【ライムライト #3】「演じるネヴィルは"良い人"。だからこそとても難しい」――ネヴィル役 矢崎広ロングインタビュー

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■音楽劇『ライムライト』vol.3■


チャップリン晩年の傑作映画として名高い『ライムライト』
その名作を2015年に世界で初めて舞台化、好評を博した作品が、4年ぶりに上演されます。
 
映画でチャップリンが演じた老芸人カルヴェロに扮するのは、初演に引続き石丸幹二
カルヴェロと心を通わすバレリーナ テリー実咲凜音、テリーに想いを寄せる作曲家ネヴィル矢崎広が演じます。

ノスタルジックで美しく、切ない物語。
この作品に今回の再演から参加するネヴィル役、矢崎広さんにお話を伺ってきました!

 

◆ 矢崎広 INTERVIEW ◆

limelight2019-03_c_SSS0414.JPG●映画『ライムライト』と、今回の舞台『ライムライト』
 
―― お稽古もかなり進んでいるかと思いますが、現在の稽古場はどんな雰囲気でしょう。

「いい緊張感があります。張りつめた空気がありながら殺伐としているわけではない、すごく良い雰囲気ですよ。本当に『ライムライト』の空気感という感じでしょうか。ゆったりと、でも繊細に...みたいな感じです」


―― 稽古が始まる前に原作であるチャップリンの映画をご覧になったと伺いました。どんな印象を受けましたか?

「70年近く昔の映画ですが、今見てもすごく面白い。というより、年齢を重ねるごとにどんどん響く作品になっていくのだろうと思いましたし、今の自分にも響くところがたくさんありました。僕も役者をやっているので、芸人カルヴェロの生き方、バレリーナとして再起するテリーの姿に感じ入るところがありますし、僕の演じる作曲家ネヴィルの姿にも、演じ手として共感するメッセージ性があります。それに、主人公は芸人ですが、どんな職業の方にも当てはまることが描かれているんじゃないかなとも思います。時代の移り変わりによって、今までの技法が通用しなくなっていく。身近なところでいえば、紙ではなくどんどんWEBに移行する世の中で、コンテンツをうまく使っていくにはどうすればいいのか。僕はツイッターやブログ、最近ではインターネットラジオなどもやっていますが、何が新しいのか、何がユーザーにひっかかるのか、そんな "ついていけてなさ" を感じることもあります。この作品は、何を大切にしてお仕事と向かい合っていけばいいのか。何が愛なのか。何を支えに人は生きていくんだろう? そんなことを色々と考えさせられる話だなと思いました」


―― 稽古場で拝見して、初演からずいぶん変わった部分もあるな、と思いました。

「今回は演出の荻田(浩一)さん、脚本の大野(裕之)さんとで構成を新たにされていますし、音楽の入り方など編成を変えている部分もあります。ご覧になる方にとって感じる部分が変わってくるんじゃないかなと思います。観やすくなり、かつ真に迫るものになったというか。映画『ライムライト』の世界観を大事にするという部分は変わっていないのですが、初演で抽象的に時代の説明をしていた部分を"省く"というのではなく、"他のシーンを綿密に"したという感じです。『ライムライト』らしさがより濃くなった」


―― 『ライムライト』らしさ。

「それはつまり、カルヴェロですよね。カルヴェロというひとりの人物をフィーチャーした。チャップリンの映画である『ライムライト』をやろうとしているのではなく、カルヴェロの物語......彼とテリーの心を追った物語になっていると思います」limelight2019-03_SSS0208.JPG

