観終わったあと語りたくなる"混乱系ミュージカル"!? ――『アンクル・トム』上口耕平&新納慎也インタビュー

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どこまでが虚構でどこからが現実?
虚と実が入り混じるサスペンスミュージカル『アンクル・トム』が現在上演中です!

物語は1980年代のロンドンを舞台に、作家志望の青年ケビンが隣人であるトムの書いた小説を盗作し、注目のミステリー大賞に応募、その作品が最優秀作家賞を受賞してしまうことからはじまるミステリー。

上口耕平、池田有希子、内藤大希、新納慎也という実力派たちが、たった4人とは思えない緊迫感ある世界を作り上げています。ut4IMG_4954.JPG

稽古場レポート、ゲネプロレポートと本作を追っているげきぴあですが、お待たせいたしました、いよいよ主人公ケビンを演じている上口耕平さんと、キーパーソン・トムおじさんを演じている新納慎也さんのインタビューをお届けします!
 
謎が謎を呼ぶストーリーですのであまりネタバレをしたくない......と思いつつも、せっかく開幕後のインタビューですので、ちょっと物語を読み解くヒントも教えていただきました。

 
 

上口耕平 × 新納慎也 INTERVIEW ◆

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――『アンクル・トム』開幕しましたね。実際にお客さんの前で演じて、何か変化はありましたか。

新納「この作品、韓国での上演はトライアルな形だったので、はっきりいって僕らの日本版が世界初演という感じなんです。だからこれがお客さんに一体どう受け止められるのかわからないまま稽古を重ねてきていました。例えばゲネプロでも、うちの事務所のスタッフなどは「ゲネは途中までしかやってないんですよね? ネタバレの前に切ったってことですよね?」って言ってきて。「いやあれで終わりなんだけど...」って(笑)」
 
 
―― ああ、たしかに最後まで謎が残りますもんね。

新納「初日も「え? これで終わり?」みたいな空気を感じて、実はものすごい不安だったんです。でも次第に、皆さんがそれぞれにああだこうだ考えて、ネットなどでも「こうじゃないか」と考察してくれたりして。話題にはなっているようで、ちょっとほっとしてます」

上口「僕も新納さんがおっしゃったように、観る方の反応がわからないままやっていたので、本当にこれでいいのかと稽古中は不安に思うところもありましたが、お客さまからいただいたお手紙でも「観たあとに観劇仲間と色々と話し合いました」とかあったりして、それがすごく嬉しいです。僕たち俳優は、そういう時間を帰り道に持っていただくために作品を作っているようなところもあるので。あと、舞台に立ってみて思うのは、一緒にやっている3人の方(新納、池田有希子、内藤大希)の安心感がすごい。舞台上で自由に心地よく存在できているので、安心して作品の中に入り込めるなって日々感じています」

▽ 上口耕平ut4-01IMG_4811.JPG

―― 私は何度か稽古場にも伺わせてもらいましたが、劇場にきて格段に面白くなったなと思いました。結構、日々細かくセリフなども練り直しているとか?

新納「そうなんです。あのね、お客さんを混乱させてはいけないと思っていて。もちろんミスリードをさせるところはさせて、考えるところはああでもないこうでもないって考えていただきたいんですが。混乱させたいとは思っていないんですよ」

▽ 新納慎也ut4G_5360.JPG


 
―― むしろ混乱させたいのかと思っていました......!

新納「いや、物語上の "意図した混乱" には嵌ってほしいのですが、その道筋じゃないところで混乱するのは違うんです。ここまではついてきてほしいというところまではついてきてほしいのに、その前に混乱が起きちゃって、お客さんが離脱してしまう現象が起こりかねない、という危険性があって。実はさっきも、終わった瞬間に「ここはこうした方がいいんじゃないか」って意見をいって、「そうしよう」ってのがひとつありました。そういう意味では日々わかりやすくなっている......というか、本来すべきではない混乱はしないようにという意味の改革が行われています」
 
 
―― そう言われると、自分が正しい場所で混乱しているのかが不安になります......。答え、というか物語の形の可能性を3つくらいには絞ったのですが。

上口「あっ、でも僕らも「3択くらいまでいっていただけたら嬉しいね」って話していたんです。お客さまの間で10も20も可能性があってわからないよ、じゃなくて、これかこれかこれだよね、くらいになったらいいなって」

新納「うん、帰りに新橋でごはん食べながら皆さんが考察しあうことを目標としていたので、「3パターンくらい」って言ってもらえると嬉しい。最初僕らがもらった台本は《第4稿》だったのですが、僕らも読んでいてポカンとしたもん(笑)。初めての読み合わせの時に「すみません......わからないの、僕だけでしょうか」って手をあげて言ったもんね。語り合う以前に、わかんないの」

上口「(笑)」

新納「それをなんとか、みんなで話し合いながら "新橋で語れるところ" まで持ってきたつもりなので。ぜひ、語りあってほしいですね~」
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―― ということは......実は私は、脚本的には明確な答えはない、唯一解はなくどう解釈してもいいのでは、とも思ったのですが......ある、んですね?

