2019年5月アーカイブ

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劇団「南河内万歳一座」が、2020年の旗揚げ40周年に向けた記念企画の第2弾として上演する『唇に聴いてみる』が6月6日(木)にザ・スズナリで開幕します。

そこで、『唇に聴いてみる』について、そして劇団の40年について作・演出で劇団主宰の内藤裕敬さんに直撃しました。

前編:『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』編 >に続き、後編は劇団の40年についてうかがいます。内藤さんの地元でもある東京に拠点をうつさず、大阪という場所で、しかも40年もの間やってこられたのはどうしてなのか。どこを大切にしているのか、語っていただきました!

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――【前編】の最後に劇団を"続けるためにはやらない"とお話されましたが、まず劇団が40年続くのがすごいことだと思います。どうして続けられたのですか?

 でもね、「続けよう」と思ったことはないのよ、最初から。どうせ劇団員は抜けていくだろうし、状況も変わっていくだろうし、自分の実力もどこまでハードルを超えていけるのかわからないわけだから、続いちゃったら続けるけど、どうせどっかで「お前じゃ無理だ」って世間からレッテルを貼られるだろうって思ってたの。でも続いちゃったんだよな。

――とはいえ劇団を40年も続けるにはなにか力を使わないとやれないと思うのですが。

 一番思ってるのは、ラッキーだったんじゃねーの?っていう。

――(笑)

 こまごま努力したことはあるけどね。ただひとつ言えるのは、劇団活動と自分の演劇創作によってさまざまを"獲得しよう"という気持ちはあった。

――獲得。

 お客さん来てくれないかな?とか、どこかお金くれないかな?とか、劇団員を映画に出してれないかな?とかいうんじゃなくて、そういうものは劇団が"獲得するものだ"という気持ちは初めからあった。お金の面でも、大阪の行政が主催する演劇企画とかあるけど、自分たちがおもしろい作品をやっていれば当然お声がかかるわけで。それも、自分たちの作品発表によって"獲得"していく。そういう気持ちは強かったよね。今、大阪で若い子が「劇場をつくってください」とか「演劇の状況を変えてくれないかな」とか言うんだけど、「そういうのは自分で獲得するんだよ」って言う。観客を獲得して「こういう劇団がある」とか「こういうおもしろいことをやってる」というものがあれば周りも動くけど、なにも獲得できてないのに助成ばかりを望むのはダメって考えたほうがいいよって。

――獲得した先の目標のようなものはあるんですか?「世界を変えたい」的な。

 ない!なんにもない!

 目標を定めると、そこに向かって進まなきゃなんないじゃない。横にもおもしろいことが転がってたりするのに、進まなきゃなんない人は、見ないふりして行かなきゃいけないでしょ?俺はその"横"をやりたいのよ。

――なるほど。

 そういうふうにやっているうちに、こんな人と知り合ったとか、こんな企画をやることになったとか、「次はうちでやってくれませんか?」って劇場が呼んでくれることもあるし。そうやって意図せずに発展していく。そしたら40年になっちゃったわけだから。これからもそういうカタチで、その辺にあるおもしろいことから手当たり次第にやる。

――内藤さんが「おもしろい」と感じているのは「演劇をやること」ですか?

 そうだね。作品づくりがおもしろい。そこにあるチャレンジがおもしろいし。誰とやるかもおもしろいし、どこでやるかもおもしろいし。

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――内藤さんは東京が地元ですが、劇団を続ける中で東京に拠点を移そうとは考えなかったですか?

 実家は東京だけど、大阪の大学で旗揚げしたからね。でも大学卒業して2年目には東京公演やってたよ。当時は大阪に劇団☆新感線もいたし、マキノノゾミくんとか生瀬勝久もいた時代で。でもみんな東京に行くってものすごく遠くに行くような感覚なのよ。ヨーロッパにでも行くかのような。でも俺は、「いやいやいや、新幹線乗ったらすぐだから!」「東京で公演することはそんなにハードルの高いことじゃないでしょ」って思ってた。

――地元が東京の人ならではの感覚かもしれないですね。

 だからひょいひょい行ってたし、卒業3年目には年に2回、東京・名古屋・大阪の3都市公演をやってた。それで話題にもなったし、お客さんもどんどん増えていって、劇団が上り調子になって。そしたらバブルが始まって、演劇に公共の予算が使われるようになった。そうすると、噂を聞いて、国から「富山県でやって」とか「四国でやって」とかオファーが入るようになる。それでこちらも「四国でやるなら、高松だけだともったいないから徳島でできないか?」とか遊び心で広げる。そうやってまた広がっていってた。

――すごい。

 でもその頃には俺がくたびれてきてた。作家としてやせ細ってきて、自分でも発想するものが貧弱になってるなって感じていた。

――劇作に悩み始めたということですか?

 そう。ただ演出はすごくおもしろかったし、演出能力は上がっていたと思う。すると、演出能力に合わせて戯曲の能力がアップしないことで生まれるバランスの悪さが、演劇創作をしている人間としてのバランスの悪さになってきた。それでどうもうまくいかない時期がきた。同じ頃、小劇場ブームもだんだんと落ちてきて、1980年代にできた劇団が解散していって、今のようなプロデュース公演が主流になっていって、その状況で劇団を続けていくのはなかなかしんどい時代がきた。

――でも目標がないなかで低迷期に入ると、続けられますか?

 やめようと思ったんだよ。低迷期が6、7年続いて、「うまくできねーし、やめようかな」と思った。でもやめ方がわからなかった。それまでいろんな方にお世話になったし、ファンの方もそれなりにいるなかで、いきなりプツッとやめるってわけにいかない。「どうやってやめるのが一番いいのかな」「どうにかうまくやめれないかな」みたいなこと考えながらやっていたら、結果的に......

――調子が戻ってきた(笑)。

 やめらんないうちに開眼してしまって、「俺、いけるんじゃねーか!?」みたいな感じになっちゃって。やめなくてよかった!って(笑)。

――そこからはもう。

 全然やめる気がない!

