■『ビッグ・フィッシュ』2019 vol.3■
ティム・バートンの傑作映画をもとにしたミュージカル『ビッグ・フィッシュ』。
多くの人々に愛された感動作が今年、ふたたびやってきます!
先日お届けした「顔寄せレポート」「公開稽古レポート」に続き、稽古場レポートをお届け。
取材に伺ったのは10月上旬、時系列としては公開稽古が行われた10月16日より前のものです。
この日の稽古場は、少数精鋭でした。
稽古場にいたキャストは、川平慈英さん、浦井健治さん、霧矢大夢さん、夢咲ねねさん、小林由佳さんの5名。
公開稽古で披露された2曲の新曲、『彼の中の魔法』『二人の間の川』。
この曲を含むシーンを作っている最中でした。
●ストーリー●
自分の体験をワクワクするような冒険譚にでっちあげて語る父・エドワード。
少年時代に"沼の魔女"から、自分の死期を予言された話。
故郷の洞窟に住んでいた巨人・カールとの友情。
サーカスで最愛の女性・サンドラと出会い、彼女の情報ほしさに団長のエイモスのもとで働いた話。
...幼い頃は、父の語る冒険譚が大好きだったけれど、成長して父の大げさな話に飽き飽きしている息子・ウィルとエドワードの間には、いつしか溝ができてしまっています。
しかし父が病に倒れたことから、ウィルは"父の話の真実"を知りたいと強く思うようになって...。
顔寄せのレポートにも記しましたが、この物語、エドワードの語る空想のようなファンタジーの世界と、エドワードとウィルが少しすれ違ってしまっている今の現実世界、そしてまだウィルが少年でエドワードも若かった過去の現実世界、3層からなっています。
ここで描かれるのは、今の現実世界。
ある出来事から距離があいてしまった父エドワードと息子ウィルですが、ウィルのもとに「エドワードが病気である」と電話が入り、ウィルは故郷に帰ってきます。
帰宅したウィルは、母サンドラに「大丈夫?」と語りかけます。
父には素直になれないけれど、母親には素直な表情を見せるウィル。
サンドラは父に対し頑なな息子に「あの人は魔法の力を持っているのよ、どうしてそれを信じてあげないの?」と歌いきかせます。
ここが新曲『彼の中の魔法』!
サンドラ=霧矢大夢さん
霧矢さんの歌声、説得力があって素敵なんです。
ウィル=浦井健治さん
父に対しもどかしい思いを抱いていて、自分にも少しいらだっている...そんな複雑なウィルの心理を、自然に紡ぎだしています。
一方でその頃、当のエドワードは、ウィルの妻・ジョセフィーンと話をしています。
「俺は水泳が得意だったんだ。とてつもなくすごい先生に教わったからね」
......エドワードの得意な、本当か嘘かわからない、大きな夢のようなお話。
人魚の呪いをキスで解いてあげた話......。
よく通る声も、表情も、仕草も、すべてチャーミング!
エドワード=川平慈英さん
エドワードと人魚のダンスシーンも、初演ではありませんでした!!
人魚=小林由佳さん
ジョセフィーンのお腹には、子どもがいます。
「いつ産まれるんだい?」とエドワード。
あと5ヵ月、と聞いて、少し顔を曇らせます......。
演出の白井晃さん、「産まれてくる子に会えないかもしれない、という思いを出して」とリクエスト。
そのやりとりをきいているウィル=浦井さんには「父親が自分のこの先を自覚している、ということを踏まえて次のセリフを」と話していました。
登場人物の位置関係も、白井さんがこだわっていたポイントです。
「微妙な位置関係から、人間関係が見えてくるように」と。
ジョセフィーン=夢咲ねねさん、
夫ウィルとその父親の微妙な関係を汲み取って、出過ぎることなく、でも衝突を避けさせる聡明な女性です。
白井さん「頑なな男子に女性ふたりが言い聞かせている」。
このふたりならきっと仲の良いお姑さんとお嫁さんでしょう!
とはいえ、ウィルも、父を頭ごなしに否定しているわけではないのです。きっとどこかで歩み寄りたいと思っている。
白井さんと浦井さんも、ウィルのこの時の心境を「(エドワードに対して)けっしてケンカ腰ではないよね」(白井)、「そうですね、ぜんぜん、それは(ない)」(浦井)......と、確認しあっていました。
......ケンカをしたいわけじゃないんだけれど、目をあわせられない、微妙な父と息子です。
新バージョンである今回の《12 chairs version》、初演にも増して、繊細に人間関係を作り上げています。
家族ゆえに素直になれないけれど、素直になりたい。そんな思いが伝わってきました。
稽古場レポート、続きます!
取材・文・撮影:平野祥恵
【ビッグ・フィッシュ2019 バックナンバー】
# 合同取材会レポート
# 白井晃インタビュー
# 顔寄せレポート
# 公開稽古レポート
【公演情報】
11月1日(金)~28日(木) シアタークリエ(東京)
12月7日(土)・8日(日) 刈谷市総合文化センター 大ホール(愛知)
12月12日(木)~15日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール