2019年7月アーカイブ

2018/2019シーズン、小川絵梨子さんが新たに芸術監督に就任してからというもの、全キャストをオーディションで選んだ『かもめ』、名古屋の老舗劇団・少年王者舘の新作『1001』など、魅力的な公演を連発している新国立劇場。

この小劇場で7月11日から上演されるのは、実在の事件や人物を題材にした作品が高い評価を得ている劇団「パラドックス定数」の野木萌葱さんが書き下ろした『骨と十字架』。その稽古場におじゃましました。

物語の中心となるのは、北京原人の頭蓋骨の発見に関わった古生物学者、ピエール・テイヤール・ド・シャルダン。彼はすぐれた学者であると同時に進化論を否定するキリスト教の教えに従う司祭でもありました。信じる二つのものが相反するとき、どうすればよいのか。その苦悩を男たちの研ぎ澄まされた会話で描く骨太の作品です。

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稽古場には、さまざまな高さの燭台が4つ。クラシックな椅子も置かれています。イエズス会本部の部屋を表したセットです。

5月末からスタートした稽古では本読みの時間をたっぷりと取ったとのことで、私たちがうかがったのは立ち稽古がはじまってから1週間ほど経った頃でした。

この日稽古されていたのは、近藤芳正さん演じるラグランジュと主人公テイヤールが対立するシーン。キャストは布をたっぷりと使った司祭の衣装をつけていますが、これは稽古用のものだそう。

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演出の小川さんが声をかけると、静かに稽古場中央に進み出たふたりが、そのまま静かに稽古をはじめました。冒頭、ふたりとも表面的には冷静に会話を進めます。けれども少しずつ空気が緊迫していき、とうとう決裂してしまいます。部屋を飛び出たテイヤールに、伊達暁さん演じるリサンが寄り添い、理解を示すところも次の幕につながる重要な場面です。激昂する近藤さんとの対峙と、穏やかな伊達さんの登場。テイヤールの未来はどうなるのか、観客がぐっと引き込まれるであろうやりとりが続きます。

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一旦通したあと、「じゃあ見ていきましょう!」と明るく声をかけた小川さん。「この会話で空気が変わるところが3,4箇所あります」と具体的に説明していきます。

神を信じていると同時に進化論も確かなものと思っているテイヤール、その両立はありえないと考えるラグランジュ、お互いのフラストレーションが爆発する引き金となるセリフを解説し、「この言葉を、どれだけの覚悟で発しているか」と語ります。

「いまのテイヤールの発話は砂利のような感じ。でも、この人の言葉の届き方は、コットンくらいじゃないかな」とたとえながら伝える小川さん。休憩中も、このシーンについて話し合うキャストたち。このシーンをしっかりつくりあげようという気迫が稽古場に満ちていました。

自分の信じるものが否定される苦しみ、それでも研究の道を進まずにはいられない学者の性。テイヤールの揺れ動く姿は、観る者の心をおおきく揺さぶるに違いありません。

「骨と十字架」は公演中です!

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さんの代表作を、新演出&新キャストで上演するシリーズ企画「KERA CROSS」。その第1弾『フローズン・ビーチ』が間もなく開幕します。そこで現在、都内某所で行われている稽古の様子をレポート。その連載企画の第3弾です。

今回注目するのは、双子の姉妹・愛と萌のふた役を演じる花乃まりあさん。

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元宝塚歌劇団の花組娘役トップで、退団後はドラマ『越路吹雪物語』で2018年に女優デビュー。演出の鈴木裕美さんとは、『二十日鼠と人間』(2018年)以来、2度目の顔合わせになります。

この日は第2場を稽古中。義母の咲恵と愛がふたりで暮らす別荘に、愛の友達の千津と、その親友の市子が8年ぶりにやって来ます。ここから...。

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こうなった経緯は本番を楽しみにしていただいて...。

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なんでもないはずの日常が、突如大きくうねり出すのはKERAさんの脚本ならではです。

そしていったん退場していた愛が、血のついた包丁(!)を持って再び登場。物語は一気に緊張感を増していきます。

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千津、市子、咲恵に比べれば、花乃さん演じる愛は、裕美さんいわく「元々のつくりが一番おバカに出来ていない」女性。それゆえ一番周りに翻弄されてしまう女性でもあります。実は花乃さん、別のキャストが体調不良のため、急遽代役を任せられたのですが、稽古参加初日にはすでにすべてのせりふが完全に入っていたそう。その真面目さ、演じることへの真摯な姿勢は、愛の真っすぐさにも通じるものがあります。

そんな愛がブルゾンちえみさん演じる市子に包丁を!

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第2場の冒頭からここに至るまでの激動の展開に、稽古とはいえ一時も目が離せません! 中でもこのシーンでは、これまで周囲に翻弄されてばかりいた愛が、初めて主導権を握り物語を動かしていきます。

そしてここは愛と市子の体を張ったやり取りが多いシーン。そのため流れを止め、細かく動きの確認をしていきます。

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お客さんに見えやすいことはもちろん、俳優がケガをしないことも舞台ではとても大切。そのため演出の裕美さんも一緒に、一見簡単なような動きでも、ひとつひとつしっかりと確認をしていきます。

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ちなみにレポートの第2弾で、裕美さんの演出シーンのひとつとして紹介したある動き。実は愛の動きで、花乃さんが実際にやるとこんな感じ。

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説明は出来ないけれどもとんでもなくおかしい。そんなKERAさんらしい笑いを象徴するシーンですが、花乃さんが真面目に、美しくやればやるほど、そのおかしみは増していくようです。

この『フローズン・ビーチ』は、KERAさん作品によく見られる、ありそうでないこと、なさそうであることが融合し、絶妙なバランスの上に成り立っている作品。それを作者のKERAさんではない裕美さんが演出し、ナイロン100℃の劇団員ではないキャスト陣が演じることは、とても難しいはずです。しかし今回見学させてもらって感じたのは、そんなこちらの不安を払拭するような、前向きで創造的なスタッフ、キャスト陣の姿勢。改めてこの名作をまた劇場で楽しめることが、グッと楽しみになりました。

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取材・文:野上瑠美子

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演出・脚本を三浦 香、脚本を伊勢直弘、振付を當間里美、楽曲制作をAsu(BMI Inc.)という『Club SLAZY』シリーズのスタッフが再集結した完全新作オリジナル舞台『Like A(ライカ)』
'18年2月の初演、'19年1月の第二弾に続き、この8月に第三弾となるroom[003]が上演されます!

