現在、絶賛上演中のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』 。
東京公演は先日、熱狂の中終幕しましたが、来週からは全国ツアー公演がはじまります!
『ジャージー・ボーイズ』は、「シェリー」「君の瞳に恋してる」などで知られるアメリカの伝説的バンド、ザ・フォー・シーズンズの結成から成功への道のり、そしてメンバー間の確執までを彼ら自身のヒット曲で綴っていく作品。
今回の2018年版は、中川晃教さん扮するリードボーカルのフランキー役以外のザ・フォー・シーズンズのメンバーがWキャストとなる<TEAM WHITE><TEAM BLUE>の2チーム制で上演していますが、<TEAM BLUE>でトミー・デヴィート役を好演しているのが、伊礼彼方さん。
グループを最初に作り上げ、軌道に乗るまで引っ張り続け、そしてトラブルメイカーでもあるトミー。
中心的メンバーであるフランキーのことも、ボブ・ゴーディオのことも、トミーは「俺が見つけた」と言います。
そんなトミーを、まるで地で行くかのような(!?)伊礼さんは、「もっと日本演劇界には素晴らしい人材、スポットライトを当てたい人たちがいる!」と常々思っていたそうで、「ぜひこの人たちを紹介したい!」という伊礼さんの熱い思いから、この企画が生まれました。
今回伊礼さんがおススメするのは、その『ジャージー・ボーイズ』で共演中の白石拓也さんと山野靖博さんです!!
【2018年『ジャージー・ボーイズ』バックナンバー】
# ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート、熱狂の開幕!
# 2018年版『ジャージー・ボーイズ』本格始動! 稽古場レポート
# 稽古場レポート第2弾! WHITEチームの稽古場に潜入
# 稽古場レポート第3弾! BLUEチーム ピックアップ
# まもなく開幕! 初日前囲み取材でキャストが意気込みを語る
●伊礼彼方による前説●
きっかけは『ビューティフル』(2017年)なんです。今までは自分たちが前面に出て曲を歌い、芝居をし、アンサンブルは後ろで "雰囲気" を作る、という作品が多かったのですが、『ビューティフル』という作品は、僕らいわゆるプリンシパルと呼ばれる人たちが作曲家・作詞家といった裏方を演じ、アンサンブルと呼ばれる人たちがスターを演じる面白い構造だったんです。
もちろんそれまでも、この業界でやっているから、アンサンブルを演じている彼ら彼女らが素晴らしい能力の持ち主だってことは知っていた。でもそこで集まったメンバーは特に個性的で、高い技術をもった方たちだった。負けてなるものか、って刺激をたくさん受けたし、彼らがこんなに素敵な人たちだって、こういう作品じゃないと観客の皆さんにも伝わっていかないんだなって俺も改めて思った。だから、彼らをもっと売りたい!って思ったんです。俺、別に彼らのマネージャーでもなんでもないんだけど(笑)。
それに、僕個人として、観客として作品を観るときに、知っている人が出ている方が楽しく見ることが出来るんですね。だから、ひとりでも多くの出演者をお客さまに知ってもらった方が、公演をもっと隅々まで堪能してもらえると思ったんです。チケット代も安く感じるくらいに。そうしたらリピーターも増えるし、彼らのファンも増えるだろうし、作品を作る側も、彼らをまた使っていくだろうし。そう、いい方向に循環していけばいいなと思ったんです。それが、今回の企画意図です。
...ということで、「トミー・デヴィートプレゼンツ!」ならぬ、「伊礼彼方プレゼンツ!」企画、スタートです!!
● 伊礼彼方 × 白石拓也・山野靖博 インタビュー●
● まず、白石拓也さんの人となりについて
伊礼「......ということで、俺は『ビューティフル』という作品をきっかけに、才能あるみんながもっと注目をあびるにはどうすればいいんだろうとずっと考えていたんです。一般的にミュージカルって、アンサンブルは後ろの風景だったり空気感だったりを作る、メインとアンサンブルでパックリ分かれている。『ビューティフル』はそれが逆転する作品だったから、「みんなものすごい能力があるし、全員が全員、メイン張れるじゃん!」って思ったの。そんなみんなの魅力を取り上げたいってずっと思っていた。君たちはその第一号ですよ!」
白石「ありがとうございます!」
山野「それは...大丈夫なんですか、僕たちで(笑)。華やかな女性キャストとかもいる中で」
伊礼「それは今からのふたり次第だからね(笑)」
―― まず、白石さんと山野さんを今回ピックアップした理由をもう少し教えてください。まず白石さんは...?