――(笑)。「劇団」という部分はどうですか?内藤さんも、木皿泉さんの脚本・木皿泉、薬師丸ひろ子さん主演の舞台『ハルナガニ』(演出/'14年)や中山美穂さん主演の『魔術』(作・演出/'16年)などやられていますが。

 そういうことができないわけじゃないんだよ。でも演出家として東京で一旗揚げたい、みたいな思いはないからね。例えばうちの劇団でも、有名な俳優さんを呼んだりして商業的にやれば動員をのばしていけると思うんだけど、それはあんまおもしろいと思わないんだよ。

――「おもしろいと思うか」が肝なんですね。

 "おもしろい作品を発表するファクトリー"が劇団だから。作品をおもしろがってもらうのと同時にそこにいる俳優も「この作品を支えているのはすごいな」と思ってもらう、っていうのが本道だと俺は思っていて。だから有名な俳優を呼ぶのは別の企画でやる。劇団の芝居はずっとこういうふうにやってきたし、これからも商業的な展開をしようとは全く思わない。でもそうすると動員が落ちるんだよ。しゃーないな、それは。

――時代の流れもありますか。

 うん、しゃーない。そうしてるうちにまた時代が変わったりもするし。今は2.5次元が主流でしょ。なんだそれ、と思うよ。

――2.5次元、おもしろい作品たくさんありますよ。

 でもさ、基本的に舞台って3次元で成立していて「一瞬でもいいから"3.5次元"が垣間見えないかな」とつくっていくわけじゃない。同じように漫画も、2次元の世界なのに3.5次元が垣間見える一瞬があるんだよ。だけどそれ、舞台化でやれる?って思う。例えばプロジェクションマッピングみたいな新しい技術が舞台に応用できるようになって、今まで以上にいろんな表現が可能になってるけど、それって演劇作品が映像作品に近づいていくことであって、演劇の発展があるように思えない。だから2.5次元が拡大していく方向性は、"技術が発達することで生まれた演劇のサブジャンル"と考えたほうがいいだろうと思ってる。俺は演劇としては、プロジェクションマッピングのようなものを「人がどうやるか」っていうことで演劇は発展すると思うから、そっちのほうをやりたい。そうやって発想することによって、演劇の可能性や新しい劇世界が発想できるだろうっていう方向を向きたいので。ただ、そうするとまた時代に逆行するので、客が入らない。でもそれはね、俺の背骨だから。ずらせないのよ。そこをずらしてやることになったら、劇団やめる。

――つまり南河内万歳一座は、それがやり続けられる場だから続いているってことですね。

 そう。

――最後に劇団のこれからを聞いてみたいと思ったのですが。

 なにも決めない!

――ですね(笑)。公演、楽しみにしています!

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南河内万歳一座『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』は、6月6日(木)から9日(日)まで東京・ザ・スズナリ、6月12日(水)から17日(月)まで大阪・一心寺シアター倶楽にて上演

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1980年に大阪で旗揚げし、40周年を目前にする劇団「南河内万歳一座」(http://banzai-ichiza.com/)が、6月6日(木)からザ・スズナリで『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』を上演します。

本作は、昨年からスタートした旗揚げ40周年に向けた記念企画の第2弾。再演リクエストナンバー1の名作『唇に聴いてみる』を、初演から35年ぶり、最後の再演から23年ぶりに上演するそうです。

というわけで、作品のことや劇団の40年について、作・演出で劇団主宰の内藤裕敬さんにたっぷりうかがいました!

まずは<前編:『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』編>です!

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――『唇に聴いてみる』はかなり久しぶりの再演ですが、どうして今回この作品を上演することになったのですか?

 南河内万歳一座は1980年旗揚げだから、今年が39年目、もうすぐ40周年なんです。でも40周年が2020年でオリンピックの年なので、ややこしいなと思って。

――(笑)

 それで、40年まるまるやって41年目に「40周年記念」をやろうかなと考えているのですが、それまでの3年間は40周年に向けて、いつもはやらないことをやろうと思っていて。昨年は、劇団「空晴」という大阪で上昇気流に乗っている劇団と合同公演をやりまして、今年は劇団「いちびり一家」という大阪の若手とコラボして新しい作品をできればなと考えています。そして今回、再演希望が非常に高い『唇に聴いてみる』を上演するという。

――なぜ今だったのでしょうか?

 この作品はもう再演しないかなと思っていたのですが、戯曲を出版もしていますし、雑誌にも載っているし、現代演劇集のようなものにも収められていて、そういう意味ではうちの代表作なんですよ。それで、当時とは劇団メンバーも変わっているので、「代表作だしチャレンジしたいんだ」という劇団員の熱望もあって、お客さんの再演希望と両方からの希望で「じゃあ再演しようか」ということですね。

――今回、タイトルに『~21世紀様行~(21せいきさまゆき)』を付け加えたのはどうしてですか?

 この作品は20世紀、1970年代くらいの高度成長が減速してきた時代の日本、そして団地が大きなモチーフになっています。団地というのは、核家族化が加速する当時のトレンドだったんですよ。だけどこの本を書いた頃にはもう「団地というものは狭くてギュウギュウ詰めのコミュニティで、隣近所も近いし、面倒ごとも多い」と、人間関係が個人主義化していくひとつの原因になってきていて、そこで抜け落ちたものを描いているんですね。なので21世紀の今やって、観た人が「そんな昔のこと言われてもわからない」という感じになると、あまり再演の意味がないと思った。

――21世紀版に書き直すということもできますよね。

 でも今改めて読み返してみると、書き直して21世紀版にするよりは、このままやったほうがいいように思えた。だから全く直してないです。年号や西暦は変わっても、引きずっている"何か"。日本の、僕たちの、解決しえない生活の中の痛みのようなものが散りばめられている作品なので。それを21世紀の現在の視点で観たら、どう見えるかがすごく興味深く感じて。今回はその辺を意識してやるので、「21世紀様に宛ててつくりますよ、どうぞご自由に観てちょうだい」という感じでつけました。

――ということは、「21世紀様」というのは、21世紀を生きる人たち。

 そう、現代を生きる人たち。

――演出も変わらずでしょうか?

