作・演出の末満健一が2009年に大阪の小劇場で初演し、今や大人気の『TRUMP(トランプ)』シリーズ。その最新作となる『COCOON 月の翳り星ひとつ』が、5月11日(土)から26日(日)まで東京・サンシャイン劇場、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演中です。
吸血種(ヴァンプ)の宿命を描いたゴシック・ファンタジーシリーズで、続き物ではなく、ひとつの時の流れの中にあるさまざまなエピソードを描いていく本作。今回は、アンジェリコとラファエロというふたりの少年の物語を描く「月の翳り」編、原点の作品『TRUMP』の主人公の一人・ウルの物語を描く「星ひとつ」編という2作品が同時上演されます。
げきぴあでは、それぞれの公開ゲネプロに潜入、この記事ではゲネプロ1日目に行われた「月の翳り」編をレポートします。
◎「星ひとつ」編はコチラ
http://community.pia.jp/stage_pia/2019/05/trumpcocoon-1.html
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<ざっくり!これまでの作品紹介>
◎『TRUMP』
本シリーズの原点。シリーズ関連作は全てこの作品に帰結されるようにつくられているそうで、関連作を踏まえて観ると伏線が回収され、解釈が変わるという作品です。
<補足>劇中に出てくる単語としての"TRUMP"とは?
→永遠の命を持つとされる原初の吸血種「TRUE OF VAMP」の呼称。シリーズでは、不老不死のTRUMPの存在を軸にしてさまざまな真実が浮かびあがります。
◎『LILIUM-リリウム少女純潔歌劇-』
『TRUMP』の3000年後を描いた作品。不老不死となったソフィがファルスと名を変えて登場します。
◎『SPECTER』
『TRUMP』の14年前を描いた作品。ソフィの出生と『TRUMP』でソフィと再会することになるヴァンパイアハンター臥萬里が誕生するまでを描きます。
◎『グランギニョル』
『SPECTER』と同じ『TRUMP』の14年前、ある事件を追う若きダリの血盟議会との確執、ダリの子・ウルの出生を描いた作品。
◎『マリーゴールド』
『LILIUM』に登場するマリーゴールドの過去を描き、母娘の血と愛を巡る作品。シリーズ初の本格ミュージカル作品でもあります。
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※※以下、コメント・ゲネプロレポート※※
※※ネタバレ注意!!!※※
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◎開幕にあたっての末満健一さんのコメント◎
「医者になるには免許がいる。役者に免許はない。飛行機を飛ばすには知識と技術がいる。役者と名乗るものには知識も技術もないやつがいる。そんなピンキリな役者世界の中で、「この人たちは紛れもない役者だ」と思える人たちと、創作の時間を共にすることができた。そんな自分は、脚本家と言えるのか? 演出家と名乗る資格はあるのか? そんなことを自問自答しながら。演劇の可能性はまだまだ無限で、僕のやっていることはその一欠片でしかない。それでも僕は、演劇が好きだ。役者が好きだ。そう思うことが許されるよう、自分なりのやり方で過ごした時間に尽くしたつもりだ。その結果出来上がったものが今回の作品だ。『COCOON 月の翳り星ひとつ』は、やっていて苦しいのだから観るのも苦しいはず。でもとても遠いところまで来られたと思う。想像すらできていなかったような場所に。ひとりの力などちっぽけで、ここまで来られたのは役者とスタッフと観客のおかげだ。せっかくここまで来られたのだから、このままどこにも帰らずに、進んでみよう」
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▲左からラファエロ、アンジェリコ
「月の翳り」編で描かれるのは、アンジェリコ(安西慎太郎)とラファエロ(荒木宏文)の物語。繭期(人間でいう思春期)の吸血種《ヴァンプ》の少年たちを収容する施設《クラン》で、幼馴染だったふたりが再会するところから始まります。
(※ちなみにラファエロは「星ひとつ」編の主人公ウルのお兄さんです)
▲左から、アンジェリコ、エミール、ディエゴ、ラファエロ、ジュリオ
久しぶりに再会し、「君となら肩を並べて競い合える」と喜ぶアンジェリコ。クランに在籍する生徒の中でも、アンジェリコとラファエロに加え、上級生のエミール(宮崎秋人)とジュリオ(田中亨)とディエゴ(碓井将大)の5人は貴族階級の出自を持ち、クランの生徒から《高貴なる五家》と呼ばれる生徒です。さらにそのなかでもアンジェリコの「フラ家」とラファエロの「デリコ家」は最上級の家柄。アンジェリコは、ラファエロだけを「親友でライバル」だと認めています。ちょっともうこれだけでハラハラしちゃいますね......!
