■『ビッグ・フィッシュ』2019 vol.7■
ティム・バートンの傑作映画をもとにしたミュージカル『ビッグ・フィッシュ』。
多くの人々に愛された感動作の再演が現在好評上演中です。
父と息子の和解、家族の愛という普遍的なテーマを、ファンタジックな世界観の中で描いていく物語で、日本では2017年に初演。
今年は《12 chairs version》と冠し、少数精鋭12人で上演する新バージョンになりますが、主人公のエドワード・ブルーム役の川平慈英さん以下、なんと初演の主要メンバーが全員続投という奇跡の再演が実現した、というのは既報のとおり。
初演よりキャストの人数は少なくなりましたが、だからこそ家族の物語がいっそう濃密になり、より心に刺さる舞台になった、と再演版も大きな評判を呼んでいます。
父と息子だけでなく、母と息子の関係もまた、深くなりました。
今回の更新は、エドワードの息子のウィル=浦井健治さんと、エドワードの妻サンドラ=霧矢大夢さんの母と息子コンビインタビューです!
東京公演も終盤に差し掛かった某日、本番後にお話を伺ってきました。
★インタビュー中、物語の展開や、おふたりの演じる役柄について触れています。舞台を未見の方はご注意ください。
●ストーリー●
自分の体験をワクワクするような冒険譚にでっちあげて語る父・エドワード。
少年時代に"沼の魔女"から、自分の死期を予言された話。
故郷の洞窟に住んでいた巨人・カールとの友情。
サーカスで最愛の女性・サンドラと出会い、彼女の情報ほしさに団長のエイモスのもとで働いた話。
...幼い頃は、父の語る冒険譚が大好きだったけれど、成長して父の大げさな話に飽き飽きしている息子・ウィルとエドワードの間には、いつしか溝ができてしまっています。
しかし父が病に倒れたことから、ウィルは"父の話の真実"を知りたいと強く思うようになって...。
◆ 浦井健治×霧矢大夢 INTERVIEW ◆
●父親と息子だけでなく、母親と息子の関係もグッと来ます
――『ビッグ・フィッシュ』は父と息子の葛藤と和解が軸に描かれていますが、特にこの再演では妻サンドラ、新しく家族になるお嫁さんのジョセフィーンも含めブルーム家の "家族" の物語、というところが色濃くなったな、と思いました。母子の関係性も、さらにグッと来ます。
霧矢「サンドラの曲が変わって(1幕中盤で歌われる『彼の中の魔法』)、私も今回、すごくウィルと向き合っているなと感じています。あと今回私は、ウィルが "お母さんっ子" になった気がします(笑)」
浦井「そうなんですよ。僕自身、慈英さんと霧矢さんを尊敬していて、ふたりが"おとん・おかん"って感じがすごくするんです。本当は "お兄ちゃん・お姉ちゃん" なので恐縮なのですが」
霧矢「いえいえ。健ちゃん(浦井)は息子としての甘えが良い意味で出ているよね。私がツボなシーンは、その『彼の中の魔法』を歌う前、ウィルが『知らない人(Stranger)』を素晴らしく歌い上げた後に、かかってきた電話に「あ、母さん?」って言う声(笑)」
浦井「アハハハハ! 細かいよ~(笑)」
霧矢「すごく優しい声で、あれがキュンとくる。いや、自分が母に対して「(少しぶっきらぼうに)もしもし、何?」って言ったりしているので......それは母と娘の関係だからちょっと違うというのもあるのですが。でも母親に対して照れてぶっきらぼうになる息子もいるじゃない? そうじゃなくウィルはとても優しく「母さん?」って言う。この子、優しい子だわぁ、すごい母さんのこと大事にしてくれてる子やなぁ、って」
