井上芳雄さんがホストを務め、日本ミュージカル界のレジェンドたちをゲストにトークをする「レジェンド・オブ・ミュージカル」。
鳳蘭さんをゲストに迎え、6月23日に開催された「vol.4」のレポートをお届けします。
このシリーズは井上さんが「昨今ミュージカルブームと言われて久しく、東京に限らず様々なミュージカルが上演されています。ありがたい状況なのですが、逆に言えばなぜ今、こういう状況なのか? と考えます。才能ある若いミュージカル俳優もどんどん出てきていますが、未来を考えるためには過去を知らないといけない。日本のミュージカルの創生期はどういう雰囲気で、どういう方々がどんな苦労と喜びを持ってやっていらっしゃったのか知りたいと思って」と自ら企画し、はじめたもの。
その趣旨のもと、第1回は草笛光子さん、第2回は宝田明さん、第3回は松本白鸚さんをレジェンドとして迎え、先人の苦労やエピソードを紐解いてきました。
そして第4回のこの日、迎えたレジェンドは鳳蘭さん。
★鳳蘭★
1964年に宝塚歌劇団に入団。1970年に星組トップスター就任。1976年『ベルサイユのばら』、1977年『風と共に去りぬ』など今に続く名作に主演し、1978年に宝塚退団。
その後1980年に『ファニー・ガール』で東宝作品に初出演、今年も冬にミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』の出演が控えており、40年にわたり第一線で活躍し続けています。
井上さんも「とにかく "華がある" ミュージカル俳優の代表格。僕もけっこう「華がある」と言われるんですが(笑)、僕なんかの華はたいしたことないんだなと思い知らされました」と語るほどのスターであり、宝塚の"トップ・オブ・トップ"。
そんな鳳さんを迎えてのトークは、名MC・井上芳雄ですら制御不能!? な、爆笑の鳳蘭劇場となりました。
● スター星のもとに生まれたふたり!?
鳳さんのプロフィールを紹介した後、ご本人を呼び入れた井上さんに対し鳳さん、第一声は「お話上手ですね! 美貌があってスタイルも良い、歌うまい、お芝居うまい、お話上手。悪いところ、なに!?」。
対して井上さん「悪いところ...ちょっと口が悪い?」。
...と、しょっぱなから「新たな名コンビ誕生か!?」という掛け合いを見せてくれるおふたりですが、これまでに共演経験はなく、この日がほぼ「初めまして」状態だそう。
ただ鳳さん曰く、「文学座にいってる下の娘(女優の荘田由紀さん)があなたのすごいファンなんですよ。あんまり娘が『芳雄さま、芳雄さま』言うから、どんな方なんだろうと思っていて」という縁があるそうです。
井上「そうですか、お嬢さんが」
鳳 「いい趣味しているなって思います」
井上「僕もそう思います(会場笑)。(由紀さんも)素晴らしい女優さんですよね」
鳳 「まあ、そりゃ私のDNAが」(客席大盛り上がり)
井上「謙遜というのを知らない人種ですね...! でも僕も同じ系です! それにしても、先ほど華々しい経歴をご紹介しましたが...」
鳳 「本当に、華はあると思います(客席爆笑)。すれ違う人はだいたい、バっと振り返るんですよね。そのたびに、また私の華にやられたな~、って思って!」
開始早々、鳳さんのスター☆な人となりが炸裂です!
先に宣言しますが、この日のトーク、終始、この調子です。
その後、お互いを「芳雄ちゃん」「ツレさん」と呼び合うことが決定し...。
井上「生まれ持ってるんですね」
鳳 「私、目の前にいる人がニコニコ笑っているのが好きなんです。悲しそうにしていると、どうやってこの人を明るい気持ちにしようと思っちゃう。今日はすごくいいですよ、みなさん笑っているから。異常なサービス精神の持ち主なんですね。とにかく、前にいる人が幸せでないと嫌なの」
井上「もう最初から...宝塚に入る前からそうですか?」
鳳 「生まれつき? 子どもの頃の写真をみたら、妹がまじめな顔をしている隣で満面の笑顔でこんなことをして(↓)私が写っています。本当に...スター星(に生まれついた)?」(客席笑)
井上「あぁでも、わかります。僕もちょっと同じ星...スター星の方面の人間なので(笑)。人前に出ると、やっぱり皆さんに笑ってほしいですよね」
▽「こんなことをして」のポーズ
鳳さんの小気味よいトークに、いつもの当シリーズでは少し緊張気味の井上さんも、今回ばかりは爆笑モード。ツッコミも冴えます!