●ネヴィルは「めっちゃいいヤツ」です
 

―― その物語の中で、矢崎さんがメインで演じるのが作曲家のネヴィル。ネヴィルはどんな男性なんでしょうか。

「最初は、テリーとカルヴェロの会話の中で語られる人物なんです。なので、本当にテリーにとっては初恋の相手。こういう素敵な男性がいた、という印象で語られる存在です。まだふたりがそんなに親しくない段階で僕の名前が出てきて、その後ふたりの関係性が愛に変わっていく中で、昔テリーが好きだった相手であるネヴィルが実体を持って現れる。......なんですが、"実は嫌なヤツだった" とかではなく、むしろ良い人。理想のままの男性が、当時の貧乏作曲家ではなく、成功もして現れた。しかも繊細で優しい。その理想の存在のネヴィルがいるのに、なぜテリーはカルヴェロに惹かれるのか。この物語からお客さまに何かを感じていただけるとしたら、そこが最大のポイントだと思っています。僕、ネヴィルについてすごく考えているんですけど、行き着くところは「めっちゃいいヤツ」なんですよ(笑)。ネヴィルを選べばいいじゃん、って思うお客さまもたくさんいらっしゃると思う。でもテリーにはカルヴェロなんですよ。そこが作品の肝なんだなって」
 
 
―― カルヴェロ本人も、ネヴィルの方がテリーに相応しいと思っているし。

「......なんか、みんな "いい感じ" に(笑)すれ違っていますよね。カルヴェロもネヴィルのことを、たぶん勘違いしているんですよ。理想化しすぎているというか。それで、テリーとの関係性を勝手に作り上げちゃうんです。切ないですね」
 
 
―― テリーを挟んでカルヴェロとネヴィルはいますが、後半、ふたりだけで話をするシーンも出てきますね。ネヴィルはカルヴェロについてはどう思っているんでしょう。

「単純に自分が愛している女性......、少しずつ感情は変わっていきますが、幸せでいて欲しいと思っている女性が、あなた(カルヴェロ)が居なくなったことで悲しんでいる。その姿をそばで見ている立場として、直接本人に怒りをぶつけたりはしないものの、憤っています。でもそれは何もできない自分に対しての憤りかな。ふたりに何があったかを知らないので、蚊帳の外すぎて何も出来ない自分に怒ってるのかも。カルヴェロに対しては......なんでこんなことになっているんだ、という悲しさでしょうか」
 

―― やっぱり良い人です、ネヴィルは(笑)。カルヴェロを演じる石丸さんとは『スカーレット・ピンパーネル』以来の共演ですね。

「"恋敵役" であれば面白いのですが、僕は実はそんな風には捉えていなくて。石丸さんと共演できることはただ、嬉しい。「石丸さんに勝たなきゃ!」とか「張り合わなきゃ!」みたいな気持ちは恐れ多くてまったくないです。むしろ石丸さんが作るカルヴェロに乗っかっていけば、僕のネヴィルもどんどん出来上がっていくような気がします。それは、石丸さんとご一緒するときいつも、とてもありがたく思う部分でもあります。素敵な人です」
 

―― 稽古場でアドバイスをしてもらったりとか、ありますか?

「あります。歌唱の仕方......例えば、しばらく声を出さなかったときの一発目の出し方とか。本当に具体的に教えてくださって、それで今回、出来ている部分がたくさんあります。それに歌が良かったら褒めてくださいますし、ちゃんと細かく見てくださっているんですよ。ありがたいし、頑張りたいなって思います」
 

―― 歌といえば、非常に有名な『エターナリー』。これは劇中、何度か登場しますが、矢崎さんも歌うんですよね。

「歌います。僕はそんなに思い入れはなかったのですが(笑)、チャップリン本人の作曲で、とても有名で......ということは聞いて。そういう曲に、日本語の歌詞をつけて歌えるっていうのは、幸せなことだなと思います。素敵な音楽に言葉を乗せることができて、さらにそれを皆さまに表現としてお届けすることができる。そういう経験はなかなか出来ることではないので、幸せです」limelight2019-03__5920.JPG
 
 
●矢崎さんの"挑戦"
 
 
―― 矢崎さんはいろいろなタイプの作品に出ていますが、今回矢崎さんにとって新しい挑戦だなということはありますか?

