ウーピー・ゴールドバーグ主演の大ヒット同名映画をもとにした人気ミュージカル『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』 が11月からいよいよ開幕します。
ウーピー本人がプロデューサーとなってミュージカル化し、なんと今年のロンドン公演にはウーピーが主人公デロリス役として再び登場する! というビッグニュースも入ってきたばかりですが、日本版デロリスと言えば森公美子さん!
ソウルフルな歌声とチャーミングさ、絶妙なコメディセンスを武器に愛さずにはいられないデロリスを作り上げ、客席を大いに盛り上げてきました。
出ずっぱりのデロリスは「すっごく、大変!」と言いながらも2014年の日本初演から3度目のデロリス役に挑む心境、作品の魅力などをたっぷり伺いました。
2019年前半を駆け抜けた『レ・ミゼラブル』の振り返りもあわせて、森さんのロングインタビューをどうぞ!
※デロリス役は、2019年版は朝夏まなとさんとのWキャストです。日本版は毎回、個性のまったく異なるWデロリスも話題になっています!初演は森さんと瀬奈じゅんさん、再演は森さんと蘭寿とむさんのWキャストでした。
◆ 森公美子 INTERVIEW ◆
●まずは2019年版『レ・ミゼラブル』の振り返りから...
―― 今年は4月から9月まで『レ・ミゼラブル』に出演されていました。まずはちょっと振り返って『レミゼ』のお話から伺わせてください。森さんはオリジナル演出である1997年からずっと出演されていますが、2013年からの新演出版も今年で4回目でした。今年から演出(補)もクリストファー・キーさんに変わって、細かいところがずいぶん変わりましたね。
「アピール度が少なくなったでしょ? 前に前に......ではなく、相手を見るお芝居が多くなって。クリスからはそれを求められました。だからテナルディエとふたりで正面(客席)を向いたのは、1ヵ所だけ。それ以外は全部、ストレートプレイのようでした」
―― 森さんは『レミゼ』に22年間出演されていますが、2019年の『レミゼ』はどう映りましたか?
「私にとって、"昔の決まりごと" が出てきてしまうというのが一番ダメなことなんです。意外に思われるかもしれませんが、"いつ観ても森公美子がやっているマダム・テナルディエだ" って評価をされるのが嫌だし、そう見えかねないところが自分のウィークポイントだと思っていて。だから "今回のマダム・テナルディエはこういう人物" というのをきちんと自分の中に入れておかないといけないと思ったし、演出の趣旨をきちんと守ろうと思ってやっていました。今回の演出で言うと「ずっと怒鳴ってろ」って言われました。セリフも「ここだね!」って言う登場シーンから「スクリーーーム!!」って言われて、喉が続くかな?私......って(笑)」
―― 確かに、テナルディエ夫婦は『レミゼ』の中にちょっとコミカルな要素を入れる存在でもあると思っていたのですが、今回は怖かった。
「そうそう、今回コミカルさがないんです。あの、作中唯一の救いだと言われた『テナイン(テナルディエ・イン/宿屋の主人の歌)』でもずっと怒っていろと言われて。今回は喉にも負担がかかりました、しかもクリスは「もっと出るだろ」って要求してくるんですよ......(小さい声で)ほかの人には言わないのに......」
―― それはやっぱり森さんへ対する期待度が高いってことですよね。
「やめてくれないかなって内心......(笑)。でも実は私、今年で『レミゼ』は最後だな、今年でやめようと思っていたんですよ。そんな中で今までと違う演出が付き、今までにない要求にチャレンジしたところ、自分の中にもまだ探りきれていないマダムがいたなって思ったし、探りきれていない後悔の念もあって。だから次のオーディションが通るかわかりませんが、集大成としてもう一度出られたらいいなと思っています」
―― 期待しています! 今回、音楽的にも結構変化がありましたよね。プロローグから音が派手でした。
「派手になりました! オーケストレーションも足されたし、スピーカーも変わった。初めからその世界に吸い込まれるような、オペラを観ているようなオーヴァーチュアでした。すごく良かったですよね、ドラマチック性を狙ったんでしょうね」
―― スピーカーも変わったんですか......!