伊礼「白石君は、実は稽古場ですごくお世話になったんです。俺、今回すごい大変だったんですよ。(新加入の上、Wキャスト制で)稽古時間が少なくて。だから演出助手さんに付き合ってもらって、WHITEチームの稽古時間中に別部屋を借りてもらって稽古をやってもらったりしていたんですが、その時必ず彼が付き合ってくれていた。今回ダンスキャプテンだってことを、俺はついこないだ知ったんだけど(笑)」
白石「僕もお稽古が始まってから知りました(笑)」
伊礼「彼はパーフェクトボーイなのよ! 歌もダンスも芝居も、まぁ良く出来ること。これは面白い人を見つけた! と思って」
山野「タクピーさん(白石)は、ほかの人の動きを全部覚えているんです。凄い!」
―― もともと、どういうご経歴なんですか?
白石「もともとは大学から演劇の勉強を始めて。それからディズニーリゾートで2年踊らせてもらって、そのあと『ラ・カージュ・オ・フォール』でミュージカルデビューしてからは、ミュージカル三昧です」
―― 私、白石さんって "歌の人" だと思っていました。
伊礼「俺も俺も!」
白石「自分としては "どのくくり" と決めてはいないんですが、例えば今回の現場だと、ヤス(山野)なんかを見ていると、やっぱり歌のプロフェッショナルだな、って思うし、踊りの現場にいったら踊りのプロフェッショナルがいる。自分はどっちつかずなところがネックだなとは思っています」
伊礼「でも総合的に平均点以上出せるよね。それは強みだと思うけど、一個飛び出たものがないのが弱点でもあるよね。一個なんか作っていこうよ」
白石「でも困ったことに全部好きなんです!」
―― それはでも、ミュージカルという、いい場所を見つけましたよね。
白石「そうですね」
―― そして、白石さんはフリーで活動をされているとのこと。例えば今回の『ジャージー・ボーイズ』もオーディションだと思いますが、そういったオーディション情報などはどこから入手するんですか? 事務所所属だと、事務所経由でお話が来るのはわかるのですが...。
白石「今までお仕事をご一緒した方からご連絡をいただくパターンもありますが、僕は、直接会社に電話しています。この情報を見たのですが、オーディションはありますか、と問い合わせをするんです。昔は公演決定の情報がホームページに掲載される前にオーディションが終わってることが多かったんですが、最近は先に情報が出ることが増えてきて、やりやすくはなってきています」
全員「うわー、すごい...」
伊礼「尊敬するよ」
山野「営業活動って、クリエイションとまったく違う脳を使うじゃないですか。よく両立できますよね」
白石「知らない人と会うことも好きなので。僕、自分の資料はデータと書面で常に持っているのですが、地元を歩いててテレビ局やラジオ局があったら「いま貴社様の下にいるんですがどなたかお会いできる方いませんか」って飛び込みかけたりもしますよ。あとは季節のお手紙を書いたり」
伊礼「すごい。でも自分で出来ちゃうなら、いいよね。事務所に入ると逆にやりたいことが出来なくなっちゃう可能性もあるし」
白石「でも事務所に入った方がいいとは思いますよ(笑)。後輩に「フリーってどうなんですか」って訊かれることもあるけど、「事務所に入った方がいい」って言うようにはしてます。たとえばいま『ジャージー・ボーイズ』をやっていますが、本番中はやっぱり休みもなく体力的にしんどい時、こういう時に次の活動に関して動いてくれる人がいたらありがたいな、とは思ったりもします」
伊礼「うん、白石君はしっかりしているから出来るんだよね」
▽ 白石拓也さん
● 山野靖博さんの野望について
―― 山野さんは、『ビューティフル』に続いて、2度目の伊礼さんとの共演ですね。
伊礼「ヤスは、まぁ歌が、低音が凄い。もともとオペラ歌手だよね」
山野「そうです。オペラからミュージカルをやるようになりました」
―― 初演の『ジャージー・ボーイズ』がミュージカルは初出演でした。
伊礼「そうなの!?」
山野「はい、初でした。右も左もわからなかったです」
―― なぜ『ジャージー・ボーイズ』だったんですか?
