■ミュージカル『SMOKE』2019年版 vol.8■
昨年日本初演され、その濃密な世界観と美しい音楽でたちまち話題となり、多くの熱狂的ファンを生み出したミュージカル『SMOKE』。
20世紀初頭に生きた韓国の天才詩人、李箱(イ・サン)の遺した詩と彼の人生にインスパイアされたミュージカルで、たった3人のキャストが、ミステリアスで奥深い世界を作り上げていきます。
初演から1年で早くも再演となった『SMOKE』ですが、今年は6月の池袋・東京芸術劇場バージョンを経て、いよいよ7月25日に初演の地・浅草九劇の〈ORIGINAL CAST〉バージョンが開幕しました!
浅草九劇の〈ORIGINAL CAST〉バージョンは、3つの役どころそれぞれがトリプルキャストです。
「超」...大山真志、日野真一郎、木暮真一郎
「海」...大山真志、日野真一郎、木内健人
「紅」...池田有希子、高垣彩陽、元榮菜摘
※初演で「海」を演じた大山さんと、「超」を演じた日野さんは、今回は「海」「超」の二役を演じます
濃厚な三人芝居を、その日ごとのキャストが魂を叩きつけるように熱演している九劇版『SMOKE』。
そんな皆さんの開幕後のリアルな心境や、ちょっと突っ込んだ内容をお伺いしたく、インタビューを数回にわけてお届け!
初演は「海」をシングルキャストで演じ、今回は「海」と「超」の二役に挑戦中の大山真志さんをホストに、出演者の皆さんの現在の心境、作品に対する思いなどをお伺いする通称「真志の部屋」、第2弾は日野真一郎さんとの対談です。
2019年バージョンでは「海」と「超」の二役に挑戦しているふたりの、ディープな対談をどうぞ!
▽ 大山真志(超)、日野真一郎(海)
▽ 日野真一郎(超)、大山真志(海)
◆ about『SMOKE』 ◆
李箱(イ・サン)の作品「烏瞰図 詩第15号」にインスパイアされ、その詩のみならず彼の人生やその他の作品群の要素も盛り込み作られたミュージカル。
イ・サンは、才気ほとばしる作風が讃えられる一方で、その独自性と難解さゆえに酷評もされた、両極端の天才詩人。結核をわずらった後、日本に流れつき、そのまま異国の地・東京で27歳の若さで亡くなります。
このミュージカルでは、彼の精神世界を謎めいた筆致で描き、誰も想像できなかった物語が繰り広げられます。
登場人物は、
詩を書く男「超(チョ)」、
海を描く者「海(ヘ)」、
心を覗く者「紅(ホン)」
の3名のみ。 俳優の実力も問われる、スリリングな作品です。
★インタビュー中、一部ストーリーの展開に触れています。ご注意ください。
◆ 大山真志&日野真一郎 INTERVIEW ◆
●「超」と「海」、どっちが大変?
―― 初演は大山さんが「海」、日野さんが「超」を演じ、この再演ではふたりとも「海」と「超」の二役に挑戦しています。おふたりの対談は初演の時にもやっていて、その時も「大変な作品」とお話していたかと思いますが、大変さが2倍になったのでは。
大山「ひとつ言っていい?......「思い知ったか」って思ってるよ(笑)。キツイよね!? 「海」やったあとって、プール上がったあとの感覚に似ているよね、小学校とか中学校の」
日野「本当にそう思う...」
※このインタビューは日野さんが「海」、大山さんが「超」をやった公演のあとに実施しました
――「海」の方が大変ですか?
大山「百倍くらい大変!」
日野「俺は...体力的には「海」の方が大変だけど、精神的にキツイのは「超」だな。「超」をやるとちょっと病んじゃうもん...。苦しみや苦痛を全部背負っているから。俺の「超」の作り方が特にそうなんだと思う」
大山「まじかー。ちょっと意外」
日野「もちろん「海」は出ずっぱりで、そういう意味では大変なんだけどね。「超」は、ひきずる。家に帰っても「はぁ...」ってなっちゃう」
大山「俺の場合は、俺の「海」の作り方かもしれないけれど、結局「超」も全部「海」なわけで。だから、「全部自分のせいだ」って背負い込むのが「海」だと思っていたから。やっているときの精神面では、そこが一番くるかな。あと「超」は「紅」に甘えられるところは甘えられるってのもある」
―― 日野さんは二役やるのは初めてですか?