● 美貌とスタイルでトップに!? 宝塚時代
井上「まずは宝塚のお話をお伺いしたいんですが。宝塚に入られたのは...その "華" ゆえですか?」
鳳 「そのころの私は、まわりを楽しませようと(ニコっと大きな笑顔をみせ)こんなことをやっていましたが、それが華だとは思っていなかった。ただ、宝塚を受けるという友だちがいたんです。よくある話でしょ」
井上「ジャニーズなんかでよくあるパターンですね!」
鳳 「そうそう。で、友だちにつられていって、私のこの美貌とスタイルでバチっと...」(客席笑)
井上「宝塚に興味があったとかは...」
鳳 「なんにも! 観たことがない! 宝塚音楽学校に入ると、(当時は)舞台を3階席からタダで見せてくれた。生まれて初めて3階席から宝塚を観て「あの真ん中の人は誰」って言ったら、「あんた那智わたるを知らんの!? トップスターの名前を知らないで宝塚入ってきたん?」とみんなにびっくりされました」
井上「では歌も踊りも特別に勉強をされていたわけでもなく」
鳳 「才能、才能!」(客席爆笑&拍手)
井上「世の中、そういう方もいらっしゃるんですね...でも、ぜんぜん嫌味な感じがしないところがすごいですね...」
鳳 「だって本当のことだもん!」(また爆笑&拍手)
井上「そうか...。...これどうやって攻略していけば...」(客席爆笑)
▽ 鳳さんのパワーに当てられぐったり!? の井上さん
そんな、圧倒的な美貌とスタイルを持ち、生まれ持っての才能もあった鳳さんですが「自分はスターにはなれない」と思っていたそう。
宝塚に入ったら、脚がアタマの上まで上がる人はいるし、日本舞踊の名取はいる。ピアノはショパンを弾きこなす人がいる。そういう技術のある人がスターになるんだと思ってたそうです。
鳳 「私、美貌とスタイルで、5番目の成績で音楽学校に入ったんです。それがいきなり、入ったら40人中39番だか38番に落ちた」
井上「...でも安心するエピソードですね(笑)、世の中、美貌だけでずっといけるわけではないという」
鳳 「いや、美貌だけでいけたの」
井上「...。......。あの鳳さん。前の方に、「U25(アンダー25)」という席があって、ミュージカルを志してるような若い方がきているんです。今の話教育上よくない!」(客席笑)
鳳 「ええと、"人を幸せにしよう" という心、気持ちがあれば、それが "華" です。華があればオーラが出て、舞台のどこに居てもその人に目がいく」
井上「心の持ちようですね」
鳳 「心です! 舞台は、心」
そして鳳さん、自分の登場で客席がどよめいたりすることに気付き、「成績悪くてもお客さんをどよめかせる力があるの? スターになれるかもしれない」と思い、一念発起。
「そこからです。宝塚歌劇団は、あらゆるレッスンがタダなんです。ジャズダンスに日本舞踊、歌。ぜんぶのレッスンを受けた。それまでは自分はダメだから3年くらいで辞めようと思っていたし、音楽学校の時の授業は遅刻ばかりしていた。どよめきがおきた頃から「やるぞ!」となって、すべてのレッスンを受けました。努力しました」
そんな話題の中にも、
「最下級生で一番後ろで踊っていたら、(ダンスの)朱里みさを先生が「そこの! 前にいらっしゃい」と呼ばれて、上級生もいる中で一番前で踊らされて。セクシーな振りだったのですが、やったら「(鳳さんのように)こう踊るんだよ!」って上級生たちに向かって言うんです。私、踊りもできるの!? って(笑)」
「深緑夏代さんのシャンソンのレッスンに初めて行ったとき、歌っていたら「男と女が愛し合い、別れていく歌をなんでそんな明るく歌うの!」って怒られたんです。そのあと噛み締めて歌ったら、嗚咽で歌えなくなっちゃって。そうしたら深緑先生が「あなた!シャンソンをやりなさい!」って」
...等々、井上さんも「みんな、こんな人生ばかりじゃないからな!」と注意喚起をするほど、スターらしいエピソードが。
▽ ミュージカル史に残るビッグネームとのエピソードも、ちょっとした実演付き!
