――この作品に向かう今の気持ちを教えてください。
石丸 4年という時間は舞台俳優にとっては、ある意味、長い。その間、多くの作品に接していますから。だから、ゼロに戻って新鮮な気持ちでスタートできるかと。今回、実咲さんと矢崎広さんが新しく参加されて、全く違うものが生まれるだろうと期待しています。
実咲 映画や資料を観たら、美しい話でありながら、楽しいだけではないお話の深さ、笑いの裏にあるものを感じました。曲も綺麗ですし、ストーリーもただ好き嫌いという若者の恋愛とは一味違う、深い話。チャップリンさんは一体どんな方なのか、お会いしたいくらいです(笑)。
石丸 この作品のポイントは二つ。映画とは視点が違う作りになっていること。映画の筋通りではなく、チャップリンが残した小説「フットライト」の内容を加えると共に、演劇として幻想的なシーンを盛り込んでいます。またチャップリン作曲のナンバーが6曲入っていますが、そのうちの1曲は、チャップリンが亡くなったために未完となった映画のための未発表曲「You are the Song」です。特別にこの作品での使用許可を頂けました。物語のラストにカルヴェロが歌うのですが、彼の心情が良く表れています。
ーー初演の際、石丸さんはチャップリンをどのくらい意識して演じられましたか。
石丸 稽古途中にチャップリンのご遺族が来日され、「チャップリンのふりをするのではなく、あなたの中に生まれたカルヴェロを、体を通して表現してほしい」と言ってくださいました。その言葉によって、"ねばならぬ"という鎖が外れ、"...しても良い"になり、とても助けられましたね。ただし『ライムライト』はあまりにも有名で、イメージを損なうわけにはいかない。なのでチャップリンの振りではなく、チャップリンの想いに寄りたいと思いました。
ーー実咲さんはテリーをどんな女性として描きたいですか。
実咲 まずバレリーナという点が挑戦ですね。私はバレエを3歳からやっていましたが、もともと内股がひどくて矯正のためにと母が習わせてくれたんです。
本当はバレリーナになりたかったくらい。でも、自分はプロにはなれないと悟って、バレエを生かせる仕事と思った矢先に宝塚が思い浮かんで受験したんです。ですから、バレリーナを演じられるのは、また一つ夢が叶ったという思いです。
そして彼女が本来持つ純粋さ、まっすぐさを描きたいですね。カルヴェロとの出会いによる変化や葛藤、そしてどん底の精神状態から最終的にはカルヴェロを励ますくらいに生きる活力を持つようになる様をお見せしたいです。
石丸 そう、カルヴェロとテリーが出会う時、二人とも人生のどん底に居るんですね。テリーは死のうと思い、カルヴェロも生きることを諦めていた。二人は共感する部分が多かったんだろうと思います。だからカルヴェロはテリーを支え、後にテリーもカルヴェロを支えた。ステージに立つもの同士、恋愛というより同志愛が芽生えた気がします。結果、かたや成功し、かたや落ちぶれてゆく。ステージに上がる人間なら誰しも経験があること。演じてみて普通の恋愛劇ではないと実感しました。
ーーカルヴェロにしてみたら、仕事やプライドに加えて、老いの問題もあるでしょう。
石丸 昔、一世を風靡したのに、今や誰も振り向かなくなった挫折感は大きいと思います。強制的にリタイアさせられたようなものだから。この物語では、カルヴェロとテリーの関係性に、ピアニストの青年ネヴィルが登場して、不思議な三角関係になります。カルヴェロは彼らに後を託して、頑張れよ!と支えていくんですね。
ーー実咲さんは石丸さんをどんな俳優さんだと思いますか。
実咲 『ジキル&ハイド』をはじめ、色々な舞台を拝見しています。石丸さんご自身はジキルのイメージですが、もしかしてハイドな一面を持っていらっしゃるのかも?と思うくらい、違和感がなく、どの役にもハマっていらっしゃいます。舞台のイメージから聡明で真面目な方だと思っていましたが、実際にお会いしたらとても気さくで優しい方です。
ーーどんなギフトをお客様にお持ち帰りいただきたいですか。
実咲 生きるとは、こういうことなんだとお伝えできたら嬉しいです。
石丸 映画をよくご存知の方には、音楽劇ならではの新しい視点をお楽しみいただきたいです。初めてこの作品と向き合う方には、物語や音楽に加え、色々な名言も楽しんでほしい。カルヴェロの台詞は、我々が生活する上でヒントになる言葉がたくさん。そんな言葉のギフトをご自分の生活に生かしてくれたら嬉しいです。
音楽劇「ライムライト」は4月9日(火)より東京・シアタークリエにて開幕。
その後、大阪、福岡、愛知を巡演。チケットは発売中。
ライター:三浦真紀
カメラマン:源賀津己
スタイリング:Shinichi Mikawa(石丸)
メイク:中島康平(UNVICIOUS)(石丸)