、これが面白いなと。これならばダンスが好きな人だけではなく、ダンスを知らない人にも見てもらえますよね。
長谷川 そうなんです。結成当初からダンサーとしてだけではなく、アーティストとしても活動していきたいと思っていましたので、これまで通りダンスが好きな人だけに向けて踊るだけではダメだと思ったんですよ。より多くの人に共感してもらうために、ダンスを知らない人にもダンスの魅力を伝えたいという想いが強くなって、違う方向にも視野が広がっていった結果が独自性にもつながりました。
─結成から24年が経つと、お客様にも変化があったのでは?
長谷川 そうですね。最初はダンサーに向けて踊っていましたので、お客様もダンサーがメインでした。それが今ではダンスは知らないけれど舞台は好きという方が興味を示してくださって、今ではダンスを知らない人の方が多くなりました。
飯塚 確かに、以前はダンスが上手い人の踊りが観たいという人が多かったのですが、今は自分も舞台に出たい、もしくは自分も舞台を作りたいと考えている方も多いと感じています。
─これまでにはないジャンルですから、多くの人が興味を持たれるのもわかります!
長谷川 はい。より多くの人の心が動く表現を目指して活動していますので、その思いが伝わっているのなら嬉しく思います。
─さて、3月に行われる新作「NORA」ですが、どのような舞台なのでしょうか?
長谷川 未来の東京をイメージしたお話です。規律が厳しくなった社会構造の中で人々が抑圧されながら生きている現実世界と、それとは対極する非現実的なオンラインゲームの世界があって、その2つの世界が主軸になっています。このゲームというのが配信停止のいわくつきのゲームで、そのゲームは誰が何の目的で作ったのかという謎に迫る物語です。
─オンラインゲームをテーマにした理由は?
長谷川 僕自身がゲームが大好きということもありますが、抑圧された世の中でオンラインゲームってそれを解放できる場所なんですよ。それが面白かったり、恐ろしかったりというのを僕自身が感じていて。例えばゲームの世界なら人を殺しても、銃を打ちまくってもいいですよね。そういう本能を解放する場所というところに魅力を感じてテーマとして取り入れました。
─今回はマルチストーリーということですが、舞台で実現するというのは珍しい試みですよね?
長谷川 そうですね。僕も見たことはありません(笑)。ゲームの場合はキャラクターを人が操るわけですが、舞台の場合は人が人をコントロールします。この面白さだったり、恐ろしさを体感する中で、何か感じるものがあったら面白いかなって思って挑戦してみようと思い立ったんです。
飯塚 3年前からイマーシブシアター(体験型公演)という、建物のいたるところで演者が動き、観客もそれについてまわるという、観客と演者が一体になる作品を作ってきたのですが、舞台上でもそれに近い感覚のものが作れるとまた、舞台作品というものが新たなステージに行けるのではないかと思ったんです。一番は、観客を傍観者ではなくしたい、と思って。自分はこっちだと思うんだけど、違う選択をする人もいて、その度に自分が否定されたり肯定されたりっていう多数決の中で、観客の皆さんもきっと傷ついたりとか「あ、自分は多数派だったんだ」という思いが起こる舞台はなかなかないと思うので、今回の作品で新しい体験をしてもらえると思います。
長谷川 前作(20周年記念公演「鱗人輪舞」)では選択は結末だけでしたが、その選択肢を増やしたのが今回の作品です。従来の舞台では主人公の選択に対して観客が干渉することはできなかったのですが、今回は観客が選んだ道に主人公が進んで行く、しかもリアルタイムに物語が変化していくというのが面白いのではないかと。ゲームなので、誤った選択をするとゲームオーバー...とまでは行きませんが、あらぬ方向に進んでいくという仕掛けがあります。
─では、エンディングもグッドエンドとバッドエンドが存在しているんですか?
長谷川 はい。いくつかの分岐点がありますので、観客の皆様の選択次第で主人公の運命が変わってしまいます。
─ますます面白そうですね!
