『トロイラスとクレシダ』浦井健治ロングインタビュー

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■『トロイラスとクレシダ』vol.4■


トロイとギリシャが戦ったトロイ戦争のさなか、トロイの王子トロイラスと神官の娘クレシダの間で交わされた愛と裏切り。この愛憎劇は多くの人を巻き込み、戦争にすら影響を及ぼしていく...。
シェイクスピアの問題作と呼ばれる『トロイラスとクレシダ』にこの夏、演出家・鵜山仁と名優たちが挑みます。

げきぴあでは出演する浦井健治、ソニン、江守徹のインタビュー&ビジュアル撮影レポートを掲載しましたが、主人公・トロイラスを演じる浦井さんに、もう少し詳しくお話を伺ってきました。

※ひと足先に掲載した<チケットぴあニュース>での浦井さんインタビューはコチラ


◆ 浦井健治 ロングインタビュー 

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――早くも2度目のインタビューです。まず、物語について。トロイ戦争という紀元前の戦いを舞台にした本作ですが、浦井さんは現代的だ、と仰っていましたね。

「はい。主人公が死んだりするような劇的な悲劇が起こっていない、(物語が終わったあともその世界が)続いていく、それが現代的だなと思っています。ドラマチックな出来事よりも、この作品で描かれているのは人間の心理の移り変わりの早さや、その移り変わりが薄い皮の層を行ったり来たりするような繊細さ。そして情報によって人間は操られますし、この物語の中でもそういう人間の姿は見え隠れしますが、最終的には情報より、愛や憎悪といった"情"で動いてしまう人間の愚かさ、というところが僕にはとても面白く、そして現代でも起こっていることだなと思うんです。"ギリシャ劇"と言うとコロッセウムでの闘いに象徴されるような"肉体対肉体"というイメージがありますが、『トロイラスとクレシダ』でシェイクスピアが描いたのは"人間"。愛や信頼、裏切り、それに男女間の恋愛からくる争いごと。それは3千年前でも400年前でも、現代でも変わらないですよね」


――チラシの扮装も現代的な衣裳でした。

「人間関係や状況など、本当に現代でも起こりうることがこの中で描かれていると思いますし、(演出の)鵜山さんはそういう意図もあってあのビジュアルにしたのではないでしょうか」


――そして前回あまりお伺いできなかったトロイラスのキャラクターについて。現時点での印象を教えてください。

「序盤で「戦いをしたくない」というようなことを言う人なので、それがこの人物に対してとっつきやすい部分かなと思っています。でもこのトロイ戦争の中、王子というポジションの人間がそんなことはなかなか言えないはずなんです。それが彼の面白いところでもあり、ある意味浅はかなところでもある。ただ、それ故にまっすぐで、実は繊細なんだということが、行動やセリフのひとつひとつから浮き彫りになってくるのではと考えています」


――ちなみに彼はトロイの王子ですが...。ミュージカル界のプリンスと呼ばれている浦井さん、実は王子役は久しぶりでは?

「あれ? そうかな...本当だ、そうですね! シャルル(『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックIII』、2012年12月~翌年2月)以来です。それなのに"ミュージカル界の王子3人"とか言っちゃってますね(笑)。でもトロイラスのことは王子というより、ひとりの人間として捉えています。王子というとキラキラしているイメージがありますが、最近イギリスのウィリアム王子のニュースなどを目にするにつけ、国の象徴だったり、任務だったり、そういうものを背負いつつ、ひとりの人間なんだよなって感じています。ウィリアム王子はそういう責任感が表情に出つつも人間的に魅力がある方なので素敵ですよね。役を演じる上で学ぶところもあるなあと思っています。トロイラスももちろん国を背負っています。でもなぜ「戦いはイヤだ」と言うかがキモになってくる。恋愛の中で学ぶこともあるでしょうし、それによってどう成長し、変化していくか、興味深いですね」
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――そして今作同様、浦井さん主演、鵜山さん演出で挑むシェイクスピアというと『ヘンリー六世』(2009年)が思い起こされます。三部作で、全部通すと9時間超という大作でした。