日本ミュージカル界の父、菊田一夫とのエピソードも...。
鳳 「研究科1年生のときに菊田先生が宝塚の演出をなさったのですが、私は1年生だから一番端で踊ってた。その時、菊田先生が助手だった鴨川清作先生と酒井澄夫先生に、「あの子が将来宝塚を背負って立つよ」って言ったんです」
井上「えー...!」
鳳 「それで、鴨川先生と澄夫先生が「鳳蘭だ」てなった」
井上「じゃあ最初にツレさんに目をつけたのが菊田先生なんですね。森光子さんと同じエピソードになってきた...!」
鳳さんが歌劇団在団中に主演された『ベルサイユのばら』『風と共に去りぬ』などは、現在も上演され続けている名作です。
井上「どちらも初演ですか?」
鳳 「いえ、『ベルサイユのばら』は、やるよってウワサの中で、私はパリ公演に行ったんです。パリから帰ってきたら、日本は大ベルばらブームだった。ただ、私が帰ってきても、オスカルは無理。私がオスカルだったらアンドレは高倉健くらいの方がやらなきゃいけなくなる(笑)。マリー・アントワネットはとんでもない(笑)、アンドレもちょっと...、ということで、私のために『フェルゼン編』ができました」
井上「ツレさんのために!」
鳳 「私のためにできたの。もう、自慢ばっかり(笑)!それでベルばらブームはさらに加熱して、毛皮を着て外に出ると、ファンの人に全部毛がむしりとられちゃうのよ。取った取った! って喜んでるの。もう、6人くらいに囲まれて駐車場にダッシュよ」
井上「いまの宝塚ファンとは全然違うんですね」
鳳 「全然違いますね。でも『ベルばら」からファンも変わりましたし、下級生たちも変わりました。それまでは楽屋の化粧前に花が一輪活けてあっても、誰からかしら? で終わるんですが、『ベルばら』以降は「私が活けました、私です!」って言ってくるようになったの。主張するようになった」
そんなエピソードのあと、鳳さんと「僕も性別さえ違っていたら宝塚に入りたかったひとり」という井上さんとのデュエットで、『ベルサイユのばら』の名曲『愛あればこそ』を披露!
息のあったデュエットで、鳳さんは「すごく繊細な人ですね。全部わたしの息に合わせた、すごい。ありがとうございます。私も実は人に合わせる方だからよくわかる」。
井上「確かにあわせるのが好きなんです。僕もツレさんタイプですね(笑)。でもこの歌はすごいですね。よく知っているし、鼻歌くらいはお風呂で歌ったりしたこともあるんですが、きちんと歌ったことはなかったのですが、改めて歌うと、愛の豊かさ、深さが、すごい。こんな情感豊かな曲だったんだなと思いました」
鳳 「愛っていうのはパターンがひとつではないじゃないですか。苦しい愛悲しい愛、甘い愛。すべての愛がぜんぶこの歌に集約されてるんです」
●宝塚退団後も、数々の名作ミュージカルに出演
さて、9年トップを続け(井上さん曰く「当然でしょう」)たあと退団、その時の鳳さんは、女優を続けるつもりはなかったそう。「だってこの顔よ! 女優を続けるといってもミュージカルもそんなに上演されていない時代。この顔でホームドラマに出れない、画面からハミ出ちゃう(笑)。絶対女優は出来ないと思ってた、だから結婚したの」。
ただ、ちょうどその頃から、東宝がミュージカルに力を入れ始めたそうで「ちょうどミュージカルの時代がやってきた」。
そして最初の出演作は1980年の『ファニー・ガール』。日本初演です。
「相手役の岡田真澄さんが、毎日、赤いバラを楽屋に持ってきてくださった。外の舞台って相手役の人がそうやって主演の女優さんに花を持っていくもんなんだ、と思ったんですが、私も一応婚約者がいたので「いいのかなコレ?」って思っていました」
その後『スウィーニー・トッド』では、井上さんが「難しい作品ですよね...」と振るも、「私、曲に反応しちゃうんですよ。人間をミートにしてパイにするという嫌な話なのに、音楽が明るいから、役作りより音楽に反応しちゃってケロっと明るく歌ったら、それが救いだって新聞に書かれた」とあっけらかんと話し、客席も相変わらずの爆笑の渦。
▽ 『スウィーニー・トッド』(1981年) 鳳蘭、市川染五郎
ただし「舞台に立つ人にとって一番大事なのはリズム感です。歌もリズム感、踊りもリズム感、お芝居もリズム感。リズムを全部身体に取り入れないと、ダメです」という金言を。
とはいえ、それを意識してやっているのかと井上さんに訊かれ「天性。」ときっぱりひと言、さすがの鳳さん。
▽ 「新婚さんいらっしゃい」だったら椅子から転げ落ちてますよ、と井上さん
井上「基本、天性の方にきくのは間違えてた...でも重要ですよね。普通のおしゃべりでも、リズム感ありますよね」
