【後編:劇団編】南河内万歳一座『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』内藤裕敬インタビュー

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劇団「南河内万歳一座」が、2020年の旗揚げ40周年に向けた記念企画の第2弾として上演する『唇に聴いてみる』が6月6日(木)にザ・スズナリで開幕します。

そこで、『唇に聴いてみる』について、そして劇団の40年について作・演出で劇団主宰の内藤裕敬さんに直撃しました。

前編:『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』編 >に続き、後編は劇団の40年についてうかがいます。内藤さんの地元でもある東京に拠点をうつさず、大阪という場所で、しかも40年もの間やってこられたのはどうしてなのか。どこを大切にしているのか、語っていただきました!

*****

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――【前編】の最後に劇団を"続けるためにはやらない"とお話されましたが、まず劇団が40年続くのがすごいことだと思います。どうして続けられたのですか?

 でもね、「続けよう」と思ったことはないのよ、最初から。どうせ劇団員は抜けていくだろうし、状況も変わっていくだろうし、自分の実力もどこまでハードルを超えていけるのかわからないわけだから、続いちゃったら続けるけど、どうせどっかで「お前じゃ無理だ」って世間からレッテルを貼られるだろうって思ってたの。でも続いちゃったんだよな。

――とはいえ劇団を40年も続けるにはなにか力を使わないとやれないと思うのですが。

 一番思ってるのは、ラッキーだったんじゃねーの?っていう。

――(笑)

 こまごま努力したことはあるけどね。ただひとつ言えるのは、劇団活動と自分の演劇創作によってさまざまを"獲得しよう"という気持ちはあった。

――獲得。

 お客さん来てくれないかな?とか、どこかお金くれないかな?とか、劇団員を映画に出してれないかな?とかいうんじゃなくて、そういうものは劇団が"獲得するものだ"という気持ちは初めからあった。お金の面でも、大阪の行政が主催する演劇企画とかあるけど、自分たちがおもしろい作品をやっていれば当然お声がかかるわけで。それも、自分たちの作品発表によって"獲得"していく。そういう気持ちは強かったよね。今、大阪で若い子が「劇場をつくってください」とか「演劇の状況を変えてくれないかな」とか言うんだけど、「そういうのは自分で獲得するんだよ」って言う。観客を獲得して「こういう劇団がある」とか「こういうおもしろいことをやってる」というものがあれば周りも動くけど、なにも獲得できてないのに助成ばかりを望むのはダメって考えたほうがいいよって。

――獲得した先の目標のようなものはあるんですか?「世界を変えたい」的な。

 ない!なんにもない!

 目標を定めると、そこに向かって進まなきゃなんないじゃない。横にもおもしろいことが転がってたりするのに、進まなきゃなんない人は、見ないふりして行かなきゃいけないでしょ?俺はその"横"をやりたいのよ。

――なるほど。

 そういうふうにやっているうちに、こんな人と知り合ったとか、こんな企画をやることになったとか、「次はうちでやってくれませんか?」って劇場が呼んでくれることもあるし。そうやって意図せずに発展していく。そしたら40年になっちゃったわけだから。これからもそういうカタチで、その辺にあるおもしろいことから手当たり次第にやる。

――内藤さんが「おもしろい」と感じているのは「演劇をやること」ですか?

 そうだね。作品づくりがおもしろい。そこにあるチャレンジがおもしろいし。誰とやるかもおもしろいし、どこでやるかもおもしろいし。

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――内藤さんは東京が地元ですが、劇団を続ける中で東京に拠点を移そうとは考えなかったですか?

 実家は東京だけど、大阪の大学で旗揚げしたからね。でも大学卒業して2年目には東京公演やってたよ。当時は大阪に劇団☆新感線もいたし、マキノノゾミくんとか生瀬勝久もいた時代で。でもみんな東京に行くってものすごく遠くに行くような感覚なのよ。ヨーロッパにでも行くかのような。でも俺は、「いやいやいや、新幹線乗ったらすぐだから!」「東京で公演することはそんなにハードルの高いことじゃないでしょ」って思ってた。

――地元が東京の人ならではの感覚かもしれないですね。

 だからひょいひょい行ってたし、卒業3年目には年に2回、東京・名古屋・大阪の3都市公演をやってた。それで話題にもなったし、お客さんもどんどん増えていって、劇団が上り調子になって。そしたらバブルが始まって、演劇に公共の予算が使われるようになった。そうすると、噂を聞いて、国から「富山県でやって」とか「四国でやって」とかオファーが入るようになる。それでこちらも「四国でやるなら、高松だけだともったいないから徳島でできないか?」とか遊び心で広げる。そうやってまた広がっていってた。

――すごい。

 でもその頃には俺がくたびれてきてた。作家としてやせ細ってきて、自分でも発想するものが貧弱になってるなって感じていた。

――劇作に悩み始めたということですか?