「思い出はたくさんあります。最初にオーディションでいくつかのセリフを言ってみてくれと言われ、僕は自分がこれを読みたいと選んだ羊飼いのセリフを言ったんです。鵜山さんがその場で色々と演出をつけてくれたのですが、自分では全然それが出来ず、悔しいと思いながらやっていたのに、鵜山さんはその僕を選んでくれた。それがまずひとつ印象的な出来事。それから初日、第一部が終わったあとに、みんなで乾杯をしたのですが、その時に鵜山さんが「まだ手渡したくない、もっと捏ねくって遊んでいたかった」って仰った。もちろん"まだまだもっと出来るはず"という意味もあったでしょうし、先輩方はそう受取ったと思いますが、僕は鵜山さんがそれほどまでに愛情をかけてくださっていたということが嬉しかった。そんな思い出があります。...でもそこから発進して、毎公演終演後にダメ出しがあったんですけどね(笑)。そのダメ出しが長いことが嬉しかったりもしましたし、そこで鵜山さんに対して"この人は絶対に見放さない"という信頼感が僕の中で芽生えました」


――様々な評価にも繋がったこの作品は、浦井さんにとってどんな作品になりましたか?

「言葉では言えないくらい、色々な思いがあります。今も常にその影があります。鵜山さんはじめ、色々な方が「この作品を超えるために作品を作っていく、そういう意味合いが今後は出てくるね」と仰った、それくらいの作品でした。そんな舞台に関われたこと自体が嬉しかった。それに今出版されている『ヘンリー六世』という戯曲、書籍の後ろのページ(上演記録)に"ヘンリー役:浦井健治"って名前が出ているんです。自分にとってはそれも衝撃的でした。シェイクスピア劇の1ページに名前が載っているというのが! でもそれ以降、薔薇戦争ではないですが、自分の中では"シェイクスピア戦争"が続いています(笑)。今回で言うと、『ヘンリー六世』で岡本健一さんに奪われたものを、『リチャード三世』(2012年)で岡本さんから奪い返し、今回また奪われるか否か...、とそんな面白みもありますね(笑)。"鵜山シェイクスピア"シリーズで僕のライバルはずっと、岡本さんなんですよ」
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――それにしても今回の『トロイラスとクレシダ』もですが、『ヘンリー六世』、『シンベリン』(2012年)など、シェイクスピアの作品の中では上演機会の少ない、比較的マニアックなものへの出演が多いですね。

「そうなんですよねぇ。そういう星のもとに生まれたのかな(笑)? ミュージカルでは『ロミオとジュリエット』に出演していますけれど」


――王道作品、例えば『ハムレット』などに挑戦してみたい気持ちはありませんか? これだけシェイクスピア劇にコンスタントに出演していると、そういうものを期待するお客さまも出てくるかと思いますが。

「それは自分の口からはなるべく言わないように心がけています。もちろんやってみたいものもたくさんありますが、口に出したらとても簡単な思いになってしまいそうで。ただ、「おまえ、ハムレット役者だな」って仰っていただいたり、「この役は浦井のニンに合っているよ」と仰ってくださる先輩がいらしたりします。そんな風に、むしろ「やってみたらどうか」とご助言いただけるような役者でありたい」


――なるほど、浦井さんらしいお答えだと思いました。さて、そんなシェイクスピア作品ですが、前回はその難しさをお伺いしたのですが、ならではの魅力というのはどんなところに感じていますか? 

「言葉の綺麗さと、歯切れの良さ。たくさんの方が仰っていると思いますが、戯曲を読んで理解するよりも、役者が口に出した言葉たちが遊び始める、役をその場で作り上げていく。そんな感覚があります。言葉から学ぶことが多いというのが魅力的。言葉に魂があると思います」


――その言葉を口にするにあたり、注意することは?

