人生を駆け抜けた井上ヴォルフガングの鮮やかさ――ミュージカル『モーツァルト!』公演レポート

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【公演レポート】

ミュージカル『モーツァルト!』が現在、東京・帝国劇場にて上演中だ。『エリザベート』『レディ・ベス』等を手掛けたゴールデンコンビ、ミヒャエル・クンツェ(脚本)、シルヴェスター・リーヴァイ(音楽)の作品で、日本でも2002年の初演以来上演を重ねる人気作。4年ぶり、5演目となる今回は、主人公のヴォルフガング・モーツァルトに井上芳雄、山崎育三郎をWキャストで配している。ここでは井上ヴォルフガングを観た感想を記す。
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タイトルの通り、モーツァルトの半生を綴ったミュージカル。描かれるのは、自身の才能を自覚し、周囲と軋轢を生みながらも自由に作曲をすることを追い求め、天上的な音楽を生み出し、35歳で夭折した天才音楽家の鮮やかな生き様だ。今年の流行りではないが、彼の才能に惹かれ集まる様々な欲望・思惑の中、"ありのまま"の自分であることを望み葛藤する若者の姿は、18世紀を舞台にしつつも今の時代にこそビビッドに響く。また主人公・ヴォルフガングのそばに、子役が演じる「アマデ」がその才能の象徴として常に寄り添っており、二人一役というトリッキーな見せ方から、肉体と才能との葛藤という深遠なテーマを描き出しているのが、この作品の最大の特徴だ。
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そして観る者に様々なことを想像させる作品でもある。最も想像をかき立てられるのはやはりヴォルフガングとアマデの関係性だろう。音楽の才能(=アマデ)を切り離され舞台上に存在するヴォルフガングは、一体何者なのか? 「ただの人」なのか? ...かつて――例えば再演・再々演(2005年、2007年)あたりの井上は、ヴォルフガングを「普通の人間」として造形し、「凡人に天賦の才能が宿った悲劇」として作品を創出していたように思う(もちろんこれは同時期にヴォルフガングを演じていた中川晃教との比較としての結果でもあっただろう)。それもまた胸に迫る切なさがあったが、2014年版の井上ヴォルフガングは、ただ軽やかに「ヴォルフガング・モーツァルト」としてそこにいた。観る側の勝手な解釈などはねのけるかのように、シンプルにただ、「ヴォルフガング・モーツァルト」だった。自らの才能(=アマデ)に反発することはあっても、ヴォルフガングとアマデは一体であり、共に、ひたすら懸命にその生涯を駆け抜けたのだ。それは、日本初演から12年、ヴォルフガングを演じ続け、今回が"ラスト・ヴォルフガング"と公言している井上の到達点なのだろう。一層磨きがかかった表情豊かな歌声とともに、シンプルな力強さが、ヴォルフガングの生涯を鮮やかに輝かせる。そのまばゆさに、終演後、なんだか残像を観ていたような気持ちにすらなった。
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また今作は、こちらも初演からヴォルフガングの父・レオポルトを演じ続けている市村正親の、病気療養からの復帰作であることも話題。まずは、以前と変わらぬ力強い歌声を響かせる市村に嬉しさがこみ上げる。そして彼の存在感は、この作品が「父と息子の物語」であることも再確認させてくれた。特に2014年版では、ヴァルトシュテッテン男爵夫人が歌う名曲『星から降る金』のシーンが印象的。愛情からとはいえ、息子の進むべき道をすべて管理しようとする父親を諌めるナンバーだが、その歌を背景に、セリフのないやり取りで感情をぶつけ合うモーツァルト一家がなんともやるせない。さらには、今年の市村の姿からは、息子に愛と厳しさを与える大きな父親像だけでなく、自由に羽ばたく息子に捨てられることを恐れる父親の小ささまで伝わってくるのだ。
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ヴォルフガングの才能を手中に収めておきたいコロレド大司教役の山口祐一郎は、憎たらしさとこの人らしいチャーミングさのバランスが絶妙。いつも以上にイキイキと溌剌と悪役を演じていて、観ていて楽しくなる。ヴァルトシュテッテン男爵夫人役の香寿たつき(春野寿美礼とのWキャスト)は深みのある歌声で名曲を響かせてくれるし、吉野圭吾扮する軽快・軽妙なシカネーダーの華やかさもやっぱりこの作品には欠かせない。彼ら作品に長く携わっているベテラン勢が、安定感とともにマンネリにならない新鮮さで舞台を彩り、充実した舞台を生み出している。さらに初参加組もうまく嵌った。ヴォルフガングの姉ナンネール役の花總まりは愛らしさと控えめな優しさが良いし、ヴォルフガングの妻コンスタンツェ役のソニン(平野綾とWキャスト)の巧さにも唸らされた。
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今までの上演と演出面での大きな変更はないものの、全編にわたり俳優たちの演技、歌唱が充実しており、密度の濃い『モーツァルト!』となった2014年版。井上ヴォルフガングの集大成であるとともに、『モーツァルト!』という作品にとってもひとつの到達点に達したのではないかと感じた。それほどに完成度の高いステージだった。
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公演は12月24日(水)まで帝国劇場にて、その後1月3日(土)から15(木)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて行われる。チケットは発売中。

写真提供:東宝演劇部

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