鳳 「芳雄ちゃんも(リズム感)持ってるわよ。わたしはめっちゃ持ってるけど!」
井上「謙遜しないですね(笑)! 僕もですけど、上には上がいる」
1985年出演の『CHICAGO』の話題などにも触れつつ(共演の麻実れいさんとはつい先日もお食事したばかりとのことで、麻実さんが「またやりたいですね~」と仰って、「もう無理!」と返したとか...)。
井上「ちょっと今までのレジェンドとは客席の感じが違って、どんどん笑いの波が起きている...。吉本新喜劇的な。笑いが止まらなくなっています」
鳳 「私、美貌とスタイルがなかったら吉本入ってた。美貌とスタイルが邪魔したの」
井上「それは本当に残念です...」
▽ 井上さんは『CHICAGO』より『Razzle Dazzle 』も披露
● 転換期だった、『レ・ミゼラブル』初演
鳳 「『レ・ミゼラブル』初演は6ヵ月やったんですよ。稽古ふくめたら1年くらいやってたのかな」
井上「役柄はテナルディエ夫人。ツレさんにしてはめずらしい役柄じゃないですか」
鳳 「それまでヒロインばかりやっていて、これは子どもをいじめる役だったので、いっぱいいたファンの方がいなくなりました(笑)。でもすごく楽になったの。ずっとヒロインしている人はしんどいと思う。私は早くにこれで曲がっちゃったから、気楽」
井上「わかります。主役で、まわりの人の思いに応えなきゃって気持ちもあるんだけど。僕も王子役が多かったんです。いつまでも王子役をやればきっと、王子をやっている僕を好きな方は喜ぶだろうけど。ずっとはできないですから。...でも抵抗はなかったですか?」
鳳 「私はあんまりものを深く考えないんです。やることになったら、やりましょ! ってなる。あとから気付くんですね、「あぁ、あんなにいたファンがいなくなっちゃった、やっちゃったー」って。天性でおおらかなんです(笑)」
井上「気持ちのいい性格ですよね。後悔もされないんですか?」
鳳 「いや、その時は後悔しましたけど、いまゆっくり考えたら、曲がり角をはやく曲がっといてよかったなって思います」
井上「先ほど、『ベルサイユのばら』で宝塚が変わったというお話がありましたが、日本のミュージカルは『レ・ミゼラブル』から変わった、この作品の影響が大きいのかなと思うのですが」
鳳 「それはそうですね。やっぱり上演を重ねるごと、血液の中に音が入ってくるっていうのかな。お客さまも何度も見ているうちに、今まで3感じていたたのが5感じるようになって10感じるようになっていく。演じる方も、お客さまも、何度も重ねる方が "入ってくる"。(作品は)何度もやった方がいい」
井上「ちなみにダブルキャストということには抵抗なかったですか。今のミュージカルはほとんどがそうですが、この時は珍しかったと思いますが」
鳳 「私、天才的に真似が上手いんですよ。真似しちゃうんじゃなくて、盗んじゃう。だから(ダブルキャストの)阿知波(悟美)さんを見ていません。見たら、そうなっちゃうから。宝塚で男役をやっているときも、幕が開いたらいつもと違う座り方をしている自分がいて「なんでこう座ってるんだろう...あ、昨日見た映画だ」って。やろうと思わないのに自然と盗っちゃうんですよ」
井上「その能力がすごい...」
鳳 「天才なんです」
井上「(笑)。でも僕も(ダブルキャストのもうひとりの舞台は)見ないです。僕の場合は、真似ちゃうとかじゃなく落ち込んじゃったり気になっちゃったりするから観ないんですが」
鳳 「(笑)。でもそれでいいと思いますよ」
▽『レ・ミゼラブル』
『王様と私』では共演の松平健さんの顔を見つめて「キレイな顔だな~」と思った途端、歌詞がトんでしまったエピソード、『ラ・マンチャの男』では松本白鸚さんの目が湖の底のように優しかったという話...、市村正親さんとの名コンビが生まれた『屋根の上のヴァイオリン弾き』の話なども、素敵なエピソードと爆笑エピソードがブレンドされ次々と繰り出されていきます。
▽ 『王様と私』(1989年)鳳蘭、松平健
今年11月から上演される『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』も2014年の日本初演から修道院長役を演じている鳳さん。
「そのまま(自分のまま)やってます」という鳳さんですが、コメディの中、修道院長はカタブツで真面目な役どころ。「それが逆にコメディに見えれば」という鳳さんです。
その修道院長が歌う劇中歌『主がおられない』を鳳さんが披露。
● 「日本のミュージカルのスターというのはこの人なんだ」
最後「まだあと5時間話せる」という鳳さんに...
