『ロミオ&ジュリエット』『ロックオペラ モーツァルト』『太陽王』等々、日本にも次々と上陸しているフランス産ミュージカル、通称"フレンチ・ミュージカル"。
中でも2012年にパリで初演され、いかにもフレンチ・ミュージカルらしい、ポップでカラフルでドラマチックな内容でメガヒットとなった『1789 -バスティーユの恋人たち-』が、昨年の宝塚歌劇団での上演を経て、いよいよ今年、帝国劇場に登場します。
物語は18世紀末のフランスが舞台。
贅沢三昧の貴族とは対照的に、貧困にあえぐ民衆たちの不満は募り、革命派が徐々に力をつけている中、農夫・ロナンは父を貴族に殺されたことをきっかけに、革命派に身を投じる。一方、宮廷に仕える侍女・オランプは、王妃マリー・アントワネットとフェルゼン伯の逢瀬を手引き。その途中で起きた騒動がきっかけで、ロナンとオランプは運命の出会いを果たすが、対立する身分が壁となり......。
1789年、フランス革命を背景に、愛と信念が、恋人たちを翻弄していきます。
フランス革命という、日本でも数々の名作を生み出している歴史的事件、そしておなじみの人物も多数登場するドラマチックな物語に、なんといっても現代的でポップな楽曲が魅力的!
演出は、ミュージカル界の巨匠・小池修一郎が、宝塚版に続き、担当します。
今までにない、新しい感覚のミュージカルが生まれそうな予感がしますね。
主人公・ロナンと恋に落ちるオランプ役・神田沙也加さんに、作品の魅力や現在の心境を、伺ってきました。
◆ 神田沙也加 INTERVIEW ◆
楽曲に"ひと聴き惚れ"しました!
――日本でも近年、人気を博しているフレンチ・ミュージカルへのご出演です。フレンチ・ミュージカルにはどんな印象をお持ちでしょう?
「『ロミオ&ジュリエット』を観ています。フランスだからか、やっぱりどこか美意識が高い印象があります。ひと組のカップルの恋愛を描くにしても、苦悩まで掘り下げ、ドラマチックにするといいますか、楽な道は選ばない感じ(笑)。小池先生が演出なさるのもわかる気がします」
――その、小池演出作へも、初参加です。
「そうなんです。きっと、とても厳しいと思います。でも、小池先生が大事にされている部分...現実離れした部分や、観る側が現実逃避してのめりこめるような部分......つまり、耽美的だったり、非現実的な2.5次元的な部分だったり......というのは、共感するところがある気がすごくしています。もともと持っていらっしゃるモットーに対して、絶対的に賛同できる感じがしたんですよ。だから、なんか安心。もちろん、演出を受けてヘコむこともあると思いますが、厳しくてもちゃんとついていけると思っています」
――この作品への出演のお話が来た時は、どう思われましたか?
「最初にフランス版の資料で、ロナンとオランプのデュエット曲を聴いたら、ひと目惚れならぬ"ひと聴き惚れ"しちゃいました。ギターイントロのオシャレな音楽に「え、これホントにミュージカル?」って思って、すぐに「やりたい!」と。その後、宝塚版を拝見しました。ポップでびっくりしました。でも男役のトップスターさん、トップ娘役さんがいる中で、どうやってやるのかなと思ったら、トップ娘役さんがマリー・アントワネットを演じられてて、なるほどな、と。これは宝塚版での解釈・配役だとすれば、生身の男性と女性でやる東宝版は、ずいぶん変わるんだろうなと思ったので、意外と宝塚版は、独立したひとつの作品を観ている気持ちでした」
――最初に音楽に惹かれたんですね。確かに、カッコいい曲ばかり!
「本当に、カッコいいしオシャレですよね。私も、ミュージカルのCDというより、普通に一枚のサントラ、アルバムとして聴いているんです。本番でも、実際にオリジナル音源を使うと訊きました。やっぱり生オケで、その場で実際に演奏するという臨場感のある良さというのはありますが、一方で、オリジナル音源でしか出せないトリッキーな音やイマドキ感という良さもあると思う。それを帝国劇場でやる、というのが新しいし、面白いですね」
オランプは"普通の人"。
神田沙也加として感じたとおりに反応していくのが、正解なんじゃないかな
――その中で、神田さんが演じるのは、王太子の養育係で、宮廷に仕える侍女・オランプ。現時点でオランプはどんな女の子だと思っていますか?
「考えれば考えるほど、普通の人だと思います。自分自身はお姫様でもなんでもない。王宮側の立場ですが、それは自分の仕事に責任感を持って働いているビジネスウーマンだからこそ。でも(革命側である)ロナンと恋に落ちるくらいだから、一般的な感覚を持っているんだと思うし、野心もあるんだと思う」
――ビジネスウーマンですか! その、妖精のような衣裳に騙されそうですが、確かにきちんと仕事を持って自立している女性ですね。
「そうなんですよ。そういう女性が、この時代背景の中でヒロインとして描かれるのも面白いですよね。......今の感覚だと、農夫と養育係だったら、恋に落ちても大丈夫な気がしちゃいませんか? でも彼女は自分の立場に誇りも持っているし、理解もしている。だから自分の置かれている立場やまわりのことを、ちゃんと見渡せる"身分相応"の人だと思います。そういう意味で、"普通の人"ですね。神田沙也加として感じたとおりに普通に反応していくのが、正解なんじゃないかと思っています。...それに、皆さん"可愛くて芯が強いヒロイン"に飽きてきた頃かなと思うので(笑)、その意味でも"普通っぽさ"が新鮮に映るのではないかと思っています」
――そして、神田さん演じるオランプも、夢咲ねねさんとWキャストですが、恋に落ちるロナンもWキャストですね。小池徹平さんと加藤和樹さん、まったくタイプの違うおふたりです。
「てっちゃん(小池徹平)とは10代の頃から、学園ドラマなどで一緒でしたので、同級生に近い感覚です。実生活だと、まず恋愛にならなくらいの同級生感! ...って、私、失礼でしょうか(笑)。それくらい身近な存在ですので、今回の共演もとても安心しています。
加藤さんとは、初共演です。ギリシャ彫刻みたいな方ですよね。『ダンス オブ ヴァンパイア』を観にいらした時に、わざわざ手土産を持ってきてくださって、その彫刻が90度くらいのお辞儀をしていきました(笑)。とても律儀な方だな、と。上口耕平君が紹介してくれたんですが、「(『アイーダ』の)ラダメスみたいな人」と言っていて、実際お会いしたら、なるほどな、と思っちゃいました」
憧れのあの人とも、初共演です
――さらに...以前バラエティ番組で、ファンだと仰っていた、吉野圭吾さんとも初共演ですね!