山野「うちの事務所はモデル事務所なんですが、僕が歌をやっているということで、そういう分野もやってみたらってずっと応援してくださっていた。でも僕には、ミュージカルって踊らなきゃいけないイメージがあって、ダンスに苦手意識があったので、ずっと「イヤです」って言ってたんです(笑)。でも『ジャージー・ボーイズ』のオーディションの話があったとき、僕、映画が好きで映画版を見ていたので、これはコーラスグループの話だし、時代も60年代だし、きっとそんなに踊らないだろうなって。あと4人ボーカリストがいて、ベースのパートもある。だから、低音が必要なポジションが絶対あるはずだって思ったんです。それで受けたら、「低い声、出るねえ」と採っていただけました」
伊礼「そうだったんだ。でも今、キレッキレに踊ってるじゃん!」
山野「いやいやいや...」
白石「ヤスは2年前と全然違うんですよ。今回ほんと僕もびっくりしました!」
山野「めっちゃ苦手です。なるべくなら踊らずにすごしたい...」
白石「でも楽しいとは思うでしょ?」
山野「あ、はい! 楽しくなってきました。僕、1月にシアタークリエの『TENTH』にも出させていただいて、それも拓也さんと一緒だったのですが。もともと『ジャージー・ボーイズ』の繋がりで、『ジャージー~』をやるからって出演したのですが、他の作品のナンバーもあって、想定外のダンスがたくさんあった(苦笑)。これはもうやるっきゃないと、タクピーさんにも色々お世話になりながら必死でやっていたら、ちょっと身体を動かすことが楽しくなってきたんです」
伊礼「オペラではそんなに身体を動かすことはないもんね。コイツは話が面白くて、オペラ界の話とかを聞くのも面白いんです。なんでオペラ界からミュージカル界に来たんだっけ?」
山野「まず、僕はバス歌手なんですが、このパートって、オペラをやるとしたら、ある程度年齢がいってからがスタートなんです。なぜかというと、オペラで低音歌手に要求される役って、国王だったり、位が高い役が多い。そうすると声の成熟具合といった面でも、外見としても、20代・30代がやっても真実味がないんです。オペラ界で下積みする方もたくさんいらっしゃいますが、僕は色々なお芝居も体験したかったので、このタイミングでミュージカルのオーディションを受けました」
伊礼「なるほどなるほど。俺はもっと面白い話を聞いていたんだけど(笑)」
山野「(苦笑)。あと、もうひとつは、オペラ界というのがとても狭い世界だというのもある。僕は東京藝術大学出身なのですが、ほぼ、そこの同級生が、何年後かの同業者になっていくんです。そうすると必然的に上下関係含め、人間関係が濃密になる。やっぱり歌のことばかり考えている人ばかりなので、誤解を恐れずに言えば、視野が狭い。僕は、オペラってもっと違う光の当て方があるよねって思っています。もともと台本があり、そこに作曲家が音楽を乗せているわけですから、台本をどう受け取るのかということを僕たちはもっと勉強した方がいい、と大学生の頃から思っていたんです。声が大きく出るとか、そういうところじゃなく。だから一度、外の世界に出たかったというのもあります」
伊礼「そういう考えが、俺とちょっと似ているんだよね。俺はそれを、ミュージカルとストレートプレイですごく感じているんです。だから一時期、ストレートプレイばかりを選んでやっていた。演じる側も、芝居しかやっていない俳優はミュージカルのことをすごく馬鹿にするんです。でもあなたは踊れますか、踊れないでしょ、ミュージカル出る人は両方できますよって。逆にミュージカルの先輩がお芝居は難しいからやらないと言えば、「逃げないでくださいよ」ってケンカしてたし。さっきの白石君とヤスの違いみたいなものだよね、低音に徹するか、すべてをこなすのか。垣根はなく、捉え方の違いだと思うんだけどね」
山野「どっちが正しい、とかじゃなくて、お互いリスペクトすべきですよね」
―― では山野さんは、将来的にはオペラ界に戻るんでしょうか。
山野「戻りたいです。というか、僕の中では、ミュージカルもオペラも、フラット。ジャンルが違うと思っていないんです。藝大を出てミュージカルで活躍するという流れは、石丸幹二さんや井上芳雄さんが作ってくださっているんですが、みなさん、ミュージカルの方向へいったら、ミュージカルだけを突き詰めていらっしゃるじゃないですか。僕の野心としては、そこをもうちょっとフラットに繋げられないかな、というのがあります。今すぐにとは言いませんが、いずれひとりでも多く僕がファンを獲得したら、ミュージカルを観たお客さんが、今度はオペラを観るという経験をしてくれたら何かが変わるかなって」
▽ 山野靖博さん
● おふたりから見た伊礼彼方さん
―― 少し、おふたりから見た伊礼さんについてもお伺いしましょうか。
白石「伊礼さんは意思が強い上に、影響力が強いですね」