浦井「全力でお母さんを愛してますから。僕はそのガレージのシーンの霧矢さんの背中! 霧矢さんってダンスもトップレベルの人で "踊れる人の体型" なんです。若かりし母親のシーンの背中はすっとしているんですが、ウィルが結婚する年になった時のサンドラになると、姿勢のポジションを変えていらっしゃるんですよ。ちょっと、寂しい感じを出す。その時の背中に本気で「あぁ、母さん、小さくなったなぁ」って思うし、そう僕に思わせる技術を持っていらっしゃる。それを存分に利用させてもらってウィルとしてやっています」
霧矢「...いやいや(照れる)。でも再演であのシーンの曲が変わって、言っている内容はそんなに変わらないのですが、サンドラの苦悩、哀しみも出せるようになりました。エドワードがもうすぐいなくなるしウィルも遠くにいる、しかもふたりがもめている...という悲しさを出せる瞬間です」
浦井「あと、一番泣けるのが霧矢さんのソロ『屋根はいらない』なんです。あれはねぇ、泣く! 歌詞も、描かれているメッセージも素晴らしいですよね。この夫婦、素敵だなって思う。稽古場で一度霧矢さんが、これは泣くと歌えない、でもどうしても(泣いちゃって)ダメだ......って時があったんです。嗚咽に近い感じで声を詰まらせながら歌っているのを見てたら、僕はもらい泣きしていました」
霧矢「そうなんですよね。初演の時にも稽古場で一回、歌えなくなってしまった時があって、これはアカンわと心を鬼にしてやって、初演はちゃんと千秋楽まで乗り越えたんです。そして、再演の稽古が始まって、久しぶりやな......よしよし、きたきた......って(初演の心を鬼にした感覚を思い出しながら)やっていたのですが。慈英さんの身の委ね方などが、やっぱり再演だとまた変わっていて」
浦井「あのシーン、慈英さんも素晴らしいんですよ、本当に」
霧矢「しかもその前のシーンが変わったじゃない?(西部劇風の『Showdown』から再演では『二人の間の川』に)エドワードとウィルがお互いをなじりあい、私とジョセフィーンの苦悩も描かれ、エドワードがもうボロボロになっているんですよ。自分もそういうエドワードを守ってあげなければいけない、強くいなければいけないという気持ちがあるのですが、稽古中にヒュッとそのタガが外れて、一度歌えなくなってしまいました。......でも! そこで自分の感情の満タンがここだってわかったので、そこからは泣かずに歌えています(笑)」
浦井「でもそこまで入り込めるって、本当に尊敬します」
霧矢「いやいや、涙を流しながら綺麗に歌える方とかいらっしゃいますし、私もそれが出来たらいいのですが、出来ないから」
浦井「本物の感情には敵わないですよ! すごい素敵だと思う」
―― 浦井さんも、ウィルが終盤に歌う『次のこと』。観客としてはあそこは号泣ポイントで、プロの方に失礼ですが、よく泣かずに歌えるなといつも思います。
浦井「あそこのシーン、僕も実は稽古場では泣いてしまって。いまも......でも今では、一番楽しいシーンにもなりました」
霧矢「うん! すごいよね、健ちゃん。私もたまに袖から見ているのですが、最後の歌い上げなんか、どこのロック歌手さんかってくらい(笑)。この物語の中で、エドワードが "動" だとしたらウィルは "静"。終始客観的で冷めたポジションにいる。そのウィルが、飛び跳ねながら歌っているのは、見ていても楽しいし、エドワードの思いを受け継いでいるのがよくわかる」
浦井「また、そのあとに続く慈英さんのソロである『終わり方』の中で、カール(深水元基)、キャロウェイ(ROLLY)、ドンとザッキー(藤井隆&東山光明)、魔女(JKim)と出てくるんですが、みんなが最高の笑顔で、こんなに優しい目をするんだ......っていうほど素敵な眼差しをエドワードに向けているんですよ。それに対して慈英さんも「クー!」って顔して(笑)。涙は止めどなく溢れてくるんですが、なぜか明るい気持ちになるんです。毎回終わると幸せな、ふわふわした感覚で、不思議な奇跡を見ているような感じなんです。白井(晃)さんの演出がとにかく僕の心に刺さるんですよ」