 演出は、難しくなってると思う。この作品をつくった当時はまだ下手で、「会話を積み上げる」というような緻密なこともできなくて、身体性ばっかりだった。台詞はちゃんと言うけど、「それよりも身体性から発想して場面をつくらないと、うちの色は出ないんじゃないの?」みたいな時期の作品なので。だけどそこから僕も劇団もブラッシュアップを重ねてきているので、昔みたいに突撃精神で暴れまわって終わるわけにはいかない。だからといって、南河内万歳一座(以下、万歳)のベースにある"身体的なものを軸とする"みたいな部分を薄めちゃうと面白くない。出演者は両方やらされてて、みんな目を白黒してる(笑)。

――話は少し戻りますが、70年代の空気を描いたお話をやるときに、劇団員の若い方は当時の感覚はピンときますか?

 ちょっと誤差はあるみたい。でもその雰囲気はわかります、っていう感じ。70年代って、日本のコミュニティとか生活環境が核家族化と共に大きく変容した時代で、当時はそれによって「隣近所の付き合いが希薄になる」とかいろんなことが叫ばれたけど、今となってはお隣さんに挨拶しないなんて当たり前でしょ?それがいいか悪いかはさておき、そこから抜け落ちたさまざまなものがあって、それを今、みんなが抱えて生きてる。その出発点がここにある、という感じ。この作品は、その痛みのようなものを、70年代のノスタルジーと共に展開している話なので、芝居全体でなんかちょっと「痛い痛い」と言ってるところがある。だから、その「どこかしら痛いと言ってるな」みたいなことが感じられれば、おもしろく観られると思う。

――初演の頃はどういう気持ちで書かれたのですか?

 この本は、まず35年前に書いて、その2年後に書き直したものが現在のカタチになっているのだけど、万歳の作品は旗揚げ公演以外はすべて自分で作・演出をやっているので。自分でも書く度に「これじゃダメだな」「もっとなんとかならないかな」とか考えるし、皆さんにもたくさんアドバイスをもらいながらやっていた。それで、だんだんいろんなノウハウとかアドバイスが溜まってきて、「それを一回一本の作品で実践できないかな」と思って書いたものなんだよね。今読み返してみたら「やってるやってる」って感じがある(笑)。

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――戯曲を読ませていただいて、物語以外にもいろんなものが絡み合ってうねってるような作品だなと思いました。

 そう。モノローグからダイアローグ、時間がどう現実に戻ってくるかとか、そういうものを暴力的にねじ込んでいたり、フッと霧が晴れるようにどっかにやったりしてて、「いろいろやってるな!」って自分でもびっくりした。この本を書いたのは26歳だったと思うんだけど、これで初めて雑誌『新劇』に戯曲として載って、初めて岸田戯曲賞の候補作品になって、最終選考まで残ったの。岸田戯曲賞なんて遠い存在だと思ってたわけよ、26歳の頃なんて。だからそういう意味でも非常に思い出深い作品で。それで評判になって、再演を重ねる中でブラッシュアップして。韓国公演もやったし、上海と北京でもやったし、その間にも日本で再演を繰り返したので、もういいかなと思ってた。それで23年あいちゃったんだけど(笑)。おそらくこれが最後だと思うんだけどね。

――23年ぶりにやってどうですか?

 新鮮に思えた。当時自分が何を考えていたかとか、「そこに引っかかったんだな」みたいなことが明確に見える。演劇的に劇団のオリジナリティみたいなものをどう出すかってことを戯曲の中でもすごく迷いながらやってるし、劇作家の自分としてもそうだし。そういう意味でのチャレンジと集大成が全部詰まってる作品だなって。だから当時の俺のこだわりが全部残ってるような感じかな。

――先ほど「おそらくこれが最後」とおっしゃいましたが、そうなんですか?

 俺はやるつもりないけど(笑)。そのうちその気になるかなあ?

――明言はしない、という感じですね。

 うん。だいたいもう年だからね、劇団が。40年だから。「死ぬまでやるぞ」とかいう意気込みはまったくないのよ。「もう40年やってるんだろ、終わるときは終わるよ」としか思ってない。だから終わるときまで好きにやらせてもらいたい。終わるときはパッと終わるから。だから「50周年までがんばりますよ」とか「死ぬまで劇団を続けますよ」みたいなのは......いや~もう重い。

――あと10年も重いですか?

 続いちゃったらしょうがないよ?今までも続いちゃってるわけだからね。でも"続けるためにはやらない"ってことだね。逆に好きにやらせてもらうっていう感じ。

→→<後編:劇団編>に続きます!

南河内万歳一座『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』は、6月6日(木)から9日(日)まで東京・ザ・スズナリ、6月12日(水)から17日(月)まで大阪・一心寺シアター倶楽にて上演

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■ミュージカル『SMOKE』2019年版 vol.2■
 
 
昨年日本初演され、その濃密な世界観と美しい音楽でたちまち話題となり、多くの熱狂的ファンを生み出したミュージカル『SMOKE』
20世紀初頭に生きた韓国の天才詩人、李箱(イ・サン)の遺した詩と彼の人生にインスパイアされたミュージカルで、たった3人のキャストが、ミステリアスで奥深い世界を作り上げていきます。

このミュージカルが早くも今年、再演されることになりました!
しかも今年はキャスト・劇場を変え、6月と7~8月の2パターンで上演。

まずは6月に登場する〈NEW CAST〉バージョンの稽古場を取材してきました!
〈NEW CAST〉バージョンの出演は、石井一孝藤岡正明彩吹真央という、いまのミュージカル界を支える実力派3名です。
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まずは『SMOKE』ってどんな話?という説明から...。

