■ミュージカル『1789』2018年版特集vol.5■
ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』が現在、帝国劇場で上演中。その公演レポートをお届けします!
【公演レポート】
フランス革命に材をとったミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』が現在、東京・帝国劇場で上演中だ。2012年にフランスで初演、日本では宝塚歌劇団での上演を経て2016年に装いも新たに帝国劇場で上演されたもの。今回はその、好評を博した帝国劇場版の再演だ。キャストも大半が初演からの続投で、さらに一層熱気の高まったステージを魅せている。主人公ロナン、その恋人オランプ、王妃マリー・アントワネットの主要3役がダブルキャスト。それぞれを観た感想を記す。
物語は、18世紀末のパリが舞台。財政は破綻し、搾取される民衆は疲弊しているが、貴族たちは贅沢三昧。民衆たちの不満は高まっている。そんな中、税金滞納を理由に父を貴族に殺された農夫ロナンは、革命運動を牽引しているデムーラン、ロベスピエール、ダントンらと出会い、革命へ身を投じていく。ある日、王妃マリー・アントワネットと、その恋人フェルゼン伯の逢引きに遭遇してしまったロナン。侍女オランプの機転で王妃はその場を逃れるも、ロナンは誤解からバスティーユ監獄に投獄されてしまう。その事件をきっかけにロナンは自身も知らないうちに王室のスキャンダルに深く関り、一方でオランプと次第に惹かれあっていく...。若者たちが"人間が生きることの意味"を問い、より良い世界の実現を目指していく熱い戦いを縦軸に、様々な階層の恋人たちのままならぬ恋を横軸に絡めたドラマチックなストーリーが、ノリの良いロック・ミュージックに乗って描かれていく。
主人公ロナンをダブルキャストで演じる小池徹平、加藤和樹をはじめ、メインキャストは30代前半の俳優が中心。ミュージカルの殿堂・帝国劇場で上演される作品としては異色の、若いカンパニーだ。その若さゆえの思い切りの良さ、ひたむきな熱さが作品中に溢れ、2016年の初演でも"若いパワー"が巻き起こす熱狂が伝わった本作。今回の再演でも初演同様の熱さがほとばしっている。が、若いということは成長も早いということ。ロナン役の小池と加藤がともに、ひとまわりもふたまわりもその存在感を増し作品をどっしりと支えるとともに、他のキャストもそれぞれ成長を感じさせる充実のパフォーマンスを見せ、作品をさらに輝かせた。
▽ 小池徹平
小池は、彼自身の個性から出ているであろう人懐こさ、真っ直ぐさがあり、愛されるロナン像を作り出している。よく通る声、しっかりした歌唱力も魅力だ。一方加藤が演じるロナンは求心力があり、同じ第三身分とはいえプチブルジョワである革命家たちとも対等に渡り合っているような凛々しさがいい。初演時に感じた青さは薄まり、今回は雄々しく、頼もしさすら感じる。ちなみに個人的に、初演から比べて格段の成長を感じたのが加藤と、フェルゼン役の広瀬友祐。ふたりとも、初演時にひたむきな懸命さで演じていた部分も(それもこの作品においては決してマイナスポイントではない)、歌唱力や演技の深さという確かな技術を得て、今回は安定したロナン像、フェルゼン像を見せていて、2年の間の経験を確実に自身の力にしていることを頼もしく思えた。
▽ 加藤和樹
