帝国劇場にてミュージカル『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』が上演中だ。ウーピー・ゴールドバーグ主演の大ヒット映画『天使にラブ・ソングを...』をもとにミュージカル化された本作は、2009年にロンドンで初演。日本にはこれが初上陸となる。
映画でウーピーが演じたヒロイン、デロリスは瀬奈じゅんと森公美子のWキャスト。瀬奈デロリス版を観劇したレポートを記す。
スターになりたい!と思いつつもパっとしない黒人クラブ歌手デロリス。彼女はある日、恋人であるギャングのボス・カーティスが仲間を殺害する現場を目撃してしまう。警察に逃げ込み、そこで再会した幼なじみの警官エディの指示のもと、身を隠すために行った場所はなんと厳格な修道院。清く慎ましい修道女たちとは正反対、俗っぽさ全開であけっぴろげのデロリスは、その窮屈な生活にうんざり。修道院の空気を乱す彼女に、修道院長は聖歌隊の活動以外を禁じる。ただしその聖歌隊、声も弱々しければ音も外しまくり、なんともひどいもの。デロリスはクラブで鍛えた歌唱力を活かし、聖歌隊を指導していくが...。
とにかくノリのいい音楽が爽快! 舞台はディスコブーム華やかなりし70年代に設定、あの時代特有の、派手だけれど懐かしさも感じるキャッチーな音楽が満載で、自然と身体が揺れ、手拍子をしたくなる楽しさ。さらにその楽曲をパワフルに歌い踊るキャスト陣の全開の笑顔が素晴らしい。デロリス役の瀬奈じゅんはくるくる変わる表情が非常にキュート。オープニングのセクシーなクラブ歌手姿から、殺人現場を目撃した際のあわてふためく表情、シスター姿でのいたずらっ子のような顔...まさに修道院を"引っかき回す"のもさもありなん、と思わせる天真爛漫さ。高音部まで地声で歌い上げるパワフルな歌唱にも目を見張らされた。
一方で、デロリスの破天荒さに眉をひそめるお堅い修道院長役の鳳蘭はクラシカルなミュージカルナンバーを担当。聖俗の"聖"の部分で物語をしっかりと引き締めつつも、マジメさゆえの面白みもチラリ。シスター・メアリー・ロバートに扮するラフルアー宮澤エマの、クセのない素直な歌声も印象的。デロリスに出会い、自我に目覚める若い見習い修道女の成長は、形は違えども誰しもが通る青春期の1ページ。個性派揃いのキャスト陣の中で爽やかな風を届けてくれた。ほか、ソウルフルな歌を聞かせる浦嶋りんこ、途中のハジケっぷりが笑いを誘う春風ひとみらをはじめ、シスターたちのキャラクターもそれぞれユニーク。その個性豊かなシスターたちのコーラスが、間違いなくこの作品の主役のひとつである。
そして彼女らを取り巻く男性陣も負けていない。"汗っかき"エディ役の石井一孝は多少の情けなさも可愛らしく、大人の純情を見せるとともに、安定の歌唱力で切ないナンバーを聴かせる。カーティスの吉原光夫(大澄賢也とWキャスト)も迫力のギャングっぷりだが、コミカルな横顔もたっぷり。部下の3人組(藤岡正明、KENTARO、上口耕平)とともに"マヌケな悪役"という戯画的な役どころを絶妙に見せ、作品を大いに盛り上げる(ラストシーンの囚人番号にもクスリとさせられた)。オハラ神父・村井國夫が横っ飛びで登場するシーンにも爆笑だ。
デロリスに指導された聖歌隊はみるみる上達。歌とともに感情を表に出すことで、修道女たちにもそれぞれ小さな変化が起こってくる。同時にデロリスもまた、歌を教えることにやりがいを覚えていく。ミュージカルというものはもともと音楽の力を信じ成り立っているエンターテインメントだと思うが、特にこの作品はその力を最大限に使った作品だ。歌の力は異なる文化・信念も一気に飛び越える。クラブ歌手と修道女、混じり合えなさそうな二者も歌の力で友情が生まれる。それはもしかしたら、小さな奇跡なのかもしれない。そしてミュージカルだからこそ、そこに無条件の説得力が生まれる。ミュージカルは、そんな奇跡が起こる場所でもある。
東京公演は7月8日(火)まで。
写真提供/東宝演劇部
【公演情報】
・7/8(火)まで 帝国劇場(東京)
・7/12(土)・13(日) 厚木市文化会館 大ホール(神奈川)
・7/19(土)~21(月・祝) 東京エレクトロンホール宮城(宮城)
・7/25(金)~29(火) シアターBRAVA!(大阪)