伊礼「影響力、僕、ありますかね!? 影響力持ちたい! 今回の『ジャージー・ボーイズ』はそんな感じじゃなかったでしょ、必死だったから俺、ピリピリしてて」
白石「ヤスも「こういう伊礼さん初めて見た...」って言ってました(笑)」
山野「そうそう。といっても僕、共演は2度目なんですが」
伊礼「"『ビューティフル』の伊礼さん" はどうでした?」
山野「戦士でしたね、戦っていました」
伊礼「戦ってたね(笑)。これはチャンスだと思っていたから。帝国劇場で、リアルな芝居をするチャンス。それまでも俺、『エリザベート』でルドルフやっている頃から、リアルな芝居をしましょうよ! って言ってたんだけど、演出家の求めるものと違っていたから、それは俳優として、演出家の求めるものに応えていくじゃない。『ビューティフル』は演出かもリアリティ志向だったから、これはチャンスだと思って。腹をくくってやっていたし、テンションも上がっていた。自分にとってもいい経験になりました。そこで出会ったから、ヤスには俺が戦士だったんじゃないかな」
山野「カッコよかったです」
―― その『ビューティフル』で、伊礼さんの "プロデューサー目線" は生まれたんでしょうか。宣伝部長もし、今回のインタビューにも繋がっている。
伊礼「プロデューサー目線!? そうかな、そうなのかな...。でも俺、自分のプロデュースをするのが好きじゃないんです。自分を表に出すのが好きじゃない。だからちゃんとマネージャーにプロデュースをしてもらっているわけなんですけど。だって、舞台見てて「俺が俺が」「私が私が」って役者、どう思う?」
白石「イヤですね」
伊礼「ね。だからトミーを今やらせてもらっていますが、ちょっと危ないんですよ。本番の舞台って、自分を売り出すにはちょうどいい。でも売り方をわきまえないと、下品になる。品を残しておかなければならない。そして品とは何かというと、僕は「役をちゃんと全うすること」だと思っている。それが抜けて、役者本人が透けて見えると、下品だなって僕は思っちゃうんです」
―― トミーは、でも「伊礼さんピッタリ、素でできそう」というような声もよく聞きます。
伊礼「やりづらい。非常にやりづらいです」
山野「それは、役のキャラクターと近すぎるからですか?」
伊礼「うーん、キャラクターに近いというよりは、線引きが難しい。どこまで出していいのか、どこから引けばいいのか。トミーというのはやればやるほど許されるキャラクターでもあるから暴走しかねないんだよね。でもお客さんをまず最初に物語に引き込まなければいけないし、この物語をかき回さなきゃいけない。実はバランスをとらなきゃいけないキャラクターなんですよ。彼がめちゃくちゃでなければ、フランキーの最後のセリフ――「そこにあるのはただ音楽だけだった、あの時、あれが最高だった」というところで、お客さんは泣かない。だから加減が難しいです。トミー役は光栄だし楽しい、でも間違えないように、馴れないようにしています」
伊礼さん×白石さん・山野さん対談、後編に続きます!
後編の小見出しは
●『ジャージー・ボーイズ』で白石さん・山野さんはどんな役を演じているのか
●もう少し、『ジャージー・ボーイズ』のこぼれ話
●アンサンブルという仕事について
●『ジャージー・ボーイズ』は「受け継がれていく」物語
です。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【『ジャージー・ボーイズ』バックナンバー】
●2016年
# 『ジャージー・ボーイズ』で"天使の歌声"フランキー・ヴァリに!&10年ぶりのスタジオ録音CDリリースも決定――中川晃教インタビュー
# 日本版『ジャージー・ボーイズ』誕生! PV撮影の裏側をちょっと見せ!!
# 日本版『ジャージー・ボーイズ』ついに始動! 記者会見レポート
●2018年
# ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート、熱狂の開幕!
# 2018年版『ジャージー・ボーイズ』本格始動! 稽古場レポート
# 稽古場レポート第2弾! WHITEチームの稽古場に潜入
# 稽古場レポート第3弾! BLUEチーム ピックアップ
# まもなく開幕! 初日前囲み取材でキャストが意気込みを語る
【公演情報】
9月7日(金)~10月3日(水)シアタークリエ<公演終了>
10月8日(月・祝)大館市民文化会館(秋田)
10月17日(水)・18日(木)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知)
10月24日(水)~28日(日)新歌舞伎座(大阪)
11月3日(土・祝)・4日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール(福岡)
11月10(土)・11日(日)神奈川県民ホール 大ホール(神奈川)
※その他、チケットぴあ扱いのない公演地もあり。