◆ about『SMOKE』 ◆

李箱(イ・サン)の作品「烏瞰図 詩第15号」にインスパイアされ、その詩のみならず彼の人生やその他の作品群の要素も盛り込み作られたミュージカル。
イ・サンは、才気ほとばしる作風が讃えられる一方で、その独自性と難解さゆえに酷評もされた、両極端の天才詩人。結核をわずらった後、日本に流れつき、そのまま異国の地・東京で27歳の若さで亡くなります。

このミュージカルでは、彼の精神世界を謎めいた筆致で描き、誰も想像できなかった物語が繰り広げられます。
登場人物は、
 詩を書く男「(チョ)」、
 海を描く者「(ヘ)」、
 心を覗く者「(ホン)」
の3名のみ。 俳優の実力も問われる、スリリングな作品です。

 

この日の稽古場は、冒頭からの数場面を何度も繰り返していました。
先日掲載したインタビューで、石井さんがこの物語のことを
「最初は犯罪劇のように始まり、だんだん心の葛藤の物語になっていく」
と表現していましたが、まさに冒頭はその<犯罪劇>のようなスリリングな展開
石井一孝さん扮する〈超〉と、藤岡正明さん扮する〈海〉が、彩吹真央さん扮する〈紅〉を誘拐してきます。
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『SMOKE』の物語は、"表" で描かれていることすべてに、「実は...」というような "裏" があり、それもすべてが説明されるわけではなく、文学的であり多少難解なところはある。
ただ、この導入部分など、「何が起こるのだろう」「彼らの目的は何なのだろう」とミステリを読んでいるようなハラハラドキドキ感で、ぐぐっと心を掴まれます

〈超〉と〈海〉はなぜ〈紅〉を誘拐したのか? 彼らの目的は? 彼らの関係性は?

...とっても、「続きが気になる!」のです。
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三谷幸喜が作・演出を手掛ける新作歌舞伎『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』の公開稽古が、5月下旬に行われました。 

 

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歌舞伎座「六月大歌舞伎」夜の部として上演される本作は、"三谷かぶき"と銘打ち、みなもと太郎の歴史漫画「風雲児たち」を原作とする新作歌舞伎です。

三谷が歌舞伎を手がけるのは2006年にパルコ劇場で上演された「PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場」以来、実に13年ぶり。
また、三谷作品が歌舞伎の殿堂である歌舞伎座で上演されるのは今回が初めてとなります。

見知らぬ異国の大地で、どんな困難に直面しても故郷日本へ帰ることを諦めず、闘い続けた男・大黒屋光太夫の物語。
光太夫を務める松本幸四郎をはじめ、市川猿之助、片岡愛之助、そして松本白鸚ら、豪華俳優陣が集結しました!
歌舞伎ファンならずとも、この舞台は是が非でも観たいと思わずにはいられない今夏の注目作です。

 

報道陣に公開された場面は、商船神昌丸が漂流して8か月が経った船上のシーン。

 

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折れた帆の代替にこれはどうだと、畳表を持ってきたものの、皆が着物を縫い合わせて帆の代わりにしようとしていたことを知り、落ち込んでしまう光太夫。

 

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握り飯ばかりの食事に飽きていた庄蔵(猿之助)が悪態をついていると、自前で用意した沢庵をかじる新蔵(愛之助)にくってかかり、船内では喧嘩が絶えない様子。

陸まではあとどのくらいなのか、、、途方に暮れる中、三五郎(白鸚)は「陸が近くなれば昆布がある」と皆に伝えます。

 

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そんな中、具合の悪かった磯八(松之助)の体調が悪化し、今にも息絶えそうになると、突然、新蔵が「昆布をみつけた」と声をあげます。
本当は昆布など流れていないにもかかわらず仲間を思いやり、皆、口々に「昆布だ!昆布だ!」と叫びます。

 

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磯八はその声に安心するように息を引き取ります。
光太夫は、正月には皆で伊勢へ参ろうと、固く心に誓います。

 

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『レ・ミゼラブル』、『オペラ座の怪人』、『レント』といった人気ミュージカルの珠玉の楽曲をブロードウェイの第一線で活躍するキャストたちが歌い上げる『The Broadway Musical Concert ~ザ・ブロードウェイ・ミュージカル・コンサート~』が5月18日、19日に東京・渋谷の東急シアターオーブにて開催! 開幕前夜の17日に同会場内でゲネプロが行われ、キャスト陣は日本での公演に向けた意気込みも語ってくれた。

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既にセットリストの一部がホームページ上で発表されており、「Stars」(『レ・ミゼラブル』より)、「Music of the Night」(『オペラ座の怪人』より)、「She Used To Be Mine」『ウエイトレス』より)、If I Were A Boy(『glee/グリー』※原曲:Beyonce'より)、「Season of Love」(『レント』より)といった名曲が披露されることが明らかになっているが、この日のゲネプロでは、第1部の冒頭の数曲が披露された。

オープニングは、2年前のアカデミー賞を大いに賑わせ、日本でも話題を呼んだ映画『ラ・ラ・ランド』のナンバー。今回の来日メンバーであるノーム・ルイス、ブランドン・ビクター・ディクソン、ジェシー・ミューラー、アレックス・ニューウェルの4人がそろい踏みで、軽快にショーの幕開けを告げる。

続いて、ソロの楽曲ではでは『ジーザス・クライスト・スーパースター』、『アイランド』、『ポーギーとベス』から4曲、さらにはアレックスとジェシーによる「Take Me Or Leave Me」(『レント』より)の熱唱も見られた。バンドをバックにステージに立ち、本番を前にやや力をセーブしつつも力強い歌声を披露し、それぞれのミュージカル作品の1シーンが浮かび上がってくるような情感あふれる歌声を会場に響かせていた。