日野「初めてです」
―― 楽しいですか?大変ですか?
日野「いや、今は楽しいです。でも稽古中は僕、本当に毎日 "プール上がり" でしたね(笑)。もちろん、一度「超」をやっていたので、初めて作品に挑むよりは免疫はついていたと思うんですが。でも最初に「海」をやっていたほうが、理解するのは早かったのかな。どうなんだろう(笑)」
大山「どうだろうね。ただ俺は、いま「超」をやっていて、「海」の時に思い描いていた、こうであってほしい「超」像を演じている感じなの。そういうところない? 自分の思い描いていた「海」像を投影してやっている、みたいな」
日野「あー、なるほどね。どうかなあ...。でも自分が二役やることで、「こういえば刺さるな」「こう言えば超はなびくな」というのがわかる。二役やる良さはそういうところにあるなと思います。前回「超」だけをやってた時は、あくまでも「超」としてしか反応していなかったから。逆に言えば、あの時のこの言い方ではたぶん「海」には伝わってなかったな、とか、けっこうある。今回はそこをなくしてやれていると思う。でも相手によっても、日によっても違うから、毎日同じ言い方をしてももちろんダメだし。ただ、根本的なものがわかれば、それをベースに「今日はこっちの方向でいってみよう」とか、そういうセッションが出来ますよね。だからいま、二役やれてすごく楽しいです」
―― 大山さんは逆に、前回はシングルキャストで「海」をやっていらした。俺だけの「海」だったのに...みたいなところはないでしょうか(笑)。
日野「いやあるよ、絶対あるでしょ(笑)!」
大山「あーーー...、でも今回「海」役が3人になりましたが、それこそひとりでやっていた時は、作品自体を俯瞰的に見れなかったんですよね。そういう意味でも作品への向き合い方が変わったし、今回、ひとのやる「海」を見て、やっぱり自分にないものや表現方法を学べてよかった。...悔しいと言えば悔しいですけどね(笑)! でも、今回の37公演、シングルでやれって言われたら「無理です!」って言うと思う(笑)」
―― でも前回、全36公演をひとりでやっているじゃないですか。
大山「いや、これは正直、いまだから言える話ですけど、15公演目くらいで「死のう」って思いました(笑)」
日野「ははは! 頑張ったよね~」
大山「本当にもう辛くて。体力的はぜんぜん大丈夫だし、俺、たぶん風邪ひいても、明日死ぬような病気だったとしても『SMOKE』は絶対やるって言ってると思うんですけど。でものど的に辛かった...。前回は正直、自分ののどが持つか、持たないかってところで戦っちゃっていた部分がある。これだけたくさんの人に来ていただいて、しかもすごく作品を愛してくださるお客さまが多く、この劇場で同じ時間を共有したいと思ってくださっている方たちに対して、その状況が申し訳なくて。今回は1日1公演全力投球でお客さまと向き合ってやれている、見ている方の心に響くか、響かないかってところで勝負できている。役者として幸せなことだと思いながらやっています」
日野「いやー本当、よくやったよね、ひとりで。えらかったよねー。だってこの前、「本番を初めて観る」って言ってて! 今までいっぱい機会あったじゃんって言ったら「シングルだったから、観れなかったんだよ...」って」
大山「そうなんです。初めて客席から『SMOKE』を観て、楽しい~!って思いながら(笑)」
―― どうでしたか? 初めて観た『SMOKE』の感想は。
大山「あの...人がのたうちまわってる姿って楽しいなって思いました(笑)」
日野「わははは!」
大山「でもその姿に心打たれるんだよ。伝えたいことがあるじゃない、やっぱり。大劇場の良さもあるけれど、この(浅草九劇の)距離だから伝えられるものがある。本気でもがき苦しんでいる人間の姿を伝えられるって、なかなか贅沢な空間だなって思いました」
日野「みんな全力でやってるから、伝わるものがあるんだよね」
大山「あとは、お客さんがどこで何を感じ取っているのか、というのは、やっぱり演じている側では把握しきれていない部分もあって。それを肌で感じて、感動しました。嬉しかった」
―― 前回やっていた大山「海」、あるいは日野「超」に影響されちゃったり、引っ張られちゃったりする部分はないですか?