「帝劇は『レミ』で音とかの環境が良くなるんです(笑)。客席の壁の小さいスピーカーは、2013年の上演時に設置されたし。でも舞台上で、音が聞こえなくなるデッド・スペースが結構あって。それは音が回り込むと、どうしても出てきてしまうのですが、そういうところは指揮者をひたすら見るんです。舞台稽古などで「ここ音がわかりにくいので」って伝えておくと、指揮者が大きく振ってくれる」
―― それは大変です......。今回のように全国ツアー公演があると、会場ごとにその調整が必要になりますよね。
「そうなんです、会場によって音が違うんです。今回は最後の札幌公演の会場が大きかった! 後ろの方なんか、私以外の人は判別できないんじゃないかってくらい遠かった(笑)。でもあそこは遠くでも音が良く聞こえる構造になっているんだと思うんです、工場のシーンの私のアドリブもよく聞こえたって言われました」
―― オフマイクのアドリブが!
「そうそう。ファンテーヌをみんなでいじめるじゃないですか。「汚ねぇ女だな!」とか言ってるのが聞こえたって言われました(笑)。でも今回は東京公演から札幌の大千穐楽まで、本当に全公演の席が埋まっていて、ありがたかったです。特に地方公演があって、その土地の人たちに観ていただけたのが嬉しい。東京だと常にどこかの劇場でミュージカルをやっていますけど、そうじゃない土地もありますから。そうそう、今回マダムが子どもに文句を言うシーンを、その土地の言葉を使って言ったんですよ! リトルコゼットに向かって、東京では「このクソガキ!」って言うところ。「せからしか!」(博多)とか、「なまら、はんかくせー!」(北海道)とか。特に北海道の方が喜んでくれたかな(笑)」
―― そういえば森さん、結婚式のシーンで金歯を入れていらっしゃるってことに私、今回初めて気付きました。あれはいつから、どういうきっかけで?
「ああ、あれは急にやったんじゃないですよ。22年前、もう本番入ってから下水道のシーンで「金があるぞ 歯の中に」ってテナルディエが歌うのを聞いて、その金歯どうするんだろう? って思ったんです。あれ?それ、嵌めてもいいかな? って思って、歯医者さんに「今の歯の上にポンっと付けられる金歯作れますか」って聞いたんです。「高いよ?」って言われたんですが、作りました(笑)。ちゃんと型を取って、18金で」
―― 自前で!
「はい。でも、ストーリー的には "10年後" というパリのシーンでは、歯を黒く塗って "歯がない" 状態にしています。『テナイン』ではあって、年をとって歯をなくし、不自由だなって思ってたら旦那が金歯を持ってきたから入れた、というストーリーになっています。ちゃんと繋がってるでしょ? その後、結婚式でケーキを食べるって演出になったので、食べるには耐えられない見せ歯だったのでしばらく封印してたのですが、今回はケーキを食べなくなったので、マダムのストーリーを以前のものに戻しました」
―― あ、金歯は復活だったんですね。
「そうそう、もともとは(舞台が)まわっているときから(=オリジナル演出版から)。当時の演出のジョン・ケアードに相談したら「それはいいね! 君しかそんなことは出来ないよ、いくらしたの? Oh~...」みたいな反応でした(笑)」
―― 皆さん、そうやってそれぞれのキャラクターを肉付けしていくんですね。
「やっぱり22年もやっていると、与えられた台本だけじゃなく、その奥を読みたくなっていくんです。そのことをほかのキャストにも「これ、こうじゃない?」ってどんどん言っちゃうの。ジャン・バルジャンが死ぬときにファンテーヌとエポニーヌが来るのも、私の解釈では、声のいいふたりにアリアを歌わせたいだけじゃないんですよ! 私の理論では、コゼットの側にはいつも必ずファンテーヌがいて、マリウスの側には彼を愛したエポニーヌが常にいる、ってことなんです!」
―― なるほど! 確かにファンテーヌはともかく、バルジャンにとってエポニーヌはちょっと遠い存在だよね......って常々思っていました。
「そうでしょ、ジャストワンミーティングですよ! それを考えると、わざわざ迎えに来たって考えるのは違うなと。バルジャンを迎えにいくんなら司教様とかもっとふさわしい人がいるでしょ。あの場にいたコゼットとマリウス、その側にファンテーヌとエポニーヌがずっといて、死ぬまではその姿は見えなかったけれど、死んだ瞬間にバルジャンの目にふたりが映った、ってストーリーだと考えたら納得でしょ? ......ってことを今回もエポニーヌやファンテーヌたちにも話して。濱田めぐみさんなんかは「そうですよね、私はバルジャンをいざなうためじゃなく、常にコゼットの側にいたんですよね、その解釈の方が素敵ですよね」って。そういうのを毎回見つけちゃう。長年やっていると、自分の役は冷静に見れなくても、ほかの役のことが見えてきます。なんで今まで気付かなかったんだろうって反省するところもあるんですが。本当はスタッフとして『レミゼ』に入りたい、「やっぱりガブローシュが撃たれるところは想像じゃなく見たいです」とかキャメロン(・マッキントッシュ)に相談したいです(笑)」