「言葉のパズル、伏線があるので、言葉ひとつひとつをお客さまがちゃんとキャッチできるように伝えるというところ。最低限の基礎ですが、語尾を消さないとか...。そういう部分で、自分は反省するべきところが多いですね(苦笑)。
実はシェイクスピアに限らないのですが、小川(絵梨子)さんと森(新太郎)さんに言われた言葉で似ている部分があります。突き詰めると"演じるとは何か"ということなのですが、戯曲は嘘をついていない、つまり台本が出来あがる前に、例えば翻訳劇だったら訳者の方をはじめたくさんの人たちがひとつの台本を作品として作り上げている、それを役者が信じないでどうする、と。ですので、その台本にある言葉を口にしたら、正解がそこにあるんです。でも役者ってエゴがあるから、こういう風に話したい、こう演じたい、とやってしまうんですね。そうすると、その言葉が聞こえなくなってくる。そして相手との対話じゃなく自己表現になってしまったらお芝居が退屈なものになるんです。その恐怖も感じています」
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――興味深いお話をありがとうございました。ちなみに今年は『ボンベイドリームス』『デスノート THE MUSICAL』そして次の『トロイラスとクレシダ』と、毛色も、舞台となる国も時代も違う作品に立て続けに出演されますが、切り替えはどうされているのですか?

「うーん、やっぱり抜けきれてない部分もあると思うんです。例えば今回も共演する今井朋彦さんと以前、『ヘンリー六世』『蜘蛛女のキス』と続けて共演したんですね。『蜘蛛女のキス』の稽古の最初に本読みをしたのですが、その時に今井さんに「まだヘンリーだねぇ」と言われたのを覚えています。役ってのめりこめばのめりこむほど、日常で使う口調も役柄っぽくなっていたりするんですよね。板の上で数時間演じているので、当たり前かもしれません。切り替えはなかなか難しいですよ、だから稽古が大事なんだと思います」


――最後に。読売演劇大賞 最優秀男優賞の受賞、おめでとうございます。少し時間がたちましたが、心境をお伺いしたいです。

「ありがとうございます! 受賞の知らせは『ボンベイドリームス』の稽古場で聞きました。ノミネートされましたよと聞いて、嬉しいな、色々な方に感謝しなければ...と思っていたのですが、この賞はノミネート、イコール優秀賞をいただくというものなんですよね。自分がそこを理解していなくて。「やったじゃん!」と言われ、よくわからないなあ...と思っていたら、マネージャーがニヤニヤしていました(笑)。その後、最優秀賞の知らせを聞いて本当に驚きました。何故自分がもらえたんだろうと理解できないほどで、動揺とともに責任も感じました。受賞のスピーチでも話しましたが、先達の名優の方々からたすきをいただいたのだと思っていますし、自分は次にそれをちゃんと渡せるよう、いかに作品に取り組んでいくかということが、舞台への恩返しになるのだと思っています。でも先輩方から色々なご助言をいただく中で、そういう思いは大事だけど、今までのお前らしくいけ、今までどおり楽しんでいればいいと仰って頂き、重荷が取れました(笑)。
でもやっぱり自分の中ではとても大きなことで、今、台本を覚えたりしているデスクの上に、杉村春子賞(読売演劇大賞の中で新人を対象にした賞。2010年受賞)と今回頂いただいた最優秀賞のブロンズ像が並んで置いてあります。逆に目に入るところに置いているんです。それを見るたび、これをあなたはいただいているんだよ、何してるんだよと気を引き締めています」

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取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)


【公演情報】
・7月15日(水)~8月2日(日) 世田谷パブリックシアター(東京)
・8月15日(土)・16日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
・8月20日(木) 大垣市民会館 ホール(岐阜)
・8月23日(日) 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 中ホール
※ほか、石川公演もあり。

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