1月末から『CHESS THE MUSICAL』が開幕します。
『CHESS』は米ソ冷戦時代を舞台背景に、チェス世界一の座を争うふたりの男性、その間に翻弄されるひとりの女性のドラマを描き出す物語。
音楽をベニー・アンダーソン&ビョルン・ウルヴァースというABBAのふたりが手掛け、コンサートバージョンで上演されることも多いほど音楽性の高いミュージカルです。
実際、劇中歌『One Night in Bangkok』は全米3位、『I know him so well』は全英1位にチャートインした大ヒット曲で、欧米圏では『CHESS』というミュージカルを知らなくても、これらの楽曲は知っているという人も多いとか。
日本では2012年・13年にコンサート版、2015年にミュージカル版で上演されていますが、今回は演出、キャストを一新。新生『CHESS』が誕生します。
そして出演者が超豪華!
ラミン・カリムルー、サマンサ・バークス、ルーク・ウォルシュ、佐藤隆紀(LE VELVETS)をメインキャストにした、世界もうらやむドリームキャスト!!!
1月16日、稽古場の様子が報道陣に披露されました。
その模様をレポートします。
◆ 公開稽古レポート ◆
披露されたのは4つのシーンですが、まずはその前に、演出・振付のニック・ウィンストンさんのご挨拶が。
ニックさん、『フォッシー』ロンドン公演のオリジナルキャストであり、現在ロンドンミュージカル界でトップ10に入る振付家と称されています。日本では2017年の『パジャマゲーム』で振付を担当されています。
「この『CHESS』は世界的に愛されている作品です。ABBAのふたり、ベニーとビョルンが音楽を担当し、ティム・ライスが原案・作詞を担当しています。ティム・ライスのほかの作品......『エビータ』『ジーザス・クライスト=スーパースター』と同様、コンセプトアルバムから始まり、当時大変なヒットとなりました。その後1986年にウエストエンドで開幕、3年間ロングランが続きました。
ただ、『キャッツ』『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』などのメガヒット作と違い、確固たる演出がないまま世界で上演が重ねられている作品です。だからそれぞれの『CHESS』が、それぞれにオリジナルになる。今回の公演もまた、オリジナルです。そして今回恵まれたことに、とても素晴らしいキャストがいます。(日本勢も)難解な英語をしっかり学び、さらに複雑な振付を覚え、頑張っていただいています。本当にこの素晴らしいカンパニーに恵まれ幸運です。皆さんにとっても本作は、一生に一度しかないような貴重な経験になるはずです」
......というお話が。
なおニックさんの語った「『CHESS』には固まった演出がない」ということについては、後ほど質疑応答でさらに深いお話が出ていますので、後半でご紹介します。
さて、披露されたのは4つのシーン。
メインキャスト4名、それぞれの見せ場となる場面です。
ちなみに全編、英語(日本語字幕あり)です!
♪The Story Of Chess
冒頭のナンバー。
チェスというゲームがどういう起源をもっているのか、といった内容の歌をアービターが威厳を持って歌う曲です。アービターは"審判"。冷静・冷徹にルールにのっとり、ゲームを司っていきます。
演じるのは佐藤隆紀さん。
この曲、荘厳でありながら複雑なメロディラインを持つナンバーなのですが、豊かな声を持ち、正確に音を刻む佐藤さんの歌声が、アービターのルールブックたるブレない存在感にリンクしていきます。
政治や思惑をゲーム上にも持ち込もうとする人間たちに怒りをあらわにするような場面もあるアービターは、人間なのか、何か違う次元にいる存在なのか......。
そしていきなり、アンサンブルさんのダンス&フォーメーションが、すごい!
ダンサー出身の振付家 兼 演出家、ニックさんらしい、凝ったシーンになっています。
なお舞台にはご覧のように大階段が設置されており、奥行き・高低にバリエーションがつき、想像力も広がります。
♪Nobody's Side
サマンサ・バークスさん扮するフローレンスのナンバー。
フローレンスは、チェスの世界大会決戦に挑むアメリカ代表・フレディのセコンドであり、恋人。
アメリカ側(西側)についていますが、彼女自身はハンガリー(東側)出身で、さらにハンガリー動乱で家族を亡くした、冷戦下の犠牲者でもある複雑な立場。
奔放な天才である恋人・フレディの言動に傷付き、自分の孤独も重なり、苦しい思いを爆発させます。
映画『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役で知られるサマンサさん、どうしてもその時の少女らしいイメージが強いのですが、ここに現れた彼女は、知的な大人の女性!
『レミゼ』で彼女のイメージがとまっている方は、新鮮な魅力に感動すること間違いなし!