井上「始まったとき、このエネルギーを最後まで保てるのかと思ったのですが、ツレさんは本当にそのままでしたね」
鳳 「私、エネルギーあるのよ。パワーはひとに負けない!」
井上「お話を聞かせていただいて、しゃべっているツレさんと舞台に立たれているツレさんのイメージが、全然違わない。同じエネルギーでした。それってすごいことだなと思いました。スターなんだなって。やっぱりこのお仕事、天職なんですね」
鳳 「天性なのよ、ずっと言ってるじゃない(笑)」
井上「最後に、今の日本のミュージカルの現状をどう見ているのかということを教えてください」
鳳 「現状、若いすごい人がどんどん出てきていますね。いま、テレビでも「おかあさんといっしょ」なんて、こんな小さい子どもたちが歌って踊ってるんです。ミュージカルをやってる(のと同じな)んですよ。私の小さい頃なんてラジオで株式情報をきいていた。だから、今の時代は、歌ったり踊ったりすることになんの違和感もないんです。そういう時代に入った」
井上「ミュージカルが受け入れられやすくなってる、と」
鳳 「ただ、エキゾチック感が日本の人には少ないかな」
井上「日常をリアルに舞台上に載せるだけじゃなく、もうひとつ」
鳳 「そう。ミュージカルは外国が舞台のものが多いし、曲もむこうの人の感性で作っているのを日本語を入れて一生懸命やっているんだから。だからもう、この感性を磨くしかないですよね。勉強するなら洋画を見たらいいと思います」
井上「その話で言うと...、日本からオリジナルミュージカルをもっと生み出していくにはどうすればいいんだと思いますか」
鳳 「それは作曲家を育てないと難しいですね。感情にグッとくる音楽を作る作曲家を」
井上「スケールの大きい作曲家を、ですか。役者は、歌と踊りに小さい頃から親しんできた人たちが育ってきているけど、ここから先はスタッフ、とくに作曲家がもっと育ったら、そのときには日本のオリジナルがもっと生まれますか」
鳳 「それはでも、私が死んで100年くらい経ってからかもしれない。その代わり外国の人は歌舞伎はできませんからね。それはそれぞれ、そういう土壌なんですよ。それなのに日本の人は、歌舞伎も出来るけどミュージカルもやりたいと欲張っているんだから、努力しないと」
井上「菊田先生の頃から自分の代では無理だけどって言い続けています。本当に大きな壁であり、大きな目標ですね」
最後に井上さんが「鳳さんは天性のものをたくさんお持ちだというのは痛いほどわかったのですが、それだけじゃないんだというのを、歌声を聞かせていただいて感じました。苦労や努力をひとに言うのがいいとも思いませんが、はっきりわかりやすい「いい話」というのではなく、ふわっとエネルギーを得たあとに残る言葉がありました。本当にエネルギーをもらえる方。
今までのレジェンドの方からは、日本のミュージカルが最初はどうだったのかというような歴史、知らないことを教えてもらうことが多かったのですが、今日は「日本のミュージカルのスターというのはこの人なんだ」と思いました。そして、スターがいないとこういうエンタテインメントは盛り上がっていかないし、語り継がれることもない。そしてまだ、バリバリの現役でいらっしゃることが何よりも素晴らしいと思いました」とまとめ、トークショーは終了。
井上さんの言葉どおり、今までのシリーズとはひと味違う、でも確実に「レジェンドの凄み」が伝わってきたお話の数々でした。
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
写真提供:東宝演劇部
【公演情報】
『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト』
11月15日(金)~12月8日(日) 帝国劇場
一般発売:8/31(土)
※ほか各地上演あり