『マイ・フェア・レディ』#10 ミュージカルの王道にして、"ほっとする"素朴な魅力ーー『マイ・フェア・レディ』公演レポート

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【チケットぴあニュース】

ミュージカル『マイ・フェア・レディ』が現在、東京芸術劇場 プレイハウスにて上演中だ。映画でオードリー・ヘップバーンが演じたヒロイン・イライザは霧矢大夢(きりや ひろむ)と、真飛聖(まとぶ せい)のWキャスト。霧矢版を観劇したレポートを記す。 
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下町育ちの花売り娘・イライザが、言語学者のヒギンズ教授に正しい言葉と淑女としてのマナーを教え込まれ、レディとして生まれ変わるシンデレラ・ストーリー。名作として名高い1964年の映画でもよく知られているが、元は1956年に"戦後のブロードウェイを代表する大傑作"と賞賛された舞台だ。日本では映画公開に先立ち1963年に初演、これは日本で初めて日本人が日本語で演じたブロードウェイ・ミュージカルとしてミュージカル史に名を刻んでいる。 

▽イライザ役、霧矢大夢
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▽イライザ役、真飛聖
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そんな歴史ある作品だが、今の時代でもまったく古びず、むしろ恋をする高揚感や切なさ、苦しさなどはひりつくほどリアルでフレッシュに伝わってくる。演出のG2は2013年に"リボーン版"を謳い、訳や演出を一新。今回はその3年ぶりの再演だが、それぞれカンペキな人間ではない、だがまっすぐに生きている登場人物たちの愛おしさがさらにパワーアップしている。"きちんとした言葉遣いを習いたい"と素直な気持ちで頑張るイライザを、霧矢は明るくキュートに演じる。その健気な前向きさに、周囲の人々が力が貸すのは納得だ。イライザを教え導く立場ながら、女心を解さず衝突するヒギンズ教授は寺脇康文。前回より"変わり者感"が増し、イライザとヒギンズの関係も、さらにもどかしくなった。教養を身につけ自立していく一方でヒギンズに次第に惹かれ、自分を特別扱いして欲しくなるイライザ。イライザに惹かれながらも、自分のその気持ちにすら気付かないヒギンズ。恋をしたら自分を見て欲しい、ありのままの自分を愛して欲しい......そう思うのは、いつの時代も同じなのだ。そして大人の恋だからこその不器用さは見ていていっそう微笑ましく、観客は彼らの恋に心を寄り添わせ、応援したくなる。それこそがこの作品が永遠の名作であるゆえんだろう。 
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音楽は、初めてこの作品を観る方もどこかで耳にしたことがあるであろう、おなじみの名曲揃い。『踊り明かそう』という名で親しまれている曲が、『じっとしていられない』とタイトルを変えるなど、リボーン版で大胆な手を入れたG2だが、その訳は芝居の中で歌われてこそ光る。芝居と歌の間で感情を途切れさせることなく、気持ちの高ぶりが歌になる。ミュージカルの本来の在り方を再発見し、そしてミュージカルの素晴らしさを改めて輝かせているリボーン版『マイ・フェア・レディ』は、普遍的な良さを、新鮮な感動で包んだ名作だ。 

ほか出演は田山涼成、松尾貴史、水田航生、麻生かほ里、高橋惠子ら。東京公演は8月7日(日)まで。その後8月13日(土)・14日(日)に愛知県芸術劇場 大ホール、8月20日(土)から22日(月)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演。



以上、先週「チケットぴあニュース」でお伝えした公演レポートですが、せっかくですので、げきぴあではもう少し詳しくお伝えします!

イライザ役、霧矢大夢さん真飛聖さんとWキャスト)。
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イライザは下町育ちで貧しくはありますが、自分の意思で状況を変えようと行動する女性です。
霧矢イライザは、前回よりひたむきな健気さがいっそう増し、時に一般常識からしたら破天荒に見える行動も愛らしい。彼女自身は自分の足で立っていける女性なのでしょうが、その素直さ、ひたむきさに、周りが自然と手を差し伸べたくなる、応援したくなるのです。
劇中、ヒギンズ夫人が発する「わたし、あの子のファンになっちゃった!」という言葉は、観ている誰もの気持ちでもあるに違いありません。
そして寺脇康文さん扮するヒギンズ教授との"正しい話し方"訓練のシーンのやりとりは、ちょっとした間合いにも可笑しさが溢れ(関西出身の霧矢さんの本領発揮!?)、絶品です!