新納「それは残念ながら、あります!」

上口「はい。僕らの共通認識としては、きちんとしたものがあります」

新納「この手の謎めいた作品って、作り手側が共通認識を持ってないとバラバラになってしまいますから。ただ演劇って、やっぱりお客さんの自由、どう考えてもらっても結構ですっていう面もありますから、好きにとらえてくださっても、もちろんいい。ただ一応やってる僕らの正解はある。でもそれが "答え" とも限らないけどね!」

上口「そうですねぇ」
 
 
―― なるほど~......。

上口「ただ、僕お客さまに「わからなかったけど、面白かった!」って言われたのがすごく嬉しかった。「考えてもわからなかったけど引き込まれた」って、何よりもそれだな、って。面白いって第一に感じていただいたのはすごく大きな手ごたえです」

新納「芝居を観に行って、ほんっとうにわかんないやつあるやん(笑)。始まって5分10分で、劇場の構造を見だしちゃうやつ。最初はこの作品もそっちのタイプかと思ったんだけど、そうじゃなさそうなので、よかった(笑)」
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―― そしてその面白さ、俳優さんの力もとてもあると思うんです。たった4人の出演者ですが、皆さんが素晴らしくて見応えがある。特に上口さんと新納さんの緊迫のやりとりは圧巻です。やっていてお互いのことをどう思われますか?

上口「いやぁ、新納さんはもう、素晴らしいです。稽古場から色々なことを相談させていただいていたし、逆に色々と聞いてくださりもした。「ここはどうしたらいいかな」とか同じ目線で、大先輩ですが、僕も意見を言いやすい環境を作ってくださったし、稽古場も新納さんがいると明るくて。ケビンはズーンとくる役どころなのですが、ちょっとしたことで新納さんがパンっと切り替えてくださる。ずっと救われています。で、実際に舞台に立つと、本当にトムおじさんに引き込まれる。目線しかり、扮装姿しかり、姿勢ひとつとってもそう。ケビンに近寄ってくるときも、上下に動かず姿勢が平行のまま、ずっと "線" で来るから本当にぞっとする。だからトムを見るだけでケビンとしてこの世界に入っていけます。そりゃこれだけ追い詰められている状態の男の子が、こんな人に出会ってこんなことをされたら、踏み間違えちゃうよな......ってリアルに思えるのは、新納さんのおかげですね。その芝居に甘えている状態です、ありがとうございます」

新納「うまいこと言っていただいて......ありがとうございます(笑)。逆に上口君は......なんかついこないだまで貴族をやってたらしいけど、それはミスキャストやな、ってくらい、貧乏でダメな売れない小説家が似合っているよね(笑)」

上口「これ喜んでいいのかな......(笑)」

新納「(笑)。いい、いい。ミュージカル界ってキラキラしちゃうからさ。ケビンみたいな "なんでもない子" ってなかなか難しくて、それがない、というほめ言葉です(笑)」

上口「役を演じる上でね!」

新納「上でね! ふだんはものっすごい、キラキラしてますよ、ハハハハハ! 合ってるな~この役、って思う。あと僕、関西人だからってわけじゃないかもしれませんが、体内リズムがひとより120%くらい早いらしくて。芝居もほっといたらすごい早口で話しているし、感情の展開も早いの。そういう意味でのリズム感、テンポ感が耕平とは一致するんです。会話のやりとりも、感情の上下もリズムが心地よい。ただ僕が心地よいだけで、観ている方は「はやっ!」ってなってるかもしれませんが」
 
 
―― でもこういうミステリなら合うんじゃないでしょうか、畳みかけていく感じが。

新納「だといいんだけど」

上口「でも僕も観客として観るものは、テンポがのってくる、感情がのってくるものが好きなので、今回もドライヴしている感じがいいなあ、と思っています」

新納「ふたりの感覚はね、揃ってるんです(笑)。あとは見る方がどう思うかですね」
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―― ほかに、やっていて特に楽しいところを教えてください。

上口「僕はもう、実は何度も言ってるのですが、最初の方で、トムおじさんが小説を書きあげるシーン。「できた」「お疲れさま、おめでとう!」っていう一番幸せなシーン(笑)。あそこで歌うナンバー(『人生何があるのか分からない』)も大好き。自分でもなんでかわからないんですが、大っ好き!なんです」

