ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)さんがこれまでに書き下ろした膨大な脚本から、珠玉の名作をピックアップ。そこに新たな演出家、出演者をかけ合わせ、再構築するというシリーズ「KERA CROSS」がついに始動します。その第1弾に選ばれたのは、第43回岸田國士戯曲賞を受賞した傑作『フローズン・ビーチ』。1998年、2002年とナイロン100℃の本公演として上演された、まさにKERAさんの代表作です。
今回演出を任されたのは、KERAさんからの信頼も厚い鈴木裕美さん。ストレートプレイからミュージカルまで、幅広く手がける名演出家です。
4人のキャストには、非常にバラエティ豊かな面々がそろいました。まずはKERAさん作品には2度出演経験のある実力派の鈴木杏さん。
キャリアウーマンネタで大ブレイクしたブルゾンちえみさん。
元宝塚歌劇団花組トップ娘役の花乃まりあさん。
ミュージカルを中心に圧倒的な存在感を見せるシルビア・グラブさん。
その仕上がりがまったく予想出来ないのと同時に、妙にワクワクするこの組み合わせからも、KERA CROSSならではのチャレンジングな姿勢が伺えます。
その化学変化がいかなるものなのか。稽古場にお邪魔させていただき、気になる創作過程の様子を3回にわたってレポートします!
まず物語の舞台となるのは、カリブ海と大西洋の間に浮かぶリゾートアイランドにある別荘。ここは双子の姉妹・愛と萌の父親・梅蔵の持ち物であり、梅蔵には盲目の咲恵という後妻がいます。その別荘を訪れたのが、愛の旧友の千津と、その幼なじみの市子。彼女たちを巡る、16年に渡る愛憎のストーリーです。
本作は第1場が1987年、第2場が1995年、第3場が2003年と、8年ごとの物語が展開されていきます。この日は第2場から稽古スタート。花乃さん演じる愛とシルビアさん演じる咲恵が、楽しげに会話を弾ませています。
咲恵は盲目でありながらとても大らかで前向きな女性という設定。明るい性格のシルビアさんにはぴったりの役どころです。またKERAさん作品への参加はこれが初めてのシルビアさんですが、三谷幸喜さん作品の常連でもあり、やはりそのコメディセンスは抜群。KERAさんと三谷さんでは笑いの質は大きく異なりますが、セリフの掴み方や間合いが絶妙で、KERAさんの戯曲にもしっくりなじんでいます。
そこに現れたのは、愛と咲恵とは8年ぶりの再会となる、杏さん演じる千津。
愛と咲恵の関係性同様、話し方や雰囲気が第1場の千津とは大きく異なります。もちろんある理由があってのことなのですが、ヒントは1995年という時代。このあたりのチョイスが、KERAさんならではの強烈な皮肉とユニークさと言えます。
杏さんの芝居がうまいのは今さら言うまでもありませんが、これまでにナイロン100℃『社長吸血記』(2014)、KERA・MAP『修道女たち』(2018)とKERAさんの演出を2度経験。そのため脚本の読み込みが深く、的確なので、シーンがどんどん面白くなっていきます。
ちなみにこちらは愛と咲恵を出し抜いて得意満面の千津。この何秒か前とのギャップがとてつもなくおかしいのです。
ひとまず第1弾はここまで。第2弾では初舞台のブルゾンさんについて。また第3弾では急遽出演が決定した花乃さんについて細かくレポートします!
取材・文:野上瑠美子
撮影:石阪大輔