そんな最上級の家柄を背負うふたり。共に父親の存在、家の名前が重くのしかかり、けれど懸命にそれを受け止めようともがきます。父親であるダリ・デリコから名門デリコ家の家督相続者として厳格な教育を受け、父のような立派な貴族にならなければという思いを強迫観念的に抱いているラファエロ。逆に父親であるゲルハルト・フラから期待の言葉をかけられることはなく、不安を感じるアンジェリコ。(※ラファエロの父ダリ・デリコの物語は『グランギニョル』で描かれているので、気になる方はDVDも販売されていますよ!)
家という大きな存在とまっすぐに向き合う彼らの前に現れるのが、ディエゴ。彼はふたりに「家を継がない」という選択を見せつけます。アンジェリコはいつかラファエロと血盟議会でやりあいたいという夢があるのでそこでブレはしないですが、ラファエロは自分にはないディエゴの姿に憧れに近い感情を抱くようになります。アンジェリコは嫉妬心を募らせます。
▲右がディエゴ
同じ頃、クランでは生徒たちの繭期の症状が著しく悪化していることが問題視されはじめます。繭期の症状を投薬制御する《抑制プログラム》の担当であるティーチャー ドナテルロ(細貝圭)は抑制剤の調整を試みますが、事態は一向に解決する気配を見せない。それどころか繭期を深刻化させ、暴走するディエゴたち。一体何が起きているのか。事態は思わぬ展開に――!
まず印象的だったのは、やはりこの『TRUMP』シリーズならではの世界観。
美しい美術、美しい衣裳、美しい振る舞いに彩られた、醜いとも言えるほどの感情や欲望の渦巻く繭期(思春期)の少年たち。内側から流れ出しているものが見えそうなほどの姿に、何度も刺されます!
友情、嫉妬、背負う呪い、疑念、憧れ、現実、約束、記憶、執着、欺瞞、逃避、投影、臆病......さまざまな感情が鮮烈に描かれますが、それをどう受け取るかは、本作がシリーズ初めての観劇なのか、過去作を観ているのか、観る人の年齢や立場によっても変わりそう。そこはこの『TRUMP』シリーズの醍醐味ともいえます!
その醍醐味は今回の2作を観るだけでもしっかり味わえます。例えばアンジェリコは、「月の翳り」と「星ひとつ」のどちらを先に観るかで見え方が全然違うはず。ほかにも、「あのとき言ってたのはこれか...!」ということも。
▲左からティーチャー グスタフ(郷本直也)、ドナテルロ(細貝圭)。
繭期は誰もが通る道。クランで生徒たちを指導するティーチャーたちも当然、繭期を経てきた人たちです。
2作同時上演で半分以上同じキャストが出演するのも今作の楽しみのひとつ。「星ひとつ」で主演を務める宮崎秋人さんは「月の翳り」でなにを演じるのか...ご注目ください!
今回のタイトルにつけられた「星」と「月」に触れる台詞も印象的だった「月の翳り」編。ふたりの友情はどうなっていくのか、その過程をたっぷりとお楽しみください!
そして『TRUMP』シリーズに流れる長い時間の中のある瞬間を描く今作ですが、観ていてわけがわからなくなることは決してありません。だから過去作を観ていない人も心配せずに劇場に足を運んでくださいね。
『COCOON 月の翳り星ひとつ』は5月26日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演後、5月30日(木)から6月5日(水)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。