■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(9)■
稽古場レポートやキャストインタビューから作品の魅力に迫るミュージカル『マタ・ハリ』連載。
今回は、ヴォン・ビッシング役、福井晶一さんのインタビューをお届けします!
劇団四季で正統派二枚目俳優として数々の大作に出演、退団後もミュージカルを中心に活躍を続ける福井さん。
なんといっても『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンとジャベールの2役を演じたことが印象深い俳優さんです。
2018年もすでに本作のほか、ミュージカル『Romale』、『ジャージー・ボーイズ』と注目作への出演が発表になっています。
福井さんが『マタ・ハリ』で演じるのは、ドイツ軍のヴォン・ビッシング大佐。
パリで踊り子として名を馳せたマタ・ハリは、フランス軍からスパイとなることを強いられるのですが、彼女は実はフランス軍のみならずドイツ軍のスパイでもあった(二重スパイ)という疑惑もあります。
その、ドイツ側からマタ・ハリにアプローチをかける人物がビッシング。
そして第一次世界大戦という時代のパリが舞台ゆえ、フランス対ドイツの戦争が物語の根底に流れているのですが、なにせメインの場所はパリ。兵士も民衆もフランス側から描かれる場面が多い中、ドイツという国を背負い、緊迫する情勢を描き出さねばならない福井さん、これはかなり大変な役だと思うのですが......。
福井さんに、役柄について、作品について、お話を伺ってきました。
● 福井晶一 INTERVIEW ●
―― 日本ミュージカル界で欠かせない存在である福井さんですが、意外にもフランク・ワイルドホーン作品は初出演でしょうか。
「はい、今回、初ですね。ワイルドホーン作品は、先日『スカーレット ピンパーネル』を観に行きましたが、情熱的で魅力的な曲がたくさんあり、『マタ・ハリ』もとても楽しみにしていました。僕が歌う曲も、自分が今まで歌ったことがないような曲なんです」
―― 耳馴染みがいいけれど、歌ってみると大変......というようなお話をよく聞きますが。
「うーん、難しいというより......、今回の自分のナンバーは、ストレートに感情をバン!と出すタイプのものではないので、歌声に心情を重ねるのが、ちょっと難しいと言えば難しいかな。いや、でもそこが今は楽しくもあります(笑)」
―― その中で、福井さんが演じるのがヴォン・ビッシング大佐。どんな人物でしょう。
「第一世界大戦で戦っているフランスとドイツの、ドイツ側の象徴であり、マタ・ハリの一番のパトロンだった人物です。演出の石丸(さち子)さんが言うには、男女の関係ということだけではなく、彼女の踊り子としての魅力や芸術性をきちんと認めていた人物じゃないか、と仰っていました。だからこそ、戦時中であっても彼女を自分の家に招いてレセプションしたり、パトロンとして多額のお金を出していた。彼女に裏切られた時は、敵国の人間ということだけでなく、認めていたからこそ許せないといったような、一筋縄ではいかない捩れたものを表現できたらいいなと思っています」
―― ドイツ側の象徴という言葉もありましたが、フランス側の兵士や民衆は出て来るのですが、ドイツ側はあまり出てこないじゃないですか。ほぼひとりでフランスと対向する緊張感を出さなければいけないというのが大変なのではと想像しているのですが......。実際、どんなところに苦労されていますか?
「実際の資料でもビッシング自身、名前が出てくるくらいですし(苦笑)、想像力ですよね。石丸さんとも話し合いながらですが、こちらから質問もしますし、時代背景など石丸さんが僕らに与えてくれる情報が大きく、その中からひとつひとつ何かを見つけていく作業を、今やっています」
―― 実在の人物なんですよね。
「そうです。かなり位の高い指揮官だったようです。それだけに、存在感や、裏切者に対してもきちんと対処する決断力、国を背負っていく強さや冷徹さといったものを表現できたらと思っています」
―― 稽古場で拝見した、マタ・ハリと真意を探り合うようなシーンもスリリングでした。
「あの曲(『捕らえろ スパイを』)はスパイ行為が行われる度に出てくる、スパイスになるナンバーです。みんなで、痺れるようなヒリヒリするシーンを作っていけたらと思っています。......僕としては今回、アンサンブルのみんなとひとつのシーンを作っていくという過程がすごく楽しくて。(『レ・ミゼラブル』の)バルジャンとかをやっていても、みんなで歌うシーンってそんなにないじゃないですか、孤独で(笑)」
―― 確かに、コーラスの厚みもあり、全曲ひとりで歌い上げるナンバーとは違う迫力がありました。ほか、どんな福井さんを拝見できそうでしょうか?
「みんなが「ちえちゃん(柚希礼音さん)のマタ・ハリを素敵に見せたい、輝かせたい」という思いを強く持っています。ちえちゃんもすごく頑張っています。ですので、ドイツ側の人間としては、ラストに向かってしっかり彼女を追い詰めていきたい。僕の役目はそこだと思っています。そこをしっかり描いていきたいです」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【公演情報】
・1月21日(日)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
・2月3日(土)~18日(日) 東京国際フォーラム ホールC