 そう。ただ演出はすごくおもしろかったし、演出能力は上がっていたと思う。すると、演出能力に合わせて戯曲の能力がアップしないことで生まれるバランスの悪さが、演劇創作をしている人間としてのバランスの悪さになってきた。それでどうもうまくいかない時期がきた。同じ頃、小劇場ブームもだんだんと落ちてきて、1980年代にできた劇団が解散していって、今のようなプロデュース公演が主流になっていって、その状況で劇団を続けていくのはなかなかしんどい時代がきた。

――でも目標がないなかで低迷期に入ると、続けられますか?

 やめようと思ったんだよ。低迷期が6、7年続いて、「うまくできねーし、やめようかな」と思った。でもやめ方がわからなかった。それまでいろんな方にお世話になったし、ファンの方もそれなりにいるなかで、いきなりプツッとやめるってわけにいかない。「どうやってやめるのが一番いいのかな」「どうにかうまくやめれないかな」みたいなこと考えながらやっていたら、結果的に......

――調子が戻ってきた(笑)。

 やめらんないうちに開眼してしまって、「俺、いけるんじゃねーか!?」みたいな感じになっちゃって。やめなくてよかった!って(笑)。

――そこからはもう。

 全然やめる気がない!

――(笑)。「劇団」という部分はどうですか?内藤さんも、木皿泉さんの脚本・木皿泉、薬師丸ひろ子さん主演の舞台『ハルナガニ』(演出/'14年)や中山美穂さん主演の『魔術』(作・演出/'16年)などやられていますが。

 そういうことができないわけじゃないんだよ。でも演出家として東京で一旗揚げたい、みたいな思いはないからね。例えばうちの劇団でも、有名な俳優さんを呼んだりして商業的にやれば動員をのばしていけると思うんだけど、それはあんまおもしろいと思わないんだよ。

――「おもしろいと思うか」が肝なんですね。

 "おもしろい作品を発表するファクトリー"が劇団だから。作品をおもしろがってもらうのと同時にそこにいる俳優も「この作品を支えているのはすごいな」と思ってもらう、っていうのが本道だと俺は思っていて。だから有名な俳優を呼ぶのは別の企画でやる。劇団の芝居はずっとこういうふうにやってきたし、これからも商業的な展開をしようとは全く思わない。でもそうすると動員が落ちるんだよ。しゃーないな、それは。

――時代の流れもありますか。

 うん、しゃーない。そうしてるうちにまた時代が変わったりもするし。今は2.5次元が主流でしょ。なんだそれ、と思うよ。

――2.5次元、おもしろい作品たくさんありますよ。

 でもさ、基本的に舞台って3次元で成立していて「一瞬でもいいから"3.5次元"が垣間見えないかな」とつくっていくわけじゃない。同じように漫画も、2次元の世界なのに3.5次元が垣間見える一瞬があるんだよ。だけどそれ、舞台化でやれる?って思う。例えばプロジェクションマッピングみたいな新しい技術が舞台に応用できるようになって、今まで以上にいろんな表現が可能になってるけど、それって演劇作品が映像作品に近づいていくことであって、演劇の発展があるように思えない。だから2.5次元が拡大していく方向性は、"技術が発達することで生まれた演劇のサブジャンル"と考えたほうがいいだろうと思ってる。俺は演劇としては、プロジェクションマッピングのようなものを「人がどうやるか」っていうことで演劇は発展すると思うから、そっちのほうをやりたい。そうやって発想することによって、演劇の可能性や新しい劇世界が発想できるだろうっていう方向を向きたいので。ただ、そうするとまた時代に逆行するので、客が入らない。でもそれはね、俺の背骨だから。ずらせないのよ。そこをずらしてやることになったら、劇団やめる。

――つまり南河内万歳一座は、それがやり続けられる場だから続いているってことですね。

 そう。

――最後に劇団のこれからを聞いてみたいと思ったのですが。

 なにも決めない!

――ですね(笑)。公演、楽しみにしています!

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南河内万歳一座『~21世紀様行~ 唇に聴いてみる』は、6月6日(木)から9日(日)まで東京・ザ・スズナリ、6月12日(水)から17日(月)まで大阪・一心寺シアター倶楽にて上演

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