――『レ・ミゼラブル』は奥深いですね。もっとお伺いしたいのですが、次回作のお話も伺いたいので......。
●3度目のデロリス役!『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』の魅力
―― 11月からは森さんが主役のデロリスを演じる『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』が始まります。これは2014年日本初演で、今年で3度目の上演。森さんは初演のときに「帝国劇場で主演をする重み」というようなことを仰っていました。"帝劇初主演"の重みは色々な方が口にされていますが、森さんの口から聞くとより一層、特別感が伝わってきたのを覚えています。
「私、この作品の初演時、54歳で初めて帝劇で主演したんです。ほかの劇場ではやっていますが、でも"帝劇の0番(=センター)" というのはやっぱりすごいなと思ったし、実際に立ったときには「0番で浮かれてるんじゃないぞ」とも思った。それだけの技術、もしくはそれだけの何かを持っていないと、0番でのアプローズ(拍手)はない。だからものすごく重責を感じたんです」
―― 帝国劇場という、演劇ファン・ミュージカルファンが愛する劇場のセンターに立って、そこから見た風景はどんなものでしたか?
「「厳しいな」と思いました。「優しいな」とも思ったけれど。自分がちゃんとしなきゃという気持ちが入り混じって、不安であり喜びであり、楽しさ、辛さがあった。でもそこにもうひとつ "愛" を感じました。この5つの得体のしれない......自分の目には見えないものが襲ってきました。でも結局最後は "愛" で終わるんです。拍手や笑顔、そういう反応から伝わるお客さまの愛。その時には、「ここに立ててよかった」って思いました。演劇というのは瞬間芸術で消えていくものだけれど、「さっきの歌を消したい」と思っても消せない。その瞬間を皆さんで一緒に楽しんでいただくのが最高だし、この5つの喜びや不安を感じられたというのは、とてもやりがいのある役だということです。たぶんね、以前デロリスを演じたおふたりも、もう一回やりたいと思ってるはずです。瀬奈じゅんさんなんか特に「もう一回やりたーい!」って言ってますよ。そうやってファミリーが増えていくのもいいですよね。......でも私は今回が最後かな?」
―― えっ?
「だってこの作品、すーーーごく! 大変なんですよ!! ずっと歌ってるし、ずっと動いてるし(笑)。初年度は「これ絶対熱中症になるわ」って、カツラの中に氷を入れることを提案したくらい。しかも必ずダブルキャストに宝塚出身の手足の長い方が来るじゃないですか! もう、コチラとアチラは別の人種なんで! 比べられるとすごい困る! って思ってるんです(笑)。でもすごく楽しくやれているのでね、今のところは(笑)」
―― 最後かなと思いながらも、オファーが来たらやっちゃう魅力はどこにあるんでしょうか。
「やっぱりデロリスという人物が、シスターたちに出会って徐々に変わっていくところ。そしてシスターたちも、全然(聖歌隊として)歌えなかったのにデロリスと出会って歌う喜びを知って、変わっていくんですよ。シスターたちは"わたしの身は神様に捧げるだけ" ってところから、もちろんその芯は変わらないのでしょうが、誰かのために何かをしようって思いになっていくし、デロリスの方はずっとひとりでやってきたのに、そういう愛に気付いていく。この人間模様のキャッチボールを感じるドラマです。そここそが皆さんに愛される理由じゃないかしら。あとはアラン・メンケンの音楽も私は大好き! ここまで地声で歌いあげるの!? っていうギリギリさもいいし、最後はみんなスタンディングで一緒になって踊って「2階席あぶないよ!」ってくらいになっちゃうのもまた、いいんです」
―― まさに話良し、音楽良し。それにミュージカルという手法に、ぴったりの作品ですよね。音楽の力が、デロリスとシスターたちというまったく違う文化を持つ両者を繋げていくという。