「......何だろう。えーと、シアタークリエのポスターに、3人で写っている(笑)。3人写りのポスターに自分が入っている、すげぇ慣れないんです(笑)」
 
 
―― (笑)。『ジャージー・ボーイズ』でも大きく写っていたかと思いますが。
 
「それは8分割なので。3分の1は、結構......変なかんじです(笑)。『ドッグファイト』(2015年)で初めてシアタークリエに立ったんですが、それも「やっとクリエに立てた!」という思い出深い作品。そのあと『ジャージー・ボーイズ』をやって、今回『ライムライト』で3人写りのポスターの中にいる。感慨深いんですが、決して安心もしていないし。「ここまで来たぜ」でもないし......不思議な感覚です(笑)。なので、そういう意味では毎回毎回、僕にとっては挑戦なので。ただ今回はネヴィルという役を全うすることが、とても難しいなと思うんですよ。へたしたらあとあと、「そんな人、いた?」ということになりかねない」
 

―― 先ほど「『ライムライト』はカルヴェロの話であり、カルヴェロとテリーの話」と仰っていましたし。

「そうなんです。ちょっとでもふたりに影響する存在でいないと。ふたりに問題提起をするシーンがあるので、そこをどれだけ食い込めるか。そこが僕にとっての挑戦かな。でも本当に、この『ライムライト』の中のネヴィルの居方って難しい......(苦笑)。紳士的すぎてもダメだし、社交的すぎてもダメ。主張しすぎるのも違う。試行錯誤しているんですが、僕がいろいろやるから荻田さんも可能性を感じてくれているのか、めちゃめちゃ針で細いところを通す、みたいなところを狙って毎回ダメ出ししてくださるんですけど。それが難しいんですよ! 「今日はちょっとこっちに寄り過ぎちゃったね~」みたいな。......難しいです!」
 
 
―― 恋敵としてすごく嫌な奴とかだったら、印象に残りやすいですが、そうじゃないですもんね。

「そうですよ! 僕、実はプロットもらったときに「絶対コイツ裏切るだろうな」と思ったんです。でも何もしない。良い人でした(笑)。だから、難しいなと思います」
 
 
―― 最後に、今作っていらっしゃる舞台版『ライムライト』の魅力を教えてください。

「映画の印象とはまた違う『ライムライト』になっていると思います。映画はモノクロで、割とゆったりしたイメージ。そういう映画が僕は好きなんですけど、それとはまた違って今回は音楽劇で、ポップなシーンもたくさんあるし。石丸さんのカルヴェロがやる『ライムライト』というものになっているかなと思います。もともと映画も劇中劇はコミカルだったりするんですが、舞台版『ライムライト』は石丸さんならではで、おちゃめな感じがすごく出てる」
 
 
―― チャップリンともまた全然違って。

「はい。でもやはりチャップリンの映画が原作ですから、チャップリン(の世界)を求めていらっしゃるお客さまもいるかもしれない。でもそういう方でも「全然映画と違うじゃない」とはならないと思う。こういう『ライムライト』もありなんだな、と感じていただけるんじゃないかな」
 
 
―― 私は物語の純粋なところを抽出した、という印象を受けました。

「あぁ、そうですね。荻田さんと大野さんとで、日本のお客さまに感じてもらうにはどんな言葉がいいだろう、というところをすごく考えて台本作りをされたんだと思うんです。そこも、僕ら日本人に向けた『ライムライト』が出来上がっている要因だと思います。日本人が共感しやすい。映画では感じられない部分もすごく入っていると思います。そして今回の再演は、初演を見た方もまた絶対見方が変わると思いますので、"新しい『ライムライト』" と言ってもいいくらいの再演版『ライムライト』になっています。初めての方にとっても、チャップリンの映画が題材で、と聞くと小難しい印象があるかもしれないのですが、そんなことはまったくなく、心がほっこりする、でも自分の中で考えさせられる作品だと思います。ぜひたくさんの人に観ていただきたいです」limelight2019-03_c_SSS0428.JPG

  
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:吉原朱美


 
【バックナンバー(2019年公演)】
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【公演情報】
・4月9日(火)~24日(水) シアタークリエ(東京)
・4月27日(土)~29日(月・祝)
 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪)
・5月2日(木・祝)・3日(金・祝
 久留米シティプラザ ザ・グランドホール(福岡)
・5月5日(日・祝)・6日(月・祝)
 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知)

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