東京・日比谷の劇場、シアタークリエの開場10周年を祝う記念公演『TENTH』が現在、好評上演中だ。2部構成で、第1部はこの劇場で上演された名作ミュージカル3作のダイジェスト公演を週替わりで、第2部は日替わりの内容でガラコンサートを上演する。
▽ 第1部『next to normal』より
2007年11月に演劇の街・日比谷に開場したシアタークリエ。10年のあいだに上演された作品は、150本超。その内容も、ミュージカルからストレートプレイ、翻訳劇に気鋭の作家による新作など、バラエティに富んでいる。特に海外ミュージカルの翻訳上演では、客席609という劇場サイズを活かし、オフ・ブロードウェイの良作や、小規模のチャレンジングな作品も積極的に上演。海外ミュージカルといえばどうしても大劇場で大がかりな上演になりがちだった日本演劇界で、それだけではない良作を打つ機会を増やし、日本演劇界を豊かにする一役を買ってくれている。
『TENTH』第1部のダイジェスト公演で上演される作品も、そんな、この劇場だからこそ上演が実現した名作たちと言えそうなラインナップ。第1週はロックテイストの音楽の中に双極性障害という難しい題材を扱った『next to normal』、第2週は脳手術を受けることになった音楽家の自伝的作品『ニュー・ブレイン』、第3週は9.11前後にオフ・ブロードウェイで上演され、アメリカの観客の心を癒した『この森で、天使はバスを降りた』。現在ダイジェスト版を上演している『next to normal』は、シアタークリエでは2013年に初登場。当時もヒロインを演じた安蘭けいや、初演メンバーであった村川絵梨、新納慎也らが、ダイジェスト版とは思えない繊細で深みのある演技で、シリアスな家族のドラマを丁寧に伝えている。作品初参加の海宝直人、岡田浩暉、村井良大もそれぞれ味のある存在感で好演。ぜひ、ダイジェスト版ではなく完全版の再演も実現して欲しい。
▽ 第1部『next to normal』より
第2部もまた、この劇場で上演された作品の中から、実際に出演していた俳優がミュージカルソングを歌うガラ・コンサート。作品ごとにコーナーをまとめ、懐かしの名曲を、その楽曲を聴かせるだけではなく、演出・衣裳・ダンスにも作品のエッセンスをぎゅっと詰めてテンポ良く贈る。1月4日の初日と、報道陣に公開された前日のゲネプロでは、2016年の日本版初演では数々の演劇賞に輝いたヒット作、『ジャージー・ボーイズ』コーナーからスタート。中川晃教、伊礼彼方、海宝直人、Spiの4人がフォー・シーズンズに扮し、『Sherry』『君の瞳に恋してる』など5曲を披露。このミュージカルを元にした映画版のポスタービジュアルのような、4人が身を寄せて指でリズムをとっている登場シーンのシルエットからニクい。MCでも大いに客席を笑わせ、1部とは打って変わり、アニバーサリーらしいお祭りムードだ。今年の9月に再演が決まっている『ジャージー・ボーイズ』チームはダンスもビシっと決め、本編上演への期待感も存分に煽る。
▽ 第2部『10周年記念ガラコンサート』より、『ジャージー・ボーイズ』
続いて、2012年に上演された『songs for a new world』の出演者である浦井健治、昆夏美、濱田めぐみ、米倉利紀が1日のみの奇跡の再集結。キャスト4人のみの佳品ミュージカルで、これもクリエらしい作品だった。この日の4人はブルーとホワイトを基調にした衣裳で、タイトルナンバー『ザ・ニュー・ワールド~新しい世界~』など全3曲を披露。美しいコーラスワークで楽曲の美しさを存分に伝えた。4人の息のあい具合も最高で、このコーナーのトークも大盛り上がり。客席を巻き込んでの「ハッピー・バースデー」の大合唱もあった。
▽ 第2部『10周年記念ガラコンサート』より、『songs for a new world』
続いては、またまたミュージカル界が誇るスター、中川晃教が登場。2014年に新妻聖子らと上演したミュージカル・コメディ『ファースト・デート』の『物語は続く』を経て、昨年上演されたばかりの『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』コーナーへ。『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリ役に続く中川の当たり役となったスヌーピーに扮し、ショー・ストップナンバー『サパータイム』で大いに盛り上げた。チャーリー・ブラウンを好演した村井良大の声の出演も、ファンにとっては思いがけない嬉しい共演だったのでは。
▽ 第2部『10周年記念ガラコンサート』より、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』中川晃教
......と、1公演だけ切り取ると、10年間のヒストリーのうちのほんの一部ではあるが、第2部は日替わり。このあと、すでに発表になっているだけでも『ブラッド・ブラザーズ』『ウェディング・シンガー』『GOLD』『アンナ・カレーニナ』『トゥモロー・モーニング』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『RENT』『ZANNA』『ダディ・ロング・レッグズ』、そして今年6・7月に日本初演される『シークレット・ガーデン』のナンバーがラインナップされている。1部・2部あわせると、1か月のあいだに出演する俳優は、総勢59名! シアタークリエの10周年の歴史を振り返るとともに、多彩な作品が上演されている日本ミュージカル界の現状をも俯瞰できる、好企画。チケット争奪戦の人気公演だが、ミュージカルファンはぜひ劇場に駆けつけて欲しい。
▽ 第2部『10周年記念ガラコンサート』より、1/5ほかに登場した『ウェディング・シンガー』彩吹真央&新納慎也ら
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
写真提供:東宝演劇部
【公演情報】
1月4日(木)~31日(水) シアタークリエ
<第1部のダイジェスト公演スケジュール>
・1/4~11 『next to normal』
・1/14~21 『ニュー・ブレイン』
・1/24~31 『この森で、天使はバスを降りた』