ゲネプロ前には、楽屋で和気あいあいとしたムードの中、取材に応じてくれたメンバーたち。『オペラ座の怪人』でブロードウェイ史上初のアフリカ系俳優によるファントム役を演じたことで注目を集めたノームはキャロル・キングの「You've Got A Friend」を口ずさみつつ「私は以前、2度ほど日本に来たことがありますが、愛する人たちと一緒にいられることをうれしく思っています。日本、そして東京が大好きです。また戻ってこられて、何よりも特別なメンバーとこうしていられることが幸せです」と笑顔で語った。

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日本のファンには、ドラマ『glee/グリー』でのトランスジェンダーのウェイド・アダムス役としても知られるアレックスは、ノームの言葉を受けて「私もみんなとここにいられて幸せよ。もちろん、ノーム以外のね(笑)」と茶目っ気たっぷりに語る。そして「私の素敵な衣装を楽しみにしてほしいです!」と日本のファンにメッセージを送った。

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キャロル・キングの半生を描いた『ビューティフル』でトニー賞主演女優賞を獲得し、『ウエイトレス』のジェナ役、 『回転木馬』のジュリー役でも同賞にノミネートされるなど高い人気と実力を誇るジェシーは今回が初来日。「前からずっと日本に来たかったので、こうしてみんなと来ることができてワクワクしています。最初は言葉の壁への不安もあったし、正直、緊張もしていたけど、バンドが演奏を始めた瞬間、音楽は国境を持たない世界的な言語なんだと確信し、不安や緊張が消えました」と開演が待ちきれない様子。

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そして『カラー・パープル』のハーポ役でトニー賞、『モータウン・ザ・ミュージカル』のベリー・コーディ役でグラミー賞にノミネートされ、さらに『ジーザス・クライスト・スーパースター・ライブ・イン・コンサート』のユダ役ではエミー賞の候補になり、1月の舞台『レント』でコリンズ役を演じるなど、いま高い注目を浴びているブランドンは「以前、友人の結婚式で京都、大阪を訪れたことはあるんですが、東京は今回が初めてです。この素晴らしい仲間たちとここに来れて、共に歌えることに興奮しています」と意気込みを口にした。

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『The Broadway Musical Concert ~ザ・ブロードウェイ・ミュージカル・コンサート~』は5月18日、19日に東急シアターオーブ(東京・渋谷)にて開催。

取材・文:黒豆直樹

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2020年、帝国劇場に4年ぶりに登場する人気ミュージカル『ミス・サイゴン』。1992年の日本初演から現在間で、通算上演回数1463回を重ねるヒット作です。

舞台はベトナム戦争末期のサイゴン。エンジニアの経営するキャバレーで知り合ったベトナム人少女キムと米兵クリスは、愛し合うようになります。しかしサイゴン陥落により、二人は別れなければならないことに......。戦争によって翻弄される二人の愛と残酷な運命。

そのキム役に、オーディションを経て新たな3名が決定しました!高畑充希、大原櫻子、屋比久知奈。そして、キム役3度目となる昆夏美の4名が演じます。初演からただ一人出演し続け、エンジニア役を演じてきた市村正親とともに、上演に向けてお話を伺いました。

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----キム役4人の顔ぶれをご覧になって、いかがですか?

市村「ビックリしたのは、この2人(昆、高畑)は僕が初めて『ミス・サイゴン』の舞台に立った時に産まれて、こちらの2人(大原、屋比久)はまだ産まれてなかった!稽古ではこの4人と真っ向勝負できるので、新鮮な出会いは刺激です。変なところは見せられないし、こっちも本気でやる」

----昆さんは3度目のキム役ですね。

昆「キム役は雲の上の存在だったので、最初に決まった時は光栄だし嬉しいけれど不安の方が大きかったんです。それは今もまったく変わらない。初出演のお3方と同じ気持ちでドキドキしながらやることになると思います」

----3人は『ミス・サイゴン』初出演です。いかがですか?

高畑「ミュージカルに憧れていた女の子にとって、キムって特別な役。やるなら27歳の今がラストチャンスじゃないかとオーディションを受けました。ミュージカルから離れていた時間は長いけど、ミュージカル愛はずっと心の中で燃えていたので......でも、いざ決まるとドキドキしています。同じ役が4人もいるのも、相手役がいっぱいいるのも、帝国劇場も、初めてづくしなので」

大原「ずっと憧れていた作品でした。1年半前にニューヨークで『ミス・サイゴン』を観た時に、初演のキム役だったレア・サロンガさんに偶然お会いしたんです!通訳してもらいながら「いつか『ミス・サイゴン』をやりたいです!」と伝えて帰国した後にオーディションの話をいただいたので、いろんな奇跡が重なりました」

屋比久「私もレア・サロンガさんの歌うキムの『命をあげよう』が好きで、3年前の『集まれ!ミュージカルののど自慢』で歌ったんです。それがきっかけで、今、舞台のお仕事ができるようになった......私の人生が変わった曲です。またキムの住むベトナムは、私の住む沖縄と通じるものがある。戦争の現場だし、実際に沖縄の米軍基地からこのベトナムに戦闘機が飛んでいました。いつか機会があったらやりたいと夢見ていたので、今の私だからできるキムを精一杯やろうと思っています」

----キムのイメージは?

昆「キムは両親を戦争で亡くして、壮絶な人生を歩みます。でも、当時はキムみたいな女性はたくさんいたはず。歴代のキムを演じた先輩方も敬意を払って演じているのを感じます」

大原「稽古に入ってみないとわからないけど、先日のミュージカル(『メタル・マクベス』)で同じ役を違う年代の人が演じて、同じ役なのに全然違う女性像になったんです。たぶん今回も4人のキムそれぞれ全然違う色が産まれるんじゃないかな」

----2020年、再び『ミス・サイゴン』が上演されることについては?

市村「オリンピックと一緒で、4年おきに上演されています。来年は東京オリンピックもあるし、同じ年にできるなんて、令和の奇跡ですよ!平成の時代は日本の地では戦争がなかったけれど、世界のどこかでは子どもや罪のない人が酷い事にあっています。こんな悲劇のないことを祈りつつ、上演し続けていくのかな」

----キム役のみなさんは、初演から出演されている市村さんとの共演についてはいかがですか?