大山「芝居はあまりないけど...歌が(笑)!」
日野「そうだね(笑)」
大山「前回やってた譜割と今回の譜割が実はちょっと違っていて、これは前回のインタビューでもお話したのですが、前回歌っていた「海」のメロディは実は「超」のメロディだったりするので。それをオリジナルのパターンに戻した今回、もう、ぐちゃぐちゃになっちゃって...」
日野「自分のパートがわからなくなったり、同じ歌でも(役によって)歌詞が違うので、混乱する(笑)」
大山「相手のセリフ言っちゃったり。そこは大変でした(笑)」
▽ 大山真志(超)、日野真一郎(海)
● 大山「超」から見た、日野「海」
日野「ヒッシュの「海」は突き放したい、って言ってたよね」
大山「そうそう。オマエのせいだよって(笑)。でも今日はちょっと違ったの。俺(超)を作り出したこの人は、結局は俺自身でもあるんだけど、この人を守らなきゃいけないってところに入った! 「紅」に対しても、この人(海)を守るために、希望なんてものはいらないから、そんな期待を持たせるんじゃない、ってところに気持ちが行ったの。一緒にやる人によって全然違う感情になるけど、同じ相手でも、やる日によってこんなに違うんだなって感じた」
日野「そうなんだよね~」
―― 今日の日野さんの「海」は、すごく可愛かったですね。
大山「そうなんです、幼かったですよねえ!」
日野「あまり(幼く)やりすぎると、その "型" にはまっちゃうので、そこには行きたくないんですが。でもやはり(「海」が覚醒する前と後で)"ギャップ" はつけたいと思って。実は初日あけてからしばらく、幼くない方向で作っていたんです。でもちょっと物足りない、もうちょっと差を出すところに挑戦しようと思って。それが今日は一番表れたのかな」
―― 大山さんの「超」は今日、策略家に見えました。
大山「今日は色々試していましたね~。(前半で)「海」に銃を貸したあと、俺、すっげー怖い顔して部屋を出ていったの知らないでしょ?」
日野「マジで?知らない!」
大山「あのあたり(Nブロック・Eブロックの扉付近)のお客さんにしかわからない芝居してた(笑)」
日野「こっちは銃をもらって「わー」って喜んでるところで、そんなことを(笑)」
大山「なんなら「そのまんまその銃で死んでくれ」って思いながら出て行ったから(笑)。だから本当に座る場所によっても見える物語が違うんだよね。それはこの九劇だから試せるお芝居だし、そこを僕らも楽しんでいます」
―― あと、けっこう冷静に見えました。
日野「うん、僕もそう思った」
大山「ハハハ(笑)。なんだろう。普段の舞台ではあまり本番中に試行錯誤することはないんですが、この作品はそれが許されるというか、今日、どういう球が飛んでくるかによって自分が変化する。だから「今日はこういう感じか」というのを冷静に見ている自分がいます。「海」と「超」だけじゃなく、「紅」も3人いるし。どんどんパワーバランスが変わってくる。本当に日々、「紅」に対する気持ち、「海」に対する気持ち、「超」に対する気持ち、全部が変わってきます。そして特に「超」でいるときは冷静でいるようにしている。逆に「海」でいるときは自由にやっています。「超」と「紅」に、(その日の方向性を)任せている。「海」はこの作品の芯だからね、どうしても終着点がそこになるから。ヒッシュはどう?」
日野「うーん、難しいな。でも確かに「海」は自由。セリフにもあるけれど、無垢な子どものような顔をして、何も知らない...特に僕は「えっ、なになに?」って方向で作っているから「海」は受け身かもしれない。「超」は自分がやりたかったことをやっていく、自分が選択をし、筋書きを書いた方向に進んでいく。途中から思い通りにならなくて混乱していくんだけどね...」
▽ 大山真志(超)、日野真一郎(海)
● 大山真志から日野真一郎への質問
大山「これ、マジで前からききたかったんだけど」
日野「なになにー」
大山「なんで二役やろうと思ったの?」
