2月11日(火・祝)より東京芸術劇場プレイハウスにて『ねじまき鳥クロニクル』が幕を開けた。村上春樹の大作を原作に、イスラエルの振付家であるインバル・ピントが演出・振付・美術を手がけ、さらにアミール・クリガーと藤田貴大(マームとジプシー)が脚本・共同演出として携わる。1月、都内の稽古場を訪ねた。
大友良英率いる音楽チームの生演奏にのせて、稽古が進んでいく。岡田トオルを演じるのは成河と渡辺大知。二人で一役というキャスティングだ。二人は度々言葉を交わしながらタイミングをあわせている。臆することなく演出陣に「トライしてみていいですか?」と相談する渡辺の笑顔が場を和ませる。笠原メイを演じる門脇麦の美声が稽古場に響く。銀粉蝶の華やかさ、吹越満の存在感、場を彩るダンサーたちのなめらかな動き......。場面が変わるたび、別の場所に連れていかれるかのようだ。
共同脚本として作品に携わる藤田に話を訊いた。
「今回はインバルとアミールが考えていることを日本語を使って、日本人のリズムで体現していくのが僕の仕事だと思っています。村上春樹さんの小説が、遠くイスラエルのインバル・ピントという振付家の手元に渡り、彼女によって解釈され、演出されて舞台作品になる。そのことがまず、すごく感動的なことだと思うんです。しかもそれを言葉ではなく、身体でやろうとしている。そこに僕が日本語でどう言葉を配置していくかを考えて、適切な言葉を選んでいく」
単行本3冊分の大作を、2時間ほどの演劇にする。脚本づくりの段階で、3人の演出家は密に話し合いを続けてきたのだという。
「1年くらいSkypeで相談しながらプロットを組み続けてきました。原作はほんとうにいろんな読み方ができると思うんですよ。その、ひとつの答えに収束しない感じ、『わからなさ』も重要だと思っています。その『わからない』ことに取り組む姿勢がインバルにはある。春樹さんが書いていないことまで勝手に答えを見つけようとせずに描こうとしているところです」
セリフそのもの、展開そのものを忠実に追うこと以上に、このカンパニーは小説を読んだときの感触を舞台上に再現しようとしている。
「『ねじまき鳥クロニクル』って、作品のなかでいろんな国や世界に飛んでいく。その状況を、このいろんな国からクリエイターが集まった企画自体が体現しているから描けることがあると思います。たとえばもし僕が一人で脚本と演出をやって、日本人のスタッフとキャストで作っていたら、たぶん作る前から想像できるものになってしまう。いまはヘブライ語と英語と日本語が飛び交って、ふつうの2、3倍も時間がかかる作り方をしている。けれど、このややこしい作り方だからこそ、表現できるものがある気がしています」