悲しみの深さに胸打たれる、山崎ヴォルフガング――ミュージカル『モーツァルト!』公演レポート Part2

【公演レポート】

ミュージカル『モーツァルト!』が東京公演を経て現在、大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演されている。日本でも2002年の初演以来上演を重ねる、ウィーン発の人気ミュージカル。主人公のヴォルフガング・モーツァルトはWキャストで井上芳雄、山崎育三郎が務めているが、今回は山崎ヴォルフガングを観た感想を記す(井上バージョンのレポートはコチラ)。
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山崎ヴォルフガングは、初参加だった前回2010年公演とはまったく違う顔を見せていることにまず驚かされる。懸命さが際立っていた前回に比べ、余裕すら感じられる落ち着きっぷり。そのせいか、俳優・山崎育三郎自身が持つキュートな魅力が隅々までいきわたったヴォルフガングになっていた。それはやんちゃではあるけれど、どこか育ちの良さを感じさせる青年像だ。山口祐一郎扮する大司教コロレドに反発する姿などは、才能ゆえの傲慢さというより、若さゆえの甘えといった印象。今までに見たことのないタイプの新鮮なヴォルフガングだ。
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市村正親扮する父・レオポルトとの精神的距離感も心なしか近く、そんな家族とのシーンからも愛情をたくさん受けて育ったヴォルフガング、という顔が見える。この作品のヴォルフガング像というと、愛を求めながらもその手は虚空を掴む孤独な魂...というイメージがあったのだが、山崎ヴォルフガングのまわりには愛情が溢れている。それゆえ葛藤、挫折、絶望、最後には死に至る後半部分を山崎がどう演じるか興味深く観たのだが、物語後半、父との隔絶があらわになり、どうして父はこのままの自分を愛してくれないのかと嘆くナンバー『何故愛せないの?』あたりから、山崎ヴォルフガングの本質が浮き彫りになったように思う。井上が過去との決別と自立への決意の歌として力強く歌ったこのナンバーを、山崎は悲しさを前面に押し出した喪失の歌として歌ったのが面白い。つまり山崎ヴォルフガングは、人生の局面ごと、手の中から幸せがこぼれ落ちるのを見つめ、少しずつ悲しみを静かに降り積もらせていくのだ。そう考えると、死へ至る道も、積もった悲しみがついに堰を切って溢れやがて崩壊する...と、その流れが腑に落ちる。ラストシーン、『モーツァルトの死』(『僕こそ音楽』のリプライズ)の悲しみの深さは鳥肌が立つほどだった。いわゆる一般的な天才ならではのエキセントリックさとは少し異なるが、彼ならではのモーツァルトを新たに作り上げていた。
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前回のレポートで触れられなかったWキャストについても記しておきたい。モーツァルトの妻コンスタンツェ役の平野綾は非常に可愛らしいコンスタンツェを造形。彼女もまた自身の個性のせいか、どこか甘えん坊の末っ子らしさを醸し出していて、家族(ウェーバー一家)との繋がりが感じられるのが面白い。そういう意味でも、山崎ヴォルフガングとの相性が良さそうだ。もうひとりのコンスタンツェ・ソニンが、家族の中にいても孤独感を出していたのとは対照的で興味深く観た。
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ヴァルトシュテッテン男爵夫人の春野寿美礼は美しい歌声と気品のある佇まいが素晴らしい。もうひとりの男爵夫人・香寿たつきが抜群の安定感と、地に足が着いた演技でモーツァルトのパトロネスたる貴族の女性という現実的な顔を見せていたのに対し、春野はどこか浮世離れしたところがあり、モーツァルトの生きるべき道筋を導く女神的な印象も受ける。こちらも好対照で見比べるのが楽しかった。(ちなみに今回初参加の春野男爵夫人、名曲『星から降る金』での衣裳に"すみれ色"のレースがあしらわれていました。衣裳スタッフの愛と粋な遊び心ですね。そんなところからも、カンパニーが作品を愛していることが感じられたのでした。)
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前回、井上版のレポートにて『モーツァルト!』という作品にとってもひとつの到達点に達したのでは...と記したが、山崎バージョンを観てその考えを強くした。何度も観ている作品ながら、2014-15年版『モーツァルト!』、俳優たちの演技の深さに改めて気付かされる部分も多く、新鮮な気持ちで観た。まもなく大千秋楽を迎えてしまうが、早い時期での再登場を心待ちにしたい。
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写真提供:東宝演劇部



本日山崎さん千秋楽、明日井上さん千秋楽...というタイミングでの掲載になってしまい申し訳ございません...。
公演は終わってしまいますが、作品史上初! DVD化が発表になっていますので、見逃した!もしくはもう一度観たい!という方はこちらをどうぞ。


奇しくも(ホントに偶然です!)DVD収録のキャストの組み合わせ(井上、ソニン、香寿/山崎、平野、春野)で公演レポートを書いてしまった担当でした!




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