日野「ハハハ! ...えーと、今回の出演のお話をもらったときに、二役やりませんかって言われたんだけど。僕、その時に、同じことをやるより、さらに上のことに挑戦したいと思ったのね。これはいつも思うことなんですが、同じコンサートをやるにしても、同じ曲を歌うにしても、僕は前回とは違うことにチャレンジしたいんです。だから、二役やらせてもらえるんだったら、やります、と。二役というのは初めての経験だし、僕はまだそんなに多くの演劇作品に出ているわけではないから、乗り越えられるかというネガティブな考えも不安ももちろんあったのですが、やってよかったと思う。...まぁ、『SMOKE』という作品をすごく愛しているし、「超」だけのオファーでも「やります」って言ってたと思うけどね(笑)。あと、やっぱりマーシーが初演の時からずっといてくれるから。僕の弱いところもダメなところも全部知っているし、僕がやったら、マーシーがちゃんと見て言ってくれる、そこは安心できたから、やろうと思えたって部分もある」
大山「嬉しい。僕もけっこうキツイことを言うタイプなんですが、ヒッシュは何がダメだったかとか、どうしたらいいのかとか、毎回聞いてきてくれるんです。年齢もけっこう離れているんですが、普通は恥ずかしくて聞けないよってことも、素直に聞いてきてくれる。年齢関係なく、信頼して言ってきてくれることが嬉しかったし、そういう信頼関係を初演を経て築けたことも嬉しいです。信頼からしか面白いものは生まれないし、この作品は特に、そういう人間関係によって左右されるから」
日野「本当に、そう思う」
大山「だからそういうことを言ってもらえて、嬉しいです」
日野「いやいや、こちらこそ」
―― 確かに色々な組み合わせがそれぞれ面白いのですが、大山さんと日野さんの組み合わせは、おふたりがそれぞれ二役やってるのもあって、色々なことを思わせられます。見応えがある。
大山「うん。俺も楽しいです」
日野「楽しいね」
大山「ヒッシュさー、「海」が覚醒して自分に戻った瞬間に、「超」になっちゃおう、って思ったことはないの? 俺は今回実は、記憶が戻ったときに、いま自分が演じてる「超」になっているの」
日野「あぁ、覚醒のとき? 戻ってるよ」
大山「ほんと? でもね、ちょっと(覚醒した「海」の方が)優しさを感じるんだよね」
―― 確かに日野さんの「超」はなんというかとてもSっ気がありますから。「海」として記憶が戻ったあとの方が優しく感じます。
大山「そうそう」
日野「そっか、それはそうかもしれないですね。でも確かにあそこは(「海」に)「超」の要素が入っている部分だから」
大山「それを、もっとぶっとんだところまでやっても面白いんじゃないかなって思うの」
――大山さんは、覚醒したあとの「海」と、自分の「超」がほぼイコールだとして演じている、と。
大山「「超」に近いものに変わる瞬間ですね。「超」をやっているときに思ったのが、あの瞬間からパワーバランスが変わって、それまで「超」が引っ張ってきたのに、「海」に主導権がいく瞬間だと思っていて。で、前回の取材でもお話したのですが、最後の鏡の中から出てくる「超」も「俺たちは書けるんだろうか、誰もが理解できる文章を」とすごく弱気なことを言う。それに対して「書き続けよう」と言っている「海」は、「超」より絶対的に強くなっている。だから、あの大人の心を取り戻した「海」は、もっと、今までやってきた「超」としての経験を使ったら面白いものになるんじゃないかなって思ったの」
日野「...やろっ、いいこと聞いた(笑)! でも確かに僕は、自分がやっている「超」に戻ろうとは思わなかったかも。もちろん「超」の要素があるとは思ってやっていたけど。なるほど、それは面白いね」
▽ 日野真一郎(海)、池田有希子(紅)
―― 今のお話の延長で、もうひとつ。最後、覚醒して詩を書き出す「海」は、「海」なんでしょうか、それとも李箱なんでしょうか。
大山「俺は李箱だと思っている。でも、「海」が李箱であり、(本名の)キム・ヘギョンだからね」
日野「うん、自分が死ぬことがわかってる段階なので、李箱ですよね。李箱だと思う、僕も」
大山「ただ、「アイロニーを実践してみるのもいいかもしれない」って言い出したときには(M20/最後のナンバー)、俺はもう、あんまり李箱じゃないかな。実はあそこはふわっとした存在になっています。なぜなら、あれは李箱を讃える歌になっていて、昇華していってるので。李箱の作品を知ってる若い世代の人たちなのかもしれない。そんな感じに切り替わっています。色々な要素が詰まっています」