長谷川 その分、もしかしたら選ばれないシーンもあるかもしれませんが、なんども足を運んでいただき、全てのシーンをご覧いただけると、作り手としてはそうあってほしいという思いはあります。
飯塚 でも練習は地獄です(笑)。
長谷川 練習量は倍どころではないですからね。でも挑戦には痛みが伴うものですし、それを乗り越えることで新しい表現が見つかるかもしれないし、舞台の世界の可能性が発見できると考えているんです。もし世界で初めてだったら凄いことだし価値があることですから!
─そもそも舞台鑑賞は映像作品にはない没入感が楽しめるものですが、またそれとも異質な興奮がありそうですね。観客も翻弄されるというのも是非体験してみたいです。
長谷川 ぜひ。刺激を得るというのは感覚を豊かにしていく行為ですから。例えば、動物図鑑を見るのか、実際に動物を見るのかくらいの違いがあると思うんです。動物図鑑は視覚的な情報しかないですが、実際の動物園に行くと匂いや音や温度とか色々な情報が入ってきますよね。人生を振り返って、どちらが印象に残っているかといえば、実際に動物園にいった記憶だと思うんです。それは刺激の量が多いから。
飯塚 2つは似ているけれど、全く違うものだと思います!
長谷川 今は在宅のまま楽しめるコンテンツが充実していますから、ますます舞台を観に行くハードルは上がっているとは思うんですが。そんな時に、舞台へ行く重要性、面白さというのは、人間が生で踊っていたり演じていることのエネルギーを感じたり、そういったものを刺激として得られるというのは感覚がより豊かになると思うんです。そういう意味でも価値があることだと思うので、だからこそ観に来てほしいなと思います。
─これまでの舞台でも様々な分野のゲストが出演されていますが新体操グループのBLUE TOKYOがご出演されるとのこと。コラボに至った経緯は?
長谷川 実はBLUE TOKYOの結成当社から作品の振り付けを僕が担当しているんです。以前、青森で開催された「BLUE」という新体操の舞台の演出を担当させていただいたのですが、そこで物語と新体操を掛け合わせるというおそらく世界初の試みに挑戦したことがあったんです。そこで世界最高峰の身体能力を誇る彼らの迫力と美しさを目の当たりにしまして、彼らが参加することで、例えるなら平面が立体になるくらいの変化が出てもっと面白い舞台が作れると思い、出演をお願いしました。
飯塚 僕らは振りが揃っているとか、動き自体が美しいことを考えながらダンスをしてきたんですが、彼らはまた違う形の美しさを持っていて勉強になる部分と真似できない魅力もあって。だからこそ一緒にやる価値があると思っています。
─一見、新体操とダンスには交わりにくいものに感じるのですが、これまでの信頼関係で乗り越えるというか、融合しているところが大きいのでしょうか?
長谷川 最初に新体操と一緒にやると決まった時に、とにかく新体操の演技をたくさん観たんです。DAZZLEの舞台構成は緻密に人の配置を動かしていくのですが、そこに共通するものを感じて「あ! 合うんじゃないか!」と、すぐに感じました。実際にスタートしてみたら、彼らは演技に対する精度が物凄かったんです。僕たちはそこまでの精度のものはできないけれど、舞台に立つものとしての演じる想いは強いので、そこを融合させて、彼らが『演じる』ということを獲得したらもっと高いクオリティーの作品ができると思ったんです。
─想像ができないのでとにかく早く観たいという思いが高まりますね!
飯塚 ありがとうございます。昨年はDAZZLEで浅田真央さんのフィギュアスケートの振り付けもしたのですが、それもいい経験になりました。そもそもスポーツとダンスは身体能力の高さという点では共通していますし、今後は競技とエンターテインメントの融合というのが、もっともっと面白くなっていくんじゃないかなと思っています。
─最後に『NORA』の見所を教えてください。
長谷川 最高の身体能力を誇るBLUE TOKYOが参加してくれるというのは大きな見所の一つですし、マルチストーリーや、感情を揺さぶる物語性も見所になっています。観客の皆様の選択次第で物語が分岐していくという世界でも稀有な作品になると思うので、皆様にも、ぜひ体験していただきたいと思います!
