【げきぴあニュース】
ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~』が3月1日、東京・シアタークリエにて開幕した。『レ・ミゼラブル』のジョン・ケアードが脚本・演出を担当し、2012年9月に日本初演、大好評を得てわずか4ヵ月後に異例のアンコール公演をしたヒット作。出演者はたったふたり、初演・再演で"ベストキャスト"と賞賛された井上芳雄、坂本真綾が今回も瑞々しい舞台を創っている。
原作は『あしながおじさん』のタイトルで日本でも長く愛されている児童文学。孤児院に暮らす少女ジルーシャが、院の理事のひとりから、送り主の詮索をしないこと、月に一度手紙を書くことなどを条件に大学進学の奨学金を援助されることから始まる物語はあまりにも有名だ。このミュージカルでは、ジルーシャが出資者である"ダディ・ロング・レッグズ"に宛てた書簡、という原作の形式は崩さないながら、ふたりのもどかしい恋物語という面にスポットが当てられた"大人の童話"的な手触りとなっている。
聡明で好奇心旺盛、溌剌としたジルーシャを演じるのは坂本真綾。普通の少女が当たり前に与えられていたものが足りないことで、傷つくこともあるが、その悩みや引け目すら臆さず表に出していく。湿った感情の一切入らないジルーシャのポジティブさを坂本が軽やかに体現していることが、このミュージカル成功の最大の勝因であろう。さすがに声のプロだけあって、楽しさ、苛立ち、落ち込み、そして恋心まで伝わる"表情豊かな声"も見事で、特にその歌声が運ぶ何かが起こりそうな期待をはらんだワクワク感は、客席の心をも浮き立たせる。少し気の強そうなキリリとしたビジュアルもぴったりで、まさに完璧なジルーシャだ。
対する"ダディ・ロング・レッグズ"の正体、ジャーヴィス・ペンドルトンを演じる井上芳雄も、これまたハマり役。品の良さと少年っぽさを上手く同居させられるのは、この人ならでは。さらに、ジルーシャが他の男の子と仲良くなるのを邪魔しようと画策をし、逆に彼女にやりこめられてしまうシーンなどで見せる可愛らしさも新鮮だ。もちろん、必須条件である"長い足"も、きちんと兼ね備えている。
大学で様々なことを学び、どんどん自分の世界を広げていくジルーシャ。この作品は彼女の成長物語でもあるけれど、その手紙を通し、ジャーヴィスの世界も明るく色づいていくのが、とても温かい気持ちにさせられる。脚本、音楽、俳優、すべての要素が完璧に美しく嵌ったミュージカル。大作ミュージカルの派手さはないが、しみじみと幸せな気持ちを噛みしめるこんな作品も、いい。
公演は3月22日(土)まで同劇場にて。その後大阪、福岡、愛知でも上演される。チケットは発売中。