「あぁ、それ、すでに皆さんに言われています...(笑)。でもこの共演は、ある意味『しゃべくり007』のおかげなんじゃないかな、と。だってあそこで「共演するのが夢なんです」って言ってたときは、まだこの作品の話なんて、全然出ていませんでしたから! あそこで、圭吾さんが面白い方なんだと、お茶の間にわかっていただけたことはすごく嬉しいんですけど、あれからずっと、演劇関係者の皆さんに「ほらっ、大好きな圭吾さんが!」って、ほんっとに!! しょっちゅう言われて...!!!
...でもある意味、てっぱんネタみたいになってきているので、逆に良かったです。だって、黙って静かに思っていると、本気っぽいじゃないですか(笑)」
――製作発表でもご一緒でしたが、何かお話されましたか?
「圭吾さんが話しかけてくださるんですけど、緊張して口下手になっちゃってました...」
――それ、今おっしゃっていた、本気だと思われちゃうパターンでは(笑)。
「まわりには冗談っぽくみせかけて、本人だけには本気っぽく思われるという、最悪のシナリオになっています(笑)。もうちょっと...上手く何とかできるようにしたいです...」
――でも本当にあの番組で、吉野さんの魅力がさらにお茶の間にも伝わったと思いますよ。また、演じるアルトワ(王弟。享楽的な性格でマリー・アントワネットの悪友と呼ばれた)が本当に似合いそうですよね。
「ですよね! 私、ミュージカルファンとしても、圭吾さんファンとしても、アルトワが圭吾さんだったら萌え死ぬ! と思ってたんですよ!! ミュージカルファンの方たちの中でも、アルトワは圭吾さんに...!と思っていた方が多かったようです。もう、小池先生に拍手喝采です。私がキャスティングを任されたとしても、アルトワは絶対圭吾さんです!」
自分の"大好物"がひとつ、増える予感がしています
――そのあたりも小池先生に共感するところですね(笑)。ところで今回のキャスト、神田さんもですが、俳優業だけでなく音楽活動をされている方が多い印象です。
「そこも、おそらく何か求められている部分なのかなと思います。ポップスやロックを歌っている、というのが。ロナンのふたりもそうですしね。映像などにも出ている身からしますと、ミュージカルとしての間口を広く持って、迎えてもらっている感じがするんですよ。だから私もそこは強みだと思ってやれればと思っていますし、普段ミュージカルをあまり観ない方にも勧めやすい。急にクラシカルに歌いだすものではないですし、一曲一曲をロックやポップスと思って聴いていただくこともできる。その中に、岡幸二郎さんや坂元健児さんとか、(上原)理生ちゃんとか、ミュージカルらしい歌い方の方もきちんといらっしゃいますし」
――モチーフとなるフランス革命という史実周辺も、人気が高いです。
「『ベルサイユのばら』をはじめ、革命の中において、様々な巻き込まれ方をした方々が色々なミュージカルになっていますよね。取り扱っているテーマに対してのファンが多いですし、ミュージカルファンって、革命とか王宮とか、好きですよね。私も例に漏れず...なんですが(笑)。何かが失われていく状況とか、刹那的なものの中にドラマを見出すのは、なぜなんでしょう。がけっぷちで愛し合うとか、日本人は本当に好きだな、と思います。そういう意味でも、今回、私の"大好物"がひとつ増えるのでは、と思っています」
――この作品、神田さんにとって、様々な"初挑戦"があると思います。改めて今、どんなお気持ちですか?
「まず、オランプという女の子は、特別な人ではなく、普通の女の子。小池先生の演出を受けて、自分の殻をそぎ落としたところに、自然に身体にオランプが入ってくればと思っています。そして、せっかく素晴らしい曲たちなので、あまり構えずに、音楽をちゃんと身体の中に入れて歌えるようになりたいです。きっと見せ方や、造形的なところは、小池先生の右に出る方はいないと思いますので、そちらは信じてついていき、自分は内面の部分をきちんと頑張っていこうと思っています。...製作発表会見に出席して、すごく大々的で、自分が思っていたよりオオゴトなんだと今、感じています。でもあまり気負ってはいません。ニュートラルな気持ちで、楽しみたいです」
取材・文:平野祥恵
撮影:源賀津己
【公演情報】
・4月11日(月)~5月15日(日) 帝国劇場(東京)
※4/9(土)・10(日)プレビュー公演あり
・5月21日(土)~6月5日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
★東京公演 座席選択可プリセール受付決定★
受付期間:1/23(土)10:00~1/26(火)23:59
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