市村「まだいるんだーなんて言わないでね(笑)」

高畑「いえ、またやってくださって良かったです!『スウィーニー・トッド』で市村さんの娘役を演じて以来のミュージカルなので、ご一緒できて安心です」

昆「前回の『ミス・サイゴン』出演がファイナルだと仰っていましたけど、誰よりもエネルギッシュで、ファイナルじゃない気はしていました。約30年も同じ役をやるという並大抵ではないことをしていて、笑顔で明るく場を和ませてくれる市村さんが『ミス・サイゴン』を引っ張ってくれているのを感じます」

大原「私は正直、今日お会いするまで緊張していて......でも楽屋にご挨拶に伺った時にハグをしてくださって、それが温かくて、安心しました!初演からずっと演じられているのはそれこそ、令和の奇跡」

市村「あはははは」

大原「一緒に奇跡を起こしたい」

屋比久「今日も誰よりもエネルギッシュなので、負けないように、でもゆだねつつ、精一杯ついていきます!」

市村「よしっ。厳しい作品ですけど、みんなで作りあげていこう。『ミス・サイゴン』の世界を苦労しながら楽しんで、キムとして生きてほしい!」

----市村さん、開幕にむけて締めの言葉をおねがいします!

市村「初演から28年出演していますが、劇団四季を卒業して最初に受けたオーディションが『ミス・サイゴン』。その時の気持ちは今でも鮮明に残っています。今回、新しいキム、ジョン、クリスが産まれるので、初心を忘れないでゼロから創りたい。「良い作品だな。考えなくちゃいけないな」と思ってもらえるように、4人のキム達と作品を創っていきたいですね、オリンピック演技種目のミュージカル部門『ミス・サイゴン』強化隊長として!」

一同「(笑)」

キム役4人はそれぞれ雰囲気の異なるアオザイで登場し、華やかな雰囲気。しかし緊張しており少し硬い表情で、それをほぐすように市村正親さんが冗談をまじえながら場を明るくしてくれます。4人も丁寧に言葉を選びながら、役について語る時は熱が入って興奮ぎみ!念願の『ミス・サイゴン』にたいする敬意と情熱がたっぷりと感じられ、舞台への期待がこちらに伝わってきます。新たなキャストで送る2020年版『ミス・サイゴン』への楽しみが膨らんだインタビューでした。

げきぴあでは過去のミス・サイゴンのインタビュー、稽古場レポートなど多数アップしております!

ぜひチェックしてみてください!

取材・文:河野桃子

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(ステージぴあ2019年5+6月号より転載)

カルロ・ゴルドーニの傑作喜劇に、現代に生きる笑いのプロ、福田雄一が挑む話題作。ひとりの召使がふたりの主人に仕えてしまったことで......というドタバタ劇で、その主人公をムロツヨシが演じる。頼れるキャスト陣とともに、福田はいかなる笑いの舞台を生み出そうとしているのか。

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ひとりの召使がふたりの主人に仕えたことで、すれ違いに次ぐすれ違いの大騒動が巻き起こる、イタリア古典喜劇『2人の主人に仕えた召使』。本作が新たに『恋のヴェネチア狂騒曲』と題し、福田雄一版コメディとして、この夏、上演決定!

古典と言われるあの時代のものとしては、とてもよく出来たドタバタ劇なんですよね。台本を手直しする上でも、キャラクターそれぞれの面白味を少しずつ足したくらい。僕がよくミュージカルでやるようないたずらは、今回そんなにしていないですから。というのもゴルドーニが書いている時代感、古典色というものを残していかないと、この作品独特のかわいさみたいなものが出なくなってしまうような気がしたんです。(福田)

本作のドタバタの張本人である召使トゥルファルディーノを演じるのは、いまや福田作品だけにとどまらず、日本のエンタテインメント界に欠かせない存在にまで成長したムロツヨシ。

役的にすごく合っているとは思うんですけど、僕がムロくんに期待することって、常にムロくんであることなんですよね。ムロくんの脱力感と、プラスしていたずら感というのかな。それがちゃんと機能して遊べていれば、絶対に面白くなるはずなので。だから下手に役づくりとかしてくると、「いらない、いらない」って言っちゃうんです(笑)。(福田)

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作・演出の末満健一が2009年に大阪の小劇場で初演し、今や大人気の『TRUMP(トランプ)』シリーズ。その最新作となる『COCOON 月の翳り星ひとつ』が、5月11日(土)から26日(日)まで東京・サンシャイン劇場、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演中です。

吸血種(ヴァンプ)の宿命を描いたゴシック・ファンタジーシリーズで、続き物ではなく、ひとつの時の流れの中にあるさまざまなエピソードを描いていく本作。今回は、アンジェリコとラファエロというふたりの少年の物語を描く「月の翳り」編、原点の作品『TRUMP』の主人公の一人・ウルの物語を描く「星ひとつ」編という2作品が同時上演されます。

げきぴあでは、それぞれの公開ゲネプロに潜入、この記事ではゲネプロ2日目に行われた「星ひとつ」編をレポートします。

◎「月の翳り」編・これまでの作品紹介・末満さんのコメントはコチラhttp://community.pia.jp/stage_pia/2019/05/trumpcocoon.html

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※※以下、ゲネプロレポート※※

※※ネタバレ注意!!!※※

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さて、「星ひとつ編」で描かれるのは、ウルという青年の物語。ウルは「月の翳り」編に登場するラファエロの弟で、名門デリコ家の次男です。

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▲中央がウル

ウル(宮崎秋人)は特級貴族ダリ(染谷俊之)の子息ですが、実は秘密があります。彼は人間種と吸血種の間に生まれた混血種《ダンピール》。生まれてすぐに実の両親を亡くし、ある事情から特級貴族であるダリに引き取られ育てられたのですが、彼がダンピールであること以外、つまり出生の秘密などはウルや兄のラファエロ(荒木宏文)は知りません。