飯塚 DAZZLEのダンスが他と違うのは、そこに伝えたい想いがあること。物語やキャラクターの感情を伝えることプラス、メンバー自身、自分に中にあるものを踊りとして表現することをすごく大事にしています。だからこそ、言葉の通じない海外でも想いが伝わっているのだと実感していますし、それが僕らの舞台の見所だと思っています。みなさんの心を動かすためにダンスしていますので、ダンスを知らない人、見たことがない人もぜひ観に来てください。
ダンスの躍動感、心を刺激するストーリー。この2つの要素が着火剤となって観るものを興奮の炎に包みこむDAZZLEの舞台。ダンスに興味がない人でも不思議と虜になってしまう魅惑的な世界観に、今回さらに新体操とマルチストーリーという要素も加わり、天井も底も見えないほどその魅力は無限大に広がっているように感じた。
新作「NORA」は、観客をただの傍観者にさせないアグレッシブな体験型舞台。自分さえ知らなかった自分の本能があけすけになるかもしれないスリリングな経験をぜひ多くに人に味わっていただきたい。
取材・文・撮影:浅水美保
大阪公演を経て、2月1日には東京公演初日を迎えた『CHESS THE MUSICAL』。
チェスの世界大会を舞台に、米ソ冷戦という時代背景に翻弄されている人々のドラマを描き出すミュージカルです。
今回の上演ではラミン・カリムルー、サマンサ・バークス、ルーク・ウォルシュ、佐藤隆紀(LE VELVETS)をメインにした日英精鋭のキャストが、ベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァースというABBAのふたりが生み出した珠玉の音楽に溢れるこの作品を素晴らしい歌唱力で歌い上げ、客席も大盛り上がり!
東京公演が開いたばかりの2月2日にはラミン・カリムルー&ルーク・ウォルシュ&佐藤隆紀によるアフタートークが開催されました。
その模様をレポートします!
劇中ではソ連のチェスチャンピオン、アナトリーを演じるラミンさん。
文句なく、いま世界トップクラスの実力&人気を持つミュージカルスターです!
まずは日本語で「こんばんはございます。きてくれてありがとうございます。あいしてる」とご挨拶し、客席も大盛り上がり!
「毎日毎日楽しく過ごしています。毎回、公演をするたびにちょっと寂しくなる。ひとつショーが減ってしまう、そしてまた帰国する日が近付いているなって思って」と現在の心境を。
▽ ラミン・カリムルー
アメリカ代表にしてディフェンディングチャンピオン、フレディを演じるのはイギリスの新星、ルークさん。
「来てくださってありがとうございます。そして(アフタートークに)残ってくださってありがとうございます。今日のお客さまが最高だったと思います!」とご挨拶。
さらに「大阪も大好きですが、東京も好きです。そして本当に昨日(初日)の観客の皆さんが素晴らしかった。たくさん歓声をいただき、キャストも興奮しました。でも今日のお客さまも同じく素晴らしかった。私たちが本当にいい作品だと思って作り上げたものを、このようにご覧いただいてありがとうございます」と話します。
ルークさん、このアフタートーク中、多方面に「感謝」を述べていらっしゃいました。人柄がにじみでますね。
▽ ルーク・ウォルシュ
チェスの審判(アービター)役は、日本から佐藤隆紀さん。
ラミン&ルークのご挨拶の流れで英語で「Ladies and gentlemen,Thank you,I Love you」と英語でご挨拶をし、「本当に今回、アンサンブル含め日本勢も頑張っていて、1月3日頃かな、僕がまだセリフも半分くらいしか覚えていなかったときに、アンサンブルの皆さんが歌詞を暗譜して振付している動画が送られてきて、めちゃくちゃ焦りました。そこから寝られない日々が続きました......。でもみんなの「頑張ろう」「いいものを作ろう」という意識が、この作品を良いものにするパワーになったんじゃないかなと感じています」と現在の気持ちを。
▽ 佐藤隆紀