♪Pity The Child
ルーク・ウォルシュさん演じるフレディのナンバー。
フレディは前述のとおり、アメリカ代表のチェス選手です。チェスの天才。
奔放な天才すぎて周囲との軋轢が激しい彼ですが、実は彼もまた、孤独を抱えています。
その彼が、子どもの頃から抱いていた孤独感、そして「誰も自分をわかってくれない」という悲しさをぶつけるナンバー。
ニックさんの演出ではフレディ、酒やドラッグなどにも手を出しているようです...。
ルークさんはミュージカルにストレートプレイにと活躍する、英国演劇界注目の若手俳優。
イケメンです!そして繊細に、フレディの心情を歌に乗せていらっしゃいます。
♪Anthem
最後に披露されたナンバーは、劇中を代表する名曲である「Anthem」。
ブロードウェイ、ウエストエンドで主要な役をバンバン演じる世界のトップスター、ラミン・カリムルーが演じるアナトリーが1幕終盤に歌い上げるビックナンバーです。
ラミンさん、ご自身のコンサートなどでもよく歌っていますね!
アナトリーはソ連代表のチェス選手。
世界チャンピオンの座をかけ、アメリカ代表のフレディと対戦するのですが、そこで彼は"亡命"という手段を選びます。
......ライバル・フレディのセコンドであるフローレンスとともに。
亡命という道を選択したアナトリーは記者たちに取り囲まれ、「国を捨てるのか」と詰め寄られます。
そこで祖国に対する思いを切々と訴えかける、感動のシーン。
歌唱力、表現力、ともにピカイチのラミンさんの歌声が、稽古場に響き渡ります......!
いや、もう、圧倒されます!!
米ソそれぞれの国家の思惑も絡み、2国間の代理戦争のようになっていくチェスの試合。
時代に翻弄される人間たちの姿は、まるでチェスの駒のよう。
政治劇の面もあり、ストーリーはけして単純ではありませんが、知れば知るほど奥が深いミュージカル。
何よりも、素晴らしい音楽を最高のキャストが最高の歌声で歌います。これは絶対に素晴らしい舞台になる、という確信しかありません。
稽古場披露に続き、メインキャスト4名と演出ニックさんの囲み取材もありました。
◆ 囲み取材レポート ◆
●ラミン・カリムルー(アナトリー役)
「こんにちは(日本語で)。このようにまた日本に帰ってくることができて大変嬉しいです。そしてまたこの素晴らしいカンパニーとご一緒できることをありがたく思っていますし、ニックの演出に携わることができることも光栄です。私はミュージカルの、そして日本の大ファンなので、ぜひ皆様も素晴らしい作品を観にいらしてください」
●サマンサ・バークス(フローレンス役)
「こんにちは(日本語で)。......私は(来日経験豊富な)ラミンに日本語を教わっているので、日に日に上達しています(笑)。日本にずっと来たかったんです。だからこうして日本に来ることができて、いま、本当に嬉しい。またこの作品に参加するという形で来日できたことも嬉しいです。カンパニーは素晴らしく、本当に私たちを歓迎してくれています。稽古場での作業もとっても楽しいので、皆さんもぜひご来場ください」
●ルーク・ウォルシュ(フレディ役)
「私も日本に来るのは初めてで、とても楽しみにしていました。日本はロンドンと違って清潔でそこも素晴らしいです。この『CHESS』は、ラミンとサマンサが言ったように、本当に素晴らしいカンパニーです。皆さんが素晴らしい声をしています。皆さんにいい作品を提供できるよう、みんなでがんばっていますので、楽しみにしていてください」
●佐藤隆紀(アービター役)
「Hello, Japan. My name is Sugar.......(笑)、本当に(来日した)皆さんの歌声を最初に聴いたとき、これは奇跡だと思いました。これだけ世界の第一線で活躍している方々の歌を日本で聴けるというのは、もうないことだと思います。しかも皆さん、僕のカタコトの英語にも本当に優しく返してくださる。人柄もいいんです。この素晴らしい方々に追いつけ追いぬけの気持ちで、日本の人たちも頑張っていますし、アンサンブルの人たちが頑張っている姿に僕もすごくパワーをもらい、皆さんの歌声からもパワーをもらっています。いい作品にしたいなと思っていますので、この奇跡をぜひ日本で観ていただきたいなと思います」
―― ニックさんは先ほど「これまで色々な国で上演されてきているが、これという決まった形の演出がない」と仰っていました。それがなぜなのかと考えているか。また今回の演出・振付に込めた狙いは。
ニック「この作品は最初はマイケル・ベネット(コーラスライン、ドリームガールズなど)が手掛けて、彼の作品として始まったのですが、残念ながら制作の過程で彼は亡くなりました。そこからトレヴァー・ナン(レミゼラブルなど)が入ったのですが、もともとマイケル・ベネットはとてもフィジカルな作品を作ろうとしていたのに対して、トレヴァー・ナンの演出はちょっとトーンが変わり、動きよりも知的さを出す形になった。そういった経緯もあり、確固たる形が出来なかったのではないかなと思います。
今回の私の演出・振付では、マイケル・ベネットがやろうとしたフィジカルな動きを取り入れ、フィジカルな言葉で作品をお伝えできたらと思っています」
―― 今の稽古披露では『The Story Of Chess』の振付が印象的でした。
ニック「まさにあのナンバーはこの作品のフィジカルな言葉を体現するものだと思います。あそこはキャストの紹介、そしてシュガー(佐藤)さんをコーラスのリーダーとして紹介するナンバーです」
