ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さんの代表作を、新演出&新キャストで上演するシリーズ企画「KERA CROSS」。その第1弾『フローズン・ビーチ』が間もなく開幕します。そこで都内某所にある稽古場にお邪魔しました。
第1弾のレポートに引き続き、第2場の稽古中。鈴木杏さん演じる千津、花乃まりあさん演じる愛、シルビア・グラブさん演じる咲恵のもと、市子役のブルゾンちえみさんが登場します。
キャリアウーマンネタで大ブレイクしたブルゾンさんですが、俳優として舞台に立つのはこれが初。ただ舞台を観ることは今までも大好きだったそうで、これが念願の初舞台となります。
演じる市子は千津の親友であり、言動に突飛なところもある人物で、非常に難しい役どころですが、ブルゾンさんはお笑いタレントさんとはいえ、笑いに寄せていくようなことはしません。とにかく役に、作品に真摯に取り組んでおり、それでいて市子が持つ違和感のようなものもじんわりと滲ませます。
演出は鈴木裕美さん。俳優さんへの熱のこもった指示だしの様子を見ると、多くの俳優さんから信頼を寄せられているのも、なるほど納得です。
裕美さんの演出にはよく例えが登場します。「あごめんなさい!」という千津のセリフに対しては、「"冷蔵庫の野菜ジュース飲んじゃった!"くらいのノリで」など、身近な事柄から、誰にとってもイメージしやすい、絶妙な言葉を選んで俳優さんを導いていきます。
また「これどういうことなんだろうね?」など、わからない点に関しては俳優さんに問いかけつつ、一緒に正解を見つけようとディスカッションを重ねていきます。KERAさんの戯曲は理屈ではない部分も多く、答えを出しづらいところもあるようですが、「これがKERAさんのミソなんだと思う」といった言葉も聞かれ、この難題を全員で少しずつ切り崩していく様子も見られました。
ちなみにこれ、どのシーンかわかる人は相当なナイロン100℃好き。
このように裕美さんは演出家席でじっとしていることなく、自らどんどん動きながら作品を構築していきます。またこれは完全に余談ですが、裕美さんが俳優さんに向かって話している時、突如裕美さんのSiriが反応、「トカゲの~」と話し始めました。もちろん稽古場全員が爆笑。どうやら裕美さんの「人影」という言葉を拾ったようで、こんなミラクルな笑いが起きるのも、裕美さんのキャラクターゆえではないでしょうか。
もちろんそんな風通しのいい稽古場は、どんどん作品を進化、そして深化させていくのです。
第2弾はここまで。第3弾では、双子の姉妹・愛と萌を演じる花乃さんに注目してレポートします!
取材・文:野上瑠美子