新納「いつも言うてるよね、なんでなんやろ(笑)」

上口「曲もシーンも、なんか、全部好きなんですよねえ。常日頃「明るい、楽しいシーン大好き!」というタイプでもないんですが。おじさんが一番キュートに見えるからかな。あと、人生を語っているのもいい。書き上げたーって嬉しそうでありながら「50年生きてきて、30年仕事に追われながらも小説を書き上げた」って言う背中が可愛くて。それをちょっと調子にのりながら応援しているケビン、というのが皮肉でもあるんですが。あそこから色々とおかしくなっていくから、ケビンにとっては絶頂のポイントなんですけど、僕は好きです」ut4IMG_4852.JPG

新納「僕はね......、全体的に楽しいです。ジジイをやってるっていうのが、すごく楽しい。トムは胡散臭さもあり、でも一応ベストを着てきちんとしている感じとかね。役を作る上で自分の中でこだわっている部分が、今のところわりとうまくいっている気がしています」ut4IMG_5127.JPG

―― 新納さんのトムおじさん、食えなさそうだけどすごいダンディですよね。

新納「ホント、年配の人物を演じるのは楽しい。なんか、早く歳をとりたいなって思った。あとメンバーがすごくいい。4人しかいないから密な関係性を作れるし、みんながちゃんと「イチ役者です」じゃなくて、ちゃんと作品をよくしようという意識でいる。演出家的な思考も持ちながら参加しているのが心地いい。自分の役のことだけを考えるのではなく、ここはこうしてああしよう、って意見を出し合っている環境が楽しいです。4人がうまくいってるよね。あと耕平で言うと、さっきのリズム感もですが、芝居の入り方が、ミュージカルなんだけどミュージカルっぽくないところ。それに芝居をしていて僕だけが気づく、「こいつほんと関西人やな!」ってところ。笑いを欲しがるよね、今これやりたいんやろな、今欲しがったな、ってのが見え隠れするのが面白い(笑)」

▽ 上口耕平、池田有希子ut4IMG_5043.JPG
▽ 上口耕平、内藤大希ut4IMG_5263.JPG

 
―― 笑いについては新納さんがいろいろ仕掛けているのはわかりますが、上口さんは意外です(笑)。

上口「そうでしょうね、でも新納さんは感じちゃうんでしょうね(笑)」

新納「欲しがってるよぉ~!」

上口「(笑いを取りにいってる)新納さんのことを「いいな」って思いながらみてます(笑)」
 
 
―― 最後に......話を冒頭に戻してしまいますが、この作品、きっと細かいところに仕掛けがあるんだと思うんです。それをひとつひとつ突っついていくとネタバレになってしまいそうなのですが、例としてひとつだけいいでしょうか。4年後のシーンで、ケビンが引っ越した家にアブサンがありますよね、ケビンは「酒は飲まない」のに......。

新納「あれはトムの家から持っていったやつです」
 
 
―― あのときのあれが4年間ずっとあるんですか!?

上口「逆に言うと普段は飲まないものがあるのも、ある種作られた世界の中だからこその成立......というか、はい」

新納「そういう意味では、小道具とかにも意味があるものもある。ただ、トムの家とケビンの家でタイプライターが一緒なのは......とか、テーブルが一緒なのは......とかは、経費と舞台上のスペースの問題です(笑)。すべてのセリフに細かく伏線がはられているわけではない、でも歌詞やラジオに、説明しすぎない程度にものすごくヒントは散りばめられていて、お客さんが違う道に逸れないようなリードはしています。ちゃんと観てもらえれば「なるほど」ってなるはずです」
 
 
―― ラジオ......思わせぶりですよね。今日は私、ラジオに注力しすぎました......。

新納「こういうタイプのものって、こうかな?って予想の世界にいってる間に舞台上が進んじゃって「あああああ!」ってなるの、ありますよね(笑)。でもこういう作品、好きな人多いと思う。始まって5分で劇場の構造を見てしまうわからなさではなく(笑)、「んー!! 誰かとしゃべりたい!」ってなる方向の "混乱系ミュージカル" 。演劇が好きな人は特に、好きだと思う」

上口「観て、ぜひ色々なひとと話し合ってくれたら最高に嬉しいです!」ut4MG_5202.JPG

 
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)

 
【バックナンバー】
# 稽古場レポート その1
# 稽古場レポート その2
# 開幕レポート

【公演情報】
10月18日(金)~27日(日) 博品館劇場

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