繭期(人間でいう思春期)を迎えたウルが、兄のいる≪クラン≫(繭期の吸血種の少年たちを収容する施設)に入る、というところから物語は始まります。ダンピールは忌み嫌われる存在。ウルは、名門デリコの家名を護るため、表向きは《純血種》として生きることを父に命じられます。また、ラファエロもそんなウルを護るようにと父に命じられます。

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▲クランには、ウルにとっても幼馴染であったアンジェリコ(安西慎太郎/左)も。彼の「月の翳り」からの変化はじわっと感じさせるものがあります

自分がダンピールであることをひた隠して生きるウル。あるとき、同じクランにやってきたダンピールのソフィ(三津谷亮)と出会い、ダンピールであるにも関わらず毅然と生きるその姿に心惹かれていきます。そこに反応したのがラファエロ。弟がダンピールであると露呈することを恐れ、ふたりを引き離そうとします。

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▲中央がソフィ。ウルは言います「ソフィ、君は僕であり、僕は君だ」

 

同じ頃、TRUMP(→永遠の命を持つとされる原初の吸血種「TRUE OF VAMP」の呼称)を監視・守護する《ヴラド機関》の任務にあたるダリは、ソフィがこのクランに入所していることを問題視していました。なぜならそこにはTRUMPであるティーチャークラウス(陣内将)がいるから。ソフィには、クラウスの精神状態に悪影響を及ぼしかねない秘密があるのです――。

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▲左からティーチャークラウス、ダリ。繭期(思春期)の少年たちを描く作品ですが、大人たちの姿から見えるものにもぜひ注目してほしい!

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これまでの作品を観てきた人は、思わずその場で答え合わせをしたくなりそうなエピソードも。ですがそれ以上に、シリーズを通して描かれ続ける「生」と「死」というテーマや、人間の業が濃く描かれているのが本作。この作品だけを観ても、受け取るものは大きいです。

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ウルはダンピールであることを隠し生きているせいで、心に抱えたものをわかちあえる相手がいません。大切なことを言えないまま続くソフィとの交流ですが、すべてが明るみに出たとき、ふたりの間になにを生むのでしょうか。

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そんなウルを必死で護ろうとする兄ラファエロも、実は繭期にいるのです。父親の期待に応えなくてはならないという気持ちが強い彼ですが、その父親ダリの心の内もこの作品では描かれます。それぞれが何を見て、何が見えていないのか、ぜひ注目してみてください。

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▲一番右は転校生・臥萬里(木戸邑弥)。ウルとソフィが一目見て"違和感"を感じる彼は、果たして何者なのか......と書きつつ、この"何者"というのも引っかかるところ。この世界の登場人物には「ヴァンプ」「ダンピール」「TRUMP」「繭期」などなどさまざまな特性がついてまわります。その特性、例えば「特急貴族」からイメージするものは、本人以外の言葉で語られることが多く、それを何度も聞いているうちに、いつのまにかその聞いたイメージを重ねて観る目で見ている。劇中、突然そこに気付かされる瞬間が何度もありました。

美しい美術や衣裳、照明や音楽、迫真の殺陣など、さまざまな面で楽しめる作品。ぜひ劇場やライブビューイングで体感してください。

『COCOON 月の翳り星ひとつ』は5月26日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演後、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。

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作・演出の末満健一が2009年に大阪の小劇場で初演し、今や大人気の『TRUMP(トランプ)』シリーズ。その最新作となる『COCOON 月の翳り星ひとつ』が、5月11日(土)から26日(日)まで東京・サンシャイン劇場、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演中です。

吸血種(ヴァンプ)の宿命を描いたゴシック・ファンタジーシリーズで、続き物ではなく、ひとつの時の流れの中にあるさまざまなエピソードを描いていく本作。今回は、アンジェリコとラファエロというふたりの少年の物語を描く「月の翳り」編、原点の作品『TRUMP』の主人公の一人・ウルの物語を描く「星ひとつ」編という2作品が同時上演されます。

げきぴあでは、それぞれの公開ゲネプロに潜入、この記事ではゲネプロ1日目に行われた「月の翳り」編をレポートします。

◎「星ひとつ」編はコチラ

http://community.pia.jp/stage_pia/2019/05/trumpcocoon-1.html

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<ざっくり!これまでの作品紹介>

◎『TRUMP』

本シリーズの原点。シリーズ関連作は全てこの作品に帰結されるようにつくられているそうで、関連作を踏まえて観ると伏線が回収され、解釈が変わるという作品です。

<補足>劇中に出てくる単語としての"TRUMP"とは?

→永遠の命を持つとされる原初の吸血種「TRUE OF VAMP」の呼称。シリーズでは、不老不死のTRUMPの存在を軸にしてさまざまな真実が浮かびあがります。

◎『LILIUM-リリウム少女純潔歌劇-』

『TRUMP』の3000年後を描いた作品。不老不死となったソフィがファルスと名を変えて登場します。

◎『SPECTER』

『TRUMP』の14年前を描いた作品。ソフィの出生と『TRUMP』でソフィと再会することになるヴァンパイアハンター臥萬里が誕生するまでを描きます。

◎『グランギニョル』

『SPECTER』と同じ『TRUMP』の14年前、ある事件を追う若きダリの血盟議会との確執、ダリの子・ウルの出生を描いた作品。

◎『マリーゴールド』

『LILIUM』に登場するマリーゴールドの過去を描き、母娘の血と愛を巡る作品。シリーズ初の本格ミュージカル作品でもあります。

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※※以下、コメント・ゲネプロレポート※※

※※ネタバレ注意!!!※※

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◎開幕にあたっての末満健一さんのコメント◎

「医者になるには免許がいる。役者に免許はない。飛行機を飛ばすには知識と技術がいる。役者と名乗るものには知識も技術もないやつがいる。そんなピンキリな役者世界の中で、「この人たちは紛れもない役者だ」と思える人たちと、創作の時間を共にすることができた。そんな自分は、脚本家と言えるのか? 演出家と名乗る資格はあるのか? そんなことを自問自答しながら。演劇の可能性はまだまだ無限で、僕のやっていることはその一欠片でしかない。それでも僕は、演劇が好きだ。役者が好きだ。そう思うことが許されるよう、自分なりのやり方で過ごした時間に尽くしたつもりだ。その結果出来上がったものが今回の作品だ。『COCOON 月の翳り星ひとつ』は、やっていて苦しいのだから観るのも苦しいはず。でもとても遠いところまで来られたと思う。想像すらできていなかったような場所に。ひとりの力などちっぽけで、ここまで来られたのは役者とスタッフと観客のおかげだ。せっかくここまで来られたのだから、このままどこにも帰らずに、進んでみよう」