「そうそう、そうなんです。みんなが楽しめるコメディであり、ドラマチックでもある。もとは映画......ミュージカル・ムービーで、主演のウーピー・ゴールドバーグが自分の出世作だからミュージカル化したいと言って作ったミュージカル。わたし、ウーピーの声をアフレコしてたりもしたんですよ。だからこの役が私にまわってきたときは「まさか!」って思いました。えっ、デロリス? 私、シスター・パトリック役じゃないの?って言いましたし、まだ私でいいのかな? って疑心暗鬼ですけど(笑)」
―― そんな(笑)。でもシスターさんたちも皆さん個性的で素敵です。
「今回パトリックに未来優希さんが入って、またパワフルになりますね。本当に楽しみ。何しろ、やっている側も楽しんでいますので! いつも1幕が終わった瞬間に私と春風ねえさん(春風ひとみ=シスター・ラザールス役)はハァハァ息しながら「もう限界、もう無理、もう最後、もうダメ」って言って楽屋に戻るんですが(笑)。2幕最後までやると「明日も頑張ろう!」ってなるんですよねぇ~。不思議」
―― 今回は劇場が移り、シアターオーブに初登場です。
「2015年、17年に来日版の公演があった劇場です! 私は17年のときにちょっとゲスト出演して、『Raise your Voice』を歌ったんですよ。主役の人に「あなたが出た時が一番の拍手だったわ」って悔しそうに言われたのを覚えています(笑)。その時以来なんですが、『天使にラブ・ソングを』の応援で初めて立った劇場に、今度は本当に『天使にラブ・ソングを』を持っていけるのも嬉しいです」
―― デロリスを演じていて、楽しいところはどこにありますか。
「デロリスが変わっていくところが好きですね。私はこんなところにいる人間じゃない、ここは私の場所じゃないって思っているのに、修道院の人たちと一緒に歌いたい! って思いになる『シスター・アクト』という曲があるんです。その時は本当に涙が出ます。こういう舞台に立ちたいなんて思っていなかったのに、こんな舞台に立ちたかったんだ! って気付くデロリスの思いが、自分も......(ちょっと涙ぐみながら)、私はあんまり苦労したくないんだよ、センターじゃなくてもいいんだよって思ってたけど、やっぱり帝劇のセンターに立ちたかったんだよな、そういう思いが自分にもあったのか......って納得しちゃって。自分の人生と一瞬シンクロする」
―― お話をお伺いしているだけで私も胸にくるものがあります。
「本当にこの作品は見応えありますよ。聴き応えもあるし。今回、アンサンブルさんたちもずいぶんと顔ぶれが変わり、シスターで残っているのはふたりだけかな? 親友の田中利花も入るし! 似合いそうでしょ(笑)。新しい風が吹いています。先日みんなでパウロ女子修道院というところにお勉強会に行って来ました。私たちの修道院は、お祈りを中心とした修道院なんで、布教活動をしませんので、そこは違うのですが。神様がいるから私はここにいます、という基本的な考え方から、自分の人生とどう向き合っているのかということもお話してくれました。そういえば11月、公演期間中にローマ法王が本当に来日されるんですよ!」
――[宣伝担当者氏]ぜひ観に来ていただきましょう!
「そんな簡単に呼べる方じゃないから! 大統領より偉いんだからね!」
――(笑)。最後に、改めて『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』のアピールポイントを。
「このドラマ、最後までいいシーンが続きますから。最初の頃はデロリスが号泣しながら歌って、それにつられてシスターたちも号泣しちゃって、歌えなくなっちゃうくらいだったんですが(笑)、蘭寿とむさんとやった時(前回公演)くらいからはみんなコントロールできるようになってきました(笑)。最初はデロリスを殺そうとしているカーティスまで号泣してたからね! でもちゃんとコメディでもあるところもいい。本当にいい作品、いいミュージカルです」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【『天使にラブ・ソングを』バックナンバー】
●2014年公演
# 製作発表レポート
# 開幕直前 囲み取材レポート
# 公演レポート
●2016年公演
# 製作発表レポート
# 顔寄せレポート
【公演情報】
11月15日(金)~12月8日(日) 東急シアターオーブ(東京)
12月14日(土)・15日(日) 富山 オーバード・ホール
12月21日(土)・22日(日) 静岡市清水文化会館(マリナート) 大ホール
1月2日(木)~6日(月) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
1月9日(木)・10日(金) 愛知県芸術劇場 大ホール
※その他公演あり
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