最大級のインパクトで登場し、豪華な衣裳を何着も披露する王妃マリー・アントワネットは、前回から引き続き出演する凰稀かなめと、今回初参加の龍真咲。凰稀マリーは、臈たげな美貌とおっとりとした雰囲気で、王妃たる気品抜群。マリーは贅沢な遊びに興じる刹那的な顔、子供たちへ見せる母親としての愛情、許されぬ恋に身を焦がす顔と様々な表情を持つが、流れる水のような自然さでそれらの顔を同居させている。そのしなやかさで、やがて断頭台へ送られることを"受け入れる"強さまで自然に演じ、観ていて説得力があった。一方で龍は少女のような純粋さでマリーを演じる。贅沢三昧の遊びも恋も、子供への愛情も、すべて自分中心に世界が回っているからこそ違和感なく成立させてしまうような解釈が面白い。宝塚を退団し、今回が初ミュージカルだが、ソプラノ歌唱も無理なく発声していて、"再デビュー"も大成功といったところだろう。
▽ 凰稀かなめ
▽ 龍真咲
オランプ役は神田沙也加と夢咲ねね。その可憐な外見からはちょっと想像つかないほど、自分の意思で道を選び取る意思や聡明さが感じられる力強いキャラクターを作り出していて好演。ロナンに影響を与える革命家、ロベスピエール、ダントン、デムーランの3名は、三浦涼介、上原理生、渡辺大輔。三浦が今回初参加、上原・渡辺は初演から引き続きの出演。実在した革命家たちの若かりし頃を演じる彼らも熱演している。熱血でストイックなロベスピエール、豪放磊落なダントン、優等生タイプのデムーラン...と、それぞれの個性も際立っていて、絶妙なトライアングルだ。
▽ 神田沙也加
▽ 夢咲ねね
▽ 三浦涼介、渡辺大輔、小池徹平、上原理生
ほか、ロナンの妹ソレーヌ役のソニン、王弟アルトワ役の吉野圭吾、秘密警察の長官ラマール役の坂元健児、ロナンの宿敵である貴族・ペイロールを演じる岡幸二郎らベテラン勢はそれぞれ、安心の職人芸。ソレーヌら、女たちがパン屋を襲うシーンのナンバー『世界を我が手に』は、ヒリヒリする緊張感がありつつも、そのシーンだけを切り取っても盛り上がりそうな、フレンチ・ミュージカルらしいカッコいいシーンになっていて、ソニンの迫力ある魅力が存分に活きている。国王の裏で暗躍するアルトワは、吉野らしいクセのある嫌らしさと華やかさが絶品だし、ラマールの坂元は客席の空気を絶妙に汲み取るコミカルな演技と力強い歌声がさすが。岡のペイロールは冷徹さを貫くと同時に、低音ボイスで作品を支え、この人なしではこの作品は成立しないと思わせる存在感がある。そして、『1789』は"帝劇ミュージカル"のダンスレベルを一気に引き上げたのでは...とすら思わせる、アクロバット満載・激しいダンスで魅せるアンサンブルキャストの熱演も忘れてはならない。
本作をはじめ"フレンチ・ミュージカル"と呼ばれるフランス生まれのミュージカルは近年、世界各国で人気が高まっているが、奥深いストーリーを堪能するというよりは、デジタルサウンドも多用した現代的なロックミュージックで観る者の気持ちを高ぶらせ、派手なダンスパフォーマンスなどで目でも楽しませる、ショーアップされたステージングが特徴だ。ただ、日本の観客はどうしてもストーリーの整合性や、繊細な感情の流れを求めがち。初演を経て、今回はキャスト陣が "1曲ずつがコンサートのように盛り上がる" というフレンチ・ミュージカルの特色をきちんと体現し、"魅せる" ステージングをしつつも、日本の土壌で求められる "奥深い芝居" との融合のおとしどころを見つけ出したようだ。初演と比べ演出上の大きな変更点はないにもかかわらず、これほど印象の変わる再演も珍しい。キャストの成長と成熟で、見違えるほど良くなった再演版『1789』。熱いステージをお見逃しなく。
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
写真提供:東宝演劇部
【公演情報】
4月9日(月)~5月12日(土) 帝国劇場(東京)
6月2日(土)~25日(月) 新歌舞伎座(大阪)
7月3日(火)~30日(月) 博多座(福岡)
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