ヒギンズ教授、寺脇康文さん。
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もともとイライザの淑女教育は、ひどい訛りの彼女を見たヒギンズ教授が「自分ならあの娘を半年で舞踏会デビューできるようにしてみせる」と賭けたことから始まります。
...ということからもわかるように、上流階級側の人間ではありますが、ヒギンズ教授もスマートな紳士ではなくなかなかのアウトロー。
そんなアウトローな横顔は前回公演と同様、寺脇ヒギンズの最大の魅力ですが、2016年版・寺脇ヒギンズはさらに"変わり者感"が増しています!
女心の解さなさから生まれる、なかなかに失礼な言動に「イライザの気持ちもわかってあげてよ...」と思い、イライザが去った後のヒギンズの慌てっぷりに「だから言ったのに...」と思うのですが。
イライザを失うかもしれない寂しさや、それでも固執する自分のプライド、やっぱり理解できない女心など、揺れる気持ちを深く表現する寺脇ヒギンズに、彼もまた"不器用である自分を、そのまま受け入れて欲しい"という男心があり、イライザもまたそこを気付いてあげていなかったのだな...と、今回"ヒギンズ目線"のこの物語に気付かされました。
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ピッカリング大佐、田山涼成さん。
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イライザを淑女に仕立て上げられるか賭けをする、ヒギンズの友人でもありますが、彼は(ヒギンズとは違い)紳士であります。
イライザを最初から淑女として扱うピッカリングを、相変わらずの好々爺的笑顔で演じる田山さん。
前回よりピッカリングのダンスシーンも増え、「イライザ・ヒギンズ・ピッカリング」の3人の絆も強まりました!
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イライザの父・ドゥーリトル役、松尾貴史さん。
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下町のおっちゃんですが、独特の論理思考を持つ男。知性がありながら世間に対して斜に構えているようなドゥーリトルは、松尾さんにぴったりです!
酔っ払い姿も天下一品、そして作品を代表するダンスナンバーを2曲も担います! このシーン、ドゥーリトルはもちろん、アンサンブルの皆さんもそれぞれ個性が際立っていて、本当に見ていて楽しいです。
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ピアス夫人、寿ひずるさん。
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ヒギンズ邸の家政婦頭、といった存在です。
ピアスさんも前回よりクールさが増し、主人であるヒギンズに時折投げる冷たい視線がなんとも可笑しく、そしてそのことでヒギンズの変わり者感がさらに強調されるようで...。
彼女がヒギンズ邸でどんな存在であるのか...きっと教授が幼い頃からこの屋敷を取り仕切っていたのだろうな、とか...想像が膨らむ、素敵なピアスさんです。


さて、げきぴあにも何度も登場していただきました、新生フレディ=水田航生さん
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水田フレディ、アスコット競馬場のシーンが素敵です!
美しいイライザに目を奪われ、そしてイライザの話すトンでもない話に大笑いし...。育ちがよく、素直に育った青年らしく、常に笑顔であるのですが、その笑顔のバリエーションが多彩で魅力的!
もちろん、フレディの見せ場である名曲『君の住む街』のシーンの天然なお花畑感もチャーミングでした。
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そのフレディの母親、アインスフォードヒル夫人役の麻生かほ里さん。
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麻生さんのシーンで個人的にダントツ好きなシーンは、冒頭の登場シーンです。
まだヒギンズと出会う前、花を売っているイライザにあることから食ってかかられるアインスフォードヒル夫人の、すっとぼけたセリフと表情は最高です。皆さまお見逃しなく。


最後に教授の母、ヒギンズ夫人役の高橋惠子さん。
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お上品な上流階級のご婦人ですが、息子よりイライザを応援する茶目っ気もある女性。
その"上品さ"と"茶目っ気"が高橋さんはぴったりです。さらに、変わり者の息子に頭を痛める母親像も...。
「うちの"ご高名な息子"は...」と顔をしかめる夫人の表情が素晴らしくチャーミングでした。



下町娘イライザが淑女として生まれ変わっていく中で生まれる自我と自立の心、そして彼女を指導するヒギンズ教授とのもどかしい恋心。
ふたりを取り囲む、個性的でユニークな、温かい人々。

『マイ・フェア・レディ』は王道のシンデレラ・ストーリーであり、ミュージカルらしい明るさ、華やかさはもちろんあります。
ただ、イギリスの上流社会を描きつつも、受ける印象は健康的な素朴さ。
なんだか「ほっとする」作品なのです。

そして、そんな作品に相応しく、キャストの皆さんは笑顔が似合う、素敵な俳優さんばかり!
演出のG2さんがこの"リボーン版"(2016年はリ・リボーン版?)で改めて描き出した作品本来の魅力とは、善良な人々が、お互いを思いやりながら日々を暮らす、当たり前の日常の素晴らしさを丁寧に描いていること...ではないかと思った、今回の『マイ・フェア・レディ』でした。
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取材・文:平野祥恵(ぴあ)
写真提供:東宝演劇部


【『マイ・フェア・レディ』2016 バックナンバー】

【公演情報】
7月10日(日)~8月7日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
8月13日(土)・14日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
8月20日(土)~22日(月) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)

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