■『ダンス オブ ヴァンパイア』vol.9■
【観劇レポート】
山口祐一郎が主演するミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』が現在、東京・帝国劇場にて上演中だ。リピーターが多いことでも知られる人気作。日本では2006年に初演され、今回は4年ぶり4度目の上演だ。この作品のどこに、人は惹きつけられるのだろう?
物語はヴァンパイアのクロロック伯爵と、ヴァンパイア研究者のアブロンシウス教授の対決を軸にした"吸血鬼モノ"。ヴァンパイアに狙われる美女、その美女に恋する青年、夜の闇に血の赤、そしてヴァンパイアの孤独...と、ゴシックホラーの要素たっぷりでありながら、作品全体を貫く色合いは、B級テイストなくだらなさ! ツボにハマりまくる箇所満載の脚本の妙もさることながら、芸達者揃いの出演者たちがアドリブで突っ込む小ネタも、笑いを増幅させていく。
一方で、ヴァンパイアが謳う"欲望"と、教授が提唱する"人間の理性"の対決の行方など、人間社会の深淵をシニカルに描き出す知的な面もあり、単なる"オモシロ作品"で終わらせないところが、ミュージカルファンの心を掴む。笑いと奥深さと楽しさのミックスが、リピーターを呼ぶ要因だろう。
そんな楽しいミュージカル、ニューフェイスも迎える2015年版は、実に充実のステージだ。右も左もとにかく個性的すぎるキャラクターばかりだが、それらがことごとく演じる俳優の個性にピタリとはまり、作品が生き生きと息づいている。ヒロイン・サラと、サラに恋する青年・アルフレートはともにWキャストで、全員が初参加。正統派ヒロインでありながら、お風呂が大好きすぎるという変わった特性を持つサラ役は、神田沙也加と舞羽美海。神田が笑顔もむくれ顔も可愛いアニメキャラクターのようなカンペキなサラを演じれば、舞羽は人を惹きつけるパーフェクトな笑顔とどこか天然さもあるふんわりした空気で、こちらは少女マンガから抜け出したよう。それぞれにフレッシュでキュートなサラを作り出している。小心者で臆病者だけどサラに恋してまっしぐら...なアルフレートは平方元基と良知真次が扮する。ふたりとも情けないけれど憎めないアルフレートを、役者本人の素なのではないかとすら思わせるピュアさで演じていて、共感度抜群。彼らについては観る者すべてが「がんばれ!」という思いを抱いてしまうのではとすら思える。ほかにも、宿屋の女中マグダに扮するソニンは色気に加え、潔い欲望の発散が見ていて気持ちが良いし、伯爵の息子にしてアルフレートに迫るヘルベルトを演じる上口耕平はキモチ悪くもカッコ良く、作品きっての個性派キャラを生き生きと演じていて印象的だ。
また2009年からアブロンシウス教授を演じる石川禅は、今回も愛すべきKYぶりを振り撒きながらも、真実を追究しようとする信念がひしひしと伝わってくる熱演。助手のアルフレートとのデコボココンビっぷりも楽しく、日々アドリブも増えていくようで、そんなお楽しみも。そしてやはり、圧巻はヴァンパイアのクロロック伯爵役の山口祐一郎だ。人外の役をやらせたら右に出るものはいない圧倒的な存在感はもちろん、おちゃめな顔で笑いをとり、孤独に苦悩する顔で客席を静まり返らせる姿は、この作品の二面性を見事に体現している。2006年の初演からこの役を演じている彼だが、今回は今までにもまして美しく麗しく、1幕ラストナンバーでのロングトーンも張りがあり、この人こそホンモノのヴァンパイア(=歳をとらない)なのではないか...とすら思えるのだ。
ほか、サラの両親に扮するコング桑田、出雲綾・阿知波悟美(Wキャスト)、伯爵の下男クコールを演じる駒田一らの芸達者ぶり、伯爵の化身たるダンサー新上裕也・森山開次(Wキャスト)の美しく迫力あるダンス...と、一度の観劇では目が足りないほど見どころ満載。ド正統なゴシックもホラーもロマンスもたっぷりと見せられる、実力派かつ華やかなミュージカルスターたちが、全力でくだらないこともやる。しかも、心から楽しそうに。そこが、『ダンス オブ ヴァンパイア』の素敵なところだ。
そして最後は血沸き肉踊る熱狂のフィナーレへ。客席も巻き込んでのダンスタイムは、小さな悩みなんか吹き飛ばしそうに熱い。筆者が観劇した回は軒並み、ひとり客も、年配の男性客も立ち上がって踊っていた。その光景こそ、この作品の楽しさを証明しているのだと思った。
【公演情報】
・11月30日(月)まで上演中 帝国劇場(東京)
・2016年1月2日(土)~11日(月) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
・2016年1月15日(金)~17日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【『ダンスオブヴァンパイア』バックナンバー】
#6 製作発表会見レポート