日野「確かに。いやでも、難しい作品だよね!」
▽ 日野真一郎(超)、大山真志(海)、高垣彩陽(紅)
● 自分にはない、お互いの良さ
―― お互い「超」と「海」、もしくは「海」と「超」として相対すことも多いと思うのですが、相手の「海」「超」にあって自分にはない要素はどこだと思いますか? 例えば「超」だと。
大山「カッコよさ! あれは俺にはない(笑)」
日野「ええー?」
大山「あのナルシシズムは俺には出せない(笑)! いや、悪い意味じゃなくて、見せ方を知ってるナルシシズムって俺はすごくカッコいいと思う。自分にはないものだし、悔しいなって思うところもいっぱいある。...(演出の)こうめいさんに結構、いじられてたじゃん(笑)。「やらしすぎる!」とか。でもそれは配分であって、あれを出来るのは素敵なことだと思う。たまに「ちっ」ってなるけど(笑)」
日野「嬉しいな、褒められた! 僕はマーシーの「超」の爆発力はすごいと思うし、俺にはない部分だと思う。あと立っているだけで存在感が出る。「海」が頼ろうと思える「超」だよね」
▽ 日野真一郎(超)
▽ 大山真志(超)
―― 「海」はどうですか? 自分にはない相手の「海」の魅力。
大山「俺ね、実は今日のじゃないパターンの方が好き。ヒッシュの「海」は」
日野「へえ!」
大山「さっきも話したけど「守らなきゃ」って気持ちになったのは初めてだったんだけど、ヒッシュの歌声が、幼い「海」と、覚醒したあとの「海」、なだらかに推移していくのが好きなの。俺が作る「海」は明確に歌い方を変えているんだけど、ヒッシュの「海」は全部が繋がっていると思ったのね。無理に幼くしようとしてなくて、ナチュラルで。それが俺には出来ないところだから、おおっって思った。(木内)健人もわりと年齢高めで作っているけど、いつものヒッシュはそれよりもさらに高めだよね」
日野「そうだと思う」
大山「それが、「こういう「海」でもいいんだ」って思えたんだ、俺」
日野「そっかぁ...、迷うなあ(笑)。あっちのがいいとか言われると」
大山「でも今日は、ヒッシュの中でも色々考えているものがあってやってるんだなって思ったよ」
日野「マーシーの「海」は、やっぱり最初と最後のギャップがすごいんですよ。しかもワンパターンじゃなく、初演の時も、そのギャップの出し方を色々試していたのも僕、見ているし。そこはすごいなと思っていて。僕、だから真似しようとしているんですね、あの幼い部分を。自分にないものを知らずに求めていたのかな、マーシーのその部分に憧れていたのかなって、今、質問を考えながら思った」
大山「照!」
日野「ほんと、ほんと! 今日、自分が「海」をなんで幼くしたんだろうと考えると、そのマーシーの「海」のギャップが魅力的だったんでしょうね。でもマーシーは今日じゃないパターンのが魅力的って言ってくれたから...どうしましょう(笑)」
大山「ちょうどよい間をとっていけば素敵だと思います(笑)。でも前半幼くすると、「わかりやすく」なるんだよね。だから俺、(あえて)今回ちょっと年齢設定を引き上げている。それに俺もヒッシュの「海」を見たことが大きくて。どう噛み砕いたら最終地点にたどり着けるのか、今でも台本を開いて毎日考えます。これ、すごく珍しいことなんですよ。舞台の初日あけてからも台本を読むことってほとんどないんです。こんなに考えること、普段はないです」
日野「俺、毎日めっちゃ読んでる」
大山「読んでるよね、本番直前にも開いてる。素敵なことだと思う」
日野「僕が台本見るのは不安になるからなんだけど(笑)。今日は「超」、今日は「海」って...。精神安定剤みたいなかんじ(笑)」
▽ 大山真志(海)
▽ 日野真一郎(海)
● 大山真志から日野真一郎への質問、その2
大山「作品とはズレちゃうんですが、LE VELVETSをやっている日野真一郎と、役者をやってる日野真一郎って、全然違うもの?」
日野「ぜんっぜん、ちがう!」
大山「何が? 自分の居方?」
日野「居方じゃないな。もちろん両方とも自分自身なんだけど。LE VELVETSの時は、ある意味ちょっと武装している」
―― "芸名の日野真一郎" みたいな?