―― まだ稽古半ばだと思いますが、今日、観客目線である我々の前で作品の一部を披露した手応えは。
ルーク「本当に初めて、皆さんの前で披露したのでちょっと緊張しました。まだ私の中でも演技プランやどのように歌おうかというようなことを考えながら作っていってますので、そのプロセスをご覧いただいたというところもあると思います。ですがこのような形で披露できて面白かったですし、緊張で汗をかいてしまいましたが、とてもいい経験でした」
サマンサ「私も緊張しました。でも皆さんの前でこうして披露することは、緊張感を含め、いいプロセスだと思います。通常ですとゲネプロまで皆さんの前で披露するということはないので、この時点でこうした緊張感を味わえたことはとてもいい経験になりました」
佐藤「緊張しましたねー。でも確かにこの、(本番までの)間のタイミングでこういう緊張する舞台に立たせてもらうのは、本番に向けていい形になったと思います。もちろんまだやれることはたくさんあるし、自分の中でも日々進化できるようもっと頑張っていきたいと思っていますが、でも今日は今の自分は出せたかなと思っています。このあとも頑張っていきたいと思います」
ラミン「皆さんとほぼ同じなのですが......僕の場合は稽古に入ってまだ2日目なんです(笑)。個人的なことを言うと、お客さまの前でパフォーマンスするのが大好きなので、こうしてこの時点で皆さんの前で披露することによって、ひとつの指標が出来たんじゃないかなと思います、ありがとうございます」
―― みなさんにとって『CHESS』という作品の印象や、抱いている思いがあれば聞かせてください。
佐藤「本当に曲がパワフルだったり繊細だったりと、まず音楽を聴いているだけでワクワクするなと稽古場に入って改めて思いました。そこに、ご覧いただいたとおり、振付がかなりついているんです。本当に皆さんがめちゃめちゃ踊っている。これが見ていて楽しい。そしてストーリー的にも歴史の中で翻弄されていく恋愛模様とか、そういうところがすごく面白く、全部が全部、楽しんで観ていただけるものになっているなと思います」
ラミン「シュガーさんが仰ったことに付け足すと、この複雑な時代の中心にラブストーリーがある。そこに皆さんに共感していただけると思います。複雑なラブストーリーですが、それがあり、そこに素晴らしい音楽がある。そこが皆さんに楽しんでいただける要素じゃないでしょうか」
ルーク「何を足そうかな......。私にとっては『CHESS』を体験するのが今回初めて。自分の足で立って経験できることが素晴らしいなと思います。振付含め、フィジカルなコンセプトが素晴らしい。歌の意味などを今まで考えて聴いたことがなかったのですが、実際に物語の中で歌われているので、意味なども感じることができます。またこの複雑な時代の歴史、政治も絡む、素晴らしい話だなと思います」
サマンサ「実は曲は知っていたけれど、『CHESS』のナンバーなんだって気付いたものもあるんです。『I Know Him So Well』などは子供の頃から聴いていて大好きでした。ここ何ヶ月かは『One Night in Bangkok』にはまってしまって、家族の頭がおかしくなっちゃうくらい何度もかけています(笑)。本当に素晴らしいミュージカルのシアターナンバーで、コンサート形式でも素晴らしいのに、さらに素晴らしい振付もつく作品になります。日々新しい発見があり、毎日毎日、育てていっているところです」
―― 最後にお客さまへのメッセージを。
ニック「ぜひ観にいらしていただきたいです。これだけの素晴らしいキャストで、このような素晴らしい『CHESS』をやるというのは二度とないかもしれませんよ」
ルーク「私もエキサイトしています。これだけのタレントの方々と共演できるということ、また梅田芸術劇場の作品として皆さんにご披露できることを本当に楽しみにしています。そして何度も言いますが本当にアンサンブルが素晴らしいんです。なのでとてもいい作品になると思います!」
ラミン「大阪、東京、きてくれてありがとうございます(日本語で)」
サマンサ「私たちも稽古場で、皆さんのパフォーマンスを見てすでにびっくりしていますので、全部完成したらさらに素晴らしいものになると思います。ぜひ観にきてください」
佐藤「本当にこれだけの方が揃うのは奇跡に近いと思います。そして日本勢も頑張って、世界で通用するようなステージを作って、皆さんをお待ちしています。ぜひお越しください!」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:森好弘
【『CHESS』バックナンバー】
●2012年コンサート版
# 開幕レポート
●2013年コンサート版
#1 マテ・カマラス インタビュー
#2 安蘭けい&荻田浩一 インタビュー
#3 石井一孝&中川晃教インタビュー
#4 まもなく開幕
#5 稽古場レポート
#6 開幕レポート
●2015年ミュージカル版
#1 田代万里生インタビュー
#2 公開稽古レポート前半
#3 公開稽古レポート後半
#4 開幕レポート
#5 アフタートークレポート
【公演情報】
1月25日(土)~28日(火) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
2月1日(土)~9日(日) 東京国際フォーラム ホールC