海沿いの静かな街に立つ一軒の高級ホテル『PERMANENT』で働く人々の謎に満ちたストーリーは、第二弾でさらに謎を呼び、今回、果たしてどこにいくのか......。※詳細はコチラ

というわけで、1作目から出演するBB(ビービー)役の辻凌志朗さん(※「辻」は一点しんにょう)、インスペクター役のSHUNさんキーパー役の中谷優心さんアッシャー役の髙﨑俊吾さんにお話をうかがいました!

*****

――今回3作目が決まってどうでしたか?
髙﨑 『Like A』の現場はすごく刺激的なのでまた参加できるのが楽しみです。どんなストーリーになるのかとても気になっているので、台本はよ!って感じですね(笑)。

――刺激的ってどんな現場なんですか?
髙﨑 キャストもスタッフの方もクリエイティブな人が多いんですよ。だからひとつの舞台をつくるというより"作品"をつくっているような感じがあって。大変ですけど刺激的です。
 僕はついこの間、初演をやっていたような気がして、もうroom[003]なのかということに驚きました。前作で深まった謎も明らかになった謎もあって、ミステリーとしては今作は重要なところになるんじゃないかなと思っています。まあ、僕の予感なんですけど(笑)。
SHUN (笑)。僕は続編というものが初めてだったので、room[002]に入るときに「みんなとの関係も深まっているしエンジン全開でやれる」と思っていたのですが、実際にやってみると逆に「まだできる」という気持ちがうまれました。room[003]はそこを超えていけるんじゃないかなって思います。

――「まだできる」という気持ちが生まれたんですね。
SHUN そうですね。前作で怒られまくったので(笑)。まだいけるんだろうなって。
中谷 思い出したくない(笑)。
SHUN 幼馴染4人(辻・SHUN・中谷・バトラー役の石賀和輝)のシーンでけっこう手こずったんですよ。みんな稽古場からへこみまくって帰ってたから(笑)。でもそのときにすごくもがいたので、それが役の厚みにもなっていると思いますし、今回成長したところを見せられる機会があるのはすごく嬉しいです。
中谷 僕は香さんの演出で、Asuさんの曲を、里美さんの振付でやれるのは本当に幸せだなと思っています。俳優としてもアーティストとしても。

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さんの代表作を、新演出&新キャストで上演するシリーズ企画「KERA CROSS」。その第1弾『フローズン・ビーチ』が間もなく開幕します。そこで都内某所にある稽古場にお邪魔しました。

第1弾のレポートに引き続き、第2場の稽古中。鈴木杏さん演じる千津、花乃まりあさん演じる愛、シルビア・グラブさん演じる咲恵のもと、市子役のブルゾンちえみさんが登場します。

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キャリアウーマンネタで大ブレイクしたブルゾンさんですが、俳優として舞台に立つのはこれが初。ただ舞台を観ることは今までも大好きだったそうで、これが念願の初舞台となります。

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演じる市子は千津の親友であり、言動に突飛なところもある人物で、非常に難しい役どころですが、ブルゾンさんはお笑いタレントさんとはいえ、笑いに寄せていくようなことはしません。とにかく役に、作品に真摯に取り組んでおり、それでいて市子が持つ違和感のようなものもじんわりと滲ませます。

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演出は鈴木裕美さん。俳優さんへの熱のこもった指示だしの様子を見ると、多くの俳優さんから信頼を寄せられているのも、なるほど納得です。

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裕美さんの演出にはよく例えが登場します。「あごめんなさい!」という千津のセリフに対しては、「"冷蔵庫の野菜ジュース飲んじゃった!"くらいのノリで」など、身近な事柄から、誰にとってもイメージしやすい、絶妙な言葉を選んで俳優さんを導いていきます。

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また「これどういうことなんだろうね?」など、わからない点に関しては俳優さんに問いかけつつ、一緒に正解を見つけようとディスカッションを重ねていきます。KERAさんの戯曲は理屈ではない部分も多く、答えを出しづらいところもあるようですが、「これがKERAさんのミソなんだと思う」といった言葉も聞かれ、この難題を全員で少しずつ切り崩していく様子も見られました。

ちなみにこれ、どのシーンかわかる人は相当なナイロン100℃好き。

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このように裕美さんは演出家席でじっとしていることなく、自らどんどん動きながら作品を構築していきます。またこれは完全に余談ですが、裕美さんが俳優さんに向かって話している時、突如裕美さんのSiriが反応、「トカゲの~」と話し始めました。もちろん稽古場全員が爆笑。どうやら裕美さんの「人影」という言葉を拾ったようで、こんなミラクルな笑いが起きるのも、裕美さんのキャラクターゆえではないでしょうか。

もちろんそんな風通しのいい稽古場は、どんどん作品を進化、そして深化させていくのです。

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第2弾はここまで。第3弾では、双子の姉妹・愛と萌を演じる花乃さんに注目してレポートします!

取材・文:野上瑠美子

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