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▲左からラファエロ、アンジェリコ

「月の翳り」編で描かれるのは、アンジェリコ(安西慎太郎)とラファエロ(荒木宏文)の物語。繭期(人間でいう思春期)の吸血種《ヴァンプ》の少年たちを収容する施設《クラン》で、幼馴染だったふたりが再会するところから始まります。

(※ちなみにラファエロは「星ひとつ」編の主人公ウルのお兄さんです)

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▲左から、アンジェリコ、エミール、ディエゴ、ラファエロ、ジュリオ

久しぶりに再会し、「君となら肩を並べて競い合える」と喜ぶアンジェリコ。クランに在籍する生徒の中でも、アンジェリコとラファエロに加え、上級生のエミール(宮崎秋人)とジュリオ(田中亨)とディエゴ(碓井将大)の5人は貴族階級の出自を持ち、クランの生徒から《高貴なる五家》と呼ばれる生徒です。さらにそのなかでもアンジェリコの「フラ家」とラファエロの「デリコ家」は最上級の家柄。アンジェリコは、ラファエロだけを「親友でライバル」だと認めています。ちょっともうこれだけでハラハラしちゃいますね......!

そんな最上級の家柄を背負うふたり。共に父親の存在、家の名前が重くのしかかり、けれど懸命にそれを受け止めようともがきます。父親であるダリ・デリコから名門デリコ家の家督相続者として厳格な教育を受け、父のような立派な貴族にならなければという思いを強迫観念的に抱いているラファエロ。逆に父親であるゲルハルト・フラから期待の言葉をかけられることはなく、不安を感じるアンジェリコ。(※ラファエロの父ダリ・デリコの物語は『グランギニョル』で描かれているので、気になる方はDVDも販売されていますよ!)

家という大きな存在とまっすぐに向き合う彼らの前に現れるのが、ディエゴ。彼はふたりに「家を継がない」という選択を見せつけます。アンジェリコはいつかラファエロと血盟議会でやりあいたいという夢があるのでそこでブレはしないですが、ラファエロは自分にはないディエゴの姿に憧れに近い感情を抱くようになります。アンジェリコは嫉妬心を募らせます。

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▲右がディエゴ

同じ頃、クランでは生徒たちの繭期の症状が著しく悪化していることが問題視されはじめます。繭期の症状を投薬制御する《抑制プログラム》の担当であるティーチャー ドナテルロ(細貝圭)は抑制剤の調整を試みますが、事態は一向に解決する気配を見せない。それどころか繭期を深刻化させ、暴走するディエゴたち。一体何が起きているのか。事態は思わぬ展開に――!

まず印象的だったのは、やはりこの『TRUMP』シリーズならではの世界観。

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美しい美術、美しい衣裳、美しい振る舞いに彩られた、醜いとも言えるほどの感情や欲望の渦巻く繭期(思春期)の少年たち。内側から流れ出しているものが見えそうなほどの姿に、何度も刺されます!

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友情、嫉妬、背負う呪い、疑念、憧れ、現実、約束、記憶、執着、欺瞞、逃避、投影、臆病......さまざまな感情が鮮烈に描かれますが、それをどう受け取るかは、本作がシリーズ初めての観劇なのか、過去作を観ているのか、観る人の年齢や立場によっても変わりそう。そこはこの『TRUMP』シリーズの醍醐味ともいえます!

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その醍醐味は今回の2作を観るだけでもしっかり味わえます。例えばアンジェリコは、「月の翳り」と「星ひとつ」のどちらを先に観るかで見え方が全然違うはず。ほかにも、「あのとき言ってたのはこれか...!」ということも。

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▲左からティーチャー グスタフ(郷本直也)、ドナテルロ(細貝圭)。

繭期は誰もが通る道。クランで生徒たちを指導するティーチャーたちも当然、繭期を経てきた人たちです。

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2作同時上演で半分以上同じキャストが出演するのも今作の楽しみのひとつ。「星ひとつ」で主演を務める宮崎秋人さんは「月の翳り」でなにを演じるのか...ご注目ください!

今回のタイトルにつけられた「星」と「月」に触れる台詞も印象的だった「月の翳り」編。ふたりの友情はどうなっていくのか、その過程をたっぷりとお楽しみください!

そして『TRUMP』シリーズに流れる長い時間の中のある瞬間を描く今作ですが、観ていてわけがわからなくなることは決してありません。だから過去作を観ていない人も心配せずに劇場に足を運んでくださいね。

『COCOON 月の翳り星ひとつ』は5月26日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演後、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。

文章:中川實穂
撮影:遠山高広

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kemuri_seisaku_01.jpg 劇団☆新感線『けむりの軍団』製作発表より

古田新太、早乙女太一、清野菜名、須賀健太、池田成志などが出演する劇団☆新感線の舞台『けむりの軍団』の製作発表が行われた。

今年、39周年を迎える劇団☆新感線の夏秋公演『けむりの軍団』の製作発表が都内で行われ、脚本の倉持裕、演出のいのうえひでのり、出演の古田新太、早乙女太一、清野菜名、須賀健太、高田聖子、粟根まこと、池田成志が登壇した。

動画は挨拶部分を中心に抜粋したもの。【動画11分】

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(撮影・編集・文:森脇孝/エントレ

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