日野「そうですね」
大山「それはまさに「超」じゃない!」
日野「そうだね! もちろんLE VELVETSでバリアを張っているわけじゃないんだけどね。こうあるべき自分でいる。演劇の現場でも、実は最初はそうやっていたんです、カッコつけたり武装したり。でもこれでは演技できないんだって気付いて、バーンと外しました。何も包み隠さず裸になっている感じ。そこが大きな違いです」
―― 似たようなことを1年前のインタビューで大山さんが仰っていましたよ。「人前に出ている大山真志」と、「家に帰った時の大山真志」が違う、だから李箱の中に色々な面があるのはわかる...というようなことを。
大山「うん、しましたね!人前の大山真志と家に帰った大山真志。でもまさにそういうことなんだろうね。誰でも、人前は「超」でいなきゃいけないプレッシャーはあるよね」
日野「本当はいらないんだけどね。時と場合によっては必要。だけどこの作品では、人前で取り繕った自分だと、バレちゃう」
大山「そうだね。でもきっと観に来てくれるお客さんも、会社でプレゼンしたりするときは「超」なんですよ。自分を作っている。そして家に帰ると「海」になって、自分の中の「紅」になぐさめてー!ってなるんだよ。...『SMOKE』、そんなあなたに刺さればいいなと思います!」
日野「笑! そんなまとめ方!? でもみんなが持ってるものだから、観ていて刺さるんだね。絶対感じたことがある感覚だから」
▽ 大山真志(海)、高垣彩陽(紅)
●『SMOKE』は間違いなく自分のターニングポイントになる作品
―― 細かいポイントをお聞きしてもいいでしょうか。中盤、「海」の回想シーンになりますが、「超」は椅子に座っていますよね。あそこはどういう存在なんだろうと...。
大山「あれは本当は「影」です。なんなら、あそこのシーンはシュッと消えちゃいたいくらい。だから俯瞰で回想を見ています。でも「紅」に視線を振られたら「ああ、聞きたくないことを聞いたな...」って思う。だから、あそこの居方は本当に難しいんです。俺、稽古中にこうめいさんに何回か「どうやって居ればいいんですか」って聞いてますもん(笑)。こうめいさんも「本当は消えたいよな...」って(笑)!」
日野「前回はもうちょっと「超」もリアクションしていたんですけどね。でも今回は「そこは影だから何もしない」ってこうめいさんに言われて。だから何もせず...」
大山「見ないで、見てる」
日野「そうだね、見ないで、見てる」
▽ 日野真一郎(超)、大山真志(海)、高垣彩陽(紅)
―― もうひとつ日野さんに質問を。音楽のプロとして『SMOKE』の音楽の中毒性をどんなところに感じますか?
日野「なんでしょう、なんで心に響くんでしょうね。そうだな...でも好きなところを語ると、僕は「超」のパートが、難しいけれどすごく好きなんです。一度ぶつけておいて、最後に落ち着く。どの曲に限らず、音楽的に「超」はすごくキーマン。最初は音がぶつかってすごく気持ち悪いんですが、それがすーっと美しいところに落ち着く。聴いている側も「...(息をつめて)...あ、気持ちいい」って感じると思う、そこが中毒性に繋がるのかなって思う。ぶつかって、最後に解決する。特に前半は「超」が操って支配していく物語だっていうのが、そういう音楽にも表れているんじゃないかなって僕は勝手に思っています」
―― なるほど、ありがとうございます! ちなみに大山さんはまだ『SMOKE』は続けていきたいって仰っていましたが...。
日野「おっ。やりたい! やりたいやりたい」
大山「どうする? 次は「紅」もやる?」
日野「「紅」やりたい(笑)!」
大山「やりたいよね~(笑)」
日野「『SMOKE』は全部が詰まっているんだよね。自分の弱い部分も、強い部分も。全部をみせる。裸になれる。これは間違いなく僕のターニングポイントの作品だし、たぶん死ぬまで「『SMOKE』をやった」ってところが、僕の支えのひとつになると思います。自信になる作品。だから、僕もまだ出来ることなら、この作品には関っていたいです!」
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【バックナンバー(2019年公演)】
#1 石井一孝&藤岡正明&彩吹真央インタビュー
#2 芸劇チーム、稽古場レポート
#3 芸劇チーム、開幕レポート
#4 藤岡正明&木内健人 インタビュー
#5 九劇チーム、稽古場レポート
# (ぴあニュース)開幕ニュース
#6 大山真志&池田有希子インタビュー
#7 九劇チーム、開幕ニュース
【バックナンバー(2018年公演)】
#1 稽古場写真到着!公演情報
#2 稽古場レポート
#3 大山真志×日野真一郎ロングインタビュー
【公演情報】
〈ORIGINAL CASTバージョン〉
7月25日(木)~8月18日(日) 浅草九劇(東京)
[出演]大山真志/木内健人・木暮真一郎/日野真一郎
池田有希子・高垣彩陽・元榮菜摘